小マゼラン銀河のどこか――。
「タラン。何だね? あれは」
ヴェルデ・タランは、デスラーが見ている窓の外の宇宙空間を見た。
そこには、例の光球が光っていた。
「ああ、あれは、ここに収容されて間もない頃に開発した人工太陽です。以前、バラン星で使おうと研究開発していましたが、長時間エネルギーを維持することが難しく、役に立ちませんでした。最初はああいう失敗作を作って時間稼ぎをしていました。ガトランティスはあれを気に入ったのか、幾つも作っているようです」
「ふむ」
デスラーは、あまり興味無さそうに返事をした。
そこは、小マゼラン銀河で勢力を拡大したガトランティスの勢力圏の中枢である。ズォーダーの居城として作られた巨大な球形の要塞の中に彼らはいた。
「総統、艦隊の整備は順調です。いつでも出発出来ます」
ゲールが手もみをしながら、デスラーとタランの後をついてきた。三人は、要塞の広大なドックへやってきて、艦隊の様子を確認していた。
ガミラスの駆逐艦や巡洋艦、空母が数十隻鎮座している。デスラーらと一緒に来たガミラス人だけでなく、以前からガトランティスに捕虜として囚われていた多くのガミラス兵が解放され、この艦隊に乗ることになっていた。
そのすぐ脇には、ガトランティスの艦船が、更に多く、大量に並んでいた。中には、見たこともない艦種も見受けられた。興味を示したデスラーが、それを凝視していた。
「タラン?」
デスラーが指差す先を見て、タランは頷いた。
「はぁ。あれですね。私が協力して開発しました。カラクルム級という新型艦になります」
デスラーがふっと笑みを浮かべる。
「君のことを長く放っておいたのは、少々失敗だったようだね」
「総統のお目覚めが、もう少し早いとよかったのですが」
タランは、悪びれている様子は微塵もない。
「あれも、君が作ったのかね?」
次にデスラーが指差す方向に、一隻のガミラスの巡洋艦があった。その艦だけ、親衛隊カラーで塗られていた。ゲールは、驚いてその艦に駆け寄った。
「こんな艦、前はなかったと思いますが」
タランも不思議そうな表情でその艦を見た。
「私も知りません。もし、あの色がよろしければ、全部そのように塗り替えますが」
デスラーは、冷めた顔をしていた。
「いや、結構」
「デスラー総統」
三人の背後から、ガトランティスの面々が近づいて来た。ズォーダーの片腕のゲーニッツ総参謀長官と、同じく副参謀長官のサーベラーが二人の人物を連れてやって来た。
デスラーは、右腕を胸に当てて、深々とお辞儀をした。
「これは、これは。右丞相、左丞相のお二人が揃っておいでとは、何か御用かね」
サーベラーは、デスラーのお辞儀がわざとらしいと感じて、不快な表情をしていた。そんなサーベラーの様子に気がついていないゲーニッツは、硬い表情でデスラーに言った。
「デスラー総統、出撃の準備は済んだかね?」
デスラーは、誇らしげにガミラス艦隊の方へ片腕を広げた。
「私の忠実で優秀な部下が、完璧な仕事をしてくれたようだ」
それを聞いたゲールが、感極まって嗚咽を漏らしていた。デスラーは、目の端にそれが見えたため、小さなため息を漏らした。
「汝らに紹介したいものがいる。まずは」
サーベラーとゲーニッツの背後にいた、一人のガミラス人が、前に進み出た。
「デスラー総統。ご無事とのお噂を聞いて、ここまで駆けつけて参りました。私は親衛隊所属、ルッツ・カーゼットです」
そのカーゼットも、ゲールと同じ様に感極まって声を震わせていた。
やれやれ、とデスラーは内心で思っていた。
