ガミラスに向かうヤマトとガミラス艦隊は、直接大マゼラン銀河の方向へは行かず、まずは天の川銀河の中心部へと進路を取っていた。
ガミラス艦隊の指揮官ネレディアによれば、何と銀河系内にも、アケーリアス文明の遺した亜空間ゲートが存在するという。このゲートにより、銀河系外縁まで一気に跳躍することが可能だと言う。
人類は、初めて光速を突破したヤマトが完成するまで、太陽系外縁より遠くへの有人飛行は殆ど経験がない。イスカンダルへの旅を行った際も、当然そんなこととは知らずに航海計画が立てられていた。ガミラスが、太陽系に容易に来ることが出来ていた理由が、今になって判明し、島や太田をはじめとした航海科の面々は大変なショックを受けていた。
しかし、もっと重要な、まだ人類が知らない情報があった。
亜空間ゲートが存在する銀河系中心部付近には、広範囲に跨がる、二大星間国家が存在していた。一つがボラー連邦といい、もう一つが、ガルマン帝国という。
この二国間では、長い間、星間戦争をおこなっており、軍事的な緊張の高い宙域となっていた。
大マゼラン銀河の大半を支配したガミラス帝国は、この天の川銀河への進出を検討し、探査を行っていた。その時に、この二大星間国家の存在が明るみになった。
当初、銀河方面作戦司令長官だったゲール少将が、艦隊を差し向けたため戦闘状態となり、銀河方面軍に大きな損害を与えていた。数度の失敗を経て、ゲール少将配下の二等ガミラス人で空間機甲旅団のヴァルケ・シュルツ大佐が来てから、これら二国と交渉を行い、彼はこれに成功する。その結果、この二国の国境付近に近づかず、戦闘行為をおこなわないという取り決めがされた。これは、争いが絶えない二国にとって、強大なガミラス帝国との紛争は余計なことであり、またガミラスにとっても、銀河方面軍の戦力が乏しい状況での紛争は好ましくなく、双方の利害が一致した。
その結果、ガミラスの銀河方面軍は、二国の非支配宙域が主な探索領域となっていた。地球のある太陽系は、その非支配宙域である。
二等ガミラス人のシュルツが地球攻略作戦の司令官に任命されたのも、この功績があってのことだった。
そして、銀河系の亜空間ゲートは、二国が存在する銀河系中心部の国境付近に存在していた。ボラー連邦とガルマン帝国も、このゲートの所在は把握しており、双方大切な移動手段として利用されていた。
外務長官のライアンと、外務次官のキャッスルとアーウィン、軍務局長官の芹沢、そして土方すらも、この事実に大変な衝撃を受けていた。会議室にこもると、五人はこの件についての協議をしていた。
芹沢は、真剣な表情でライアンに話した。
「ライアン外務長官。この事実は、至急、地球連邦政府に伝えましょう」
ライアンも、困惑した表情のまま、大きく頷いた。
「それは同感だ。大統領に急ぎ知らせよう。アーウィン、君が大統領への書簡の文面を至急作成してくれ」
「わかりました」
アーウィンは、会議室を出て急ぎ足で自室に向かった。
「それにしても、ガミラスの連中も、こんな大事なことを知らせんとは」
芹沢は、大いに憤慨していた。ライアンは、そんな芹沢をなだめた。
「彼らも、まさか知らないとは思ってなかったようだ。むしろ今、知ることが出来てよかったじゃないか」
普段陽気なキャッスルが、落ち着かない様子で言った。
「安全保障の観点からも、至急対策を検討する必要があります。これらの二国と紛争になった場合のシミュレーションも至急やるべきです」
芹沢は、不快感をあらわにして、思い付いた案を話した。
「こうなったら、現在開発中の艦船は、全て波動エンジン搭載艦に変更してはどうでしょうか。今回のガミラスとの同盟は事実上決定事項と考えます。この旅は、亜空間ゲートを使っても数ヵ月はかかる道のりです。ガミラスに到着し、条約を締結、帰還してから検討したのでは、遅すぎます。また、可能な限り波動砲搭載艦に仕様を変更すべきではないでしょうか」
「芹沢軍務長官」
ライアンは、落ち着き払った様子で芹沢を見ていた。
「我々の今の任務は外交だ。とりあえず、本国に連絡し、地球側で検討してもらおう。今の我々が考える権限の範疇を超えている」
芹沢は、テーブルを力一杯叩いた。
