Disruptor   作:てんぞー

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Anger and Hatred - 2

「サンキュサンキュ」

 

「これぐらいは気にするな」

 

 動きやすいジャージに着替え―――ずに、武装形態を此方にもクラウスに展開して貰った。無論、自分にバリアジャケットや武装形態なんて物はいらない。そんなものがなくても魔力刃なんて握って砕けるし、炎を掴んで消す事ぐらいたやすい。とはいえ、服は無敵じゃないし汚れる。そして派手に汚したり破いたりすると母さんがキレる。キレたときの母さんは父さんよりもはるかに怖いので、体を動かすならジャージか、或いはクラウスとかに展開して貰っている。これで体を汚したりしても平気だ。

 

 そういう訳で何時もの公園にやってきた。魔法の使用許可が下りているこの公園では魔法の練習、そしてストライクアーツなどの鍛錬が盛んにおこなわれている。だからここで体を動かすのが一番良い。

 

 いや、一番良いのは環境的に言えば騎士団の訓練場だが、あそこは色々と手続きとかがあって面倒だ。ヴィヴィオを頼ればパスできるのだが、それはちょっと頼りすぎだと思う。

 

 なのでこうやって公園にクラウスとやってきて、軽く柔軟で体を解す所から始める。それが終わればすぐにでも鍛錬を始める事ができる。適度に体を温めたところで手を腰にやりつつ、

 

「で、どうすればいいんだろう」

 

「だから貴様は阿呆なのだ。ジークが付いた状態で貴様対策を今頃、ヴィクターは練っているだろう。一番お前の攻略方法というもので開発しているのがおそらくあのヘンテコ口調女だからな。対策を練る上では欠かせない女だ」

 

「というかジーク、皆のメタ張ってるでしょあの子」

 

「だよな」

 

 ジークリンデ・エレミア。

 

 エレミアの最新最終の娘と今は言われている。つまりエレミアという血統の果て。自分がカルマギアの果てであるなら、ジークリンデはその対極だ。極限まで継承された経験、どこまでも詰め込まれ継承された技術、それを運用する為のバランスの良い肉体と高い魔力。経験と技術を運用するベースとして最適化された肉体をジークは生まれた時点で兼ね備えている。技量、そして経験こそが最強の個人を形作るというエレミアの理論を体現している女だ。だから基本的に、何でもできるのだ。それが《エレミアン・クラッツ》というファイティングスタイルなのだから。

 

 組み、打撃、射撃、斬撃、魔法、何でもハイレベルにこなせる。

 

 器用貧乏ではなく器用万能。

 

 的確に相手に弱点を攻めながら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というのが《エレミアン・クラッツ》の恐ろしさだ。その場で戦闘をしながらスタイルを切り替えて一気にキルゾーンに引き込む戦い方を攻略するのは難しい。何故なら対策を用意したところでそれを切り替えて、無駄に終わらせるからだ。ジークを攻略するにはすべてが高いレベルで極まっているのか、或いは超一点特化で短所も長所もぶち抜くような勢いで押し込むしかない。

 

 なお、ジークは()()()()()()()()()()()数少ない一人だ。

 

 そう、殺し合い。

 

 ジークと戦うという事は本気になるという事でもある。妥協、遠慮、迷い、躊躇、油断、慢心、てかげん―――これらが一切入る余地がない。全力で殴ろうとすれば全力で殴り返してくる。この時、互いの体を壊すレベルで殴り合う事になるので、必然的に殺し合いに発展する。なのでジークとの本気での殴り合いは禁止されていたりする。始めれば最後、どっちかが最低限入院する必要が出てくるからだ。

 

 ただ、まぁ、

 

 一度は全力で殺し合ってみたいよね、とは思う。エレミアの人たちはかなり好意的だったし。

 

「ジークがヴィクター側に回ったかぁ……対策練ってくるだろうなぁ」

 

「貴様の脆弱性を考えると間違いなくスタンからの場外判定を狙ってくるだろうと、俺は思っているな」

 

「あー……」

 

 スタン―――つまりスタンショック。電気使いの良くとる手段である。ヴィクトーリア・ダールグリュンは電撃使い、雷の変換資質保有者である。その為、呼吸するように魔力を雷へと変換する事が可能であり、その性質を付与して戦う事が出来る。またジークからの手ほどきを受けているヴィクターはそこら辺の使い方がえぐく、

 

「神経に電流流してスタンとか取って来そうだよね」

 

