新東京港の少し離れた場所で、ヤマトは錨を降ろして海に浮かんでいた。ガミラス星への発進準備を行っているのだ。
港から走ってきたボートに、防衛大学校を卒業したばかりの若いヤマト乗組員が十数名乗っていた。彼らは今回の任務につくため、ヤマトに向かっていた。卒業生から優秀な若者が選ばれたとは言え、新人が配属されるのは、今回の旅が戦闘を目的としていないためである。ガミラス星への旅は、彼らを大きく成長させるであろうと見込んで、これらの人員の配属が決まった。
それ以外の乗員は、イスカンダルへの旅を経験したものを中心として構成される。
「みろよ。本物のヤマトだぞ」
「卒業早々、ヤマトに配属されるとは、俺たちはついてるな」
「いやー。大きいなー」と、ボートを操縦している若い男。ヤマトの姿を見上げて、見とれている。
「おい、太助。よそ見をして、ボートを転覆させるなよ」
「流石にそんな馬鹿はいないよ」
「艦長代理。予定の全員が乗艦しました」
古代のそばに雪が来て報告した。舷側の展望室に、幹部士官と新人、そして客人らが集合していた。古代は、展望室の壇上に設けられた司会台を前にしてマイクを握っていた。
「報告ありがとう」
雪は、皆に見えないように古代にウインクしてきた。思わず古代は咳払いをして、平静なふりをした。そして、おもむろに話を始めた。
「皆さん、ヤマトにようこそ。今回ヤマト艦長に指名されて艦長代理を務める古代進です。よろしくお願いいたします」
部屋の中は静まり返っており、古代は少し緊張していた。もう一度小さく咳払いをしてから話を続けた。
「今回の任務は、ガミラス星との軍事同盟の条約締結です。我々は、地球連邦政府の皆さんをエスコートし、無事に交渉が行われるように護衛するのが任務です」
古代は、政府側のメンバーに向かって手を差し出した。
「ご紹介します。地球連邦政府のウイリアム・ライアン外務長官、そして、ノーマン・キャッスル安全保障担当外務次官、ロバート・アーウィン政治担当外務次官です」
古代のすぐ隣で並んで立っていたライアンは、古代の招きで司会台にやって来ると、マイクを受け取った。
「政府を代表して挨拶させて頂く。ウイリアム・ライアンだ。ガミラスまでよろしく頼む。ワープを体験するのが待ちきれないよ」
ライアンは、壇上でにこやかに古代と握手した。
「そして、皆さん、ご存知だと思いますが、ヤマトを管轄する日本側の代表をご紹介します」
古代は、もう一方の二人に手を差し出した。
「地球連邦極東管区代表、芹沢虎鉄軍務局長官、そして、土方竜防衛師団司令長官です」
芹沢が手を挙げて挨拶をする。
「諸君。芹沢だ。今回はヤマトを作り出した極東管区の軍を代表して、政府の方々に同行する。失敗は許されないので、皆、肝に命じておきたまえ」
会場にしらっとした空気が流れた。続けて土方が司会台に進んだ。
「土方だ。軍人代表として私も同行する。皆、よろしくな。今回、私は艦の運用には基本的に関わらない。規律をもって自分たちで諸問題にあたってくれ。以上だ」
土方が、右手を挙げて皆に敬礼すると、全員が一斉に敬礼で返した。同時に衣擦れの音がし、綺麗に揃った。土方の口元が、満足げに僅かにゆるんでいた。
「皆さん、ありがとうございます。最後にヤマト乗組員の諸君。戦闘が目的では無いが、これは実戦であり、任務は重大だ。特に、新人として配属されたものは、ヤマトの栄光に恥じないように頑張ってくれ。私も今回特別に艦長職に任命されたのは、新人の諸君と同じように、成長を期待されてのものだ。全力で職責を果す所存だが、皆も同様に全力を出して任務の成功に向けて努力してくれ。諸君の奮闘を期待する。以上だ」