「そんなのんびりしたことを言ってどうするんですか! このまま何もせずに先の戦争のような紛争が起きてしまったらどうやって責任を取るおつもりですか?」
「……」
ライアンは考え込んでいる。そして、その結論を口にした。
「そのような決定権や責任は、大統領が負っている」
ひと通りの結論のない協議が終わり、芹沢と土方は、それぞれ自室に戻ろうとしていた。
「芹沢宙将。我々軍の者が先行して判断するのは危険だ。もし、今回の条約が締結されなかったらどうするおつもりか?」
土方と芹沢の二人は芹沢の自室の前に移動して、先程の件を話していた。
「もう、二度とあんな惨めな思いを国民にさせる訳にはいかんのだ。……もう、二度とな」
芹沢は、土方と真っ直ぐな瞳を交わした。芹沢は、視線をそらすと、自室に消えていった。
「古代です。お呼びでしょうか」
古代は、艦長室の前にいた。さすがに恐れ多く、艦長室は土方に譲ったのだ。
「入れ」
「失礼します」
艦長室に入ると、土方は前方の窓に向かって座っており、後ろを向いたままだ。
「古代。銀河系の二大国家の件で話がしたいと思ったんだが……」
「はい。私も聞いております」
「芹沢宙将が、波動エンジン搭載艦や波動砲搭載艦の準備を直ぐに始めたいと言っている。お前、どう思う?」
「は?」
古代は、話の意図を計りかねた。
「さすがに、性急過ぎると思いますが」
土方が椅子を回して古代の方に少し向いた。
「お前も知っているだろう。彼の判断がきっかけで、我々はガミラスとの戦争に突入した。当時、国連宇宙軍は、井の中の蛙と言うか、恐らく勝てると思ってしまったんだな。自分たちが強いと勘違いをしていた」
土方が立ち上がって、窓の外の宇宙を見つめる。
「慎重だった沖田の反対を押しきり、芹沢は上層部を説得して戦端を開いてしまった。その結果が、あれだ。人類は絶滅の淵にまで立たされた。芹沢がイズモ計画に拘ったのも、あの結果を招いた責任を感じたからだろう。イスカンダルへの旅に出る時、案内人となるはずだったイスカンダルのユリーシャは意識がなく、目的地の正確な場所さえ、不確かな状態だった。だから、当時の国連のヤマト計画実行の判断は、失敗する可能性の高い、一種の賭けだった。賭けに勝ったからよかったが、イズモ計画の方が、確かに現実的だったのだ」
古代は、黙って聞いていた。
「その芹沢が、今回の一件で、二度とあんな思いを国民にさせる訳にはいかん、と言っている。いろいろと性格に難のある人物だが、藤堂長官は信頼しているんだろう。一度は失職扱いになっていた芹沢を、元の役職に戻したのは、過ちを経験した彼が、人一倍人類の明日の安全を考えていたのを知ったからなんだろう」
土方は、黙り込んでいる古代の様子に気がついて言った。
「すまん、すまん。急にこんな話をされても困るよな。だが、誰かに聞いてもらいたかったんだ。こんな話、指揮官のお前ぐらいしか話せんのだよ」
土方は古代の元に歩いてきて、肩を叩いた。
「いえ、貴重なお話をお伺い出来たと思います」
土方は、古代の目を見ながら続けた。
「皆、彼のことを毛嫌いしているようだな? 正直、俺もそうだった。なぜ、藤堂長官は、彼を使うのか、疑問をずっと感じていた。だが、ようやくその理由が理解出来たよ。聞いてくれて、ありがとう」
「最初の目的地、銀河系の亜空間ゲートに到着した」
第一艦橋で、操舵席の島は、ヤマトを停船させた。続けて、相原も報告した。
「ガミラス艦隊のリッケ大佐から、ここで一時待機と連絡が来ています」
「分かった」
雪と交替でレーダー手を担当していた西条未来が報告した。
「艦長代理、艦種不明の未確認艦が接近してきます!」
ヤマトとガミラス艦隊に接近してくる一隻の艦があった。空母ミランガルに、その艦からの通信が入っていた。艦橋にいたネレディアが指示をした。
「通信回線を開け!」
スクリーンに、その艦の責任者と思われる人物が映った。
「ガルマン帝国、東部方面軍のガイデルである。ガミラス艦隊はゲートを利用するのか?」
ネレディアは怪訝な顔をした。
「ゲートの利用に、特に制限はないと認識しているが?」
「それは承知している。こちらで艦種を識別出来ない艦がいるようなので、それを確認しに来たまでだ」
ネレディアは、ヤマトのことを言っていると理解した。
