ヤマトとガミラス艦隊は、サレザー系まで後僅かのところまで来ていた。彼らが通過する宙域では、あちらこちらにガミラス艦隊が集結していた。その数は、進むに連れてどんどん増えて行き、遂には数千隻もの艦隊が確認出来るようになっていた。
「本星に連絡を入れろ。地球連邦政府一行が間もなく到着するとな」
ネレディアの命令でガミラス軍司令本部へ連絡が行われた。
「見てください」
「すごい数だな」
ヤマトでは、北野と南部が、警戒体制を取りながら、周囲を観察していた。
「あれ、新型の艦艇ですね」
「本当だ。いい機会だ。全部データを取っておこう」
古代が、そんな様子を見て軽くたしなめた。
「北野、南部。仮にもこれから友軍になるんだ。データ収集はいいが、失礼の無いように気をつけて、な」
サレザー系の外縁部に到達すると、更に数が増え、本星を中心として、大量の艦隊が集結していた。その数、通過する宙域だけでも、数万隻を数えていた。
そして、遂に二重惑星のガミラスとイスカンダルの姿が見えてきた。第一艦橋に、外務長官のライアン、事務次官のキャッスルとアーウィンの姿があった。
「とうとう我々はここまで来た」
「ガミラスとイスカンダル。美しい。二重惑星とは、何て神秘的なんだ」
艦長室には、土方と芹沢の姿があった。土方は、イスカンダルをその目で確かめ、沖田が成し遂げた偉業に思いを馳せていた。
第一艦橋の艦長席にいた古代は、落ち着いて艦内通信のマイクを掴んだ。
「諸君、目の前にガミラスとイスカンダルがある。ぜひ、自分のその目に焼き付け、沖田艦長を始めとした多くの犠牲があったあの戦争を胸に刻んで欲しい。そして、その思いを地球に持ち帰って復興に励んでもらいたい。私からは以上だ」
こうして、ヤマトとガミラス艦隊は、三ヶ月に渡る行程を踏破し、ガミラス星に到着した。
ガミラス星の宇宙港に、静かにヤマトは着陸した。すぐ近くに空母ミランガルを含むガミラス駆逐艦も着陸した。皮肉なことに、そこは、ヤマトとの決戦を戦ったドメル将軍が、最後にガミラス星を発った場所でもあった。
ヤマトは、舷側にタラップを降ろし、そこから地球連邦政府のメンバーと、古代を始めとした艦を代表する士官、そして、メルダとユリーシャが連れ立って降りてきた。そこに、空母ミランガルからも、ネレディアを始めとした士官と、同乗していた政府や軍の関係者、そして数年ぶりの帰還となったヴェルテ・タランが、艦を降りて集まっていた。
彼らを迎えに来たガミラス兵たちが整列し、ガミラス式の敬礼でヤマトとミランガルから降りてきた者達を歓迎していた。そして、どこからかガミラス国歌の演奏が聞こえていた。
彼らが、そのガミラス兵が整列している中央を進むと、その先に、ガデル・タラン国防相と官僚らが待ち受けていた。
ガデル・タランがガミラス式の敬礼をしながら宣言した。
「はるばるガミラス星にようこそ。大ガミラス帝星の国防相のガデル・タランです。地球連邦政府の方々を歓迎します」
ガミラス式の敬礼から手を降ろしたガデル・タランは、地球式に右手を差し出し、外務長官のライアンと固く握手をした。
その様子を、ガミラスのマスコミが取り囲んで撮影をしていた。大ガミラス帝星として、初めての対等な関係の友好国となる、地球との交渉に臨む政府の動きに注目が集まっていた。ガミラス政府も、かねてから民主化の象徴として、この事実を喧伝していたのだ。
ヴェルテ・タランは、その中心にいる、弟ガデルの姿を少し遠巻きに見ていた。既に兄ヴェルテ生存の知らせを受けていたガデルも、その兄の姿を認め、穏やかな表情で静かに頷いていた。
地球から訪れたものたちは、その後、バレラスの賓客の為に用意された迎賓館へ案内された。そこで今夜は一泊し、長旅の疲れを癒した後、翌日から軍事同盟の条約締結に向けた交渉に臨むことになる。迎賓館には、宿泊用の個室だけでなく、会議室なども手配されており、荷物を置いて一休みした後、全員がそこに集合していた。
「ガミラス軍、すごい数が集結してたな」
「私たちが通過した宙域だけでも、数万隻は間違いなくいたと思う」
「ガトランティスが迫ってきてる、こんな時に、ここにいて大丈夫なのか?」
