「兄さん……」
ガデル・タランは、兵器開発局で真田と新見薫と議論していた兄ヴェルテの元を訪ねた。
「どうした?」
ガデルは手招きをして兄を呼び寄せた。真田と新見は、怪訝な顔で、こちらを見ている。
「兄さん。不味いことになった。兄さんを国家反逆罪で逮捕する、という動きがある」
「反逆罪……? 私がいったい何を?」
ヴェルテは、心外だと言わんばかりの顔だ。
「サレザー系周辺で、ガトランティスと小競り合いが始まっているのは知っているな? そこに、新型戦艦が現れて、我が軍は甚大な被害を受けている。あれは、兄さんが協力して作ったんだろう?」
「カラクルム級戦艦のことかね? 確かに、私がガトランティスに協力して開発したものだが……」
「大彗星の件しても、そうだろう?」
「あれは、私じゃないぞ。まぁ確かに、基礎技術は私が協力したものかもしれないが……」
「どこまで協力したかはともかく、兄さんをスパイ呼ばわりする連中がいるんだよ」
「スパイって……。それは酷いな。デスラー総統や、一緒にいた我が軍の仲間を守るために、仕方なくやったことだ」
「そのデスラー総統や軍の仲間というのは、皆、反乱軍なんだ。つまり、兄さんは、スパイでかつ、反乱軍の仲間だ、と言われ始めている」
ヴェルテは、あまりの酷い扱いに閉口していた。
「……それで? 私にどうしろと?」
ガデルは、言いにくそうな顔をしている。
「兄さん。立場上、俺は兄さんを擁護し続けるのが難しい。逮捕という形をとるので、許して欲しい。しかし、必ず兄さんを救い出すので、暫く待っていて欲しい」
ヴェルテは、目を見開いた。
「ま、まさか、今ここで逮捕する気かい?」
ガデルは首を振った。
「今すぐじゃない。数日以内に逮捕の手続きが取られるだろう。本当に申し訳ない……」
その日の夜――。
雨が、激しく降る夜だった。その闇と雨に紛れてヴェルテ・タランは、ある屋敷を訪れていた。
タランを出迎えたその屋敷の主は、静かにタランを室内に招き入れた。
「お久しぶりです、ヴェルテ。生きてらしたって聞いて、とても驚いていました」
部屋で待っていたのは、エリーサ・ドメルだった。タランは、被っていた帽子を脱いだ。
「こちらこそ。急に、こんな夜分に申し訳ない」
「夫の友人だった貴方なら、いつでも歓迎させて貰います」
エリーサは、にっこりと笑って応えた。
「エリーサ。実は、私は国家反逆罪に問われようとしている」
エリーサは、口元に手を当てて驚いていた。
「まぁ、いったい何が?」
タランは、経緯を包み隠さず伝えた。デスラーと共にガトランティスに囚われ、兵器開発を手伝ったことが原因だと。
「……そこでお願いしたいのは、ガミラス軍や政府と無関係なルートでガミラスを脱出するのを手伝って貰えないだろうか?」
「非合法なルートでなければ、手伝えると思うけれど……。いったいその後、どうするおつもり?」
暫し、タランは言い淀んだ。
「実は、デスラー総統のところに、一旦身を隠そうと考えている」
エリーサは、衝撃を受けていた。
「デスラー前総統は、政府に反対する反乱軍を指揮しているそうですね。そんなところへあなたが、どうして行く必要があるんですか?」
「反乱軍を指揮しているというのは、誤った情報で、デスラー総統は、それをやめさせようとされているのだが……」
タランは、不快感を露にしたエリーサの顔を見た。エリーサは、デスラー政権の時に、反政府活動をしている市民や軍人の支援をしていて、逮捕されたこともある。彼女は、デスラー政権に反対の立場だったのだ。
「私の夫も、最後は彼に利用されて亡くなりました。あなたが、デスラーの手先として利用されるのを、黙って見過ごすわけには行きません。私は、貴方の友人として言っているんです」
エリーサは、弟のガデルの言うことを聞いて、一旦流れに任せるべきだと言って、聞かなかった。タランは、がっくりと肩を落として、彼女の屋敷を後にした。
