待っていてくださった読者の皆様申し訳ございませんでした。
決闘を終えて学校から帰ってきた兼一。
島津寮の自室で兼一は掃除を済ませてお茶の準備をしていた。
何故ならば朝にクリスと約束していたマルギッテに武器を受け渡す約束を果たすためだった。
「よし、準備は終わった。そろそろクリスさん達がくる頃かな」
兼一がドアを見るとそれと同時にノックされる音が聞こえる。すぐにドアを開けてクリスとマルギッテに挨拶をした。
「やあ、クリスさん」
「お邪魔します、兼一殿」
「マルギッテさんは初めましてですね。僕は白浜兼一です。よろしく」
兼一は手を出して握手しようとする。しかし、マルギッテは何も反応せず兼一を鋭い眼光で睨みつけていた。
「あ、あの・・・」
「・・・・・・」
「マルさん?」
「っ!・・・マルギッテ・エーベルバッハです。覚えなさい」
「あっ、はい」
結局、握手はしてもらえず諦めた兼一は2人を座らせた。
「粗茶ですがどうぞ」
「うむ、ありがとうございます!おおっ!美味い!」
「そうですね、お嬢様」
お茶を飲んで喜んでいるクリスを見て微笑むマルギッテ。しかし、兼一には相変わらず人を倒せそうな眼で見ている。
何か悪い事をしたのだろうかと思いつつ兼一はさっそく本題に入ることにした。
「クリスさん、マルギッテさん。これが私の知り合いから作って頂いたトンファーです」
「おおっ!」
「・・・これは!」
机に置かれたトンファーを見て目を輝かせるクリス。マルギッテもそのトンファーに目の色を変えた。
「・・・・・・」
「どうだ、マルさん?」
「・・・少し振っても宜しいでしょうか?」
「はい。物を壊さない程度でなら」
「では・・・」
トンファーを手にしたマルギッテは構えを取る。そして我流であろうトンファー捌きを見せる。
トンファーは空を斬ってマルギッテはまるで舞っているかの様に動く。しかしその動きは舞と言う緩やかなものではなく、一発一発の動きが必殺になりうるものばかりだった。
「・・・これは素晴らしい。まるで自分と一つになったかのような一体感を感じられます」
「本当か!それは良かった!兼一殿、マルさんも気にいってくれた。ありがとうございます!」
今まで感じた事のない手応えで感動するマルギッテ。クリスもマルギッテが気にいってもらえて嬉しそうである。
「それでこれはいくらするんだ?」
「お金なんていりませんよ」
「えっ?しかしそんな訳には・・・」
「この制作者とお金が欲しくて作ってくれた訳じゃないし、そのトンファーを大切に使って頂ければ満足ですよ」
笑顔でそう言う兼一だが、クリスはそれで納得がいかない顔をしていた。
「むぅ・・・。では兼一殿に何かお礼をさせてもらえないだろうか?あなたにもお世話になった。是非ともお礼をさせて欲しい」
「大丈夫ですよ。僕は満足して頂いただけで充分です」
「そう言う訳にはいかない。ここまで世話して頂いて何もしないのは騎士の名折れだ!」
「うーん・・・」
必死に言うクリスだが、兼一としては大した事でもないから礼など必要はないと考えている。
しかし、少しの付き合いだがクリスがこういう場面では譲ることは決してないと理解している。
理解した上でどう応えるか考えているとマルギッテが行動に出た
「貴様・・・お嬢様のありがたいお礼を受け取りたくないと言うのか?」
「い、いえ・・・そういう訳では・・・」
マルギッテが殺気を放ちつつ貰ったばかりのトンファーを使い兼一を脅していた。
「じゃ、じゃあ僕が困った時にクリスさん達にお手伝いしてもらう。それで良いかな?お礼なんて全く考えていなかったから決められないんだ」
「ふむ。まあ、無理に寄り添って決めさせるのは良くないな。了解した。マルさんもそれで良いか?」
「はい。勿論ですとも」
殺気を無くしてすぐにいつもの表情で返事をするマルギッテ
「では困った事があれば何時でも呼んでくれ。では、また明日!」
「・・・・・・・・・失礼します」
