「沢村くん、あっちの岩の方に行ってくれる?」
「あっちって、どっちだよ?」
「あっちは、あっちだよ。あーそこそこ」
百式空偵は、桐生美影の曖昧な指示で、右往左往しつつ、移動していた。
祈る女性の像出現時に観測された強い電気的な反応が、テレザート3の成れの果てである小惑星の岩石でも観測されていた。岩石を採取して分析してみるが、帯電性のある物質は存在するものの、強い反応がある原因が分からなかった。
コスモシーガルでは、アナライザーが機体のセンサーと接続して調査を行っていた。新米は、アナライザーが提示するデータを確認していた。
「うーん」
新米が、頭を抱えて考えている最中、篠原がアナライザーの指示に従って機体を移動させていた。
「シンマイちゃん。そろそろご飯炊けた?」
篠原が新米をからかっている。相原は、そんな篠原をたしなめていた。
「篠原くん、邪魔をしちゃ駄目だよ」
新米は、原因の特定が素早く出来ない自分を、周りが責めていると思っていた。
「すいません……」
「ごめん、ごめん。でも、こんな話でもしないと、辛気臭くなっちゃうでしょ」
その後も新米は、いい結果が出ないのでうんうん言いながら、考え込んでいた。
「どう? 何か聞こえて来たりしてませんか?」
山本が、小惑星帯を岩石を右に左に避けながらコスモタイガーを飛ばしていた。メルダのツヴァルケも後続に追従している。
「何にも感じない。ねぇ、もうちょっとゆっくり飛べない? 山本さん」
機体の揺れが激しく、雪の笑顔はひきつっていた。
「無理です。じゃぁ、もっと遠くに行ってみますか」
コスモタイガーのエンジンが咆哮して、更に速度を上げた。
その頃、新米は何か思い付いていた。
「アナライザー。も、元々どの辺りで惑星が崩壊したか、調べられないかな?」
「ソレハ無理です。惑星が崩壊シテから時間ガ経ちスギテイマス」
「そ、それなら……。この惑星は、イスカンダル帝国時代に、こ、こんな姿にされたのは、恐らく、は、波動砲で破壊されたと伝わっている……。だいぶ時間が経っているけど、その痕跡を見つけられないかな……。あ、あれを使うと、ブラックホールを生成して、ホーキング輻射によるエネルギーが空間に放出される。その痕跡ってそう簡単には、き、消えないんじゃないかな……」
アナライザーが暫し沈黙した。まるで、聞いたことを咀嚼して思考しているように見える。
「ソノ可能性はアリます。調査してみマス」
それから、更に暫く経った。アナライザーは、まだ調査を続けている。
「十時の方向へ……」
「二時の方向へ……」
「お客さん、まだお家が何処か思い出せないの?」
篠原は、軽口を叩きながら、コスモシーガルを飛ばしていた。既に小惑星帯から少し離れた空間まで飛んで来ている。
「アッタ!」
アナライザーが突然大きな声を出した。
「お前、そんな声出せたんだな」
相原も驚いていた。
「ホーキング輻射にヨル空間ノ揺らぎが観測さサレテいます。恐ラク、波動砲ガ発射サレタ地点は、その辺りデス」
新米も、アナライザーが提示したデータを機体の電算装置で確認した。
「こ、これ……」
「どうかしたのか?」
相原は、新米が操作する端末の画面を覗き込んだ。
「見てください! ここから、こんな遠くまで、広範囲に反応があります。これ、きっと相当な数の波動砲を使ったんだと思います。これだけ揺らぎが残っているとなると、何十回、いえ、何百回も波動砲を撃った可能性があります!」
コスモシーガルは、発射地点と思われる場所から、空間の揺らぎを辿った。そして、その揺らぎが続く、小惑星帯の位置が特定された。
「あそこが恐らく惑星が破壊された位置でしょう。もっと詳しく調べて見ましょう。他の人達も良かったら来てもらった方がいいかも知れないですね」
いつの間にか、新米のどもりが直っており、相原は、くすりと笑った。
「了解!」
百式空偵は、新米が言う場所に集結したが、いくら調査しても、これといった新たな発見はなかった。新米は、酷く落胆していたが、相原が彼を慰めていた。
そんな時、遅れて山本のコスモタイガーとメルダのツヴァルケもやって来た。機体のエンジンを停止し、その場に留まると、篠原からの通信で空振りだったことが伝えられた。
「どうする? 帰投するか?」
山本が、皆にヤマトへの帰投を提案していた。