「我々の友人だ。これからゲストとして、我々の母星に案内をするところだ」
「……なるほど。この天の川銀河で同盟国を作ろうとしている、ということかね?」
ネレディアは、眉をひそめてその質問には答えなかった。暫し間があり、二人は、スクリーン越しに睨み合った。
「……とりあえず、確認しただけだ。行ってかまわん」
「……礼を言う」
通信はそこで終了した。
ネレディアのすぐ背後にいたミランガルの艦長が、不思議そうな表情で話しかけて来た。
「……リッケ大佐。私たちは銀河系は今回初めて来ましたが、今の男に違和感がありました」
ネレディアが視線を艦長に向けた。
「青い肌といい、ガミラス人に似てませんか?」
ふん、とネレディアは鼻を鳴らした。
「奇遇だな。私も同じ事を考えていた」
数日後――。
ヤマトとガミラス艦隊は、銀河系の亜空間ゲートを抜け、一気に天の川銀河を抜け出していた。そして、マゼラン銀河方面へと、銀河間空間を航行していた。
「艦長代理、そろそろ今日の連続ワープを始める時間です」
西条未来に交替した、岬百合亜が古代に報告した。
「わかった」
古代は、艦内通信のマイクを掴んだ。
「総員に次ぐ。間も無く、予定通り本日の連続ワープを開始する。乗員、乗客の皆さん、体が固定される場所に移動するように」
連続ワープは、波動エンジンの負担が大きく、一定の回数のワープを行った後、通常航行を行って、エンジンを安定させる必要があった。
医務室――。
佐渡酒造は、一升瓶を持つ手を止めた。
「なんじゃ、もうそんな時間か。ワープは悪酔いするから飲めんじゃないか」
佐渡はぼやきながら、酒瓶を固定される場所に大切にしまった。
「原田くんがいないからつまらんなぁ」
「先生、カワリに私がイルじゃないデスカ」
何故か、アナライザーが医務室にいて、油を売っている。
「お前、こんなところで何をしておるんじゃ? お前の持ち場は、第一艦橋じゃろう」
「なんだか、ココにいたいキブンなのデス」
「お前、イスカンダルに行ってから、何か様子がおかしいぞ。どこか壊れているんじゃないか? わしゃぁ、人間の医者だから診てやれんぞ」
第一艦橋――。
ヤマトとガミラス艦隊は、連続ワープに突入した。二度目のワープの時、第一艦橋にいた新見薫は、ある違和感を感じていた。
その日、三度目のワープに入る直前、新見はその違和感が確信に変わった。
既に、島が三度目のワープのカウントダウンを行っている。
「島くん。ちょっと待って。艦長代理! 艦を停止して頂けませんか!?」
古代は、新見の剣幕に何かあったと確信を持った。
「島!ワープ中断! 相原、ガミラス艦隊に至急連絡してくれ」
「了解。ワーププロセスを中断する」
ワープに向け、高速で移動していたヤマトは制動をかけた。
「新見さん。何があったのか、報告してもらえますか」
「はい。センサーによれば、艦隊の右舷方向に、何か電気的な強い反応が広範囲に存在しています。ここは銀河間空間で、前回の旅でも観測したことの無い事象です。先ほどのワープの直前にも同じ様に直前になって観測していましたが、少々気になります」
「こっちでも、同様な事象を観測しました」
気象長として、航路上の観測を行っていた太田も報告をした。
「なるほど。太田、右舷方向をメインスクリーンに出してくれないか」
「了解。メインスクリーンに出します」
スクリーンに、何もない宇宙空間の映像が映った。
「見た感じは、何も見えませんね」
「……そうね。視覚で捉えられる事象じゃなさそうです」
すると突然、レーダー席にいた岬百合亜が、勢いよく立ち上がると、そのまま後ずさった。第一艦橋の士官らが百合亜に注目すると、彼女は真っ青な顔で、スクリーンを凝視している。
「あ、あれ……」
百合亜は、震えながらスクリーンを指差した。
同じ様にスクリーンを見上げた北野が、怪訝な表情をして、百合亜の方を振り返った。
「何も見えないじゃないか」
しかし、新見は、はっとして目を見開いていた。
「待って! 何かあるわ」
スクリーンに、先ほどまでは見えなかった何かが、うっすらと映っていた。
古代も、目を凝らしてスクリーンを見ていた。
「む? 確かに、何か見えるな」
「お、女の人……」
百合亜が声を震わせている。
