宇宙戦艦ヤマト2199 白色彗星帝国編   作:とも2199

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宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「白色彗星帝国編」です。


白色彗星帝国編4 虜囚

 アベルト・デスラーは、夢を見ていた。

 

 父は、帝国の安定に尽力しており、ほとんど家に帰ることは無かった。それでも、あまり寂しい思いはしていなかった。それは、母や兄、叔父や甥らに囲まれて過ごしていた為だ。少年時代の彼は、母に優しく抱かれて、とても幸せだった。

 その微睡みから醒めると、彼は、大いに落胆した。そして、気がつけば頬を涙がつたっていた。その涙を指先でそっと拭うと、ゆっくりとベッドから身を起こした。

 

 ここはいったいどこだ……?

 

 どうやら、眠っていたらしい。

 周りを見渡すと、高価そうな調度品が置かれた、高い天井の小部屋だった。

 

 すると、ドアがそっと開いて、一人の小柄な中年の男がこちらを覗き込んでいるのに気がついた。少し驚いた彼は、その人物に話しかけた。

「君は……誰だ?」

 その中年の男は、破顔して、涙を流し始めた。

「総統! お目覚めになったんですね!」

 中年男は、そう言いながら、自分の服の袖で、涙を拭っている。

「よければ、君が誰で、ここがどこか教えてくれるとありがたいんだが」

 デスラーは落ち着き払った声で話しかけた。そして、泣き続ける中年男の顔をぼんやりと眺めた。

「あぁ……君は確か……ゲールくん……だったね?」

 一段と泣き声が大きくなり、中年男が返事をした。

「そうであります。このゲール、人生で一番の喜びを感じております!」

 

 ゲールに聞いたところによれば、数年もの間、デスラーは意識が戻らなかったようである。そしてここは、ガトランティス帝国の巨大要塞の中とのことだった。

 ここには、ゲール以下、十数名のガミラスの兵士と、国防相のヴェルテ・タランが一緒に囚われているらしい。

 そうか。私は、あの野蛮人たちに敗れたのだった。私の戦いは、あの瞬間に終わっていたということか。

 デスラーの脳裏に、長く続いた政争に明け暮れた戦いの日々が思い起こされた。そして、スターシャと約束を交わしたあの日の思い出が、とても昔のことのように懐かしかった。

 デスラーは、目を閉じたまま、穏やかな笑みを浮かべた。

 後から駆けつけて来たタランも、ゲールの横で、デスラーの意識の回復を確認して、ほっとしているようだった。ゲールは、そんなデスラーの表情の穏やかな変化を黙って見つめていたが、タランと顔を見合わせると、再びデスラーの方に向き直った。どうしても彼の伝えなければならないことがあったのだ。

「ガトランティスのズォーダー大帝も、総統が目覚めるのを待っていました。目覚めたら、ぜひお話がしたいと」

 デスラーは、特に驚きも無く、その話に耳を傾けた。

 続いてタランも、デスラーに伝えたかったことを話した。

「総統、この機会に、ぜひ本国への帰還の交渉をして頂けるとありがたいのですが」

 デスラーは、二人を交互に眺めると、静かに笑った。

「ふふふ……。ふむ。その前に、諸君は、今まで何をやっていたのかね?」

 それを聞いたゲールの顔色は、途端に真っ青に変化した。

「そ、総統……! 我々も、脱出の機会を何度もうかがっていたのですが、莫大な戦力がここには常駐していて、とてもじゃないですが到底逃げるのは不可能です! どうか、お許し頂けないでしょうか……」

 ゲールの声はだんだん小さくなり、最後はほとんど聞こえなくなった。

「落ち着きたまえ。別に君を責めようとしているつもりではない」

 タランは、ゲールのように慌てることもなく、冷静にそれに回答をした。

「ズォーダー大帝は、概ね我々に紳士的な態度で接してくれています。私がガミラスの国防相で、兵器開発局の長官を兼任していることも知っていました。私は、直々に彼から技術支援の依頼をされました。一度はお断りしようとしたのですが、昏睡状態で重傷を負っていた総統の治療を中断することを示唆され、やむを得ず協力をすることになりました。恐らくこの協力が、我々全員の安全を保証するのに役立ったと思われます」

