ミルベリア星系――。
サレザー恒星系から最も近い、十光年程の位置に、その星系はあった。六つの惑星からなる小さな恒星系である。
ここは、文明を持つヒューマノイドが存在しており、民主化の方針決定後、最初にガミラスは、平和条約を結んでいた。
その日、ヤマトと空母ミランガルを中心とした護衛艦隊は、その第二惑星ミルベリア2を訪れていた。ガミラス政府によって、平和条約を結んだ国家の様子を、地球連邦政府に視察させる目的でここを訪れたのである。
ガミラス護衛艦隊は、惑星軌道上に留まり、周囲の警戒に当たっていた。ヤマトは、ネレディアの艦隊から派遣された駆逐艦一隻と共に、惑星首都付近の海に着水し、錨を降ろしていた。
首都は、高層の建築物が多くそびえ立つ巨大な街だった。その周辺には、豊かな自然があり、首都のすぐ近くに、ヤマトが着水した海があった。ヤマトとガミラス駆逐艦は、港近くの海上に停泊していた。
地球連邦政府一行は、ミルベリア政府がある首都を訪れていた。ヤマトからは、星名を中心とした保安部員五名がそれに同行していた。
ミルベリア政府は、地球連邦政府一行を歓迎しており、簡易な式典が行われた。その後、一行は、ミルベリア政府の建物の会議場で、条約締結後の様子について説明を受けていた。
そして、地球連邦政府のアーウィン政治担当外務次官が中心となって質疑応答が行われた。それによれば、かつてのデスラー体制では、ガミラスによる植民地のような扱いだったこの星系は、平和条約締結後、自治州のような位置付けとなっていた。ガミラスの選挙で新政権誕生後、改めて彼らの悲願でもある独立を求める予定となっていることが確認された。
会合は一時休憩となり、地球連邦政府のライアン、アーウィン、キャッスルの三人は、会議場を後にして別室に歩きながら、ここまで確認した結果について話し合っていた。その周りを、星名らの保安部員が囲み、一緒に歩いていた。
会合の中心となっていたアーウィンが、感想を述べた。
「恐らく、現在のガミラス暫定軍事独裁政権下では、これが限界だったのでしょう。しかし、今度の選挙が行われれば、名実共に、本当の意味での民主主義国家が誕生する訳ですから、本来はそこからでしょうね。これをどう判断するか、ですが」
キャッスルも心配事を言った。
「ガトランティス侵攻の影響で、問題が片付くまで選挙は少し延期するようだし、難しいところですね」
ライアンは、その問いに動ぜずに答えた。
「基本的には、余程のことが無い限り、条約締結が既定路線だ。それでも、晩餐会での一件や、ガトランティスとの関係など、判断に影響する事柄がいろいろあるのは確かだ。これを、大統領の判断無しに決めなければならないということが、悩ましいところだよ。亜空間通信リレーを地球まで繋げるのも急務だと思う。まぁ、無いものねだりを言っても仕方がない。我々三人で何とかやりきろう」
その頃、ヤマトは、今回の訪問が日帰り程度の旅程ということもあり、要員の一部をガミラスで上陸休暇を取らせて、人員を減らした状態で運用していた。
「自然も多くて、なかなか良い場所だよな」
島が、のんびりした様子で言っていた。
「そうだな。地球を思い出すな」
古代は、戦術長の席について、同じくのんびりとしていた。
そこへ、土方と芹沢が現れた。
「お前ら、たるんでるんじゃ無いのか?」
芹沢の一言で、古代は慌てて立ち上がった。
「申し訳ありません」
土方が聞く。
「北野はどうした?」
「北野は上陸休暇中です。南部は間もなく、上がってきます」
周りを見ると、太田も休暇中らしく、いつもの席は空席だった。砲術長席も誰も座っていない。他にいるのは、雪と山崎、新米と相原だけであった。交代要員を中心に、上陸休暇を取らせているようだったが、少々減らしすぎの感があった。
「真田は、休暇中か?」
「いいえ。新見一尉と一緒にガミラス軍の兵器開発局を視察中です」