ちょうどその頃、ヤマトもテレザート4から戻り、ガミラス艦隊と合流していた。
その時、探査チームがいる場所の近くで、突然あの像がゆっくりと巨大な姿を現した。そして、雪にだけでなく、探査チームのメンバーには、はっきりと声が聞こえた。
「……ようこそ、皆さん」
そこに集まった全員が驚いて、自分の耳を疑った。その声は、頭の中に直接響いた。
雪も、その声を聞いて呟いた。
「夢で聞いた、あの声と同じ……」
像の姿は、少し揺れ動いているように見えた。
「……私は、テレサ。テレザートのテレサ。私の呼び掛けに応えてくれた、あなた方が来るのを待っていました」
像が動きだし、遂には、雪の方を向いた。
テレサと名乗る若い女性の姿のその像は、ゆっくりと雪に向かって手を差し伸べた。そして、一言、その名を発した。
「ユリーシャ・イスカンダル」
雪は、その名を呼ばれると同時に、心の中に、記憶の奔流が津波のように襲ってきた。
それは、自身の子供の頃の記憶――。
母親に抱かれて幸せな気持ち。
大好きなスターシャお姉ちゃんに楽しそうにくっついて歩く、少し大きくなった私。
お姉ちゃんが、アベルトというガミラス人と楽しそうにしているのを、サーシャお姉ちゃんと影からみている。
救済に旅立って、二度と戻らなかったお母さん。
サーシャ姉さんとずっと泣き続ける私。
スターシャ姉さんが、笑わなくなって、悲しい気持ち。
スターシャお姉様が地球の救済に旅立つように言っているのを聞いて、寂しい気持ち。
地球へ旅立ち、自分にそっくりな人に出会って不思議な気持ち。
雪は、幼い頃から、数年前までの記憶が一度に甦り、めまいと吐き気が襲ってきていた。テレサが、差し出した手を戻すと、記憶の奔流が、突然収まった。
「わ、私は……イスカンダルのユリーシャ……?」
テレサが微笑を浮かべる。
「いいえ。違います。貴女は、もう一人のユリーシャ・イスカンダル」
雪は、テレサの言うことに、頭が混乱した。
違うって何が……?
今、記憶が甦ってきた情景は、確かに自分自身が体験したものだ。そして、自分はユリーシャだと、確信を持って言える。
「そう。私はユリーシャ……」
雪は、そう口に出してつぶやいた。
「森船務長! どうしたんですか!? しっかりしてください!」
山本が、雪を振り返って叫んだ。
「テレサが……私がユリーシャだと、いいえ、そうじゃないと……」
「何を言っているんですか!? 私には、何も聞こえません!! 森船務長!!」
森……?
雪は、首を傾げている。
「はてな……?」
ヤマトでは、古代が政府の代表者達を大急ぎで、第一艦橋に呼び出していた。
「ライアン外務長官! たった今、本艦の相原より、祈る女性の像との接触に成功したと連絡がありました。念の為、新たな知的生命体とのコンタクトになる可能性があります。政府の代表としてこちらで待機をお願いします」
その時、テレサの雪へ語りかける言葉は、誰にも聞こえていなかった。
雪は、山本の言葉を、心の中で反芻した。
森……?
もり……
「!」
その時、雪の記憶が一気に甦ってきた。
――そう、あれは事故なんかじゃない。テロだった。外務次官だった両親とユリーシャと、一緒に車に乗って会話をしていた。突然、車が爆発して、私とユリーシャは車外に投げ出された。お父さんとお母さんは私たちを庇って……そう、あの時、重傷を負って亡くなってしまったのだ。
雪の瞳から涙が溢れだした。
お母さん……お父さん……!
ああ、なんて酷い……!
すぐ横に倒れているユリーシャが、お姉様、ごめんなさい、と呟いている。雪は、そのユリーシャに手を伸ばした。手が触れ合ったところで、雪の記憶は、途切れてしまっていた。その次の記憶は、病院のベッドの側に、沈痛な面持ちで立っていた土方の姿を見た時だった。
その時、雪は、遂に失っていた記憶を取り戻した。
「私は……森雪。地球の女性です……」
テレサが、微笑を浮かべていた。
「貴女は、森雪。そしてユリーシャ・イスカンダルでもある」
雪は、また混乱した。
……いったい何を言ってるの?
テレサは、核心を語りだした。
「……イスカンダル人は、人の心の中に入ることが出来ます。貴女の中のユリーシャの記憶を覗けば、今なら貴方も理解出来るでしょう」
それを聞いて、雪は、自身の記憶を辿ってみた。
そうだ。あの時……!