 デスラーは顔色一つ変えずに聞いている。

「なるほどね。続けたまえ」

「はい。我々よりかなり以前からガトランティスに囚われていたガミラス人の科学者を何人も紹介されました。彼らは、既に瞬間物質移送機など、ガミラス独自の技術を幾つか開発して協力していました。私も彼らと協力して、幾つかの兵器開発に携わりました。さすがにデスラー砲は、極秘で開発していたので、私以外に知っている者はいませんでしたので、まだ漏らしてはいません。そうして、一年ぐらい協力を続けていると、かなり信用されたのか、ガミラス艦の製造が許可されました。恐らく、艦の性能を丸裸にしたい、といった目的だったと思われますが。ゲール少将らは、完成したガミラス艦隊を使った演習にかり出されました。この時に、せっかくなのでデウスーラのコアシップも作っておきました」

 デスラーは、そこで初めて驚いた。

「タラン。君が一緒に居てくれてよかったよ」

 

 それから数日後――。

 

 静寂の中、靴音が響く。

 

 デスラーは、マントを翻して大帝の間をゆっくりと歩んだ。この要塞の奥の王の座にいる大帝ズォーダーに会うためだ。

「止まれ。囚人の分際でそれ以上大帝に近づくでない」

 王の座の脇に、白ずくめの美女が立っている。その彼女は、デスラーを囚人呼ばわりし、嫌悪感を露にしている。デスラーは、その女を無視して歩み続けた。顔色一つ変えていない。

「止まれといっておろうが! わらわを無視するとは、礼儀知らずなやつめ。衛兵!」

「サーベラー、かまわん」

 ズォーダー大帝は、サーベラーと呼ぶ女を手を伸ばして制した。

 大帝と呼ばれるこの男は、これまでデスラーが知っている野生的なガトランティス人とは異なり、知的な印象を受けた。がっしりとした筋肉質な体型をしているが、王らしい余裕のある雰囲気を漂わせている。

 デスラーは、大帝の座の目の前まで来ると、歩みを止めて、ゆっくりと跪いた。

「初めてお目にかかる。私がガミラス大帝星のデスラーだ。これまでの怪我の治療、それに、私に付き従ってくれた部下たちの面倒を見てくれていたこと、深く感謝する」

 ズォーダーは、黙ってそれを見ていた。彼は、デスラーを値踏みしているようだった。

「デスラー総統。私がガトランティス帝国の大帝ズォーダーだ」

 ズォーダーは、王の座から立ち上がり、デスラーに手をさしのべた。

「面をあげてくれ。デスラー総統。私は、あなたを囚人とは思っていない。同じ王として、あなたには接するつもりだ」

 デスラーは、顔を少しだけあげて言った。

「感謝の極み……」

 

 三人は場所を移し、向かい合って座り、杯を交わした。

「偉大なるズォーダー大帝に」

「ありがとう。偉大なるデスラー総統に」

「……」

 二人が杯を交わす様子を見ながら、サーベラーは終始無言だった。それでも、ズォーダーの傍から離れようとしない。デスラーは、その様子をまったく感心なさそうにしながら観察した。

「あなたが目覚めるのをずっと待っていた。申し訳ないが、あなたの側近にいくつか質問をさせてもらったのだが、こちらが知りたいことをご存知ないようだった。そこで、ぜひあなたに教えてもらおうと待っていた」

「これは失礼。ベッドの寝心地が良すぎるのも良し悪しなようだ」

 ズォーダーは、楽しげに笑い声をあげた。

「これは参った。デスラー総統は冗談がお上手なようだ」

 サーベラーが、睨み付けてきていたが、デスラーはその視線を無視をした。

「それで」

 デスラーは杯を、テーブルに静かに置いた。

「どのようなことを?」

 ズォーダーも杯を置くと話し出した。

「我々は、あらゆるテクノロジーを欲している。我々は、遠い昔に故郷が滅び、それから千年もの間、宇宙を旅している。遠く、故郷のあるアンドロメダ銀河より、このマゼラン銀河まで来たのもそのためだ」

 アンドロメダ銀河……?