土方は、口を開きかけて、何か小言を言おうとしたが、口を出さないと決めていたのを思い出して、その口を閉じた。
「わかった。上にいるので、何かあれば呼べ」
そう言って、土方は芹沢と共に、艦長室に上がっていった。
ミルベリア星軌道上のガミラス艦隊も、それまで敵影も無く、落ち着いた空気が流れていた。
「司令。偵察機からの報告です。ガトランティス艦隊がこの星系の付近を通過中とのことです」
ネレディアは、落ち着いていた。
「また偵察部隊か。もうこんなところまで来るようになったか……。数は?」
「約百隻程度いるようです」
ネレディアは、少し驚いていた。
「偵察隊にしては、数が多いな。何処へ向かおうとしている?」
「サレザー系に向かっていると予想されます」
「近傍の基地に連絡。私たちは今は動けん」
ネレディアは、戦闘に向かいたかったのか、悔しそうな顔をしていた。
休憩を入れていたミルベリア政府と地球連邦政府の会合が、再び始まっていた。
そこへ、会議場へ報告があった。
「星系外縁をパトロール中の、我がミルベリア軍の主力艦隊から連絡がありました。ガトランティス艦隊が、星系周辺を通過中とのことです。ガミラス軍からも連絡があり、共同でこれを挟み撃ちにして叩く作戦の協力依頼が来ています」
議場にいた者に衝撃が走った。
「こんなところにまで、ガトランティスが現れるようになったのか!」
ミルベリア政府の首脳は、作戦の協力について検討するため、その場を急ぎ退席していった。
残された地球連邦政府の三人は、急な事態に驚きつつも、急ぎ指示を出した。
「星名准尉。至急ヤマトに連絡を。この星系から脱出する準備をし、そのまま待機するよう指示を伝えてくれ。我々は、ミルベリア政府の方針を確認した後、このまま留まるか、脱出するかを判断する」
星名は、敬礼しながら返答した。
「承知しました!」
ミルベリア星系外縁――。
ミルベリアのパトロール艦隊に、政府からの指示が届いていた。
「ガミラス軍への協力を受諾せよ、との命令だ」
艦隊の司令官は、艦の作戦司令室に幹部を集めていた。
「我が艦隊の戦力は、ガミラス駆逐艦クラスが十隻。これでは、百隻ものガトランティス艦隊に対抗するのは、厳しいのでは?」
「その通りだ。ガミラス軍の連中は、我々を囮にして戦闘を有利に運ぶ作戦だと思う」
「通り過ぎようとしているんだ。放っておけば、我々が巻き込まれることは無い」
「政府は、ガミラス軍が訪問している最中なので、無理矢理言うことを聞こうとしている」
「司令。これでは、我々は犬死にではありませんか?」
司令と呼ばれたミルベリア人の初老の男は、幹部士官に囲まれて、眉間に皺を寄せて考えていた。
「あれを使ってはどうでしょう」
その時、そこにいた科学士官が提案した。司令と呼ばれた男は、そちらの方をじろりと見て言った。
「あれとは何だ。言ってみろ」
その頃、ネレディアからの連絡を受けたガミラス軍の宇宙基地に、近くにいたガミラス艦隊が百隻程集結し、ミルベリア星系にワープして向かっていた。
「ジャンプ終了。長距離レーダーに、ガトランティス艦隊を捉えました」
「ミルベリア艦隊はどうなっている」
「ガトランティス艦隊の後方から戦闘を支援すると作戦受諾の連絡がありました」
ガミラス艦隊の司令官は、頷いた。
「作戦を開始する。全艦、戦闘配置」
「デスタール司令。ガミラス艦隊が現れました」
デスタールと呼ばれたガトランティス艦隊司令は、艦隊旗艦の空母に座乗していた。その報告を聞いて指示を出した。
「予定通り、陽動作戦を開始する。全艦戦闘配置! 新型のカラクルム級艦隊は、射程圏に入り次第、攻撃を開始しろ!」
ガトランティス艦隊は、艦と艦の間を広げて大きく散開した。その中には、新型のカラクルム級の戦艦が混じっている。+艦隊が、射程圏内に入る前に、カラクルム級の戦艦から、砲撃が開始された。その主砲と艦橋部から発射される衝撃砲の光が、ガミラス艦隊へと向かう。ガミラス艦隊の駆逐艦にそれが命中すると、一撃で艦が大破していた。そのまま、ガミラス艦隊の前衛にいた艦が、次々に撃破されていく。
