ガミラス――。
ガデル・タランは、執務室で議会にかける資料をまとめていた。兄ヴェルテが亡くなったとされているため、代わりに国防相を兼任しているが、これも、選挙が行われるまでの暫定的な処置である。
議会にかけようとしていたのは、先日、ヒス総統に報告したサレザー系防衛のための戦線縮小に関するものだ。実際には、既に軍は各方面からサレザー系への帰還を進めており、議会の手続き上だけの問題であった。
「まったく、面倒な書類仕事を増やしてくれる。民主化など面倒なだけだ」
タランは、デスラー政権下の軍事独裁政権時代を懐かしんでいた。実際、当時であれば、デスラーに報告して承認を貰うだけの簡素な手続きで、意思決定のスピードは今とは段違いに早かった。
そのような思いもあり、タランは、デスラー体制そのものは特に否定的な立場ではなかった。しかし、対ヤマト帝都防衛戦の際にデスラーが行った臣民虐殺とも言える行為により、それが未遂に終わったとは言え、デスラー自身と独裁政権への批判が高まった。副総統から総統に格上げになったヒスは、臣民の嵐のような批判を納める為に独断で民主化を宣言した。実際、これは非常に効果的で、混乱は急速に収まり、ヒスは救世主のように民衆には映ったのだ。デスラーの配下の閣僚たちは、この路線に乗っかることで、自らにかかる火の粉から逃れたのである。
あれから数年。民主化により、以前よりも自由な言論が許されるようになり、大衆の声は様々に変容していった。デスラー体制を強硬に批判するもの、逆に前の方がよかったとするもの、非現実的な究極の平等を主張するもの、意見は様々に割れた。しかし、民主化は彼らの自由を高め、それ自体を完全に否定するものは少ない。それぞれが民主化の恩恵を受けていたのだ。
これは、ガミラスが侵攻し、支配下に置いていたマゼラン銀河の多様な星間国家でも同様の問題を引き起こしていたが、もっと困難なことが起こっていた。
デスラー体制下では、反乱もあったが、親衛隊や軍が沈静化を計っており、ぎりぎりの状態ではあったが、秩序がある程度保たれていた。それが、民主化宣言以来、ガミラスが過去に行っていた圧政の歴史を批判する声も高まり、各地で独立宣言をする国家が相次ぎ、これらを抑える為に、極力武力では無く、外交交渉により平和条約締結の行脚をする運びとなった。しかし、平和条約といっても、ガミラスに有利な内容であり、暗に体制に反抗する場合の処置をちらつかせたものでもあった。これを受けて武装蜂起して反乱を起こす国家や組織もあり、ガミラス軍は各方面に散って、外交交渉や戦闘行為を繰り返した。
そんな中で、デスラー体制でガミラス政府に協力的だった国家に対する優遇処置だった、二等ガミラス人制度も、多方面から批判を浴び、この処置を維持できず、他の国家と同等にせざるを得なくなっていた。純血ガミラス人の格下ではあるものの、ある程度の権限が与えられていた彼らは、これまで優遇されていた経済的な援助や、安全保障上の協力がなくなり、デスラー体制の復活を願うものたちも多かった。
このような混乱の中でのガトランティスの侵攻は、まさに泣きっ面に蜂ともいうべき事態であった。
ガミラス政府内では、ヒスを除けば、デスラーのようなカリスマ的な指導者が不在になったことを嘆くものも多い。彼がいれば、このような混乱は起こらなかったのだから――。
議会――。
「我が軍は、ガトランティスごとき、片手間であしらえる。平和条約の話を取り止めて戦力を結集させるなど、混乱が更に酷くなってしまう」
「ドメル将軍は、もういないのだ。片手間ですむとは思えん。もし、やつらが、ガミラス本星まで攻めてきたらどうする」
「そもそも、イスカンダルも防衛する必要があるのかね? 女王は、何一つ手伝おうとしない」
「聖なるイスカンダルが汚されるようなことがあってはならない。防衛は当然のことだ。そもそも、我が臣民たちが、イスカンダルを見捨てるなど許さんだろう」
「だいたい、親衛隊の残党狩りはどうなっているのかね? ガトランティスに協力しているというじゃないか。連中はもっと早く殲滅しておけばよかったんだ」
「だったら、二等ガミラス人は、全員逮捕しろ。いつ寝返るかわからんのに、どうして、この本星でのさばらせているんだ!」
「総統は、いつになったらイスカンダルから兵器を借り受けるのか? 安請け合いしていたが、話が違うじゃないか!」
「テロンと交渉など、ありえん。やつらこそ、我々への恨みを決して忘れんだろう。いつ裏切るかわからんぞ。もし、あの波動砲を我々に向けて使われたらどうするんだ!」