「貴様相手に手加減や遠慮の類は一瞬で敗北するって解っているだろうからな。俺もその方向性で来ると思うが……それだけでは足りないな。面制圧、お前の一撃を回避し、受ける為の手段……色々と仕込んでくるだろうからそれを予測する所から始めなくてはならんな」

 

「うーん」

 

 ヴィクター対策? そんなもの自分にはない―――いや、必要ない。

 

 なぜなら自分が父さんから学んだ流派、スタイル、戦い方とは物凄いシンプルなものだからだ。その根幹とも呼べるものは既に叩き込んである。

 

 即ち《カルマギア式決戦道》である。

 

 別名、《カルマ・アーツ》とも言う。

 

「まぁ、僕ができる事なんて耐えて殴る程度なんだけど」

 

「間違いなくそこを狙われるぞ。貴様の父ならともかく、貴様はスタンとかその手を無視しながら殴り合えるわけじゃないだろう」

 

「いや、まぁ、うん」

 

 父さんは凄い。燃えても凍っても感電しても切られても何もなかったかのように盾と剣を構えて普通にそのまま戦い続ける。自分が目指すべきハイエンドとしての姿は、父さんが示してくれている。ただやっぱ、神経に直接電流を叩き込まれても無視して動ける姿は気持ち悪いの一言に尽きると思う。

 

 とはいえ、対策の対策と言われるとそれぐらいしかないのだが。

 

「ともあれお前が武器を握れないとなると、素手で殴り合う事になる。絶縁グローブぐらいは用意したい所だなぁ」

 

「多分力こめたら破れると思うんだけど」

 

「武器破壊王の名前でも目指してるのかお前??」

 

「だって、大体何を握っても壊れるし……」

 

 片手剣? 柄が折れる。

 

 槍? 握り壊してしまう。

 

 斧? 叩きつけたときに刃が砕ける。

 

 弓? 弦が千切れる。

 

 大剣? 何発か耐えてから柄と刀身が壊れる。

 

 デバイスという武器種そのものが脆いのだ。魔導師が魔力を通して使う前提だから、強度は魔力を前提としたものになっている。魔力による補助抜きとなると、ギミックウェポン程度の強度しか存在しない。そうなるともう、簡単に壊せてしまう。そういう理由から、デバイスの類の武器は持てない。持てば片っ端から破壊してしまうからだ。故に許されるのはこの肉体のみだ。この拳でしか戦えないのは趣味でもなんでもなく、純然たる事実として。

 

 父さんは普通に魔力を使えるので、デバイスを魔法で強化している。というか使用している魔法なんてほとんど強化魔法だけだ。それで自分の肉体とデバイスを限界まで強化している。

 

 それでもカルマギア家は純粋な物理ゴリラの家系なので、父さんも父さんでかなり短いスパンでデバイスを握りつぶしている。限界まで物理的なスペックを追求した弊害でもある。結局、カルマギア一族は武器を破壊するという業から逃れる事は出来ないのだ。それでも父さんと自分で違うのは、父さんは少なくとも数か月単位、或いは年単位で武器を持たせられるという事だろう。

 

 僕の場合、一回の戦闘で最低1個破壊する。

 

「一番簡単でやりやすい方法は武器で雷撃を弾く事なんだがな……」

 

「武器が使えないとなると難しいなぁ……拳でやれれば良いんだけど」

 

 いや、普通ならできるのだが。ヴィクターもジークも、そこらへん対策を練ってくるだろう。となるとこちらもその対応手段を考えなくてはならない。

 

 カルマギア家の戦い方はシンプルだ。

 

 前に出て殴って殺す。

 

 だから対策、対応というものは基本的に相手が出してくる手段を理解し、それを回避する方法を記憶するという事に集約される。特別な手段を取る必要とかはないのだ。このフィジカルこそが最強の武器なのだから。問題はそれをフォローする為の手段がない事だろうか。

 

「……もう、いっそのこと壊す事前提でやるか?」

 

「え?」

 

「いや、だから武器を壊す事前提でやるって話だ。今じゃワンオフの時代だが、古代ベルカなどの戦乱期では寧ろ武器は使い捨てが基本運用だったからな。壊したら捨てる、殺したら奪ってなんでも使って戦うのが基本スタイルだ」

 

 クラウスは思い出すようなしぐさを取りながら話を進める。

 

