Disruptor   作:てんぞー

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Anger and Hatred - 3

 それから従士選抜大会に向けて、クラウスと二人で特訓する事にした。他にルールの穴などを探してみたり、とれる戦術を相談してみたり。付け焼刃で鍛えても身につくものは薄く、頼ろうとすれば簡単に折れる。なので短期的に強くなるために重要なのは()()なのだ。自分が元々持っているもの、技術、資質。それを運用する方法や手段を増やす事。短期的に強さを増すのであればこれが一番効率的だ。

 

 ぶっちゃけた話、スペック的な意味ではほぼ完成されているから、長期的な鍛錬でなければ体を鍛える意味はない。技術というものも数日、数か月で身につくものではない。表面上できたとしても、それは意識しなければ行使することのできない物だ。無意識的に動きを繰り出せるようにするにはそれから更に何か月、年単位という修練が必要だ。それを数週間先の大会を目標として身に着けられるか? と言われると難しい。意識してカウンター運用するのであれば理解できる。だがヴィクターの様におそらくは自分の雷を応用してくるような技を使ってくる相手にそういう付け焼刃は自分の隙を作る事になる。

 

 つまり、そういう長期的な手段を今回には持ち込むことはできないという話だ。

 

 そもそも、だ。

 

 長期と短期的なものが鍛錬にはあり、それを覆すことは早々ない。それがもし、可能なら誰もが短期的に根付く鍛錬を行って強さがインフレしているだろう。ここら辺、そういう強さを鍛えたり伸ばしたりすることに関するプロフェッショナルはジーク達、エレミア一族と自分の所のカルマギア一族だったりする。執拗にまで強さを求めた結果、とも言える。そしてそういう鍛錬の為の知識というのはある程度父さんから叩き込まれている。

 

 なのでその知識と経験を元に、短期的なパワーアップ手段を実践していく。一番簡単なのは武器を使う事。これはクラウスが魔法を使って、スクラップや岩を変形、変質、変換する事で用意した。確認する従士選抜のルールに、武器の使用制限はない。それが銃や爆弾の様な完全な質量兵器ではない限り、原始的な武器であれば()()()()()()()()()()()のだ。

 

 というのも、今はクラッシュエミュレートなる優秀なシステムが存在するのに理由がある。

 

 受けたダメージを数値化、フィールドを形成しその内部を非殺傷にするシステム。元々はもう少し不便なシステムだったらしいものの、数年前に革新的なブレイクスルーが行われた影響でその性能が大幅に上昇してシステムの安全性と機能性が大幅に向上したとのことだった。

 

 そのおかげでエミュレート起動中であれば、非殺傷設定が乗り辛く怪我しやすいアームドデバイスを使用した戦闘訓練であっても、ダメージを現実に残すようなことはなくなった。

 

 とはいえ、このエミュレートは聖王教会の本職の騎士や、騎士の家系に対してはあまり人気がない。ミッドチルダ式の魔導師は使用する魔法がシュートやバスターがメインであり、非殺傷でないと一瞬で人間を焼き焦がしたりするので必須なのだが、ベルカ式や古代ベルカ式の使い手はこれらの鍛錬を代々非殺傷設定抜きでやってきている。痛くなくては覚えない、という理屈を素でやり続けてきたているのだ。

 

 自分や身内連中もこれに入る。基本的に保護や防護なしで戦い、鍛錬する事を基本としている。最大の理由は実戦を想定したものであり、一番想定されている相手が次元犯罪者である事が理由に上がる。騎士が出動する様な事は割りと珍しいのだが、それでも次元犯罪やテロの鎮圧の仕事は尽きない。この時、次元犯罪者側は非殺傷設定で此方を労わる事なんて絶対にしない。その為、実戦に近い所を想定してベルカでは良く非殺傷抜きでの鍛錬が行われる。

 

 ミッドチルダではベルカ人を指して修羅と呼ばれる所以である。

 

 だがこれがこの選抜大会では存在する。当然の話だが死人がこの規模の大会で非殺傷抜きだと、確実に出る。そういうのを発生させないための非殺傷設定であり、クラッシュエミュレートである。そしてこれが起動しているからこそ、アームドデバイスや拳を使った物理的な攻撃を行っても、怪我人を出さずに戦えるという事だ。

 

 その事実を把握しているからこそ、遠慮なく武器を用意できる。クラウスと相談して色々と粗悪品を使いつぶす方向性で戦う事を決めつつ、練習する日々。学校に通う時間も惜しいと思いつつ時が進んで行く中で、

 

 事件が起きた。

 

 

 

 

「アレ……なんかいるな?」

 

「あぁ、珍しいな」

 

