ヤマトがガミラスに到着した後、ユリーシャは、一人イスカンダルに戻っていた。
スターシャは、ユリーシャを抱きしめて、彼女の無事を確かめた。
「あなたがガトランティスに捕まったか殺されたかも知れないと、ヒス総統から連絡を受けた時は、心臓が止まるかと思いました。本当に無事で良かった」
「心配をかけてごめんなさい、お姉様」
ユリーシャは、スターシャが考えていたよりもずっと元気で、笑顔で応えていた。
暫し、姉妹だけの会話を続けた後、ユリーシャは、スターシャに幾つかの重要な報告をした。
「地球から、再びヤマトが訪れて来ています。今は、ガミラス星に滞在しています」
スターシャは頷いた。
「ヒス総統から聞いています。何でも、軍事同盟を結ぶとか。互いに、必要な技術供与をし合うそうですね」
ユリーシャは、首を傾げた。
「お姉様は、てっきりお怒りになるかと思っていました」
スターシャは、少し遠くを見るような目をしている。
「ユリーシャ。私たちの救済とは何か。宇宙を旅する技術が無い星には、波動機関の技術供与をし、イスカンダルへ来る為の最低限の情報と物しか与えず、彼らを試しを与えます。その旅にイスカンダル人が付き添い、観察し、救済を与えるのに相応しい者たちかを見極めます。そして、その試練を乗り越えてここに辿り着いた者にだけ、救いを与えるのです」
「はい。その通りです」
「その試練を乗り越えてここに辿り着いた者は、僅かしかいません。私たちは、この救済以外では、他の星に一切干渉せず、傍観する立場を貫いて来ました。それは、何故?」
「過去のイスカンダル帝国時代の反省があるからです。過度な干渉を行うことで、再び私たちが、他の星ぼしに以前のように関わるのを防ぐ為です」
「そうです。その原則に従えば、その後、彼らがどうするかは、自ら考えること。私たちが、干渉をしてはいけません」
「お姉様は、ヤマトが来たときに、波動エネルギーを兵器に転用したことにお怒りでした。彼らは、それをガミラスに技術供与すると言っています」
「それは、救済に値するかどうかを考えたときに、このまま滅びてしまうべき文明か否かを考える必要があったからです。彼らは、私と約束しました。私たちのような愚行を繰り返さない、と。それを信じ、後は干渉をしない。それが、イスカンダルの救済の原則です。もしも、彼らや、ガミラス人が、再び私たちのような愚行を繰り返したとしても、私たちにはそれを止めることは出来ません。私たちは、基本的に干渉をしないと決めているのですから。でも、私は信じています。そのようなことにはならないと」
スターシャの瞳は、遠くイスカンダルの空を通して宇宙を見つめ、まるで生ける女神のようであった。
「わかりました、お姉様。地球人は、お姉様との約束をずっと気にかけていて、よくよく考えていると思います」
ユリーシャは、話を続けた。
「もう一つ。ガトランティスのズォーダー大帝に会って直接話を聞きました。ズォーダーは、イスカンダルに攻め込んで来ようとしています。サレザー系に近づく為に、ガミラス軍や、通り道となる星系を次々に襲っていて、ガミラス軍は抵抗しているようです。しかし、私が聞いた最新の情報では、恐らく、後三十日もあれば、ここまで来てしまうでしょう」
スターシャは、それを聞いても驚く様子もなく、悟ったような顔で冷静に応えた。
「そうですか。遂に、そのような時が来てしまったのですね」
「彼らは、故郷の復活を夢見て千年もの間、宇宙を旅して来たそうです。しかし、その過程で生きるために略奪を繰り返し、取り返しがつかないほどの罪を重ねてしまったそうです。故郷の復活の方法を探すため、いろいろな異星の技術を取り込んで来て、今回イスカンダルに興味を持ったそうです。私が、コスモリバースシステムの存在を喋った為に、必ずやここに来ようとするでしょう」
「ユリーシャ。あれは、そのような邪悪な考えの者には、そもそも機能することが出来ない。それは、あなたも知っているはずよ」
「はい。故郷を救わんとする強い意思と心を持った船と、システムを動かすコアとなる故郷を強く思う命が必要。彼らには、システムを動かす資格は無いと思います。ズォーダーは、システムを手に入れたら、異星の科学者に研究させると言っていました。必要な手続きがあることはあまり重視していません」