暫く歩いて街に戻ると、タランに酔った男がぶつかってきた。
「おっ、やんのか、こら」
ぶつかって来た男はそう言いながら、タランに掴み掛かって来た。そして、捕まれたまま、傍に停車していた車に、無理矢理押し込まれた。
「おい、お前、何をするんだ!?」
タランは、起き上がって身構えると、そこに座っていた人物に驚いていた。その人物は、次元潜航艦の艦長フラーケンだった。そして、タランに掴みかかった男は、よく見れば副長のハイニだった。
タランが目を丸くしていると、車が走り出した。車を運転していたのはヤーブだった。
「……どういうことだ?」
タランは、フラーケンに尋ねた。そのフラーケンは、目を閉じて腕を組んだまま、黙っていた。
その沈黙を、ハイニが破った。
「美人の奥さんに頼まれちゃよ、そりゃなんでも言うことを聞くって、隊長が!?」
フラーケンは、ハイニの足を思い切り蹴っていた。「いってぇ!」
ハイニは、足を抑えてうずくまって堪えている。フラーケンはため息をついて言った。
「ドメル夫人に頼まれた。大切な友人だから、手伝って欲しいと」
タランは、それを聞いて言葉が詰まった。
「そ、それは……」
エリーサは、もしかしたら、盗聴されていることを警戒していたのかも知れない。あのようなことを言いながら、自分を助けようとしてくれたエリーサの気持ちに、タランは心の中で深く感謝した。
「……それにしても、君らは、今はディッツ提督直属で動いていると聞いているが、こんなことをして、大丈夫なのか?」
フラーケンは、不敵に笑っている。
「俺たちは、信念に基づいて気に入った奴の言うことを聞いている。今回、それがドメル夫人だった、という訳だ。まぁ、あまり心配は必要無い。俺たちは、自由な裁量で動くのを許されているからな」
それを聞いたヤーブが、運転しながら言った。
「隊長、まるで海賊みたいで格好いいね」
「海賊か……。それも面白そうだ。タラン閣下! 俺たちは、このまま貴方を連れてガミラスを発つ。行き先は……。自由ってところだな?」
タランは笑顔で応えた。
「ああ。そうだ。問題ない」
数日後――。
地球連邦政府とガミラス政府は、遂に軍事同盟条約を締結しようとしていた。
ガミラスの会議場では、ヒス総統とライアン外務長官、そして、ガデル・タラン国防相とキャッスル外務次官、アーウィン外務次官がそれぞれ、ガミラス式と地球式で、それぞれ挨拶を交わしていた。
会議場には、オブザーバーとして、その他のガミラスの閣僚、そして芹沢と土方。古代たちヤマトの士官の代表者も、後ろの座席に着いていた。
そして、それぞれがテーブルに着くと、最後の協議が行われた。ヒスは、ライアンに話をした。
「我々は、予定通り、波動砲の技術供与をお願いしたい。これが、我がガミラスの唯一の要望である」
ライアンは、これを受けて言った。
「我々は、波動エンジンを動かす為の技術供与、イスカンダル製の波動コアと同等の技術を受け取ることです」
ヒスが頷いて、宣言をした。
「我々は、この相互技術供与を基本として、軍事面における同盟を結び、今後の両政府の良好な関係を築いて行きたいと思います。では、この条約を締結する条件面など話し合いましょう」
ライアンは、頷いた。
「地球連邦政府としては、波動砲という我々にとっての最終兵器の技術を供与するということは、あなた方と、強い絆と信頼で結ばれる必要があります。しかし、今もってあなた方は、軍事独裁政権の衣を脱ぎ捨てることが出来ていません」
ヒスは、それに対して何か言おうとした。ライアンは、手で制して話を続けた。