 ここ最近は繰り返していた公園での訓練―――クラウスと一緒に公園へとやってくる。日々の積み重ねこそが強さへの近道なのだから毎日学校の後と休日は朝から通っている場所だったが、今日はちょっと違う光景が繰り広げられていた。普段体を動かすのに使っている広場では見慣れない姿と、良く見知っている二人の姿があった。片方が紫色のジャージ姿であり、ヴィクターの補佐に回っているジークリンデ・エレミアで、

 

 もう片方がこの真冬に半袖半ズボンのアロハスタイルの菫色の髪のチャレンジャーだった。

 

「おーい、ジークなにやってんだー」

 

「ジークこっちに来るの久しぶりだよね」

 

「お、シドにクラウスやん。久しぶりー、今日はヴィクターが家の用事で忙しいから暇してたんやけどなぁ」

 

「まぁ、そこに私が来てしまってね。すまないけど幼馴染は借りているよ」

 

「どうぞどうぞ」

 

「どうせならそのまま使いつぶしてくれ」

 

「ウチの扱い酷ない?」

 

 ジークだからしょうがない、と返答をした所で何をやっているのかを確認する為にジークと、そして男を確認する。そのすぐそばの地面には大剣が突き刺さっているように見えた。それとジーク達を見比べ、

 

「何やってるの?」

 

 こちらの言葉を受けたジークはうーんと唸りながら体を軽く捻る。

 

「んー、なんて説明したらええんやろなぁ……」

 

「まぁ、その事には私の自己紹介が必要かな?」

 

 アロハは片手を腰に当てながら此方へと視線を向けてくる。どことなく、油断ならない気配を感じる……気もする。直感的にではあるものの、あまり気を許してはならないタイプの人間の様に感じられた。だけどそんな此方の考えを気にする事も、知る事もなくアロハの男は自己紹介を始める。

 

「さてさて、私はディザイア……まぁ、商売用の別名なんだけどね? そう名乗っている研究……あー、うーん……今は技術者かなぁ? うん、それが一番しっくりくるかな。まぁ、技術者だよ、技術者」

 

「はぁ? シド・カルマギアです」

 

「クラウス・J・S・イングヴァルトだ」

 

「あぁ、無論君たちの事は良く知っているよ。結構な有名人だしね?」

 

 カルマギアとイングヴァルトはネームが結構大きいから、ベルカの教会関連で仕事していれば必然的に覚える名前だ。ただジークと一緒に居る所を見ると別の意味で知っていそうだなぁ、なんてことを考えてしまう。

 

「このディザイアさんはウチらの装備の一部とか委託してる所なんよ。仕事で使うドローンとか、ハックツールとか、使い捨ての機器ってのは結構あるんよ。せやからそういうのはなるべく外注してるんやけど、今ん所ディザイアさんの所が一番コスパが良いんよ。だからエレミア御用達のメカニックみたいな部分あるねんこの人」

 

 ジークの説明を受けたディザイアは肩を揺らして手を広げた。

 

「まぁ、私はもともと趣味人だからね。個人の欲望を満たす事が人生における最優先! ……なんだけど、まぁ、それだけじゃ食っていけないし。ともなれば働くしかないからなるべく趣味と実益を取れる事を選んでいたら何時の間にか客が出来上がっていたよ。私としては手抜きの作品でこれだけ稼げるなら問題ないんだけどね」

 

 完全に趣味に人生を全投げしているような人物だった。

 

 だがそれはそれとして、

 

「アロハ姿って寒くないんですか?」

 

「凄く寒いけどキャラづくりは大事だからね!!」

 

「そうですか……」

 

『こいつ相当ヤバイな??』

 

『ヤバイで。いろんな意味で』

 

「うーん、突き刺さる視線!」

 

 能力的に優秀な人は頭がどっかおかしい、という話を聞いたりもする。ディザイアはどうやら典型的なそういうタイプの人らしい。出来たらあんまり関わりたくないなぁ、と思いつつも、ジークは話を続ける。

 

「まぁ、見た目と性格はアレなんやけど、それでも腕前はマジ優秀やねん。精密機器とかデバイス回りは特になぁ。高いからあんまり頼みたくないっておとんが言ってたけど」

 

「良いものを作るものに妥協はしたくはないからねぇ!」

 

 まぁ、そんなわけで、とディザイアは自分の横を指し示す。そこには地面に突き刺さっている大剣が存在しており、

 

「本当なら本隊の人たちに実験を手伝って貰おうと思ったんだけど、何やら全員揃って留守らしいじゃないか」

 

「緊急の仕事やなー。第85管理外世界でちょっと戦争(ドンパチ)してるわ」

 

「未だに戦争している世界があるというのは面白い話だな」

 

