数年前――。
バラン星の亜空間ゲートの外側で、ゲートの稼働を支援していたゲールは、ディッツ提督が差し向けたフラーケンの次元潜航艦によって乗艦を撃沈されたが、辛くも脱出に成功し、配下のガミラスの残存艦艇に救助されていた。
残ったガミラス艦は僅か三隻。いずれも、フラーケンの攻撃で艦が小破しており、艦の航行に支障は無いものの、早急に修理が必要な状態だった。
「フラーケンのやつめ、今度会ったときは絶対に許さんぞ!」
ゲールは、救助されたガミラス艦の艦橋に、ガミラス兵士に支えられて立っていた。彼の額は大きく裂けていて、そこから血が滴り落ちている。
「ゲール閣下。その怪我で動いてはいけません」
「うるさい! そんなことより、総統からの連絡はまだか!」
亜空間ゲート内――。
ヤマトとの闘いに敗れたデスラーは、爆発するデウスーラの艦橋部分を脱出艇として離脱させ、辛くも助かっていた。しかし、デウスーラの爆発に巻き込まれ、脱出艇の内部でも爆発や火災が発生していた。その影響で、デスラーをはじめとした乗組員らは、重症を負っていた。かろうじて軽傷だったヴェルテ・タランは、どうにか外部に通信が出来ないかを試していた。
脱出艇は、爆発に巻き込まれた際に機関が損傷しており、十分な推力が得られる状態ではなかった。彼の周囲では、あちこちから火の手が上がっており、火の粉を払いながら作業を進めていた。
デスラー他の重傷者を治療することも、休ませる場所もなく、単に床に寝かせている状況である。デスラーに請われるまま兵器の開発を行い、連れ回され、あげくここに至っている。自分の意思をデスラーに明確に示してこなかったことをタランは後悔していた。
「まったく。これで助かったとしても、ガミラスに戻って私の居場所はまだ残っているだろうか」
ガミラス臣民を抹殺しようとした行為をどうやってデスラーは釈明するのか。
タランは頭を小さく振って溜め息をついた。
今は気にしても仕方がない。どうにかして、この亜空間から脱出することが先決だ――。
「ゲール閣下! タラン国防相からの通信です!」
「本当か!」
ガミラス艦の艦橋のスクリーンにタランの姿が映し出されていた。ノイズが酷く、先方の映像はすこぶる不鮮明だ。
「ゲール少将。どうやら助けがいりそうだ」
「どうされましたか?」
「我々は、亜空間内でヤマトと交戦し、残念ながら敗北し、デウスーラは喪われた」
ゲールだけでなく、その話を聞いた艦橋の全員が驚愕した。
「で……デスラー総統はご無事でしょうか……?」
「怪我をされている。私以外は皆、重傷だ。早くここから抜け出す必要がある。だが、あいにく推力が低下していて、ゲートの外にたどり着くまでに、デスラー総統が生きていられるかどうか……。そもそも生命維持装置がどこまでもつのかも怪しい状態だ」
「わかりました。このゲールにお任せください。すぐに迎えに行くよう準備するのでしばしお待ち下さい」
「頼んだよ」
ゲールは通信を切ったが、実際にはフラーケンの攻撃で多くの艦を失い、再びゲートを稼働させる手段がなくなっている。どうしたものか、と思案している最中、艦のレーダー手が突然叫んだ。
「ゲール閣下! こちらに接近してくる艦がいます!」
レーダー手は緊迫した様子だ。
「ま、まさか、フラーケンが戻って来たんではあるまいな?」
ゲールはよろよろとしながらレーダーを覗きこんだ。
「艦種識別――。これは!?」
「どうした?」
「ガトランティスです!」
「何だと!?」
何故こんなところにガトランティスが?
ゲールは真っ青になった。
「敵艦隊は、空母一、駆逐艦十二。間もなく射程内に達します」
「ええい! 何故こんな近くに来るまで気づかんのだ」
「無茶言わないで下さい! レーダーが損傷していて、正常に機能していないんです!」
何故、次から次へとこんなことになるのか。ゲールは頭を抱えた。今ならまだ、ワープでここを離れることも不可能ではない。
逃げるか――?