「くわばらくわばら。いざとなったら巻き込まれる前に逃げないと」
「同盟なんて結んだら、それこそガトランティスが攻めてくるんじゃないか?」
ヤマトを代表して下艦した士官らは、先程目撃したガミラス軍の様子を不安げに話し合っている。その様子に気がついた古代は、皆に言った。
「皆、聞いてくれ。不安な気持ちはわかるが、これは、地球連邦防衛軍としての重要な任務だ。僕たちは、今君らが言っていたような不安を持つ部下達を統率し、任務の成功に向けて導く立場なのを忘れないで欲しい」
古代のそんな様子を見て、真田と土方が微笑んでいる。
「言った通りでしょう。彼は、指揮官に向いている」
土方は、真田の方を向いて微笑した。
「立場が人を作るというがな。古代の奴、この旅で一皮剥けたようだ」
外務長官のライアンは、全員に向かって語りかけた。
「皆さん。地球連邦政府の代表として、言わせて欲しい。旅の途中、ガトランティスや、デスラー総統との接触など、いろいろなことがありました。しかし、皆さんが、この長旅の安全を守ってくれたことに感謝しています。我々は、これからガミラス政府の民主化の取り組みを確かめ、その後、速やかに今回の旅の目的である軍事同盟条約を結び、互いに必要とする技術供与を行います。ここでは、ガトランティスとの戦争が刻々と迫っている状況でもあります。我々は、それに巻き込まれる前に、ここを離れます。ガミラスは、かつての敵国とはいえ、これからは名実共に友人となります。くれぐれも、そのことを忘れずに行動して欲しい。本当にありがとう」
一方その頃、ガデル・タランは、執務室に兄ヴェルテを迎え、二人は固く抱き合った。二度と叶わぬと思っていた再会を祝していたのだ。
「お前が国防相とはね。私が不在の間によくやってくれていたようだ」
ヴェルテは、弟に労いの言葉をかけた。
「兄さんが亡くなったと伝わった後、軍に纏わるあらゆる権限が自分に与えられて、それはもう、大変だった。戻ってくれたからには、いろいろと手伝って欲しい」
そして、執務室のソファーに座って二人は、これまでのことについて情報を交換した。
「新兵器?」
ヴェルテが、怪訝な顔をしている。
「ふむ。あの小さい人工太陽は、捕まっている間の時間稼ぎに作ったものだ。ガトランティスは、それを兵器に転用しているというのかね?」
「それもそうなんだが、兄さん。最新の情報で、それの三十倍もある大きなものが見つかった。我が軍ではそれを、大彗星呼んでいる」
ヴェルテは、とても驚いていた。
「三十倍も? うーむ。技術的にあのサイズが限界だった。だから、エネルギー効率が悪く、使い物にならなかったんだよ。おかしいな。もしかしたら、ガミラス以外の異星の優秀な科学者が関わっているのかも知れない」
「しかも、推進機が付いていて、自由に方向を変えて移動が出来るようになっていた」
「なんとまぁ……。それで? 対抗手段はあるのかね?」
ガデルは、両腕を上げ、首を振っている。
「お手上げだよ、兄さん。何か良い案を思い付かないか?」
「そうだな……。考えてみよう」
「頼む。我が軍でも、対抗策が無く困っているんだ」
ガデルは、もう一つの興味深い話題を尋ねた。
「それにしても、デスラー総統が生きていたという件も驚いたよ。今、総統に戻ってもらえたら、どんなに楽になるか」
そんな風にぼやくガデルの様子に、これまで相当な重圧がかかっていたことが窺えた。そして、ヴェルテは暫し考えた。
「もう、ここには戻れないとご本人は考えていらっしゃるようだ。それでも、あの人は新しい道を見つけたようだがね。彼なしで、この状況を打開するしかないと思うよ」
翌日――。
その日、大ガミラス帝星のヒス総統と、地球連邦政府のライアン外務長官の初めての会合が行われた。ヒスとライアンは、地球式に握手を交わし、その様子は多くの報道陣に撮影された。その会合では、これからの予定について確認が行われ、初日は短い時間で終了となった。
その夜、晩餐会が行われ、ガミラス政府の閣僚と、地球連邦政府代表や、ヤマトの士官代表者がその場に居合わせた。晩餐会は、和やかな雰囲気の中で執り行われ、豪華な壁画や装飾で飾った大きな部屋で、豪華な食事が振る舞われていた。