 彼らがどこから来たのか、というのは、長年謎に包まれていた。こんなにあっさりと謎が解けるとは、デスラーも思いもよらなかった。

「我々は、静謐の星の存在を知り、この銀河をまたがる最も優れたテクノロジーがそこにあると考えた。我々は、それを手に入れるため、銀河を越えて捜索を続け、このマゼラン銀河まで辿り着いた。貴国との間で、少々小競り合いがあったため、少々時間がかかったが、遂にその所在を発見した。残念ながら、その時は逃げられてしまったが」

「その星のことについては、私も聞いたことがある。実際にそれが存在したと……?」

 ズォーダーは、大きく頷いた。

「まだ諦めた訳ではないが、これだけ探しても発見出来ないということは、マゼラン銀河付近からは、もう去ってしまったかも知れない。ただ、我々がこの銀河を回っていると、あちらこちらで、このマゼラン銀河に広がるイスカンダル信仰を知ることになった」

「ふむ」

 デスラーは、表情にこそ出さなかったが、驚きをもって聞いた。

「様々な伝説が、語り継がれていたようだ。救いの神として崇められているが、同時に神の雷による滅びの伝説もあった。神と崇めるほどの存在とは何なのか。私はそれが何なのか、想像を超えるテクノロジーの存在が見え隠れしているため、その事実を突き止めたいと考えた」

 サーベラーが、デスラーの表情の変化を見逃すまいと、相変わらず睨みをきかせている。しかし、表面上、デスラーの心中を推し測ることは出来なかった。

 美しい女だが、気を許すことが出来ない相手だと、デスラーも警戒していた。

「そこで」

 ズォーダーは、飲み物を少しだけ口にした。

「私は、本格的に、イスカンダルへと進攻することに決めた。しかし、イスカンダルのすぐ隣に貴国の存在がある。貴国は強大な戦力を保持しているのでね。近づくことも困難で、部下たちは相当苦労しているらしい」

 そこで初めてサーベラーが口を開いた。

「デスラー総統。知っているぞ。汝らは既に死んだことになっているようじゃな。しかも、臣民を裏切ったと悪評も聞こえている」

 デスラーは笑みを浮かべる。まったく気にしている様子は見られない。

「シファル・サーベラー丞相。よくお調べのようだ。感心させて頂いた。だが、私は長い間、ここにいたからね。そのような悪評が立っていることは、残念ながら私も把握していない」

 ズォーダーは、サーベラーを制して身をのり出した。

「デスラー総統。その一件について、差し支えなければ、真意をお聞かせ頂けないだろうか?」

 デスラーは、しばし目を閉じた。

 彼らが聞きたかったのは、そのことか。なるほど。私を利用しようと目論んでいるようだ。

 デスラーは、何と話すか思案した。

 忌まわしい記憶が甦ってくる。ここは、ある程度本当のことを話さなければ、ズォーダーもサーベラーも納得させることは出来ないだろう。

 デスラーは、言葉を選びながら、話し始めた。

「我々は、かつてイスカンダルと共にマゼラン銀河を征服し、真の平定の為に戦った一つの国家だった。あなた方が考えているように、高度なテクノロジーがイスカンダルの文明や軍事力を支えていた。ある時、イスカンダルが突然この戦いを止め、平和主義を訴えるようになった為、二つの国家として袂を分かち、今に至っている。それから、マゼラン銀河は戦乱の時代を迎え、混沌とした状況が長く続いた。私は、かつての平定を取り戻そうと、再びマゼラン銀河の支配に乗り出した。そして、それが実現した暁には、イスカンダルと再び一つの国家に戻す交渉を考えていた。ある程度の目標は達成出来たが、なかなかうまくいかないものでね。ガミラスに反抗する勢力や、同胞にも私の寝首をかこうとする者が後を絶たなかった」