真田が、優しげな笑顔を浮かべて手を叩き始めると、やがて会場全員が拍手をした。
艦長室――。
「土方さん。本当に私が艦長代理でよかったんでしょうか」
古代は、少し不安げな顔で土方を見ている。
「馬鹿者。そんな顔を第一艦橋でしたら許さんぞ」
「はっ。申し訳ありません!」
雪が横で笑っている。
「大丈夫。あなたなら、出来るわ」
「雪・・」
土方が大きく咳払いをした。
「本当は山南を連れてきたかったんだがな。地球防衛が手薄になるとダメ出しをされた。そしたら真田が、自分は艦長の柄じゃないとお前を勧めてきたんだよ」
機関部――。
「機関部に配属された、徳川太助です! よろしくお願いします!」
機関長の山崎は発進準備をすすめる手を止めて振り返った。
「お、来たな。徳川さんの息子さんだったな。親父さんを泣かすようなまねはするなよ。よろしく頼むぞ」
山崎は、満面の笑顔で油で汚れた手を差し出した。太助は、一瞬躊躇したが、手を握り返した。
「親父さん、どうしてる? ヤマトが帰還してすぐに退役しちまったが、今頃家で行きたくてウズウズしてるんじゃないか?」
太助は困った顔をして答える。
「いやぁ、それが孫のアイ子と遊ぶのが楽しくてしょうがない見たいで、すっかりじいちゃんになってますよ」
技術科――。
「あら」
新見薫は、そろそろと技術科の研究室に入ってきた若者を見た。眼鏡をかけたひょろっとした若者で、見るからに頼りない感じである。
「あーっ。もしかしたら、あなたが新人の人!? あーやっと私にも部下が~」
桐生美影が楽しげに声をかける。
奥の席に座っている真田は、振り返りもしない。
「あ、あの。ヤマトに配属になりました、新米俵太です。よろしくお願いします!」
そこで初めて真田が少し振り返った。真田は立ち上がって、若者に近づいた。顎に手をあてて、興味深そうに見ている。
「アラコメくん、というのか。てっきり私は、シンマイと読むのかと勘違いをしていたようだ」
桐生がおおっと声をあげる。
「あー、真田さん、それいいですね! これから、君のあだ名はシンマイだ! よろしくね!」
「えぇっ。いや、僕にはちゃんとしたアラコメという名前が……」
「まぁいいんじゃないか。呼びやすそうだ。シンマイ、技術科責任者の真田だ。副長も兼任しているので、第一艦橋にいることもあるがね。期待しているよ」
真田の後ろで新見もふふっと笑っている。
「よろしくね。シンマイくん」
第一艦橋――。
「諸君、これよりガミラス星に向けて出発する」
古代は、艦長席に座って艦内通信のマイクを握る。
「総員、発進準備にかかれ!」
第一艦橋には、政府のメンバー、およびガミラス人であるメルダがその様子を見守っていた。そして、ヤマトが発進プロセスを開始した為、艦内は緊張感に包まれていた。
「北野。今回は頼むぞ」
横で発進準備をする島が声をかける。
「はい! 戦術長に任命されるとは思いませんでした! 頑張ります!」
南部が、それに強く反応して、つかつかと北野に歩み寄った。
「何で俺を差し置いて、後輩のお前が戦術長なんだよ! 認めないからな、俺は!」
島がくすっと笑いながら言う。
「まぁまぁ。南部、お前、この間のニュースのインタビューで変なこと言ってただろ。絶対あれのせいで、アイツは危ないって思われたんだぞ。日頃の行いは気をつけないとな~」
機関室――。
「補助エンジン始動だ」
徳川太助ら機関部員が慌ただしく動き回り、各部のスイッチ等を操作、点検する。
「慌てるな。確実にやれ」
第一艦橋からの艦内通信で、山崎が叱咤する。
「波動エンジン内、エネルギー注入。エネルギー充填十パーセント」