ヴェルテ・タランと真田は、隣合った席で会話をしていた。
「ヤマトの波動砲を開発した技術者にお会いできる日が来るとは思いませんでした」
「こちらこそ。貴国の様々な発明の指揮をとった閣下にお会いできて光栄です」
タランは、真田と杯を交わした。
「しかし、あなたは、デスラー総統の元で、波動砲を開発されたそうですね。あなたが戻った今、もはや、技術供与をする必要は無くなったのではありませんか?」
ヴェルテは、目を閉じて首を振っている。
「あれは、実現するのに、かなり大規模な設備が必要でした。唯一、デスラー前総統の乗艦デウスーラにのみ装備できたものです。あれは、数回程撃つとゲシュタム機関が甚大な損傷を受けてしまい、安定性がありません。要するにまだ研究途中だったのです」
「なるほど」
「しかし、あなたの協力が得られれば、短期間で問題を解決できると考えています。そして、ゼルグート級ぐらいのサイズの艦に搭載できれば、現実的なものが作れるようになるでしょう」
それを聞いた真田は、既に頭の中で実現方法を考え始めていた。
「挑戦したくなって頂けましたか? あなたは、優秀な科学者なんでしょうな」
二人は、一頻り議論を交わした後、別の課題について話をしていた。
「我々が今回必要としている波動コアに相当する技術について、伺ってもよろしいですか?」
「ゲシュタム機関にも、起動に必要なキーとなる装置があります。これを、波動コアを接続するインターフェースに変換して接続可能にすれば良いでしょう。これは、比較的容易に実現できると思いますよ」
「その装置も大規模な設備が必要なんでしょうか?」
「イスカンダル製の波動コアよりは、かなり大きなものになります。しかし、設備を拡張するほどでは無いと思います。我々の駆逐艦だけでなく、小さな民間船にも設置できているので」
二人の議論は、まだまだ続いていた。
古代の隣の席には、バレル労働相がいた。
「私は、ヒス総統に民間から徴用されて大臣になりました。その前は、マゼラン銀河を股にかけた貿易商をやっていた民間人でした」
「そうでしたか」
古代は、そのような人物がガミラス政府にいたのに驚いていた。総統ヒスの言う、民主化の本気度が窺えるというものである。
「テロン……いいえ、地球ともぜひ交易を結びたいですね。あなた方の星を訪れて、いろいろな物を見させて頂いて、貿易が実現出来たら面白そうです」
古代は、バレルの提案が実現した時代を想像してみた。
「かつての戦争で憎しみあってきた私たちの間で、そのようなことが実現するのは、想像しただけでまるで夢のようです」
バレルは、古代の表情をちらと見た。彼が、本当にそう思っているのが希望に満ちた表情から窺えた。
「いつか地球に行ってみたいものですな。その時は、私を案内して頂けませんか?」
古代は、嬉しそうに回答した。
「もちろん、喜んで」
バレルの隣にいた労働省の事務次官が、バレルをたしなめた。
「大臣。あなたはもう貿易商ではない。地球に遊びに行く暇など無いと思うが」
古代は、大臣の立場の人物に対して、そのような口の聞き方をする彼に少し興味を持った。ガミラス人には珍しい、金髪の若い男だった。そのバレルは、その物言いを、特に気にもしていないようである。
「地球と正式に国交を結ぶには、そういう交流が大事なんだよ」
そう言いながらバレルは、ふと思い付いたことを彼に言った。
「そうだな。地球にガミラス大使館を作ったらどうだろう? 私が、初の大使になると言うのはどうだね?」
その事務次官は、憮然とした表情をしている。
「そんなことより、あなたが初代の大統領を目指した方が、我がガミラスの為になる」
古代は、そんな二人のやり取りを興味深そうに見つめた。
「バレル大臣。そう言えば、間もなく、選挙があると聞きました」
バレルは、それを楽しみにしているのか、嬉しそうに話した。
「はい。私は、引き続き、ヒス総統に大統領になってもらいたいと考えています」
金髪の事務次官は、それに反論した。
「それでは、今までと変わらない印象が強い。この選挙では、臣民にもすぐ分かるように、大きな変化が必要だ」
バレルは、にっこりと笑って言った。