ガミラス艦隊の司令官が座乗する空母では、早くも攻撃が始まり、混乱が生じていた。
「ガトランティス艦隊に、艦種識別不明の新型の大型戦艦が十隻程含まれています! 射程が我々よりも長いようです! 我が方の前衛の駆逐艦が複数大破、または撃沈されています!」
そう報告されている間にも、続々と艦隊の前衛の艦が沈んでいく。
「ミルベリア艦隊はどうした!?」
「レーダーには、ガトランティス艦隊しか映っていません」
ガミラス艦隊の司令官は、怒りを露にした。
「どういうつもりだ!? 抗議は後にして、ミルベリア星にいるリッケ大佐の艦隊にこちらの支援に来るように至急連絡しろ! 我々は、全艦小ジャンプで間を詰めるぞ! 艦隊を左右に展開してジャンプ!」
「デスタール司令。カラクルム級の最初の攻撃で敵艦十五隻を撃沈。敵艦隊は、小ワープで接近してきました」
「そのまま全艦攻撃継続!」
双方の艦隊は、激しい艦隊戦で撃ち合った。しかし、ガトランティスの新型戦艦の威力で、ガミラス艦隊は、次々に撃沈されていった。
双方の艦隊が、激戦を繰り広げる中、デスタールは、満足げな表情で、戦況を眺めた。
「デスタール司令。戦況は我が方が有利です」
「ガミラス軍の科学者に作らせたあの戦艦の威力は、相当なものだな」
デスタールは、にやりと笑っていた。
「司令! 艦隊後方から何か接近してきます」
「何かとは何だ?」
「レーダーによる観測が正常に行えません。後ろから、何か接近しているのは確かです」
ガトランティス艦隊の後方から、黒い影が迫ってきていた。その黒い影にガトランティス艦が飲み込まれると、艦体が大破、爆発した。すると、その黒い影には、稲妻のような光が発せられ、影が更に大きくなった。その影に、次々にガトランティス艦が飲み込まれると、その影は益々大きくなっていた。
デスタールが座乗する空母の艦橋では、その黒い影の映像をスクリーンに映していた。
「これは、いったい……何だ?」
ガミラス艦隊でも、それを確認していた。
「あれは……!?」
科学士官が回答した。
「あれは、この星系に生息している原始的なガス状生命体です。大きなエネルギーに向かって接近し、それを吸収して成長する性質があります。以前、我が軍で兵器に転用したことがあります」
ガミラス艦隊の司令官は、それの恐ろしさを知っていて、血相を変えて指示した。
「全艦、回避行動! 急いでこの宙域を離脱しろ!」
ミルベリア艦隊は、ガトランティス艦隊がガス生命体に次々に飲み込まれていく様子を偵察機を飛ばして遠方から確認していた。
「司令。成功です。ガトランティス艦隊に誘導したガス生命体によって、戦場は大混乱に陥っています」
「本星の政府に連絡を入れろ。ガミラス軍と協力して作戦を決行し、勝利は確実と」
ネレディアの護衛艦隊は、支援要請を受けてミルベリア星系外縁の戦闘宙域に接近していたが、ガス生命体出現の報告を受け取り、艦隊を停止させて待機していた。
「どうなっている?」
「偵察機によれば、戦闘予定宙域では、既に戦闘は行われていないようです。双方の艦隊が、散り散りになっています」
ネレディアは、ため息をついた。
「暫く、ここで待機する」
ミルベリア星では、地球連邦政府一行が待つ議場に、ミルベリア政府の代表が戻っていた。
「大変お騒がせした。問題は解決する見込みです」
ライアンたちは、それを聞いてほっとしていた。
ヤマトは、警戒体制を敷き、発進準備を整えて待機していた。
「リッケ大佐から連絡は?」
古代が確認すると、相原が答えた。
「先程、戦闘の支援に向かうと連絡があってから、その後の連絡はありません。たった今、星名准尉から通信がありました。ミルベリア政府による報告で、問題は解決する見込みとのことです」
ガトランティス艦隊は隊列を乱してばらばらに退避行動とり、全速でガス生命体から離れようとしていた。