「次元世界も広いしねー」

 

 ミッドチルダが物凄く進んでいる世界で、それを中心とした次元世界が統一政府や時空管理局によって統治されているから忘れそうだが、次元世界は多様性の世界だ。ぶっちゃけ、未だに戦争から逃れられない管理外世界なんて腐る程存在する。それらの世界への干渉は禁止されていたりするのだが、時空管理局と接触して魔法技術を手に入れても管理局の法の受け入れに反発し、管理局に頼らず次元世界に進出する世界もある。

 

 そういう所で世界内で戦争してるのはかなり多いので、エレミアは依然としてそういう所で仕事ができる。場合によっては管理局が危険すぎると判断して介入するケースもあり、そういう時も戦争のプロフェッショナルとしてエレミアの仕事は尽きない。

 

 そして基本的にジークは仕事の勉強のために連れ出されない限りは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だからジークは基本、メインのお仕事には置いていかれている。

 

「ま、そういう訳で唯一残ったジークリンデちゃんにちょっとした実験の手伝いにね」

 

「ダールグリュン家でやるのも邪魔そうやしな。せやったらこっちでやってた方がマシかと思って。ま、偶々やな」

 

 まぁ、ダールグリュンは立派な貴族の家だ。ヴィクターまで巻き込んで家の用事があるというのであれば、今日一日は近寄らないほうがジークにとっては良いだろう。そういう事を配慮してここまで来たのだろうが、そうなるとちょっと訓練し辛いなぁ、という感想が出てくる。別にジークがこっちの対策をヴィクターにチクるとは思わないが。

 

「で、何をしてたんだ? 剣の調子でも確かめてたのか?」

 

「いや、ちゃうよ」

 

「これをちょっと()()()()()()()()()()よ」

 

「……破壊?」

 

「そうそう、ちょっとしたデータ取り目的でねぇー」

 

 こんこん、とディザイアが大剣を叩いた。大きさは二メートル程、自分たちの様な子供にとっては背丈を余裕で越すような大きさの剣だ。どことなくメカニカルな意匠をした大剣はデバイスの様な複雑な機構をしているようには見えない。まるで一枚の金属から切り抜いたような滑らかさがその全体には感じられる。その耐久実験、という所だろうか?

 

「……せや、ちょっとシド、コレ全力で殴ってみーひん?」

 

 ジークが大剣を指さしながらそんな事を言い始める。それにちょっと驚きつつも、興味を惹かれた。

 

「え、壊しちゃうよ」

 

「即座に壊すって確信できる辺りがこいつ」

 

「何? 挑戦してみるのかい? だったら遠慮なく壊してみてくれ。既に殲撃(ガイスト・ナーゲル)での結果は出したんだけど他の攻撃による耐久限界を確認したかったんだ」

 

 既に試した、という言葉には引っ掛かりを覚えるが。

 

 それでも試せるのであれば試す。

 

 だって、全力で殴りたいもん。

 

 拳を作る。左半身を大剣に対して前に出す。ジークとクラウスが退避する。両手の拳を腰辺りまで落とし、胴体の両側に展開する。軽く呼吸を差し込んで体内で力を練り、

 

 一気に右拳を素早く下から掬い上げる様に大剣の刀身に叩き込む。

 

 大剣が突き刺さっていた大地がその衝撃に粉砕し、大剣そのものが浮かび上がる。だがそれが完全に吹き飛ぶ前にバインドの魔法が発動して大剣を地面に縫い戻す。

 

 壊れていない。

 

 なので素早く二撃目を更に力を込めて叩き込む。鋼鉄であれば砕け散る程度の力を込めた一撃はしかし、完全に大剣によって受け止められており、まだまだ平気そうに見えた。硬質な感触が拳に伝わってくる感じは実に宜しかった。

 

 なので更に力を込めて三撃目、四撃目、五撃目を叩き込む。今度は手加減等は入れず、フルスペックの拳をその刀身へと叩き込む。その連撃の一撃目で刀身に罅が入る。二撃目でそれが広がり、

 

 そして五撃目で完全に砕け散った。突き刺さっていた大地を粉砕し、周りを撒き上がった土砂でぐちゃぐちゃにしながら砕け散った刀身のない大剣は大地へと向かって落ちた。

 

「はぁ―――すっきりした」

 

「趣旨変わってるで」

 

「派手にやりやがったなこいつ」

 

「ここまで物理的に壊されるとは思ってなかったなぁ……」

 

 ふぅ、と軽く息を吐きながら手を振って指を解す。それが終わったところであっ、と声を零す。視線をディザイアへと向けて、軽く頭を下げる。

 

「すいません、派手に壊しました……たぶん、壊しても良かったんでしょうけど」

 