「ならば、もっと相応しい人物を、私は、知っているがね」
金髪の事務次官が、困惑している最中、ふと、背後に人が立つ気配がした。
「お酒をお持ちしました。ザルツ産の果実酒になります」
バレルは、振り返って、給仕をする少女にグラスを差し出した。
「私にも頂けるかね? 今日は楽しい夜だ」
給仕をしていたのは、ヒス総統の元で家政婦をしているヒルデだった。
「どうぞ」
ヒルデは、バレルのグラスに酒を注いだ。金髪の事務次官の男は、鋭い瞳でそれを見つめていた。
「そちらの方も、いかがですか?」
古代は、ヒルデの方を振り向いてグラスを差し出した。古代は、その娘がガミラス人の青い肌ではなく、肌色なのに気がつき、別の星の人間だと悟った。しかし、そのことに触れるのは失礼かも知れないと思い、口にはしなかった。
「ありがとう。頂くよ」
ヒルデが、酒を注ぎながら言った。
「これは、私の故郷のお酒です。ところで、テロンの船の責任者と言うのは、あなたでしょうか?」
古代は、自分が、艦長の代理としての立場だったことを少し考えていたが、にっこりと彼女に返事をした。
「僕が、責任者をさせてもらっているよ」
古代は、ヒルデの表情が翳ったことに、グラスを口にしていて気付かなかった。その時突然、金髪の事務次官がヒルデに襲いかかり、馬乗りになって組伏せていた。
「き、君!何をしているんだ!」
古代は、憤慨して立ち上がってその様子を確認した。すると、組伏せられたヒルデの手から鋭利な刃物が転がり落ちた。
刃物が落ちた床に、金属の音が響いた。
古代は、それを見て、何が起こったのか理解が追い付かなかった。
僕が、襲われた?
あの可愛らしい少女に?
一体、自分が何をしたというのか……?
「貴様、どういうつもりだ!」
金髪の事務次官が、ヒルデに向かって大きな声を出した。会場に待機していたガミラス兵たちが、一斉にその場に集まり、事務次官からヒルデを受け取って羽交い締めにした。その場に居た者たちは、突然の凶行にざわめいていた。
そこに、血相を変えて、慌ててヒスがやって来た。
「ヒルデ! 何てことを!」
ヒルデは、まだ暴れようともがいていた。
「離して!」
ヒスは、おろおろとヒルデの前に行こうとするが、ガミラス兵に囲まれて止められてしまった。
「総統! 危険です!」
しばらくすると、ヒルデはもがくのをやめ、顔をくしゃくしゃにして泣きながら呟いた。
「……テロン人の船は、私のお父さんを殺した。私とお母さんから、永遠にお父さんを奪った。とっても優しいお父さんだった。人殺しなんか出来るような人じゃなかった。お父さんが何をしたの? 二等ガミラス人として、ガミラスの人たちに命令されて、仕方なく戦っていただけなのに……」
ヒスは、それを聞いて真っ青になった。
「ど、どうして、お前がそんなことを知ってるんだ?」
「今までずっと、テロンの船は、ガミラスを救った救世主だって思っていた。お父さんは、ガトランティスと戦って死んだと思っていた。でも、あたしはヒス様が誰かと話しているのを聞いてしまった。本当は、テロンの星に戦いに行かされて、そこでテロン人に殺された。今まで、誰も教えてくれなかった。私は、何も知らずに子供扱いされていた!」
ヒルデは、古代を睨み付けた。そして、その場にいる全員を見回して睨み付けた。
この事態に呆けている古代の側には、いつの間にか雪と星名が彼を守るように立っていた。しかし、その二人も、このような少女に、自分たちが呪われているのを知り、焦燥を隠せなかった。
「私は、テロン人も! お父さんを戦争に行かせたガミラス人も! 皆、絶対に許さない! お父さんを……、お父さんを返してよ!」
ヒルデの叫びが、晩餐会の会場に響いた。しかし、とうとうガミラス兵に連れていかれ、彼女はその会場から姿を消した。
ヒスは、膝から崩れ落ちた。
「あぁ……。何てことをしてくれたんだ」
ヒスの目から涙が溢れていた。
ガデル・タランは、憐れな人を見るような目で、ヒスのそばに来て言った。
「だから、彼女をそばに置いてはいけないと言ったでしょう。こんなことを仕出かして、極刑は免れませんな」
ヒスがそれを聞いて叫んだ。
「そ、それはだめだ! あ、あの娘を極刑だと……?」