「先日訪れたミルベリア星系。平和条約を結んだと言っても、貴国の支配下に変わらずあり、様々な搾取を受けておりました。また、先日のタラン国防相の他民族への差別的発言。それから反乱軍による政情不安など、幾つかの気になる点や、懸念事項があります。そこで、我々からの提案です。今度の選挙、あれが貴国を生まれ変わらせることは間違いないでしょう。我々は、貴国の選挙で民主主義政権が誕生することを条件に、この条約を結びたいと思います」
ヒスとタランが首をかしげる。
「それはどういうことかね?」
タランは、意図を確認しようと尋ねた。
「我々は、選挙が終わるまで、地球には戻りません。選挙結果を見届けて、それから条約を結びたいと思います」
それを聞いた芹沢は、大きな声で騒ぎ出した。
「ちょっと待ってくれ! ここにはガトランティスが迫って来ていて危険だ。そんなにのんびりは出来ないぞ」
「危険があることが明確になれば、暫く、別の星系に退避すればよいと考えています」
事務次官のキャッスルは、冷静に芹沢の問いに答えた。
タランは、そこで始めて不快感を露にした。
「つまり、現政権とは条約を結べないとおっしゃる訳だ」
ライアンは、明確に言った。
「はっきり申し上げると、その通りです。申し訳ありません」
タランは、怒り心頭で強くテーブルを叩いた。その音に、議場の全員が注目した。
「我々は、今、ガトランティスの侵攻を止めらず、対抗手段もまだ見つかっていない状況だ! それにもかかわらず、相変わらず中からも外からも足の引っ張り合いをしている。もはや、これまでだ」
この言葉をきっかけにして、突如ガミラス兵が議場に殺到し、地球連邦政府の三人を拘束した。
星名を始めとした保安部員や、古代ら士官が一斉に動こうとするが、ガミラス兵がライアンたちに銃を向けた為、身動きが取れなくなった。
「タラン! 貴様、どういうつもりだ!?」
ヒスは、この事態に怒鳴りつけた。タランは、努めて冷静に語り出した。
「ヒス総統。申し訳ありませんが、只今をもって、政権は我々軍部が掌握しました」
これには、タランとガミラス兵以外の全員が驚愕した。
「最初から、こうするべきでした。もう、我々には時間が無いんです」
タランは、古代の方を向いた。
「君はヤマトの責任者だったな。ヤマトを我が軍の配下で運用してもらう。ガトランティスに対して、波動砲を含む全ての武装を持って対抗してもらいたい」
古代は、唇を噛んだ。
「断ったら?」
「それでも構わない。君らにはヤマトを降りてもらう。我が軍の要員でヤマトを運用するだけだ」
ヒスは、タランに掴み掛かろうとして、ガミラス兵に拘束された。
「ヒス総統。我々は、ガトランティスに対抗する手段を失う訳にはいかないんです! あなたが、スターシャ女王との交渉を成功させていれば、こんなことをする必要は無かった!! 我々には、ヤマトの波動砲が今すぐ必要なんです! 国家存亡の危機だと何故わからんのですか!?」
タランは吐き捨てるように言って、議場を去っていった。残されたものたちは、ガミラス兵に全員拘束され、別室へ運ばれて行った。
ガミラス星の軌道上にいた、ディッツ提督が座乗するゼルグート級の旗艦に、ガデル・タランがシャトルでやって来た。艦橋へ上がったタランと、ディッツは無言で頷き合い、提督用の個室に移動した。
「戦況はどうなっている?」
タランは、ディッツ提督に尋ねた。
「現在、サレザー系を中心とした数光年の範囲内の全方位の八箇所の宙域で、ガトランティス艦隊と散発的に交戦中だ。最初の小競り合いから、絶え間なく艦隊が押し寄せてきている。圧倒的に数の優勢は我々にあるが、敵の新兵器で戦力バランスが崩されそうになっている」
ディッツがちくりと、タランの兄ヴェルテの批判をしてきていた。
兄は、逃亡したようだが、何処に行ったのやら……。
「例の大彗星の位置は?」
タランは、最も心配していたことを質問した。
「数日前に、サレザー系まで二十日程度の位置にいるのが目撃されている。現在は、位置が掴めていない」