私と雪が倒れていたあの時、私は雪に手を触れられた。あの時、もう死んでしまうかも知れないと思っていた。私自身の心と記憶、それが永遠にこの世界から喪われないように、彼女にすべてを託したのだった。その後、二人とも無事助かって、雪は、もう一人の私になった。
「私の中に、ユリーシャがいる……?」
テレサの微笑が雪を見守っていた。
テレサは、ゆっくりと周りを見渡した。
「皆さん。この宇宙に、危機が迫っています。私の話を聞いてください」
「うん?」
古代の頭に、そして、ネレディアの頭にも、テレサの声がはっきりと聞こえた。
ヤマトの乗組員もガミラスの乗組員も、その場にいた全員に、その声が聞こえていた。
「……ガトランティスは、イスカンダルに侵攻しようとしています。皆さん、これを止めなければなりません」
ネレディアは驚いて呟いた。
「奴らは、ガミラスに侵攻しようとしているのでは無かったのか?」
「ええ。当然、ガミラスも被害を受けるでしょう。しかし、彼らの目指す先は、イスカンダルなのです」
テレサは、呟きも聞こえているようで、ネレディアは、更に驚かされていた。ネレディアは、何を根拠に言っているのか尋ねようとしたが、次の話が始まった。
「これからお話しすることは、おとぎ話のようなものです。私の話を信じるかどうか、皆さんでご判断ください」
テレサが片腕を伸ばした。
「惑星テレザート」
手を伸ばした先に、惑星が浮かび上がった。
「約千年程前に、私たちはここで暮らす普通の人間でした。イスカンダル人に滅ぼされ、すべてが喪われました。今は、テレザートの人々の心だけがここに存在しています」
テレサは、遠い記憶を思い出すように宙を見上げた。
「私たちは、心と心を通い会わすことの出来る力がありました。体は別々でしたが、私たちは、一つの心を共有していたのです。その頃、イスカンダル人は、このマゼラン銀河を征服しようと、様々な星を侵略し、戦乱の嵐が巻き起こっていました。イスカンダル人が、最後まで侵略出来ずにいたのが、私たちの住む惑星テレザートでした。彼らがそれを出来なかったのは、私たちの力、人と人の心を通わす能力のせいでした。私たちは、彼らから身を守るため、近づく彼らに、恐ろしいイメージを見せて、近寄るだけで悪夢を見てしまうと思わせたのです。しかし、彼らのマゼラン銀河の侵略は終わりを迎え、残すのは、私たちのテレザートだけになっていました。彼らは考えました。私たちの星を侵略するのは無理だと。そうであれば、葬り去ろうと」
テレサは、悲しげに胸に手をあてた。
「そして、遂にその時はやって来ました。イスカンダル人は、たくさんの船と、強力な武器を持ってここにやって来たのです。彼らは、世にも恐ろしい武器を持っていました。あなた方も知っている、波動砲と呼ばれるものです。それを、たくさんの船に乗せてやって来たのです。私たちは、祈り続けました。彼らが恐れるイメージを見せて、引き返してくれることを祈ったのです。しかし、彼らはそれに耐え、遂にその武器を使ったのです。私たちの惑星テレザートは、あっという間に星の形を失いました。そこに生きる私たちも、一瞬で命を落としたのです」
テレサは、手を合わせて目を閉じていた。
「しかし、私たちの心は、肉体を失っても簡単には無くなりませんでした。私たちは、彼らの心に入り込み、彼らに引き続き悪夢を見させたのです。彼らは、狂ったように武器を使いました。そうして、粉々になった惑星テレザートの欠片を、一つ残らず消し去ろうとしたのです。しかし、彼らは暫くして気が付きます。自分の心と、私たちの心とが混じりあい、私たちはいつしか一つになっていたのです。イスカンダル人は、その時から変わりました。恐ろしい侵略行為をその日から放棄したのです」
テレサは、ネレディアらのいるガミラス艦隊の方を真っ直ぐに見た。
「イスカンダルの双子星のガミラスは、彼らが最初に侵略した星でした。彼らに従い、一緒になって、侵略をおこなっていました。しかし、テレザートからイスカンダル人が戻ってくると、変わり果てた彼らの姿を見ることになります。イスカンダル人は、ガミラス人に言います。もう、侵略は止めると。これからは、助けが必要な人々に手を差し伸べる、と。ガミラス人は驚きました。怒ってイスカンダルを攻めようとする者もいましたが、イスカンダル人は、ガミラス人に悪夢を見せて、侵略出来ないようにしてしまいました。それから、長い時が流れました。二つの星の人々は、考え方が異なる別の生き方を選択しました」
集まった人々は、テレサが語るイスカンダルの真実に惹かれ、黙って次の話を待っていた。