外務次官のキャッスルが「ワープスピードだ」と島に向かって後ろから軽口を叩いている。島は、それに苦笑いで返した。
「波動エンジン内、圧力上昇。エネルギー充填百パーセント」
山崎が機関席から状況を報告する。
「フライホイール始動」
艦全体に、波動エンジンの稼働音が響いた。
「錨上げー!」
ロケットアンカーが、射出位置にがらがらと巻き上げられた。そして、ヤマトは補助エンジンの動力で海面を進み始めた。
「両舷半速」
「波動エンジン接続十秒前」
「・・三、二、一、フライホイール接続、点火」
「ヤマト、発進します」
ヤマト後部の波動エンジン噴射口から、炎のような光が噴出する。それと同時に、第一艦橋にいる島が、舵を引いた。ヤマトの船体前部がゆっくりと持ち上がり、海面から急速に離れ始める。
ヤマトは、海面から完全に離れて飛翔し、海水がこぼれ落ちた。
「主翼展開」
ヤマトの舷側から主翼が伸びた。ヤマトは一気に空へと飛翔した。
第一艦橋では、政府のメンバーが拍手して、アンビリーバブル、エクセレント、などと叫んでいる。
「土方。連中はやかましすぎる。第一艦橋から追い出せ」
芹沢が不快な顔で言っている。
「もう少しいさせてやってもいいでしょう。彼らは大事なゲストだ。ヤマトがいかに優れた乗組員が乗艦しているかを彼らに見せるいい機会だ」
ヤマトは、その後大気圏を突破し、宇宙空間をすすみ始めた。そこには、ガミラス政府の政治家や官僚、軍の幹部等を乗せて地球までやってきたガミラス艦隊が待ち受けていた。
ガミラス艦隊は、指揮官のネレディア・リッケが座乗するゲルバデス級の空母ミランガルを旗艦とし、駆逐艦八隻で構成されていた。
「ガミラス艦から映像通信です」
相原が古代に伝えた。
「つないでくれ」
スクリーンにネレディアの姿が映った。
「こちら、ガミラス護衛艦隊のリッケ大佐である。これより、ヤマトを我がガミラス本星まで、エスコートさせて頂く」
「よろしくお願い致します」
古代は、その顔に見覚えがあった。
「あの時の?」
ネレディアはスクリーン越しに軽く頷いた。
「よろしく頼むぞ、古代艦長。それからメルダ少尉も、何かあれば密に連絡をとるように」
メルダがガミラス式の敬礼で手を上げた。
「ザーベルク!」
ヤマトは、一気に月軌道まで進んだ。地球連邦の防衛軍月面基地から、戦闘機集団が一斉に飛んで来た。ヤマト搭載予定のコスモファルコン隊である。
一緒に飛ぶ山本機だけ、新型の機体、コスモタイガーだった。
「まーたお嬢だけ、いいのに乗ってるじゃない」
篠原が山本に軽口を叩いている。
「悔しかったら、トップの座を狙えばいい」
山本が冷たく応える。
その山本機の傍を、かすめるように飛ぶ機体があった。
「坂本! 危険だぞ!」
「俺がトップを奪ってやるよ。先輩面してるのも、今のうちだぜ」
坂本は、防衛大学校を卒業したばかりだが、操縦技術においてトップの成績を納めてヤマト配属が決まった。
「お前らいい加減にしろ。こちら加藤。ヤマト着艦を許可されたし」
ヤマト第一艦橋では、相原が古代に報告した。
「艦長代理、コスモファルコン隊が着艦許可を求めています」
古代は、落ち着いた表情で言った。
「着艦を許可する」
ヤマトとガミラス艦隊は、ヤマトとミランガルを中央に艦隊を組み、太陽系内を脱出するまで、通常速度で移動していた。太陽系の外縁を抜けたところから、連続ワープでガミラスに向かう予定だった。
ヤマト艦内の食堂――。
そこでは、久しぶりの再会に各人が交流を深めていた。
太田が、星名透と岬百合亜が座っている席にやって来て、噂話をしている。
「ねぇねぇ、知ってる? コスモリバースで不思議なことが起きたって話」