2人は満足そうに部屋を出て行った。その出て行く際、満足そうに出て行くクリスに対して冷たい眼差しを送りながら出て行くマルギッテを兼一は見逃さなかった。
「では今月も異常なしかのう?」
「はい。問題ありませんよ」
兼一はクリス、マルギッテの話が終わった後、近況報告をする為川神院に来て鉄心と話している。
「現われるのは表一般レベルの武闘家くらいですね。百代さんは余裕で倒していました」
「そうか・・・。残り数ヶ月なにもなければよいのじゃが・・・」
兼一の方向に安心してもらう鉄心。最後の高校生活を無事に過ごして欲しい鉄心はため息を吐く
「では、僕はこれで。あっ、ついでにここの見学して行っても良いですか?」
「むっ?それは構わんぞい。お主からみたらつまらんかもしれんが、好きにせい」
「ありがとうございます。前からここの造りが気になってたんですよね」
「川神流の鍛錬ではなく、川神院の造りの方が興味あるとは・・・」
嬉しそうに部屋を出て行く兼一を見て呆れる鉄心であった。
「やっぱり、この川神院の造りは面白いな。うん・・・?あれは・・・?」
兼一が川神院を周っていると見知った人を見つけた。
「一子!ラスト1セットネ!」
「は、はい!あっ!ちょっと待って下さい、ルー師範代!おーい、兼一さーん!」
一子が兼一に気づいて手を振ってくる。兼一もそれに応えるように手を振った。
「一子。ラスト1セットやってなさイ。私は彼ト話をして来るヨ」
「あっ、はい!」
一子が走り込みを始めると一人の男が兼一の方へと向かった。
「やア。君は白浜兼一クンだったネ?」
「はい。あなたは川神学園の教師であり、川神院の師範代ルー・リーさんですね?そして今回の事情を聞いている関係者の一人」
「そうだヨ。今日は総代に近況報告の日だったネ。私モ気になってるヨ」
「特に問題はありませんよ。今のところはですが・・・」
「そうだネ。油断ならなイ。いつ襲ってくるカわからないからネ」
真剣な顔で話すルー。闇がいつ襲って来るのか誰も分からない。
「まあ、気にし過ぎても仕方ないですよ。余裕を持っていきましょう」
「・・・凄いナァ、君は。その歳で裏の世界生きているだけはあるネ」
「まあ伊達に死線を潜っていませんよ。ハハハッ」
「おうっ、目が笑ってないネ・・・」
兼一の遠い目が色々物語っているのを理解したルーは思わず苦笑い
「うりゃああああぁぁぁぁっ!!」
「・・・頑張ってますね」
「うん!一子は毎日頑張ってるヨ」
「それで修行はこれから始めるんですよね?見学しても良いですか?」
「えっ?」
兼一の言葉にルーが唖然とした表情を見せる。兼一もルーの表情を見て意外そうな表情を見せた。
「これは準備運動では?」
「いや、もう最後の訓練を行っているところネ・・・」
「そ、そうなんですか・・・」
最後の走り込みを追えたのか、手を膝につけて息を整える一子。
兼一から見てあの一子の状態ならばまだまだ修行は行える。
もし梁山泊の修行だったら片方に100キロの重りを付けて計600キロくらいの重りを付けた複数のタイヤを引いて都内を一周したり、各師匠から技の修行受けたりなど様々な修行を開始していただろう。
残念そうにしている兼一。その様子を見てルーは話しかけた。
「君の目から見テ、一子は師範代クラスまで強くなれルと思うかイ?」
「・・・・・・」
兼一は困った。
答えではなく、ルーの質問に苛立ちを感じたのだ。
ルーは仮にも一子の師匠と言っていい存在。その師匠が弟子を信じきれてないのだ。
師匠と弟子は共に成長し合う存在。
それは兼一も身を以て感じている。そうでなければ今頃兼一はここに居ないのだから。
弟子である一子は師匠であるルーを信じ、学び、真っ直ぐな心で修行を行っている。
しかし、肝心の師匠ルーが弟子の一子が強くなれるか、他人に聞いてしまうくらい自信を持てていなかった。
師匠と弟子が共に成長しない限り、強さの一線を乗り越える事は出来ない。
その事を伝えるべきか?