「だったらそれに倣って、最初から武器を使いつぶす前提で戦えば良いんじゃないか? ワンオフのデバイスは確かに高価だが、まともに代理演算すらできないアームドデバイスならかなり安く手に入る筈だ。それを2個3個とかじゃなくて、10個ぐらい揃えて装備した方が早いんじゃないか? お前の場合は」

 

「……一理あるけどさ、物自体はどうするんだよ。そこまでそろえるの結構お金かかるだろ」

 

「そこはほら……親にねだるとかさ」

 

「うちは裕福じゃないよ!」

 

 カルマギア家は一般へと帰属した時に、財産の大半は聖王教会へと寄付している。自分たちの得た財はそれこそ聖王家の為のものであり、一般になる以上はそれほどの財はいらないという判断から祖父と祖母がやった事だ。

 

 まぁ、この後でヴィヴィオの存在が発覚して血涙流しながら腹を切ろうとするところを総出で止めにかかったのだが。

 

 ともあれ、

 

「コスト的に無理」

 

「……そうなるか」

 

 無論、クラウスには自分の親を頼って武器を用意するという手段もあるだろう。だがその施しがこっちのプライドを刺激するものであるというのを解っている。だからそういう提案をしていない。そこらへんは、まぁ、口にしなくても伝わる事だ。

 

「……どうしよ」

 

「現状、感電するなとしか言えないぞ」

 

「喧嘩売ってる?」

 

「お前の父親を見ろ」

 

「……ごめん」

 

 父さん、電撃も毒も通じないからなぁ、と思い出す。うん、まぁ、本当の意味で人間辞めてるのはあっちだよねって。

 

「とりあえずルールとレギュレーションを確認するか……何か抜け道があるかもな」

 

「そう簡単に抜け道が用意されてるとは思わないけどなぁ」

 

 クラウスがホロウィンドウを浮かべる。そこに表示されているのは公開されている従士選抜の大会概要やルール等のページだ。それを広げて、その中から自分たちが取れる手段を確認する。参加してくる連中はみんな、ワンオフ型のデバイス持ってくるんだろうなぁ、なんて事を考えながらクラウスと共にルールを確認して行く。

 

 その中でクラウスがお、と声を零して見つけるものがあった。

 

「持ち込み武器はデバイスである必要はないらしいな。なら適当に試合前と試合後に魔法を使って武器を作れば問題なく補充できるなこれ」

 

「良くそういうのを思いつくな……」

 

「お前ら3人が脳みそ使わなさすぎなだけだ。スペックが無駄に高いから、それに甘えすぎだな」

 

「ごもっともです」

 

 ちなみに身内で一番素の頭が良いのがヴィヴィオ、対処能力が一番高いのがジーク、バランスが良いのがヴィクター、そしてキレが良いのがクラウス。つまり単純なスペックで言えば覚えたり実行するのはヴィヴィオなのだ。だが即座に回答を用意できるのがジーク。安定しているのがヴィクターであり、

 

 一番悪辣な手段や、容赦のなさ、そして目的を達成する為の明確な道筋を見つけられるのがクラウスだ。つまり知識を運用するのが上手いタイプだ。戦う時も、純粋な戦闘力でアドバンテージを奪って行くのが自分やジークに対して、クラウスは状況を自分の有利へと持ち込んで一方的にハメ殺したりするのが非常に得意だ。それでいて別にスペックが劣っているという訳じゃないのが厄介だ。

 

 身内連中、こういう奴ばかりだ。

 

「俺がセコンドとして入って、武器を渡せばよさそうだな」

 

「そこまで頼っていいのか?」

 

「気にするな。親友の晴れ舞台だ。これぐらいはさせて儲けさせろ」

 

「お前……」

 

 レギュレーションには書かれてないから何も問題ないんだよなぁ、とクラウスがげらげら笑いながら指摘している。本当にこういう抜け穴とか見つけて実行するのが上手い奴だった。ただそうやってクラウスを味方につけていると、少しずつだが希望が見えてくる。

 

 その事にちょっとだけ、胸が軽くなるような気持ちで、

 

「―――お、無能シドじゃーん」

 

 聞きたくもない声に、一気に気分が叩き落された。そういえばここは公園で、公共施設なんだからだれもが使えるという事実を忘れていた。

 

「こんな事なら教会の訓練場を使えばよかった……」

 

「所詮雑魚の戯言だ、気にするな。連中は無駄にCO2を排出する事だけが生きがいだからな」

 

「物凄い理論展開してきたなクラウス」

 