「デスタール司令! 艦隊の九割があれに飲み込まれました! このままでは全滅します!」
「今すぐワープして脱出しろ!」
「何処にワープしますか?」
「何処でもいい! 今すぐワープだ!」
ミルベリア星の近傍に、ガトランティス艦隊のデスタールの空母一隻が、突如ワープアウトして出現した。
「報告しろ! 何処に出た!?」
「ミルベリア星系第二惑星の軌道上のようです。星系内の方向へワープしたため、障害物が多く、ワープがここで中断したようです。この惑星には文明が存在しているようです。ひときわ建築物が集まっている地域があります。恐らく、この惑星の首都と推測されます。その付近の海上にガミラス駆逐艦一隻と、テロンの船を発見しました」
デスタールは思案した。このまま逃げ帰った場合の自分の処遇について、楽観的な未来が見えない。
「よし、好都合だ。我々に対抗出来る戦力も乏しい。この惑星の首都を攻撃する。ガミラス艦とテロン船も沈めろ! その後、敵艦隊が集まって来る前に、混乱に乗じてワープで脱出する。艦載機の発艦準備!」
デスタールの決断は、艦隊戦で不測の事態が発生して敗北を喫したが、代わりにガミラスに属する惑星に一定の損害を与えた、という報告をし、保身を想定したものだった。
その頃ヤマトでは、軌道上にガトランティス艦が出現したのを感知していた。
「レーダーが、ガトランティスの空母一隻を感知! 艦載機が多数飛来して来ます!」
そんな中、ミルベリア軍の首都防衛用の高射砲台が、市街のあちらこちらの建物の屋上で稼働し、砲撃を開始した。砲撃による光跡が雨のように光って空に昇っていった。
その空からは、ガトランティス空母から発艦した艦載機デスバテーターが数百機飛来しており、高射砲によって僅かに撃墜されていたが、大多数の艦載機は、機体の下部のミサイル格納庫を開き、次々にミサイルを発射していた。そのミサイルは、市街地に着弾し、建物が倒壊するなどの被害が出ていた。突然の襲撃だった為、ミルベリア市民にも、多数の死傷者が出ていた。そして、市街のあちこちで、ミサイルの着弾による爆発と煙が上がっていた。
市街地への攻撃が激しくなっており、ミルベリアの会議場からもその様子が見えていた。
「皆さん、ここは危険だ。一緒に避難所に移動します! 我が軍のパトロール艦隊に連絡! 至急、本土防衛の為こちらに戻せ!」
ライアンたちは、真っ青になって、外の様子をうかがっていた。その時、星名が会議場に飛び込んで来て言った。
「こちらです! 皆さん急いで!」
ヤマトにも、星名からの連絡が伝達されていた。
「星名准尉より、地球連邦政府一行は、ミルベリア政府の地下壕に移動すると報告がありました! ライアン外務長官より、戦闘行為を可能な限り避け、艦の防衛に徹せよとの命令です!」
相原の報告を受け、雪は、古代を振り返った。南部も、島も振り返って古代を見た。艦橋にいた全員が古代を見ている。
古代は、自艦への直接的な被害が出ていない状況で、ガトランティスと戦うべきか、迷っていた。しかし、市街地の被害は拡大し続けており、すぐにでも決断を下さねばならなかった。地球連邦政府の基本方針は、防衛に徹し、やむを得ない場合でも、敵艦の撃沈をせず、人的被害を最小限にするというものだ。敵艦載機を撃墜すれば、間違いなく多数の敵兵を殺すことになる。先日のヒルデの一件も古代の頭によぎり、果たして、どういう決断が正しいのか、考えが堂々巡りしてしまう。
しかし、市街地で逃げ惑う市民がスクリーンに映っている。古代は、それを見て心を決めた。艦長席から立ち上がって、第一艦橋の全員に語りかけた。
「ライアン外務長官から、艦の防衛に徹せよとの命令だが、一人の人間として、このような虐殺行為を見過ごす訳にはいかない。ガトランティスを撃退したいと思うが、反対の者は?」
そこへ、艦長室から芹沢と土方が降りてきた。