「デスラー総統。我々は、デスラー総統とギムレー長官が亡くなったとの知らせを、辺境の星域で伝え聞きました。衝撃を受けた我々親衛隊は、残存勢力を集結し今後のことを話し合いました。そこで、持ち寄った情報によれば、ガミラスは、ヒス副総統を暫定代表として新政府を立ち上げました。それだけではなく、民間から徴用した政治家や官僚を揃え、ガミラス帝国の民主化を宣言しました。我々親衛隊に所属する者の中には、民主化に賛同して本星に戻ったものもいましたが、デスラー体制を支持していた危険分子と見なされ逮捕されています。また、艦船で航行中に正規軍と戦闘となり、亡くなった者も多数います。仕方なく、我々は地下に潜りました。正規軍に見つからないように、人の住まない星系を転々とすることもありました」
デスラーは、特に表情を変えることなく聞いている。
「続けたまえ」
「ありがとうございます。数ヶ月前、ガトランティス軍の将校が我々に接触して来ました。イスカンダル侵攻に協力してくれれば、ガミラスを現政権から我々に移譲してくれると。ガトランティスとの協力することに我々の中でも議論になりましたが、最終的に、現政権を崩壊させるチャンスととらえました」
カーゼットは、左右にいるゲーニッツとサーベラーの様子を気にして、不安そうに少しだけ様子を伺った。二人は、特に興味無さそうにしていた。
「我々は、悩んだ末、現状を打開するには、この好機にのろうと決断し、ガトランティスに協力することにしました」
ここまで一気に話したカーゼットは、落ち着きを取り戻した。
「彼らの作戦は、陽動で正規軍の戦力を分断し、その隙をついたサレザー系への進攻でした。我々は、この陽動作戦に協力しています。最近では、一部の二等ガミラス人国家は、デスラー体制の支持を標榜しており、我々に協力してくれるようになりました。ガミラスに協力することで恩恵を受けていた彼らですが、民主化路線は、彼らは見捨てられたも同然で、これまでの権利を奪われ、経済的にも困窮し、安全保障の面からも不安を感じているようです。彼等が協力してくれたことで、戦力は徐々に増強されています。デスラー総統生存の知らせを皆が知れば、大いに士気も上がるでしょう。デスラー総統も、この作戦に参加されるとゲーニッツ参謀長官に伺いました。ぜひ、我々をお供させて下さい!」
デスラーがうつむいて暗い表情を浮かべたと思うと、今度は笑い出した。
「ふふ、はっはっはっは……」
カーゼットや、タランやゲールも呆気にとられていた。
「いやいや、よくわかったよ。確か……カーゼットくん……だったかね? よろしく頼むよ」
カーゼットは、直立不動の姿勢になり、ガミラス式敬礼の為、右腕をあげた。
「ガーレ! デスラー!」
サーベラーは、一瞬暗い影を落としたデスラーの表情を見逃さなかった。しかし、彼が何を考えているか推測するのは困難だった。
ゲーニッツが、次の話をしようと一人のガトランティス人を呼んだ。
「続いてもう一人。汝らに、我が艦隊の護衛をつけることになった。護衛艦隊の連絡役として、ここにいるミルをつける。お前の船に乗せてもらうぞ」
ゲーニッツが、横に進み出た青年を紹介した。ガトランティス人には珍しい、中性的な見た目である。
「護衛艦隊所属のミルだ。よろしく頼む」
デスラーは、目を閉じて頷いた。
「なるほど。監視役というわけだね」
サーベラーは、妖しい笑みを浮かべて言った。
「どう受け取ってもらっても、わらわは一向に構わんぞ」
デスラーはミルが男なのか女なのか判断が出来ず、まじまじと見つめていた。
「ミル君。君の護衛艦隊、頼りにさせてもらうよ。ところで君は……どっち、なのかね?」
「何のことだ?」
ミルは、質問の意味がわからないようだった。
デスラーは苦笑していた。
「いや、何でもない。私としたことが、少々失礼をしたようだ」
大マゼラン銀河外縁――。
「サレザー系に戻る?」
ここは、ディッツ提督の座乗するゼルグート級の旗艦である。ガミラスの外交交渉をおこなう政治家と官僚が、揃ってユリーシャの説得に当たっていた。
「はい。ユリーシャ様。状況が変わりました。ガトランティスの軍勢が、サレザー系を目指して進攻を続けています。我々は、今の活動を中断して、本国の防衛の為帰還します。もちろん、イスカンダル星も防衛することになるでしょう」