「イスカンダル人は、それから侵略行為を愚行として恥じるようになり、そして、自分たちの心を変えた力について研究を重ねました。もともと、優れた科学力を持っていた彼らでしたから、この心の秘密を解き明かすのにそれほど時間はかかりませんでした。そうして彼らは、心の力で滅びた星を再生する方法を見つけたのです。そう。そうして作られたのが、あなた方地球人が救われたあの装置です。一方、ガミラス人は、イスカンダル人がそれまで行ってきた行為の後始末をすることになってしまいました。イスカンダルに侵略されて、苦しんでいた星ぼしの軍勢が攻めてきて、彼らは、懸命にそれを撃退していきました。そうして、再びマゼラン銀河は、戦乱の渦に巻き込まれて行きました。その戦いは、今でも続いています。イスカンダルが、星ぼしの救済に乗り出してから、長い年月が経つと、ガミラス人は、いつしかイスカンダル人を神聖化するようになり、今のような二つの星の関係が築かれました。聖なるイスカンダル人の神話は、いつしかマゼラン銀河全体に広がって行き、形を変え、様々な伝説となったのです」
ネレディアをはじめとしたガミラス人は大変な衝撃を受けていた。これまで知識としてあった歴史と、おとぎ話や寓話で何となく伝えられてきた伝説が、筋道を立てて説明されたことで繋がり、真実味を帯びていた。
テレサは、再び別のイメージを空間に浮かび上がらせた。ガミラスに侵略された時の地球のような赤茶けた惑星が浮かんでいる。
「これは、アンドロメダ銀河にある、ガトランティス人の故郷の今の姿です」
これには、そこにいた、全員が驚愕していた。
「ご覧のように、彼らの故郷は、かつてのテレザートやあなた方の地球と同じように、何者かに滅ぼされてしまいました。これも、約千年前に起こったことです。故郷を脱出したガトランティス人は、長い年月流浪の旅に出ました。彼らは、かつて、この宇宙の至る所で命の種を撒いたと言われるアケーリアス文明の存在を知ると、故郷を復活させる術を持っているに違いないと信じて、それを探す旅を続けています。しかし、住む星も無く、自らを乗せた船しか拠り所の無い彼らは、移動先の星ぼしで資源を得るしか無く、気がつくと、略奪を繰り返すようになりました。かつての目的を忘れた訳ではありません。しかし、長い年月が経つと、略奪を繰り返す行為が、当たり前のことになってしまいました。悪いことをしているということは彼らもわかっているのです。しかし、もはや彼らはそれを止めることは出来ません。そうすることは、長い時を経て彼らが行ってきたすべてを否定することですから。その彼らが、マゼラン銀河に広がるイスカンダルの伝説を知り、遂にイスカンダルに、故郷を復活させる術があると知りました。彼らは今、それを奪いに少しづつイスカンダルに迫っています。彼らがイスカンダルを侵略すれば、私たちの星を滅ぼした武器や、星を再生する装置を奪っていくことでしょう。それで終わりではありません。彼らにとって、故郷を再生することは、既に重要ではありません。何かしらの理由をつけ、略奪を続けるでしょう。奪った武器を使い、想像するのも恐ろしいことが起こるでしょう。そして、宇宙は、彼らに破壊され尽くすことでしょう」
テレサは、ガトランティスの故郷のイメージをそっと消した。
「波動砲は、使い続ければ、宇宙が裂けてしまいます。ちょうど、ここでそれが起こりました。イスカンダル人が、何度も何度も波動砲を使い続けたため、本当に裂け目が出来ました。彼らが攻撃を止めるのがもう少し遅かったら、裂け目が広がり、この宇宙は崩壊し、別の宇宙が誕生したことでしょう。そして、心の秘密を解き明かして作られた星を再生する装置。あれも悪用させてはなりません。あれは、時空を超えてこの宇宙に存在する心の波動、それに働きかける仕組みがあります。使い方を誤れば、もう二度と、この宇宙に命が誕生しなくなってしまうでしょう。皆さん。この宇宙を守ってください。この宇宙を滅ぼすような行為を何としても止めてください」
そこまで話すと、テレサは、ゆっくりと姿を消し始めた。
慌てて雪が叫んだ。
「待って! まだ聞きたいことがある! 何で私たちをここに呼んだの?」
テレサは、薄れたまま微笑を雪へと向けた。
「あなたの中にいるイスカンダル人のユリーシャと繋がったからです。イスカンダル人は、私たちとずっと繋がっています。そして、その繋がりを通じて、あなた自身の心も感じました。きっと、あなた方なら、この宇宙を大切にしようと努力してくれると、私は信じています」
テレサは、消える間際に言い残した。
「私たちは、祈り続けます。私たちのような不幸が、二度と起こらないことを願って……」
テレサは完全に消えてしまい、そこで語られた話が真実だったのか。彼女という心が、何故、肉体を失ってもそこにいるのか。もはや確認する術は無くなってしまっていた。
そこに残された人々は、暫し呆然とするしかなかった。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。