だが、これは人から言われて行うのと自分で気付くのとでは大きな差が出てしまう。
「一子ちゃんは・・・いえ、なんでもありません。用事がありますので、僕はこれで失礼します」
「・・・・・・」
兼一はそう言うとその場から逃げるように立ち去る兼一。
ルーはそんな兼一をただ見ていることしか出来なかった
川神院から島津寮ではなく、なぜか河原に来ている兼一。
「こんな時間にどうしました?マルギッテさん」
「やはり気づかれていましたか・・・」
近くにあった橋の影から現れたのは放課後に会ったマルギッテだった。
「僕に何かご用でも?」
「なに、あなたにご教授願おうと思いましてね。梁山泊の史上最強の弟子」
「!・・・どうしてマルギッテさんがそれを?」
マルギッテは兼一が何者なのか知っている。その理由を聞いてみるが、マルギッテは笑みを浮かべる。
「私と戦って勝てたら教えてあげましょう!」
「うわっ!?」
トンファーを使って襲いかかってくるマルギッテ。兼一はそれを避けて距離を取った。
「どうしました?あいつの話が本当ならばあなたは数秒で倒せる筈ですが?」
「マルギッテさん。その人から僕の話を聞いていたならどうして襲いかかってくるのですか?」
「川神百代と同じですよ。強者がいれば戦いたい。ただそれだけです!」
「眼帯を取った。・・・と言うことは本気で来るのか?」
兼一はマルギッテの眼帯の意味を理解していた。マルギッテの気が膨れ上がったのを感じ取っていたからである。
「うおおおぉぉぉぉ!!」
眼帯を外したマルギッテが猛攻を仕掛ける。
だが、兼一はそれを簡単に避けている。受けもせず、ノーガードでマルギッテの猛攻をすれすれで避ける。
「白浜兼一。なぜ反撃しない?」
「えっと・・・僕は女性に手を上げない主義でして・・・」
「なんだと?」
兼一の一言にマルギッテが目をさらに鋭くする。
「貴様、この私を愚弄するか!」
怒りでさらに気が膨れ上がり、マルギッテの猛攻がさらに激しくなる。
兼一はこれ以上続ければ百代に気づかれる恐れがある。そのため兼一は苦渋の選択をする事にした。
「仕方ない・・・」
「来るか・・・」
兼一が初めて構えをとる事で警戒するマルギッテ。じりじりと間合いを詰める。
「トンファーキック!」
マルギッテの強力な蹴りが兼一を襲う。それを避け兼一はマルギッテの懐に潜り込んだ。
「馬師父直伝!馬家縛札衣!」
「なっ!?」
マルギッテの表情は驚きのものへと変わり、同時に顔を赤く染め上げた。
兼一は一瞬の内にマルギッテの軍服を剥ぎ取り、それを使ってあられもない姿で縛り上げたのだ。(どんな姿なのかは大きなお友達のご想像にお任せいたします)
「う、動けない・・・」
「ああ・・・。これだけはしたくなかったけど手っ取り早く抑えるにはこれしかなかったんです。ごめんなさい」
「白浜兼一・・・!言葉と顔が一致してないぞ!」
「何のことでしょう?」
川神に来てから一番だらしない顔を見せる兼一。美人があられもない姿で縛られているのだから男としてそうなってしまっても仕方がないことだろう。
「くぅっ!振り解こうとすると、んっ!余計に食い込んで、あっ!」
「もう襲い掛からないというのでしたら開放しますが?」
「・・・わかっ、た。んんっ!だ、から、解いて、くれ、ああっ!」
「・・・・・・・・・」
「お、おいっ!な、なんだ、その少しもったいないなって顔は!」
負けを認め開放してもらえるようにお願いするマルギッテ。しかし兼一はそんなマルギッテを見て少し考え込んでしまった。
「そ、そそそそんか顔していませんよ!?」
「動揺しまくりの言動と鼻血を流したその顔で信用できるか!」
「すみませんでした」
兼一は素直に謝るとマルギッテの拘束を外す
「んっ、んんっ、あっ!」