そう聞いて第一艦橋の士官らは、一斉にスクリーンを凝視した。
艦隊の右舷に、うっすらと、若い女性の巨大な像が現れていた。それは、手を胸の前で合わせて跪いており、まるで祈りを捧げているようだ。
「あ……。反応が消えていきます」
太田が、艦外の様子の変化を確認して報告した。
女性の像は、ぼんやりとぼやけており、そしてそのままゆっくりと消えた。
「メルダ少尉。こちらでも、同様の事象を観測した。我々も見たことがない現象だ」
ネレディアがガミラス艦隊側の状況を伝えて来ていた。
「リッケ大佐。こちらヤマトでは、乗組員の動揺もあり、古代艦長は少しここで待機したいと言っています」
「わかった。こっちも状況は同じだ。そうだな。三時間後にワープを再開しよう。古代艦長にそう伝えておいてくれ」
艦内食堂――。
第一艦橋の主な乗員は、先ほどの動揺もあり、交代させられて、ここに集まっていた。
「すっごい怖かった!」
百合亜が星名に抱きついていた。
「百合亜ちゃん。大丈夫?」
星名は、彼女を優しく抱き寄せた。
「全然、大丈夫じゃないもん」
本人曰く、霊感が強いということだったが、彼女は、霊的な存在を近くに感じたと言う。
北野は、コーヒーを飲みながら西条未来と話をしていた。
「北野くん。何があったの?」
「あれは、何と言ったらいいのか……。一言で言うと、女の幽霊?」
「幽霊?」
西条は、眉をひそめて疑いの目を向けた。
「その顔、信じてないでしょ」
北野は不満げであった。掌帆長の榎本が、突然北野の背後に現れて言った。
「そうか、遂にお前見ちまったのかぁ。お前、女に恨まれるようなこと、やってるんじゃあないのか? お前のせいで、死んで化けて出て来たんじゃないのかぁ?」
榎本は面白がって、にやりと笑っている。
「ふーん。あー確かにありそう」
西条は、悪い男を見るように目を細めている。
「それ、どういう意味?」
北野は、テーブルに突っ伏していた。
「幽霊ねぇ……。俺は女神様に見えたけどなぁ」
そのやり取りを見ていた太田が言った。
「そういえば、前に艦内で幽霊見たって噂になったことあったよね」
それを聞いた相原も、何か思い出していた。
「ああ、ヤマトが帰還する時だね。国連宇宙軍の制服を着た幽霊を見たって」
テーブルの端でそれを聞いていた新見は、はっとしていた。
古代くん……?
最初のイスカンダルの旅から、既に数年が経過しており、新見も、そのことをすっかり忘れていた。思い立った新見は、急いで食堂から出ていった。
技術科の研究室にやって来た新見は、真剣な表情で端末を操作していた。彼女は、イスカンダルから地球帰還時の艦内センサーのデータを、データベースから探していた。
あれは確か、展望室。日時は……。
しばらく端末を操作していると、遂にそのデータを見つけた。
「あった!」
データを確認すると、展望室の室内に、静電気のようなものが観測されていた。彼女は、椅子の背に寄りかかると、大きく息を吐き出した。
これでは証拠としては弱い。
それでもあの時、私は彼の存在を見て、感情がかき乱されて、正常な判断が出来る状態では無かった。もしかして、彼が見えたあの事象は、科学的に証明可能な事実だったの……?
先ほどの手を合わせている女性の像が現れた事象との関係性も気になる。今回は、第一艦橋にいた全員が、あれを目撃している。そして、電気的な何かが、確かにあの空間に存在していた。
新見は、更に思考を巡らせた。
コスモリバースシステムには、スターシャがコアと呼ぶ何かが収納されていた。いったいあれは何だったの?
真田は、古代守の記憶が収納されていたのではないか、と推測していたが、それがどうして、霊が見えることに繋がるのか?
地球環境を回復した後も、コスモリバースシステムについての研究に彼女も関わっていたが、どういう仕組みで実現しているのかは解明されていない。あまりにも不可解な装置が多く、解析は困難を極めていた。
真田が、いつか言っていたように、発展しすぎた科学は魔法と変わらない。
もどかしい――。
何かが、見え隠れしているのに、捕まえようと手を伸ばしても、何も掴むことが出来ない。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。