 小声で闖入者をバカにしつつ、視線を声の方へと向ければ、ジャージ姿で公園へとやってくるどこぞで見た上級生たちの姿が見えた。その手にデバイスの姿が見える辺り、同じように公園に練習に来てたのかもしれない。だが取り巻きを連れて、此方を蔑むような視線を送る事は苛立つ。だが何よりも殺したくなるのはその視線を俺だけじゃなくてクラウスにも送っている事実だ。俺と一緒に居るから同じ括りに入れると? 蔑むと? 撫でれば崩れる様な芥の癖して。

 

「おいおいおい、もしかして練習とかしちゃってるつもりぃ?」

 

「魔法もない癖に? バッカじゃねぇの? 魔法が使えないと脳みそまで―――」

 

腹パン断空拳!!

 

 耳障りな言葉を遮るように空気をたたき出す音と、見事な打撃音が響いた。気づいた時には既に踏み込みを終えていたクラウスの拳が今喋っていた上級生の鳩尾を拳で穿っていた。手の早すぎる動きにクラウスを呆然と眺めていた。

 

 腹パンをキメたクラウスは拳を取り出したハンカチで拭ってからふぅ、と息を吐いて此方へと戻ってくると、良い笑顔で上級生へと視線を戻した。

 

「で―――なんだ貴様ら? 俺とシドに用事か?」

 

「お、お前! 何をやってんだよ!」

 

「いきなり何を殴ってるんだよお前!? 頭おかしいのがっ!?」

 

グレート腹パン断空拳!!

 

 また一人公園の大地に沈んだ。その光景を上級生たちは恐怖のまなざしで見ていた。殴ったことで穢れてしまったと言わんばかりに―――否、100%の煽りを含めてハンカチを取り出して殴った拳を拭いつつ、良い笑顔でクラウスは再び上級生たちへと向き直った。

 

「えーと……因数分解の話だったか?」

 

 まるで先ほどの出来事が何もなかったかのように、会話を始めた。しかもまったくあっていない。その様子を見た上級生達がおののいた。そして本能的に理解した。

 

「や、やべぇよこいつ」

 

「に、逃げるぞ! こいつ関わっちゃいけないタイプの奴だよ!」

 

 クラウス・ジュニア・ストラトス・イングヴァルト。イングヴァルト家の男児で、ヘテロクロミアで生まれた者はその偉大なる先祖である覇王の名を継ぎ、クラウスの名をつけられる。ただし、クラウスの父もクラウスである。その為、もっぱら家ではジュニアと呼ばれている。頭のキレが良く、回転が速く、そして情に厚い。

 

 だがそれよりも遥かに行動力が突き抜けていて、手が早い。

 

 ほぼ反射、或いは本能的にカウンターを繰り返す蛮族でもある。

 

 言動にとどまらず絶対にこいつはやる、という謎の信頼感を一身に背負った男でもあった。

 

「ふぅ、カス共が去ったか―――雑魚め、男なら殴り返してこないか」

 

「言葉での殴り合いを所望だったと思うんですが??」

 

「そんなの女の文化だ。男なら拳で殴り合った方が早いだろう。第一お前の敵は俺の敵だ。だったら遠慮なく喧嘩を仕掛けられるというものだ」

 

 そういう事を、当然の様に口にするからクラウスはずるいと思う。ちょっと、恥ずかしい。そこまで何かクラウスの為にやった訳ではないのに、クラウスの友情は厚い。だがそんな事よりも、とクラウスは言う。

 

「さっさとライトニングお嬢の対策を考えて練習するぞ! 武器はそこら辺の土や岩を即席の武器に変換するから、それを使ってやってみよう。何、ゴーレム作成とかの応用だ。俺も少し練習がいるが天才だからな。すぐに慣れる。お前も壊さないように使うのを練習しろ」

 

「無茶をおっしゃる」

 

 だがやる、やってみせる。クラウスが付き合ってくれるのだ。

 

 これで成果を出せないなんて、嘘だろう。

 

 それから未来の事を少しだけ忘れて―――僕たちは没頭するように練習した。




 クラウス、学校での二つ名は”全自動型キレてるナイフ”。

 覇王一族も元王族なので立場がかなり面倒っちゃ面倒なのだが、パパウスの方が「休日はカウチでビール片手にフットボール見ながらケツ掻いてゲップしたい」という理由から聖王家みたいな扱いは絶対にノォゥ! してる。
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