ユリーシャは、しばらく黙っていたが、僅かに不快感を見せて言った。
「民主化すると言うのは、本気ではなかったの?」
政治家たちは、困った表情で続けた。
「そんなことはありません。この問題が解決した後、もう一度活動を再開すればよいと考えております」
ユリーシャは、目を伏せている。
「わかりました」
そう言ったものの、ユリーシャは表情を失い、感情を無くしたような様子だった。
数時間後――。
「ディッツ提督。空母に格納していたイスカンダルの船が勝手に発進しています!」
ディッツ提督は、その報告に目をむいた。
「まっ、まさかユリーシャ姫が乗っているのか!?」
「はっ。そのようです」
「ばかな。何をのんびりしている! すぐに追いかけさせろ!」
イスカンダルの恒星間連絡航宙船シェヘラザードは、通常の艦載機のサイズより、かなり大きな船だった。それは、艦隊の空母の甲板に係留されていた。ユリーシャは、宇宙服を着て船に乗り込むと、即座に発進させた。そのまま、艦隊上方へと飛び去り、艦隊から高速で離れていった。
「私一人でも、出来ることをやる。みんなが平和に過ごせるように何か出来ることを」
ユリーシャは、艦隊から離れるため、少し離れたところでワープを敢行した。
ワープアウトした先で、一人ぼっちになって、ユリーシャは少し冷静になっていた。
「何となく飛び出してしまったけど、私一人で何ができるかな……?」
そうやって考えていると、無謀なことをしていると気がついた。自分は、ガミラスの保護があって、初めて大切に扱われて、そして皆に話を聞いて貰えている。自分に何の力も無いことを一人になって思い知らされた。
「どうしよう……。戻ろうかな。それとも、このまま一度イスカンダルに帰るべきかな」
しかし、運悪く、ユリーシャがワープアウトした先では、ガトランティスの艦隊が集結していた。
「ゴーランド提督」
ゴーランドと呼ばれた男は、ガトランティス艦隊で自らの名をつけたゴストーク級ミサイル艦に座乗していた。頭髪の無い頭にあごひげを蓄えており、筋肉質な体型で、ガトランティス人の特徴的な風貌をしている。
「船が近づいてきています。艦種識別の結果、イスカンダルの船と思われます」
ゴーランドは、にやりと笑ってその逞しい体を動かし、床に突き刺していた巨大な剣を引き抜いた。
「わしは運がいい! 捕獲しろ! ズォーダー大帝のところへ連れて行く!」
ゴーランド提督は、巨大なミサイルを持つゴストーク級ミサイル艦を中心とした艦隊を持ち、現在百隻余りの規模が、ここに集結していた。ディッツ提督らのガミラス艦隊からはそう遠くない一回のワープで到達可能な場所である。ここで、更なる艦隊の結集を待ち、イスカンダル攻略に向けて出発する計画の最中だった。
ゴーランド提督は、イスカンダル船の捕獲のため、空母から艦載機デスバテーターを三機発艦させた。そして、駆逐艦一隻がその後を追った。
「ゴーランド提督。イスカンダル船の後方にワープ反応! 艦種識別の結果、ガミラス艦隊のようです。駆逐艦三隻!」
ゴーランドは、剣を振り回した。
「イスカンダル船を追ってきたんだろう。そやつらは殲滅しろ。よし、ミサイル艦を差し向けろ!」
「これは……ガトランティス!?」
ユリーシャも、レーダーで前方にガトランティス艦隊がいるのを感知していた。
「どうする? ガミラスの人たちは、話が通じない蛮族と言っていた。でも彼らと本当に話し合う余地がないか、確かめるべきじゃないかな……?」
ユリーシャは悩んだ。そう言っている間にも、どんどんガトランティスの艦載機と駆逐艦が迫って来る。
ワープアウトした三隻のガミラス艦隊は、イスカンダル船の発見と同時に、ガトランティス艦隊の集結も感知していた。百隻以上の艦隊が集結しており、これ以上の接近は危険だった。しかし、イスカンダル船に戻るように通信を行ったが、この宙域は電波妨害されており、ユリーシャに連絡がつかない。当然、ディッツ提督の艦隊にも連絡がつかなかった。