ヒスは、ずっと彼女を自分の娘のように可愛がっていた。そして、この現実を受け入れられずにパニックを起こしていた。
「待って下さい!」
ヒスの姿を見て、気を取り直した古代が、ガデル・タランに向かって言った。
「僕が襲われたんです。襲われた本人が極刑など望んでいない! それに、彼女が先程言ったことは事実だ。そもそも我々全員にあの娘のような悲劇を起こした責任がある! 彼女を極刑になど、するべきじゃない!」
ヒスが立ち上がって叫んだ。
「そ、そうだ。本人がそう言っている! あの娘を極刑になどしてはいけない! 許してやってくれ!」
ガデル・タランは、冷静に言った。
「彼女はテロン人だけでなく、我々ガミラス人にも敵意を向けていましたね? それを放っておけと言うんですか? やはり、彼女だけでなく、二等ガミラス人は、全員危険分子として逮捕すべきだ」
ヒスは、話が通じないタランに怒り心頭の様子だった。
「わかった。ならば、大ガミラス帝星の総統としてその権限を行使する! 彼女は私の権限で無罪とする!」
ガデル・タランは、驚いた。よもや、民主化後、使われることのなかった総統権限を、私情で行使するなど思いもよらなかったのだ。
「なるほど。それなら仕方ありません。ご命令には従いましょう。しかし、あなたは私情で法の秩序を覆した。この事実を臣民が知れば、今度の選挙で、引き続きあなたが我が国のリーダーになるのは難しいでしょうな」
ヒスは、断固とした態度で言い放った。
「構わん。あの娘を助けられるならば」
その時、ガデル・タランのそばに、金髪の事務次官が険しい表情で近寄った。
「貴様、二等ガミラス人は全員逮捕と言ったか。酷い差別的な発言だった。純血のガミラス人以外は、誰も信用出来ないということか? 俺たちの民主化は本気じゃなかったのか? 圧政を強いてきた人々とも平和条約を結び、不平等も正すのではなかったのか? どうなんだ! それは、そういうポーズを周りに見せる為の嘘だったということか! ここにいる地球人は、そういう国になることを期待してここに来た。その信用を失墜させても構わんと言うのか!?」
ガデル・タランは、訝しげな顔で言った。
「君は一体、誰だね? 誰に向かって言っていると思っているんだ」
バレルも、血相を変えてそこにやって来た。そして、二人の間に割って入って言った。
「タラン大臣、大変失礼をしました。この男は、労働省の事務次官で、私が連れてきました。後で謝罪させますので、ここは私に免じてお許し頂きたい」
金髪の男は、氷のような冷たい瞳で怒りを溜めている。
「バレル大臣。やはり、あなたのような民間人の気持ちを理解出来る人物がこの国を導くべきだ」
バレルは、ため息をついた。
「私のような者では役不足だよ。それには、デスラー前総統のような強烈なカスリマ性と、民間人の感覚も併せ持った指導者が相応しい。そのような人物が、ここにいれば、だが」
バレルは、事務次官の顔を見て考えている。何を考えているか察した事務次官が呟いた。
「やめろ」
「その時が来たようだ。ランハルト」
バレルは、ランハルトと呼んだ事務次官が何か言っていたが、それを無視して、大きな声で言った。
「タラン大臣。そして皆さん。この男が誰か。質問がありましたので、良い機会なのでご紹介しましょう!」
「やめろ!」
「この男の名は、ランハルト。デスラーの血を引く者。ランハルト・デスラーです!」
晩餐会の会場に居合わせた人々に衝撃が走った。
デスラーの血筋の者だと。
見てみろ、あの顔。デスラー総統に似てる。
本当かも知れないぞ……。
ガデル・タランも、その男の顔をまじまじと見ていた。確かに、デスラー総統に似ている、と彼も思っていた。周囲がざわつく中、バレルが更に続けた。
「訳あって、デスラー家から離れて辺境の星系にいた彼を、私が貿易商をやっている頃に見つけ、大臣に抜擢されることが決まったときに連れてきました。政治家になってもらいたいと思って、私の近くで勉強をさせています」
「それ以上はやめろ」
「ガミラス政府の閣僚の皆さん。デスラー前総統が居てくれれば、と思ったことが最近多かったのではありませんか? ご多分に漏れず、タラン国防相。あなたも」