「……そんなことが、艦長の独断で簡単に許されると思っているのかね?」
芹沢は、不機嫌な声を出している。そして、第一艦橋全員の目が芹沢に向いた。
「しかし芹沢宙将、あれを見てください。市民が虐殺されているんですよ!」
古代は、必死に食い下がった。
「古代艦長代理、そして諸君。聞いてくれ」
芹沢が、落ち着いた表情で言った。
「君の言うとおり、スクリーンに映る罪の無い市民たちを救ってやりたい気持ち、私だってよく分かる。しかし、ここで行った一時の善意が、いつしか自らの故郷を破滅させる事態に発展するかも知れないのだ。私は、身をもってそれを知り、もう二度と同じ失敗は繰り返したくない」
その芹沢の言うことを、複雑な思いで島は見つめていた。当時の芹沢を始めとした国連の判断により、島の父親は命令に従ってガミラスに攻撃した。それがきっかけとなって、あの戦争が始まったのだ。島の父親は、その最初の戦闘で亡くなっていた。
「私は、今回の旅が終わったら、地球連邦防衛軍の軍備の増強を全力で進めるつもりだ。如何なる他の星間国家、如何なる異星の侵略者、誰も攻撃を仕掛けたいと思わない程の軍隊を私は必ず作る。しかし、これは戦争を準備するためではない。誰にも侵略されない、強い国を作る為だ」
芹沢は、そこで声を詰まらせた。
「私はもう、誰にもあのような辛い思いをさせたくない」
古代も、島も、第一艦橋の全員が、その芹沢の言葉に聞き入っていた。
「我々は、もう、二度と戦争をしてはならんのだ……」
その時、ヤマトに同行し、すぐ隣に停泊していた一隻のガミラス駆逐艦が浮上した。その艦の艦長から、ヤマトに通信が入った。
「艦長代理! ガミラス駆逐艦が、ミルベリア首都防衛の為、戦闘を開始する、と連絡してきました。ヤマトは、速やかに戦闘地域を離脱せよとのことです!」
古代は、ヤマトのスクリーンに映るガミラス駆逐艦が飛び立つ姿を見て、顔面が蒼白になっていた。
「無茶だ! あの数の艦載機を、たった一隻で相手をするなんて!」
ガミラス駆逐艦の艦長は、艦内通信のマイクを掴んだ。
「各員に次ぐ! 我が艦は、これよりミルベリア首都防衛の為、ガトランティス軍と交戦する。可能な限り、首都防衛を行い、リッケ大佐たちが戻るまで持ちこたえる! 対空戦闘用意!」
ガミラス駆逐艦は、その機動力を活かすため、大気圏内で出せる限界まで速度をあげた。そして、艦体上部から、対空ミサイルを雨のように発射した。更に、次弾を装填すると、続々と連射し始めた。誘導式のミサイルは、複数の敵艦載機に向けて弧を描いた。艦載機も、速度を上げてミサイルから逃れようと弧を描く。しかし、発射したミサイルの多くが着弾し、敵艦載機は、爆発して炎上しながら、次々に墜落した。
そのガミラス駆逐艦に、敵艦載機が次々に飛来し、攻撃を加え始めた。ガミラス駆逐艦は、艦体のあちこちに被弾していたが、それでも戦いをやめなかった。
ヤマトの第一艦橋では、ガミラス駆逐艦の戦いを固唾を飲んで見守っていた。
そんな中、土方は、泣いているところを見られまいと堪えている芹沢の肩に手を置いた。
「芹沢宙将。貴方の気持ちは全員に伝わったと思う。しかし、我々は、艦の防衛を指示されている。我々自身と艦の安全が第一であり、その任に於いて最優先の事項だ。それ故、防衛の為の最低限の反撃は許されると考えるが、よろしいか?」
芹沢は頷いた。
「無論だ。それすらしないのは、本末転倒だ」
「人道的な非武装の市民の支援については?」
「当然、政府の方針としても許されるはずだ」
「芹沢宙将。ありがとう」
土方が、古代の方を向いて頷いていた。
芹沢も、気を取り直してその場の全員に大きな声で言葉を発した。
「いいか、お前ら。我が軍の規律、そして政府の方針に従うということを第一に考えろ! 決して感情的な理由で戦闘を始めてはならん。絶対に忘れるな! だが、時として、そのような判断は誤っていることもある。一度立ち止まってよく考え、本当に正しいことをしろ! 私からは、以上だ!」