「ワープしたんじゃあるまいな」
「あれが、ワープ出来るのかはわからん。今は、ワープしない前提の距離を言っている」
タランは、大きく息を吐き出した。
「どうした。疲れているのか」
タランは、ディッツ提督に向かって怒鳴り付けた。
「私はクーデターの首謀者にさせられたんだ! 当たり前だろう!」
「人聞きの悪い。皆で決め、立場上、貴方が代表を務めた。それだけだ」
「兄も、ガミラスに居られなくしてしまった」
「お前の兄上が、ガトランティスとデスラーに協力したのは事実だ。ここに普通に置いておいては、示しがつかんだろう。仕方あるまい。とにもかくにも、目的は達成したのだろう? ヤマトの接収の件だ」
「無論だ。その為に行ったクーデターだからな」
「それを、君の口から全員に話して貰う必要がある。我々が、つまらん野心から事を起こしたのでないということを。軍全体の士気に関わるので、今すぐやった方がいい」
ガデル・タランは、通信マイクを掴んで、全艦隊、バレラスも含むあらゆるチャンネルに映像通信回線をオープンにした。
「諸君。国防相のガデル・タランである。現在、我が軍が、政権を全て掌握した。ヒス総統以下、現政権の閣僚全員を、一旦拘束させて貰っている。そして、訪問中だった地球連邦政府の方々も、同様に拘束させて貰っている」
放送を、待機中のガミラス艦隊の全員が見ていた。また、バレラスでは、市民がマスコミの報道を通じてタランの演説を見ていた。同盟会議を行っていた会議場の近くの別室では、地球連邦政府の三人と、それ以外のヤマト乗員が、それぞれ別室で拘束されており、同じようにこの演説を見ていた。ガミラス政府の閣僚も、同じく近くの別室に拘束され、同じ内容を見つめていた。
「我々は、デスラー政権崩壊後、不安定な政情に常に置かれてきた。そこへ、ガトランティスがつけ込んで、このサレザー系に侵攻しようとしている。このままでは、我々は、ガトランティスに滅ぼされてしまうだろう。彼らは、恐るべき新兵器を投入しており、我々は、これに対抗する手段を持っていなかった」
ここで、タランは、大彗星の映像を公開した。大彗星が艦隊を飲み込み、惑星を崩壊させる様子である。これを見た市民が、なんと恐ろしいと騒いでいる。
「この大彗星に対抗する手段を、我がガミラスは持っていなかったのだ。このままでは、国家存亡の危機が訪れる。あれに対抗出来るのは、前にバレラスを救ったテロンの戦艦ヤマトが放った波動エネルギーの光。あれがあれば、この大彗星など恐れる必要はない。しかし、先の地球連邦政府との軍事同盟条約についての会議は、もの別れに終わった。地球連邦政府は、現政権は民主的とはとても言えず、同盟を結ぶのに値しないと宣言した。もし、同盟が上手く行けば、私はヤマトの貸与を、この危機を回避する期間だけでもお願いしたいと考えていた。しかし、それも困難になったと判断し、このような強制的な手段を取らせて貰った。地球連邦政府の皆さんには、これが苦渋の選択だったということを、どうかご理解頂きたいと思っている」
ライアンは、目を閉じてこれを聞いていた。別室の古代らは、半ば放心状態の者も多かった。
「そして、ガミラス臣民および全てのガミラス人の諸君! 我々は、あえてこの汚名を受ける。全ては、全てのガミラス人が生き延びる為。この戦いが終わったら、ヒス総統に政権を返し、予定通り選挙を行うと約束しよう! それまで、どうか我々に力を貸して欲しい!」
バレラスの臣民から歓声が上がっていた。そして、いつしか「ガーレ、ガミロン!」の大合唱が行われていた。
タランはマイクを置くと、疲れきった表情で、椅子に倒れ込んだ。
「いい演説だったぞ」
ディッツがタランを慰める。
「そんな誉め言葉は必要無い……」
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。