 ここまで話すと、ズォーダーも、疑り深いサーベラーも、興味深そうに聞いていた。

「残念なことに、我がガミラスの同胞は、腐りきっていた。くだらん政争に明け暮れ、銀河全体の平定よりも、自らの欲望を優先する様な輩が数多く政界には巣食っていた。そして、遂にクーデターが起きた。私は許せなかった。あの星にしがみついて、自らの欲望を満たすだけしか考えられず、私の崇高な目的を妨害する者たち。私は、彼らを一掃し、新たな体制を築く決意をした。罪も無い臣民も犠牲にすることになるが、私はそれも厭わなかった」

 デスラーは、杯を手に取ると、少しだけ唇を濡らした。

「そんな時だった。天の川銀河の探索をしている時に小競り合いになったテロンという惑星から、イスカンダルの救済を求めてやってきた、小さな一隻の船があった。彼らは、我々の軍を欺き、イスカンダルまであと少しというところまで迫っていた。強力な兵装と、優秀な指揮官を抱えていたのは、確かだったようだが、たかが一隻の船。我がガミラスの敵ではなかったが、私は、これをいい機会と捉え、混乱に乗じてこの決断を実行することにした。彼らに、わざとガミラス本星の帝都への侵入を許し、これを撃破するのを口実として、帝都に巣食う私の敵を一掃しようとしたのだ」

 デスラーは遠い目をしている。

「だが……私は甘くみていたようだ。このテロンの小さな船に、私はすべてを奪われてしまった。今の私は、権力も艦隊も、臣民も、味方も……何もかも全てを喪ってしまった」

 デスラーは、目を閉じて、少し寂しそうに笑っていた。ズォーダーと、サーベラーも彼が次に発する言葉を静かに待っている。デスラーは、目を開くと、冷酷そうな表情に戻っていた。

「私は、計画を台無しにした、このテロンの船だけは許せない。私は、復讐を忘れぬ男だ。落ちぶれはしたが、魂まで腐ってはいない。彼らに復讐し、再びガミラスの総統の座に返り咲くことが、私の今の使命だ」

 ズォーダーは、今の話が本心か、眼光を鋭くして、デスラーの心を見透かそうとしていた。そのデスラーも、無表情ではあったが、ズォーダーをじっと見つめ返していた。二人は、睨み合い、そのまま互いに黙っていた。

 最初に口を開いたのは、ズォーダーだった。

「本当のことを話してくれたと私はあなたを信じよう。デスラー総統、感謝する。今の話が確かなら、我々は協力出来ると考えている。我々は、イスカンダルへ侵攻し、過去に保持していたと思われるテクノロジーを奪取しようとしている。あなたは、テロンの船への復讐と、ガミラス帝国での復権をお望みだ。そして、我々のイスカンダル侵攻を邪魔するのは、ガミラス帝国だろう。ガミラスをよく知るあなたに、イスカンダル侵攻作戦に協力してもらえないだろうか。我々は、ガミラスにも、このマゼラン銀河にも興味はない。作戦を妨害するガミラス軍を撃破した後、イスカンダルで我々が欲するテクノロジーが奪取出来ればよいのだ。これが終わったら、もう一度、先ほどのあなたの計画を再開してもらって構わない。我々は、マゼラン銀河を立ち去ると約束する。悪い話では無いと思うが、いかがかな? そうそう、我々の情報網が、そのテロンの船が、再びマゼラン銀河にやってくると伝え聞いている」

 デスラーは不敵な笑みを浮かべた。

「交渉は成立だ」

 

 ズォーダーとの謁見に向かったデスラーが、自室に戻って来た途端、今まで見たことも無いような、怒りをたぎらせている。ゲールは、怯えながら部屋の隅に移動して、その様子を眺めた。

「タラン!」

 怪訝な表情で、タランはデスラーを見つめた。

「どうかされましたか、総統?」

 ひそひそとデスラーはタランに耳打ちをした。タランも小さな声でデスラーと会話をする。

「イスカンダルへの進攻作戦に協力するですって? ガトランティス軍と一緒に? 総統、ちょっと何がなんだかわからないのですが……」

 

続く…

 




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
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