イスカンダル船が危険に晒されることに、しびれを切らしたガミラス艦隊は、小ワープで、ユリーシャの前方に出現した。もう目視出来るほどガトランティスの艦載機と艦が接近している。
「どうして!?」
目の前に現れたガミラス艦に、ユリーシャは驚愕していた。そして、ガトランティスの駆逐艦とガミラス艦が、即座に撃ち合いを始めた。ガトランティスの三機の艦載機も、ガミラス駆逐艦に襲いかかった。あっという間に双方の艦が炎に包まれた。
そこへ、側面から別のガトランティスのミサイル艦が三隻迫っていた。ミサイル艦の前方に据えられていた巨大な二発のミサイルが、一斉に発射された。ガミラス駆逐艦三隻は、即座に高速で回避行動に移った。しかし、ミサイルはガミラス駆逐艦に命中するのでは無く、付近に到達した途端に爆発した。そのあおりで、ガミラス駆逐艦三隻は、大破して航行不能になった。
そこへミサイル艦が更に接近し、通常ミサイルの集中砲火が加えられる。ガミラス駆逐艦三隻は、大爆発を起こして消滅した。
「ああっ! 何て酷い!」
ユリーシャは、真っ青になってその経緯を見守った。自分の勝手な行動のせいで、一瞬で大勢の命が失われてしまったのだ。そこへ、爆発したガミラス駆逐艦の破片が衝突し、彼女の船はくるくると回って航行不能に陥った。
「……」
ユリーシャは船内で、頭から血を流して失神していた。
「ゴーランド提督。ガミラス艦隊を殲滅しました。イスカンダル船の捕獲にも成功しました」
ゴーランドは、上機嫌で高笑いをしている。
「よくやった! ズォーダー大帝に連絡を取れ!」
ディッツ提督は、ユリーシャも、追わせた艦隊も戻って来ないため、偵察機を飛ばして状況を確認させた。
偵察機は、破壊された自軍の艦と、イスカンダル船が、それぞれ四散して破片が漂流しているのを確認した。この状況から、ガトランティス艦隊の攻撃により、ユリーシャは死亡したと推測されると報告した。また、そこでは、ガトランティス艦隊が続々と集結しており、既に数百隻の艦隊が存在しているのも確認された。
自軍の艦隊の規模を既に超えており、攻撃を仕掛ければ、甚大な被害を覚悟せねばならなかった。ディッツ提督は、苦渋の決断をした。サレザー系に帰還するのを最優先とし、死亡した可能性の高いユリーシャや、集結中のガトランティス艦隊も、放置せざるを得なかった。
ディッツ提督は、その報告を、本国のヒス総統に行った。これを聞いたヒスは、がっくりと項垂れた。
「取り返しがつかないことになってしまった……」
数週間後、ガトランティス大要塞――。
「そろそろ出撃しますか?」
デスラーに与えられた居室で、ゲールはデスラーに尋ねた。
「準備が整い次第出発しよう。ここには、少々長居をし過ぎた」
ゲールは嬉しそうに返事をした。
「ザーベルク!」
ゲールは、慌ただしく部屋を出ていった。その後ろ姿を見送ったデスラーは、タランの方を見た。
「ここは、監視も厳しいからね。まずは、ここを出てからいろいろ相談しよう。君も準備を始めたまえ」
「はっ」
タランは、ガミラス式の敬礼をして、ゆっくりと部屋を出ていった。
ユリーシャは、一週間程前に、ガトランティスの大要塞まで連れて来られていた。しかし、今だに意識が戻っていなかった。それは、頭を強打したことが原因で、それ以外の外傷は特になかった。ズォーダー大帝は、目覚めを待ってから話を聞くと言っており、彼女は医務室で寝かされていた。
サーベラーは、その時、ユリーシャの眠る医務室のベッドの傍にいた。まじまじとユリーシャの姿を見ている。
イスカンダルには、この娘と、スターシャという女王の二人しかいないという。
大帝が求めるような未知のテクノロジーが本当にイスカンダルにあるのだろうか……?