今までなら、すぐに逃げ出していたことだろう。
だが――。
総統を見捨てて、ここを離れてどうなるというのか? 既に、味方を裏切り、総統について来た以上、もはや帰る場所は無い。ならば、ここで逃げ出せば、本当に何処にも居場所は無い。
デスラーへの忠誠心が、ゲールを突き動かした。
「全艦……戦闘配置!」
「ゲール閣下! 我々にも無茶な命令には意見する権利があります!」
「いいから聞け!」
ゲールは、残った三艦全体に伝えるべく、通信機のマイクを掴んだ。
「諸君! 今、我々は敵艦隊と互角に戦える状態で無いのはわかっている。だが、我々がディッツ提督の命令に逆らってもここにいるのは何のためだったのか」
ここで一呼吸して、ゲールは強い口調で叫んだ。
「総統を信じ、忠誠を誓ったからだ! 我々の作戦は、ヤマトを亜空間ゲートへ誘い込み、総統がヤマトを撃破して戻るまで完了していない。ならば、我々がやるべきことは一つだ。総統が戻るまでここを死守し、共に新天地を目指して旅立ち、新たなガミラス帝国を一緒に作っていくことである!」
ガミラスの兵士たちは、ゲールの演説を聞き、皆、真剣な眼差しで、その思いを噛みしめていた。
「もはや我々には、戻るべき故郷は無い。デスラー総統と共に行くために、今こそ立ち上がるのである!」
ゲールは、先ほど反論した士官が、涙ぐんでこちらを見ているのを見た。
そうだ。忠義の為に皆、死ぬかもしれない。もはや還る場所もなく、我々はやらねばならんのだ。
ゲールは改めて命令を下した。
「……全艦、戦闘配置!」
三隻のガミラス艦が回頭し、それぞれの砲をガトランティス艦隊に向けた。そして、射程内に入ると同時に砲撃を開始する準備を整えた。
「ゲール閣下、敵艦から通信です!」
「何!? よし、通信回線を開け!」
スクリーンにガトランティス艦からの映像通信が映し出された。
「貴様ら、我々に何の用だ?」
スクリーンには、敵の司令官と思われる屈強な鋭い眼光の人物が映っている。その男の頭髪は無く、あごひげを蓄えていた。彼の両手は、足元まで伸びる巨大な剣を支えていた。
「ズォーダー大帝の命により、汝らに聞きたいことがある」
「聞きたいことだと?」
「我らの情報では、汝らの長がこの付近にいるはずだ」
ゲールは冷や汗をかきながらとぼけてみせた。
「何のことかわからんな」
ガトランティスの司令官は、凶悪な笑みを浮かべている。
「汝らをここで殲滅したいところだが、大帝の意志に逆らうことになるのでな」
「どういうことだ?」
ガトランティスの司令官は、巨大な剣を片手で持ち上げると、スクリーン越しにゲールに突きつけた。
「我らは、我の同胞のゴラン・ダガームを倒したヤマッテという艦を追ってここまでやって来た。ここで、汝らが仲間割れをしていることも、汝らの長の艦がその門をくぐったことも知っている。そして、ずいぶんと困っているのもな」
ゲールは、苦虫を噛み潰したような顔で睨みつけた。
「それがどうした! 貴様らには関係がない!」
ガトランティスの司令官は、スクリーンにその醜悪な顔を近付けた。
「我らなら、汝らの長を助けることが出来るぞ。この状況をズォーダー大帝に報告したところ、ぜひ客人として迎えたいと言っている。汝らには悪い話ではないだろう。逆らうと言うのなら、ここで汝らを殲滅することになる。どちらがよいか選べ」
ガトランティスの司令官は、そう言い放つと、下品な高笑いをしていた。
ゲールは考えた。
悔しいが、味方は既に無く、ゲートに入って救助する方法もない。
苦渋の選択をするしかないのか?
ゲールは、よろめきながら、その選択をした。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。