「あぁ、別に良いよ。壊れる事は全く問題にならないからね」

 

 そう言うとディザイアは視線を大地に落ちた大剣へと向けた。

 

 何かあるのか、と大剣へと視線を向ければ―――周囲にあった土砂が急に分解された。それは粒子に変換されると吸い込まれるように大剣へと向かい、そこで大剣の失われた刀身を完全に再生させた。それをディザイアは魔法を使って持ち上げる。

 

「良し良し、再生機構にも問題はなし。当然ナノ単位で強度、切れ味も再生、っと。ただ技術的に強度と切れ味に限界値があるのが問題だねぇ。これなら魔力刃の方が何倍も使いやすいかな」

 

「せやなぁ。ちとウチには需要ないかなぁ」

 

「ただ元となるナノ技術自体は素晴らしいものなんだよねぇ。何かに転用できないかなぁー」

 

 ジークとディザイアからすれば魔法で代用できる範囲だからこれは必要ないのだろうが、全力で殴っても直ぐには壊れず、それでいて自己再生可能な武器というものは喉から手が出る程欲しいものだった。故にディザイアが魔法で浮かべているそれを、じーっと眺めてしまった。横では戻ってきたクラウスは腕を組んで頷いている。

 

 これ、大会に向けて入手出来たら絶対に戦力アップになる。というか普段使いできる直る武器は欲しい。

 

「ん?」

 

 そんな此方の視線をディザイアは気づき、苦笑した。

 

「うーん……これが欲しそうだね? 無料ってのは無理だけど、売る事ならできるよ。試作品だしね、これは」

 

「ほ、本当ですか!」

 

「せやろなぁ、欲しがるよなぁ……」

 

 ジークが腕をくみながらうーん、と唸っている。どうやらこうなることが解っていたらしい。

 

 ディザイアはホロウィンドウを浮かべるとそこに数字を入力しだす。

 

「……まぁ、大体これぐらいかな」

 

「ぶっ」

 

 ディザイアが表示してホロウィンドウに打ち込まれた値段を見て、軽く噴き出した。とてもじゃないが支払えるような値段ではなかった。子供のお小遣いで何とかなる額じゃないし、大人のお小遣いというレベルも超越している。この大剣一本で、豪邸が土地付きで購入できるレベルの金額だった。

 

「す、少し足りないぐらいだったら俺も出して良いかと思ったがこれは流石に無理だな……」

 

「えぇ、こんなに高いの……無理ぃ……」

 

「まぁ、せやろなぁ。ちなみにウチは貯金込みで支払えるけど流石にヴィクターの不利になる様な事はせーへんから諦めてな!」

 

 一番金を持っているのがジークという事実、そして手に入れられない事実に打ちのめされ、その場で膝をつく。だが同時に、実用に耐えるだけの武器が存在するという事実は心を躍らせるのに十分なものでもあった。折れかけた心を立ち直らせるように拳を握る。

 

「こ、これが実用化されたら……!」

 

「悪いけどこれは最近手に入れたばかりのナノ技術使ってるから絶対に社会に出ないよ」

 

「し、シド―――!」

 

 倒れる体をクラウスが抱きかかえる。映画のワンシーンにでもなりそうなポーズを二人で決めていると、ディザイアがそれを見て笑う。

 

「まぁ……武器が欲しいというのなら、失敗作のデバイスで良いなら格安で売ってあげてもいいけど」

 

「お願いします……お願いします……!」

 

「学生割りでお願いします……!」

 

「必死やなこいつら」

 

 そんなこんなで、ディザイアという新たな出会いを得ながらまた、

 

 大会へと向けた準備が一歩、進んだ。




 ディザイア……一体誰・スカリエッティなんだ……! なんでナノ技術なんてものを持っているんだ! な、謎すぎる……!

 ちなみにシドのお小遣いは月2000円ぐらいで子供としてはそこそこ貰っている。クラウスは月3000、ただし教会関係のお仕事をしている部分あるのでそこで収入を得ているのでそこそこお金をもらっている。特に欲しいものもないしガチャも回さないので貯金が溜まるタイプ。ジークもこのタイプに分類される。

 なお、やばいのは以下三名。

 ハイディはお給料をヴィヴィオとシドのお世話する費用に全額ぶっこんでさわやかな笑みを浮かべるタイプ。お金が無くなったら必死に働いてまた全額同じ用途にぶち込む。

 ヴィクターはお金を使い果たしたんだ、って報告すると仕方がないなぁ、って無利子無担保無期限でお金を貸してくれるしそれを使い果たしても次をくれる。


 ヴィヴィオは教皇名義のカードで爆買い宅配テロするタイプ。
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