「ということは、ここに来てコスモリバースを入手しても、また略奪を繰り返す旅に出ると言うことですね」
「そうズォーダーは言っていました。もはや、最初の目的は、重要では無くなったのだと思います」
「なるほど。よくわかりました。辛い旅だったようですね。ユリーシャ」
スターシャは、優しく微笑している。
「ガトランティスの件、お姉様はどうするおつもりですか? 場合によっては、ここを出て避難した方がいいのではありませんか?」
「私は、ここを去ることは出来ません。例え、ここで私が死ぬような目にあったとしても。これで、やっと、イスカンダルの反省と救済は終わりを迎えるのです」
「お姉様……」
「私で、イスカンダルの救済は終わりにします。でも、あなたには、このサーシャを連れて、地球に行ってもらいたいと思っています」
スターシャは、膝にすやすやと眠るサーシャを抱えていた。そして、サーシャの頭を撫でると、普通の口調に変えて言った。
「あなたとサーシャは、普通の女性として生きて。私からの最後の我が儘。お願い、ユリーシャ」
ユリーシャは、姉の頑固さはよくわかっており、本当に危険が迫った時、どうするか、考えねばならないと思っていた。
「お姉様、最後にもう一つ。私は、デスラー総統にも会ったの」
それを聞いたスターシャの表情が固くなった。
「それもヒス総統から聞いているわ。彼は生きていたのね」
「私自身は、あまり会話が出来ていないけど、デスラー総統は、もうガミラスには戻れない、と言っていた。ガミラス臣民の信頼を失ったことを、彼はちゃんと分かっていて、マゼラン銀河から去るつもりみたい。そして今は、反乱軍の者たちをとりまとめて、一緒に旅立とうと準備をしているところ」
スターシャは、ふと微笑んでいる。
「お姉様?」
「あなたも知っているように、私とアベルトは、小さい時から時々会う機会があって、ずっと親しくしていた。大人になってから、彼は私に結婚を申し込んできたの。でも、その時、既に彼はガミラスの政権を、私はお母様が救済で行方不明になって女王の役割につかなければならなかった。イスカンダルとガミラスでは思想が違い過ぎて、大人になった私たちの互いの立場を考えれば、一緒にいることなんて不可能だった。だからお断りをしたの。そうしたら彼は、そもそも政権を取ったのは、マゼラン銀河に平等と平和をもたらすことを実現する為だと言っていた。それが実現すれば、私たちの思想の違いが埋められると。そうして、イスカンダルとガミラスを一つの国にしようと言っていた。実現が困難な壮大な理想だった。彼は必死にそれを実現しようとしていたけれど、上手くいかず、平等と平和をもたらすどころか、不平等と争いの混乱が蔓延り、いつしか彼の心は病んでいった。私は、そんな彼を見るのが辛かった。彼を心配して、もう止めて欲しいと何度も訴えたけど、彼は変わってしまい、もう私の言葉は届かなくなってしまった。最後は、無理矢理イスカンダルを併合しようとしていたようだけど、それも失敗してしまった。その後、彼が亡くなったとの知らせを受けた時、やっとその重圧から解放されたのだなと、寂しいけれどそう思うようにしたの。
その彼が生きていて、しかもガミラスのことも、イスカンダルのことも、すべてを諦めて、新たな目的を持って旅立とうとしてる。今度こそ、本当の意味で重圧から解放されたんだと思う。これでやっと、昔の彼に戻れる。私は、それがとても嬉しい」
ユリーシャは、呆気にとられている。
「ごめんなさい、何だか一人で喋ってしまいましたね」
ユリーシャは、目を閉じて頭を小さく振った。
「立場がなかったら、彼と結婚をしていた?」
「どうかしらね。もうずっと昔の事だから……」
「……なら今だったら?」
「……」
スターシャは黙ったまま、それに答えることはなかった。
ユリーシャは、姉の女性らしい一面が垣間見られたことが、少しだけ嬉しかった。しかし、今でも重圧から解放されていないのは、その姉の方だった。一方のデスラーは、重圧から解放されたのに、スターシャの女王としての立場が、彼女の自由を奪っていた。
ユリーシャは、この頑固な姉を解放できないかと、思案していた。そして、一人で抱えずに、誰かと一緒に考えてみようと思っていた。それが、彼女と姉の違う生き方なのだから。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。