明らかに迷惑そうに、百合亜は返事をしていた。
「知らなーい」
「それがさ、聞いてよ」
「人が生き返ったって話でしょ?」
星名がその話題を知っていたので、太田はがっかりとしていた。
「なんだ、知ってるのか~」
星名はくすっと笑っていた。
「因果関係はわかってないけど、あれを動かした時、そういう事件が地球のあちこちで起こったみたいだね。病気や怪我が治ったとか、果ては人が生き返ったとか」
百合亜は、星名が話したことで急に興味を持ったらしい。
「えぇ~そうなの?」
太田が膨れっ面をしている。
「誰でもって訳じゃなく、少しだけ事例があるみたい。情報部で調査したからね」
「へぇ~。星名くん物知りだね」
「たまたま仕事で調べただけだよ」
百合亜は、はっとした。
「あれっ。それって身近でもあったかも……」
「うん? それは僕も知らないなぁ」
百合亜が思い切りテーブルを叩く。
「森船務長だよ! ほら、帰還する直前に、コスモリバースが勝手に動いた事件があったでしょ。あの時、雪さんがもう助からないって、皆心配してたでしょ。そしてら、突然、古代さんが抱き抱えて第一艦橋に連れてきて……」
百合亜は目をきらきらとさせている。
「あれもきっとそうだよ~。奇跡ってあるんだね~」
太田は、二人のやり取りを見ているうちに、馬鹿らしくなって、その場を離れて行った。
メルダも、森雪に連れられて食堂に来ていた。
「ガミラスの人でも飲めそうなものって、何かあったかな?」
雪がメニューを見ながら悩んでいた。
メルダは、以前乗艦した時に食べたパフェが今もあるのか、目を皿のようにしてメニューを眺めていた。そして、遂にそれを見つけたメルダは、少し興奮して雪に言おうとした。
「パ……「あー、そういえば紅茶だったら大丈夫よね? 前にガミラスで飲んだお茶も味が似てたし」
メルダに被せるように雪が喋ったため、パフェが食べたいとは言いづらくなってしまった。
すると、そこへ着艦して落ち着いたと思われる航空隊のメンバーがぞろぞろとやってきた。
「あら、加藤さん。お久しぶり。ようこそヤマトへ」
雪が加藤に声をかけた。
「森船務長。また世話になるよ」
「真琴さんと翼くんは元気?」
加藤は、少し照れたようにはにかんだ。
「元気だ。子供がいるから、今回は一緒に来れなかったがな」
「そっか~。でもお幸せそうでなによりだわ」
「そっちの方はどうなんだよ。結婚すると思ってた」
「私たち? うーん。二人で話し合ったんだけど、まだいいかなって。もちろん、幸せだよ」
加藤の背後から山本が顔を覗かせる。
「ふーん。そうなんだ」
雪は、山本にも笑顔で話しかける。
「山本さんもお久しぶり。そう、私たち、幸せだよ!」
加藤は、二人の間に何か火花のようなものが散っている気がして、背筋に悪寒が走った。
「山本さんも、篠原さんとお付き合いしてるんでしょ?」
雪がかなり無遠慮に尋ねた。無表情になった山本が、即答した。
「付き合ってません」
篠原は、あまりの事態に後ろで隠れてぼそっと喋った。
「確かにいい感じだった時もあったんだよね~」
山本は、雪の後ろにメルダがいるのに気が付いた。
「あっ」
メルダも、いいところに来たと山本を呼び寄せた。
「何だ。また来たのか」
「ま、まぁな。久しぶりだな。元気そうでなによりだ。ところで、前に食べたあれを注文したいのだが……」
山本が、遠い目をして思い出そうとしている。
「なるほど。森船務長は気が利かなそうだからな。私が注文してやろう」
メルダはつんとした顔で、小さな声で言った。
「感謝する」
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。