ガデル・タランは、そう言われて、気まずい気持ちになっていた。
「そして、先程ランハルトが言ったこと。不平等を正し、平等な平和を正義と考える彼の気持ち。私は、今度の初の選挙では、彼を政治家に推すつもりです。もちろん、指導者になるのはまだ少し早いかもしれません。地球連邦政府の皆さん。ガミラスには、まだこのような人物がいること。素晴らしい理想を持って、それを実現出来る者がおります。どうか、我々を信じて頂きたい!」
ヴェルテ・タランも、ランハルトの語ったことを聞いていた。
あれは、正にデスラー総統が私に言っていたことと同じ。
デスラーの血筋の者というのは本当かも知れない。
総統と同じ理想を持った、もう一人の若きデスラーが、こんなところにいたとは……。
ヴェルテ・タランは、その男がとても眩しく映っていた。
その騒ぎの後、ヒスはライアンの姿を探した。ライアン外務長官は、事態の急変に戸惑いを見せていた。ヒスは、ライアンの元に行き、膝をついて謝罪した。
「お見苦しい所をお見せして申し訳ない。また、地球の方々にご迷惑をお掛けしたことを謝罪させて欲しい」
ライアンは、慌てて同じように膝をついてヒスの肩を掴んだ。
「顔を上げて下さい」
ヒスは、ライアンの顔を窺った。
「先程の一件、あの不幸な戦争が引き起こした悲しい傷跡です。あなた方も、我々も、未来に向かって歩み始めなければならない。私たちは、これから二度とこのようなことが起こらないよう互いに努力し続けましょう」
「ありがとうございます。私は、今後指導者では無くなる可能性が高いでしょう。しかし、必ずや良い指導者を選び、あなた方と共存の道筋をつけたいと思っています」
「先程のデスラー前総統の血縁という方のお話、我々にとってあなた方の今後に大きな期待をしたくなるものでした。大丈夫ですよ。きっと」
晩餐会が終わり、迎賓館に戻った地球の面々は、その夜に起こった様々な事件に考えさせられていた。
古代の部屋には、雪が訪れていた。彼は、先程の少女に自分が恨みを買っていたことに複雑な感情を抱いていた。雪は、そんな彼が心配で付き添っていた。
「ガミラスの人も、彼らに従った人も、そして僕たちも、皆があの戦争で傷付いていた。傷付いていたのは、僕たちだけじゃなかった。僕は、ずっと自分たちのことばかり考えていた。僕は、家族が亡くなったことを受け入れ、憎しみの連鎖を断ち切ることが正しいと信じて、前だけを向いて行こうと誓った。だが、皆がそうできる訳じゃない。その苦しみから逃れられない人も沢山いる。あの少女のように、僕たちがガミラスと戦って殺した大勢の人々。彼らにも自分たちと同じように家族がいて、それぞれが自分たちの小さな幸せを望んでいた……」
顔を伏せて椅子に座っていた古代の足元に水滴がぽつりぽつりと落ちていた。古代は、自分の小銃を握りしめていたが、その手が震えていた。
「それなのに、僕たちは戦ってしまった!」
古代は、銃を床に叩きつけた。大きな音を立てて、床を銃が滑って行った。
「古代くん」
雪は、彼の背中をそっと抱き締めて、思い付くままに語りかけた。
「起こってしまったことは、もう戻らない。それでも私たちは、二度とこんな悲しいことが起こらないように努力して、皆が愛し合える、そんな世界を作っていこう。ね?」
一方、その頃ヒスは、ヒルデが捕らわれている牢を訪れていた。そして、ガミラス兵によって、牢の鍵が開けられた。
「ヒルデ。私と家に帰ろう」
ヒルデは、ぼんやりと牢のベッドに座っていた。そして、ヒスの姿を見た彼女は、ぽろぽろと涙を零して泣き始めた。
「ヒス様……ごめんなさい。ご迷惑をおかけし……」
ヒルデは、涙声で後が続かなかった。ヒスは、そんなヒルデを抱き締めて言った。
「二度と、お前のような悲しい思いをしないですむような世の中を、私は必ずや作る。私自身がそれをやることは、叶わないかも知れないが、そうなるように皆に想いを伝えていく。どうか、私の元へ戻っておくれ。お前は、私の大切な娘なのだから……」
ヒスは、ヒルデの肩を抱いて、牢を後にした。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。