「・・・・・・・・・・・・」
外す時にきつくしてしまったのか、時折マルギッテの喘ぎ声に兼一はなんとか理性を保ち外した。
「そ、それで僕のことは一体誰から聞いたんですか?」
「その前に鼻血を拭いたらどうです?」
「はい」
河原の水で顔に付いた鼻血を洗い流す。何とも締まらない感じになってきたが兼一は気を取り直して再度聞いた。
「僕のことは一体誰から?」
「・・・それはロシア軍最年少で少佐となった男。潜熱の氷塊(グローラー)の異名を持つボリス・イワノフだ」
「ぼ、ボリス!?」
まさかの戦友に驚きを隠せない兼一。それに構わずマルギッテが話を続けた。
「私は奴と国同士の軍事会議でよく顔を合わせていた。一目で奴には敵わないと思わせるほどの雰囲気を醸し出していたよ。とある日、私がクリスお嬢様に日本の陶芸品を贈り物にしようと雑誌を読んでいたら奴が私、いやその雑誌を凝視していたのだ。理由を聞いたら自分のライバルが日本にいると答えた」
マルギッテは兼一を一度睨み付けてから話を再開する。
「その男の名前が白浜兼一。貴様の事だった。正直、信じられなかった。当時、闇を知らなかった私は日本で奴に対抗できる者など川神鉄心か川神百代ぐらいかと思っていたのだから」
「闇のこともご存知で?」
「ああ。貴様の話をクリスお嬢様のお父上で私の上官であるフランク・フリードリヒ中将からお聞きした。決して触れてはならないものの一つである説明された。白浜兼一という男はその闇と戦っている正義の武道集団梁山泊の一番弟子と」
「ま、まさか僕の名前も知れ渡っているなんて・・・」
「今更なにを言ってる。闇の存在を知っている者ならば一度は必ず耳にする」
頭を抱える兼一に呆れるマルギッテはさらに追い討ちをかけて兼一を落ち込ませた
「話を戻すがボリス・イワノフが一度も勝てず、闇と言う裏世界を蹂躙する者達と戦う男に興味を持ったのだ。その実力が一体どれほどのものなのかと」
「それで僕に襲い掛かってきたと・・・」
「ああ。やはり想像以上の腕前だった。私の攻撃は一度も当らず、一瞬で私の動きを封じた。破廉恥な技でしたが・・・とても破廉恥な技でしたが、とてもお見事でした」
「・・・・・・・・・」
じっと睨み付けるマルギッテに顔を背ける兼一。
「あなたが何の理由でこの川神市にいるのか理解できませんでしたが何かの任務で?」
「川神百代さんの護衛です。僕の正体がばれないようにですが・・・」
「なるほど。だから決闘のときは全く気を感じられなかったのですね」
「見ていたんですか?」
「ええ。ですが、あれでは逆に怪しまれますよ。私ではなく川神百代が見ていたのであらば私と同じことをしていたでしょう」
確かに軽率だったなと反省している兼一。
「マルギッテさん、この事は内密でお願い致します」
「わかりました。あなたにはこのトンファーを頂いた恩があります。約束致しましょう」
「あ、ありがとうございます!」
「ですが、条件があります」
「じょ、条件?」
何か無茶なことでも頼まれてしまうのだろうかと心配しながら兼一は身構えた。
「一つは機会があれば私と戦うこと。もう一つ、これは絶対に守ってもらう・・・」
マルギッテの言葉に唾を飲む兼一。私闘以上に大切な条件と一体何なのか
「クリスお嬢様には絶対に手を出さないことだ!いいな!わかったか!」
「・・・あっ、はい。わかりました」
拍子抜けした兼一。
だが、自分の正体を知る人物が増えたことで悩み事が増えてしまった兼一であった。
いかがでしたでしょうか?
久しぶりに書いたので違和感とかあるかもしれません。
その時は本当にすみません。
次はもっと早く更新できるように頑張ります。
ろくに返事していませんでしたが、感想や評価を入れてくださったらやる気が上がりますので宜しくお願い致します。