古代は、その言葉を聞いて、素早く敬礼をした。
「はっ! 我々全員が肝に命じます!」
その場の全員が、一斉に芹沢に敬礼した。
古代は、手を下ろすと、改めて艦内通信のマイクを掴んで指示を発した。
「全艦、戦闘配置につけ! これより、我々は、艦の防衛、及びミルベリア市民の安全を守るため、ミルベリア首都を攻撃する敵機を追い払う!」
古代はマイクを切ると、第一艦橋のそれぞれの部門の責任者に指示をした。
「南部、対空戦闘用意!」
「了解、対空戦闘用意!」
「島、ヤマトを首都上空に向け緊急発進! 我々は、低空でその場に留まる!」
「了解」
島は、山崎に確認すると、山崎が頷いた。
「ヤマト、緊急発進します」
ヤマトは、艦底部のロケットを噴射して垂直上昇し、波動エンジンを咆哮させ、緊急発進した。
「新米、ミルベリア首都上空に達したら波動防壁を展開。ヤマトの兵装が使用出来るよう、南部との連携を頼む」
「りょ、了解しました!」
古代は、頷いた。
「皆、行くぞ!」
ヤマトは、速度を上げて、一気に首都上空に到達した。
「波動防壁展開!」
新米の指示で、波動防壁が展開された。
ガトランティスの艦載機は、ヤマトに向けて、飛来し、次々にミサイルを放った。しかし、波動防壁に阻まれて、ヤマトには傷一つ付かなかった。
古代は、芹沢と土方の方を向いて言った。
「土方司令。我々は、敵機から明確な攻撃意思を確認しました。艦の防衛と合わせてミルベリア市民の安全を守るため、これより防衛行動に移ります」
土方は、ちらと芹沢を見たが、もう言葉は尽くしたのか、何も答えなかった。そして、土方は、古代に言った。
「許可する」
古代は、土方に頷いて、前方を向いた。
「南部! 対空戦闘開始!」
「了解。煙突ミサイル連続斉射、続いて、パルスレーザー砲自動追尾設定。設定完了次第、攻撃を開始!」
ヤマトの艦橋後方の煙突形のミサイル発射口が開き、ミサイルが連続発射された。ガミラス駆逐艦を追尾していた艦載機の下方からヤマトのミサイルが迫り、命中した。そして、発射されたミサイルが、続々と飛来する艦載機を撃ち落として行った。ヤマトに接近していた複数の艦載機は、パルスレーザー砲の斉射を受けて撃墜され、くるくると回って粉々になった。
「ガミラス駆逐艦から入電! 貴艦の援護に感謝する、とのことです!」
古代は、相原に向かって頷いた。
「島、南部! ガミラス駆逐艦と連携し、上空の残りの艦載機もすべて撃墜しろ!」
軌道上のガトランティス空母では、惑星上の戦闘が急速におさまっていく様子が確認されていた。
「デスタール司令。発艦させた艦載機が全滅してしまったようです」
デスタールは、たった二隻の艦に、総数二百もの艦載機が撃墜されたことに驚いていた。
「近傍にワープアウトする艦隊があります! ガミラス艦隊と、この星系の軍のようです!」
「ここまでだ! 緊急ワープを実行してこの場を脱出する!」
ネレディアは、空母ミランガルの艦橋で怒り心頭の表情で立っていた。
「ガトランティス空母、ジャンプして消えました。レーダーに、他の艦は感知していません」
ネレディアは、唇を噛んでいた。
「ガトランティスめ……ふざけた真似を……」
悔しがるネレディアだったが、既に敵はいなくなっていた。
暫くして、地球連邦政府の三人と星名ら保安部員がヤマトに戻り、ヤマトとガミラス艦隊は、警戒しながらミルベリア星を後にした。ヤマトと一緒に戦ったガミラス艦は、機関に損傷を受けており、他の艦に牽引されている。
ヤマトと空母ミランガルの通信回線が開き、双方のスクリーンに、古代とネレディアの姿が映っていた。
「古代艦長。ミルベリア首都防衛のご協力に感謝する」
古代は、敬礼で応えた。
「我々は、艦の防衛を行ったまでです。そちらの大破した駆逐艦の勇敢な戦いぶり、こちらからも敬意を表したい」
ネレディアは、うっすらと笑って頷いた。