サーベラーは、今回のイスカンダル侵攻作戦に疑問を抱いていた。デスラー総統を自軍に協力させようとしている件にしても、彼が本当に言う事を聞くのか、疑わしいと思っていた。そして、眠っているユリーシャの手にそっと触れた。ごく普通の手の温もりだ。
高貴な民族と聞いたが、われらと何ら変わらん。
ただのヒューマノイドではないか。
サーベラーは、その手を離そうとしたが、突然、逆に手を握られた。
「うん?」
突然、サーベラーの体が糸の切れた人形のように崩れ落ちた。サーベラーは、暫くうずくまっていたが、やがてゆっくりと立ち上がった。
そして、周囲をきょろきょろと眺めると、ベッドで寝ているユリーシャの姿を確認した。
「はてな?」
サーベラーはぽつりと言った。
ズォーダーは、大帝の座に座ったまま、ゲーニッツから、デスラーの出撃とその作戦について報告されていた。そこへ、ふらふらとサーベラーがやって来た。
ゲーニッツは、それに気が付いて声をかけた。
「サーベラー。あの娘は目覚めたか?」
サーベラーは、大帝の座の前で、ぼんやりした顔をして突っ立っている。ゲーニッツは、彼女の様子を訝しげに眺めた。
「ズォーダー大帝。何だか様子が変です。私が連れていきます」
サーベラーが、その言葉に反応した。
「大帝?」
ズォーダーは、サーベラーをまじまじと見つめた。
「どうした。サーベラー。体調が悪いなら休んでおれ。ゲーニッツに送らせるぞ」
サーベラーは、眉をひそめて口を開いた。
「……ズォーダー大帝。なぜ、人々を苦しめるの? 目的は何?」
ズォーダーとゲーニッツは、呆気に取られていた。
「どうした?気でも違ったか?」
ゲーニッツは、慌ててサーベラーの腕を掴んだ。ズォーダーは、様子のおかしいサーベラーをじっと見ていた。
「ゲーニッツ。手を離してやれ」
「しかし」
「いいから、大丈夫だ。手を離せ」
ゲーニッツが手を離すと、サーベラーはゆっくりとズォーダーに近付いた。
「貴様、イスカンダルだな?」
ズォーダーは、特に警戒するでもなく、椅子から立ち上がって、サーベラーの目の前に足を進めた。それをゲーニッツが、真っ青になって横で見つめていた。
「答えて」
ズォーダーは、にやりと笑った。
「こちらの問いにも答えてもらおうか。これまで、この宇宙で出会ったどの生命も、お前のようなことが出来るものはいなかった。さぁ、答えよ。貴様はイスカンダルだな?」
サーベラーは、ぼんやりした表情のままだ。そのサーベラーの口が、ゆっくりと開いた。
「そう。私はイスカンダルのユリーシャ。私の質問に答えて、ズォーダー」
ゲーニッツは、サーベラーの異常な雰囲気に驚いていたが、すぐに気を取り直した。そして、憤慨した様子でズォーダーと彼女の間に割り込んだ。
「貴様! 大帝に対して無礼だぞ!」
それを、ズォーダーが手を伸ばして遮った。
「下がっておれ、ゲーニッツ。イスカンダルのユリーシャ。いいだろう。人々を苦しめる、というのは、このマゼラン銀河の住民を抹殺するか、奴隷にしている行為のことだな?」
「そう。いったいどんな理由でそのようなことを」
ズォーダーは、ごく当たり前のことだ、というような顔をしている。
「抹殺するのは、我々の役に立たないからだ。そして、奴隷にするのは、我々の役に立つからだ」
サーベラー=ユリーシャは、相変わらずぼんやりとしている。
「そのような蛮行が、許されると思っているの?」
ズォーダーは、さも心外だという表情でサーベラー=ユリーシャを見た。
「許されないだろうな。そんなことは、我々もわかってやっている。悪魔の所業だと、私も思う。ここにいるゲーニッツも、お前が身体を乗っ取ったサーベラーも、皆、それを承知の上でやっていることだ」
サーベラー=ユリーシャは、首を傾げた。
「わからない。そう思っているのになぜ?」
ズォーダーは、彼女の姿を値踏みするように、周囲を歩き始めた。
「我々には目的がある。その目的を達成するために、我々は悪魔にもなる覚悟なのだ」
「なら、その目的とは何?」
ズォーダーは、不適な笑みを浮かべた。
「よかろう。これも、宇宙の偶然がなせる縁だ」
ズォーダーは、何と話そうか思案した。