議会は、激しい意見が交わされ、罵り合いに発展していた。今までの不満が爆発したような大混乱だった。本来なら、形式的な意見交換をおこなって、頃合いを見てヒスが合意を求める形なのだが、とてもまとまりそうな雰囲気ではなかった。
「諸君、静粛に!」
ヒスが、議場の中央から皆を落ち着かせようとするが、誰も聞く耳を持たない。ガデル・タランも、すっかり諦めた表情をしている。
ヒスが困り果てているところに、一人の男が、議場中央へやって来た。
「総統。だいぶお困りのようだ」
男の名は、ローレン・バレル。ヒス体制になってから、ヒス自ら民間から貿易商だった彼を徴用して労働相に抜擢していた。
「見ての通りだ」
ヒスは両手を広げて議場を見回した。バレルも、議場を同じように眺めた。にこりと笑ったバレルは、ヒスに進言した。
「少々、喋らせてもらってよろしいですか?」
「何か策があるかね?」
バレルは、笑顔で頷いた。
藁をも掴む思いで、ヒスは一歩引いて、中央を空けた。中央の壇上にバレルは上がると、息を吸い込んで、思い切り声を張り上げた。
「デスラー総統!!」
一瞬で、議場は水を打ったように静まり返った。皆は、周りをきょろきょろと見回している。デスラーが近くにいるのでは、と不安になったのだ。
「……デスラー総統が居たら、今のこの惨状を見て、何と言うと思われますか? 皆さん」
バレルは、落ち着いているが、強く大きな声で話し出した。
「皆さん、少し冷静になって、話を聞いてください。長くはかかりません」
バレルは、自分に注目が集まっていること確認して、ゆっくりと議場の皆に語りかけた。
「皆さん、このようなばらばらの状態が正常ではないとわかっておいでですよね。もちろん、意見をたった一つにまとめるなど、民主主義の観点からはありえないことです。前の方がよかった、とお考えの方々もいるでしょう。しかし、よく考えて頂きたい。そのような意見の違いは、ガトランティスなどという侵略者に蹂躙されてからでは何の役にも立たないということです!」
バレルは、身振り手振りをしつつ、落ち着いた声音で訴えかける。
「いいですか、皆さん。少なくとも、確実に侵略者を撃退するのが最優先です。気を許して、後からそんなはずじゃあ、と思った時にはもう、遅いのです。皆さんの意見の違いは、この件が片付き次第、選挙によってはっきりさせましょう。その時は、意見が同じもの同士で政党を作り、正々堂々と意見を戦わせましょう。それを、民衆に判断してもらうのです。これは、ガミラスだけの問題ではありません。マゼラン銀河全体を巻き込んだ、真の統一選挙を行いましょう。誰の意見が最も支持されるか、そこで決めるのです。旧デスラー体制復活を訴えてもいいのです。それこそが民主化の意義です!」
バレルの熱弁は、いつしか、議場を騒がしていた議員たち黙らせた。そして、彼の話を、皆が聞き入っていた。
「いいですか、皆さん。その為にも、今はガトランティスを追い出すことに全精力を傾けましょう! 今一度だけ、ガミラス大帝星の意見を一つに!」
議場は、割れんばかりの拍手が起きた。
バレルが壇上を降りて後ろを見ると、ヒスが目を丸くしていた。
自席に戻るバレルに、タランが声をかけた。
「お見事だった。ありがとう、本当に助かったよ」
バレルは、にこやかにタランに言った。
「貿易商として培った、プレゼンテーションのテクニックが役に立ちましたかね?」
タランは、笑いながら軽口を叩いた。
「次の総統の座を狙っているんじゃないのか?」
それを聞いたバレルは、大いに笑っていた。
「私では、デスラー総統みたいなカリスマ性はありません。私では無理ですよ。あと、選挙で決めるのは、総統では無く、大統領、が相応しいと思いますがね」
「バレル大臣」
執務室にバレルが戻ると、労働省の事務次官が待っていた。美しい金髪の若い男だった。
「先ほどの演説、お見事だった」
「お前も聞いていたのか。ちょっと恥ずかしいじゃないか」
「いいえ。声の抑揚の付け方など、聞くものの注目を集める素晴らしいものだと感じた」
バレルは、自分を褒めちぎる事務次官をじっと見つめた。
「マゼラン銀河の指導者には、カリスマ性が必要だ。次は、君が道化役を演じる番かな?」
「私は、貴方に仕えるので満足している。政治家になる気はない」
「それは残念」
バレルは椅子に座って口元を緩めた。そして、その事務次官が淹れてくれたお茶を飲み始めた。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。