「それにしても、ガトランティスは、こんな近くに多数の艦隊を侵攻させるまで近付いたようだ。事態は刻々と動いている。貴艦もサレザー系にいつまで留まるべきか、そろそろ検討をした方が良いだろう」
「確かにそうですね……。ガミラス星に戻ったら、協議することになるでしょう」
この戦闘の影で、サレザー系に近い、幾つかの宙域でも、同様の百隻規模のガトランティスの艦隊の侵攻があった。ガミラス軍は、近くにいた艦隊を集結させ、いずれも、撃退には成功していたが、敵の新型戦艦によって、多数の被害が出ていた。
また、サレザー系周辺を警戒していたガミラス軍は、この攻撃によって、それらの宙域に釘付けにされることになった。
いよいよ、ガトランティスの本格的なサレザー系侵攻が始まったのだ。
サレザー系からまだ遠い宙域――。
白色彗星は、只ひたすら、サレザー系を目指していた。周囲には、護衛する艦隊も無く、孤独な行進であった。白色彗星を指揮しているのは、艦隊司令官のバルゼー提督だった。その操縦室とも言える制御室で、バルゼーは操縦の様子を窺っていた。
バルゼー提督は、大帝ズォーダーから、新兵器である白色彗星を任され、それを誇りに思っていた。彼の第七機動艦隊は、艦隊ごと白色彗星に乗っており、艦隊の乗員が、彗星の運航を行っていた。
「バルゼー提督。間もなく、ガミラス支配下の星系に通りかかります。星系を攻撃しますか?」
バルゼーは無表情に頷いた。
「攻撃しろ」
白色彗星は、進路を変え、星系内に侵入し、文明が存在する第三惑星に向かって突き進んだ。
途中、その星系の艦隊が待ち構えているのが見えた。
「構わん。そのまま進め」
バルゼーの命令で、まるでそこに艦隊がいるのが見えていないように、白色彗星は真っ直ぐに進んだ。
「敵艦隊が、我が白色彗星に攻撃を仕掛けてきています。しかし、特に影響はありません」
制御室のスクリーンに外の様子が映っている。激しい攻撃を行っているようだが、こちらにはなんの影響も無かった。バルゼーはぼんやりとその様子を眺めた。
白色彗星は、彼らに接近すると、彗星の重力に引かれて艦隊が集まり、航行不能になった。そして、そのまま彗星の高熱で溶けて消滅していった。
この白色彗星に乗ってから、このような様子を何度も見てきて、バルゼーの感覚も麻痺していた。
虚しい。なんの意味も無いのに。何故彼らは無駄に命を落とすのだろう?
バルゼーは、その行動を理解出来ず、不思議に思っていた。
そして、第三惑星が近づくと、更に多くの艦隊が待っていた。ガミラス軍とこの星系の軍との混成艦隊のようだった。
ガミラス軍が、巨大なミサイルを何発も発射しているのがスクリーンで確認できる。そして、スクリーンに何も見えなくなるほどの爆発が起こった。しかし、バルゼーは、冷静にスクリーンを見つめていた。白色彗星は少し揺れたが、特に影響は無かった。
白色彗星はそのまま進み、目の前の艦隊が混乱して逃げ惑う様子が見えた。ほとんどの艦が、結局航行不能になって、周囲に浮遊していた。
「惑星はどうしますか?」
「必要無い。進軍」
白色彗星は、第三惑星のすぐ近くまで接近し、そこで停止した。第三惑星の大気は乱れ、嵐が巻き起こった。そして、海が激しく荒れ、惑星の都市を飲み込んでいった。白色彗星に最も近い場所では、高熱に焼かれ、あらゆるものに炎が上がった。そして、自然環境が一瞬で崩れてしまい、その文明はあっという間に崩壊した。
バルゼーは、その様子を見ても何も感じなかった。ここに来るまでに、何度も何度も同じ光景を見てきたのだ。
「提督。もうここには何もありません。先へ進みますか?」
バルゼーは、ぼうっとしており、話が途中から聞こえていた。
「サレザー系に向け、進撃を続行」
白色彗星は、その星系を抜け出すと、静かに速度を上げて、一路サレザー系を目指してワープした。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。