「我々は、アンドロメダ銀河からやって来た。我々の故郷は、遠い昔、千年も前に滅んでしまった。伝え聞くところでは、我が母星ガトランティスでは、星間戦争があったらしい。我々の故郷は、戦争に敗北し、あらゆるものが破壊された。海も、山も、生命も、全てが喪われた。そう、我々が今、他の星にやっているようなことだ。生き残った我々の祖先は、故郷を離れ長い旅に出た。今もその旅は続いているのだ」
サーベラー=ユリーシャは、黙って聞いていた。
「我々の祖先は、他の惑星に住むことは考えなかったようだ。故郷を脱出した宇宙艦隊を率いて宇宙をさすらい、故郷を甦らせる方法を探した。そしてある時、この局部銀河群全体の生命や文明を築いたというアケーリアス文明の存在を知った。想像を絶する技術を持った彼らを探し出せば、故郷を蘇らせる方法が見つかると信じて。実際に幾度か彼らとの邂逅はあった。我々がここに来たのは、彼らがここにいるという情報を掴んだからだ。しかし、彼らとの接触は容易では無い。恐らく、これからも探す旅は続くだろう。我々がこの旅を続けるのは、簡単なことではなかった。それを続けるには、資源や、我々に協力する人々、旅を支える高度な技術が必要だった。その過程で、他の文明との争いが避けられなかった。そうして、いつしか、我々自身が、故郷を滅ぼした侵略者と同じようなことに手を染めることになったのだ」
サーベラー=ユリーシャは、その話に不思議そうな表情になった。
「自分たちが良ければ、他の皆は不幸になってもいいの?」
ズォーダーは、それを聞いて、自嘲するように笑った。
「そうだな。元々は、他の者たちが不幸になるのを望んでいる訳ではなかった」
「どうしても、わからない。ズォーダー、あなたの言っていることは、とても矛盾している」
「そうだ。その矛盾こそ、我々の先祖が既に犯した過ちであり、もはや我々が逃れることの出来ない現実だ。我々の祖先は、そのような悪行に、自らが生きる為に手を染めてしまったのだよ。そして、いつの日か、その罪を償わなければならないだろう」
サーベラー=ユリーシャは、益々困惑した。
「わからない。ズォーダー。あなたの言っていることが、私には理解出来ない」
「善悪を知るものが、なぜ悪行を続けるのか、理解出来ないということだな?」
「そう。それが私には理解出来ない」
「このことは、必要な悪、と我々は理解している。それこそが、我々が求めるもの。既に犯してしまった罪を無かったことにし、そして更には故郷をも救う方法。そのようなことを実現する技術が、必ずこの宇宙には存在すると我々は信じている。我々が背負った罪は、そうしなければ、この困難な旅が続けられなかった必要な悪なのだ。だが、それもいつの日か償える。つまり無かったことに出来ると信じているのだ」
サーベラー=ユリーシャは、困惑しながらも、朧気に理解出来たような気がしていた。彼らの非道な行いは、生きる為であり、いつかそれすらも超越した技術が解決するだろうと信念を持っていたのだ。彼らの強烈な技術信仰のようなもの、貪欲に技術を求める行動原理、これらの謎が、ようやく解けたのだ。
「ズォーダー。私も、少しは分かったような気がします。恐らく、あなた方の先祖は、とても辛い困難な旅をしていたのでしょうね。だからと言って、他の者の幸せを奪い続ける権利は無いはずです。それに、やってしまったことは簡単には戻せない。それには、時を巻き戻すしか方法が無いでしょう。そんな技術は、私たちも聞いたことがない。まして、仮に実現出来たとしても、今、ここで生きている人々が望むことではありません」
ズォーダーは、静かに暗い笑い声をあげた。
「もはや、我々は後戻りは出来ん。必ず、目的を達するまでは。これが、千年も昔からの我々の祖先の願いなのだ」
サーベラー=ユリーシャは、悩んだ。彼らの基本的な望みは、救済なのだ。その可能性があれば、彼らは今の争いを止め、立ち去ってくれるかも知れない。このマゼラン銀河の人々が、これ以上蹂躙されることが無いように、何か行動出来ないか、彼女は考えた。そして、決意して、その話をすることに決めた。
「あなたの話のなかで一つだけ、イスカンダルが手伝えることがある」
ズォーダーは、少し驚いて興味を示した。
「ほう? それは何だ?」
サーベラー=ユリーシャは、少し言い淀んだが、決意して言った。
「私たちの星には、汚染を浄化し、惑星を再生させることができるシステムがある。あなた方の悪行を無かったことには出来ないけど、あなた方の悲願である、故郷の復活が可能」
ズォーダーとゲーニッツは、それに衝撃を受けた。
「何だと……?」
ズォーダーは、頭を抱えて膝をついた。
「イスカンダルのユリーシャよ。その技術は、いつからイスカンダルにあったのだ?」
「千年近く前から、と聞いてる」
「千年……?」
ズォーダーは、それを聞いてゆっくりと立ち上がった。そして、悲しげな声で泣き笑いをしだした。
「千年か。それがイスカンダルに。何ということだ。ここに、我々の祖先が求める技術があったとは」
「ズォーダー大帝……」
ゲーニッツも、ズォーダーと同じように泣いていた。
「そうか。千年前、すぐにここに来ればあったのだな。だが、もう遅すぎる。我々はこの手を血に染めてしまった。残念だよ、ユリーシャ」
サーベラー=ユリーシャは、彼らを優しく見つめた。
「今からでもいい。これ以上、人々を苦しめないと言うのなら、あなた方は、それを受け取ってここを去ればいい」
ズォーダーは、両手を広げて手のひらを見ている。
「我々が、この血に染まった手で、幸せを掴めると? 今さら不可能だ」
「そんなことはない。過ちは、二度と起こさないと誓い、償いをすればいい。私たちも、同じだから」
「どういうことだ」
サーベラー=ユリーシャは、暗い表情になった。
「私たちも、千年以上昔、このマゼラン銀河を支配するために、この手を血に染めたことがある。そして、過ちに気付き、千年もの間、償いを続けてる。それは、今も……。私から、その装置、コスモリバースシステムをあなた方に渡すように……、あなた方を許すように、私の姉である女王スターシャに頼んでも構わない」
ズォーダーは、感情のたかぶりを抑えると、腕組みして、彼女に言った。
「ユリーシャよ。本当にお前の姉は、我々にそれを素直に渡すと思うか?」
「それは……」
「その装置、コスモリバースシステムのようなものが存在するのなら、やはり我々が望む技術は、この宇宙に存在するに違いない。我々は、これからイスカンダルに進攻する。そして、そのコスモリバースシステムを奪い取るだろう。それが我々の生き方だ。その装置を研究すれば、もしかしたら、時を操る術が見つかるかも知れない。見つからなくても、我々は研究を続けながら、これまで通り、再びアケーリアス文明の技術を探す旅に出ればよい。必ずそれがあると我々は信じる」
サーベラー=ユリーシャは、悲しげな表情をしている。もう、互いにわかり合うことは出来ないのか、彼女は自分の無力さを感じていた。
「帰って、お前の姉に伝えよ。それを我々に渡すか、死か、どちらかを選べと」
数時間後――。
「全艦発進せよ!」
タランが、デウスーラの艦橋で、ガミラス、ガトランティス混成艦隊全艦に通達した。艦橋の中央で、デスラーは全艦隊の発進を見守っていた。
「デスラー総統」
艦橋に上がってきたミルが、背後から呼び掛けた。
「何かね。ミルくん」
ミルと一緒に、一人の若い女性が立っている。デスラーも、タランも、それを見て驚いた。
「……ユリーシャ様ではないかね?」
ユリーシャは、暗い顔でそこにぽつんと立っていた。
「……デスラー総統。生きていたんだね」
ユリーシャは、先程の会見の無力感で、デスラー生存にも驚く感情がわかなかった。既に、サーベラーの身体から離れて、元の体に戻ってはいたが、全く元気が無いようだった。
「どういうことだね。ミルくん」
「ズォーダー大帝が、この娘をイスカンダルに送り届けよとのご命令だ」
デスラーは、僅かに首を傾げる。
「ふむ。よかろう」
ガミラス、ガトランティス混成艦隊は、ガトランティスの大要塞を出発し、ワープしてその場から消えて行った。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。