「一年を通して狂い咲く藤の花……まさか、ゴルゴムの仕業か!?」BLACK死す!? 砕かれたキングストーン!(タイトル詐欺は(ry))   作:葛城

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隙あらば調子に乗って何もかもが裏目に出るのが無残

隙が無いなら有ると断言して勝利に持って行くのがBlack


パワハラ裁判にかけて腹いせに部下を処刑して結果的に不利益を被るのが無残

肉体的パワハラで相手に絶望を与えた後、相手をヤケクソに追い込むのがBlack


凄く強い部下を12体作って、どんな敵が相手でも己の命の安全を考慮するのが無残

凄く強くなって怪人を瞬殺するだけに飽き足らず、丁寧にしっかり倒すのがBlack


七つある心臓と五つある脳を破壊されれば死ぬかもしれないのが無惨

一つの心臓とベルトを破壊されてもなんやかんやあって復活するのがBlack


殺さないと言ったな、アレは嘘だ……を、素で実行するのが無惨

おのれゴルゴムめ ゆるさん!  相手は死ぬのがBlack


私一人で全て事足りるとドヤ顔するのが無惨

一人で事足りるのに別のライダー呼び寄せるのがBlack





無惨様、マジ無惨様




迷走する想いと、孤独なシルエット

 

 ……時刻は、深夜。場所は、とある村を少しばかり離れた山道の途中。

 

 

 

 

 太陽が山の向こうへと姿を隠してから、早数時間。夜空に煌々と輝く月は実に眩しく、なのに、山道は足元すら上手く見えないほどに真っ暗であった。

 

 さわさわ、と。大して強くもない夜風が、立ち並ぶ木々の枝葉を揺らしている。そのざわめきに身を隠すようにして動き回る、動物たち。

 

 枝葉の隙間から零れ落ちている月明かりを、大きく広がった瞳孔が拾う。繁茂する雑草の臭いに混じる、獲物と外敵の臭いから……気配を探る。

 

 気配の位置を確かめる為に発達した聴覚が、その位置を正確にする。ぴくぴくと耳を痙攣させた動物たちは、かさりかさりと雑草を掻き分けて夜の闇に紛れていた。

 

 昼間とは異なり、夜は彼ら彼女らの世界である。人間よりも優れた……というより、特化した感覚を持っているおかげで、昼間とそう変わらずに動き回ることが出来た。

 

 

 ……人間ならば、こうはいかないだろう。まあ、致し方ないことだ。

 

 

 確かに、月明かりというのは相応に明るい。しかし、あくまで相応だ。目が慣れれば辛うじて確認出来るといった程度であり、明かりも無しに出歩ける状況ではない。

 

 

 同時に、嗅覚や聴覚だってそうだ。

 

 

 中には、動物並みの嗅覚を持ち合わせている人間もいるだろう。だが、ほとんどの人間は、動物より劣る、人並み程度の嗅覚しか持ち合わせていない。

 

 中には、動物並みの聴覚を持ち合わせている人間もいるだろう。だが、ほとんどの人間は、動物より劣る、人並み程度の聴覚しか持ち合わせていない。

 

 故に、夜は人間たちの世界ではない。それは、自然の中で生きる者たちであればあるほど知っている、暗黙の知識と事実であった。

 

 

 ──そんな、夜の世界で。人の気配がしない夜の山道にて、突如、爆音が闇の中を木霊した。

 

 

 一拍遅れて、異変を認識したと同時に動物たちが一斉に爆音から遠ざかってゆく。動物たちは、人間のように余計な事を考えることはしない。

 

 

 何時もと異なる何かが起こったら、まず逃げる。

 

 何時もと異なる何かが現れたら、まず逃げる。

 

 

 単純かつ明快。故に、ものの数十秒ほどで爆音の中心点より半径数十メートルから、動物たちが一斉に消えた。後に残されたのは、ぱらぱらと舞い上がる砂埃だけで──いや、違う。

 

 

 ──その、中心。舞い上がる砂埃の向こうから、二つの影が空気を切り裂いて飛び出して来た。

 

 

 一つは、真っ赤な目に黒いボディ。昆虫のバッタと人とが合わさった、バッタ人間。全身を覆うプロテクターのような外皮に護られたその姿は、正しく、異形と言い表す他ない姿であった。

 

 一つは、バッタ人間とは異なり、人の姿をしていた。しかし、傍目にも分かるぐらいに皮膚がひび割れた目元、放たれる雰囲気は人のそれではなく、狂気と愉悦とが入り混じるその実体は……異形であった。

 

 夜の静寂を打ち破る爆音を発した二体の異形が、凄まじい速度で山道を駆け抜けていく。その力強さは動物の比ではなく、ともすればイノシシですら尻尾を巻いて逃げ出すほどの迫力があった──と。

 

 

 ──ずだん、と。

 

 

 付かず離れずのまま、並行して走り続けていた二人が……止まる。慣性を強引に止めた反動によって、互いの足元がべこりと陥没した。

 

 尋常ならざる力……だが、二人……否、二体は気に留めた様子もなく、互いを見据えて構えたまま……その場に静止した。

 

 

 ……傍目には、バッタ人間の表情をうかがい知ることは出来ない。

 

 

 激情を以って戦う人間か、あるいは無機質に行動する昆虫か。声一つ発しない故に、それは当人以外には誰も分からない。ただ、月明かりを浴びた赤い瞳が、稲妻の閃光のようにきらめいていた。

 

 

 ……対して、人の姿をした異形は、笑みを浮かべていた。

 

 

 だが、その笑みはけして友好的ではない。一見すれば優しさすら見て取れるその笑みは、見る者の背筋に怖気を走らせる嫌悪感があって……瞳に現れた『上弦』と『参』の文字が妖しく光っていた。

 

 

 ……バッタ人間の異形は、己の名を仮面ライダーBlackと名乗った。

 

 ……瞳に文字を光らせる異形は、猗窩座(あかざ)と己を称した。

 

 

 静まりながらも、今にも弾けそうなぐらいに空気が張り詰めた、その空間。とっくの昔に動物たちが逃げ出したそこに、さわさわと夜風だけが通り過ぎてゆく。

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………張り詰めた緊張感に穴が開いた切っ掛けは、互いの視線を遮るようにして舞い降りた……一枚の葉っぱであった。

 

 

 

 ともすれば、瞬きしただけで見逃してしまうほどの、一瞬。

 

 

 

 常人ならば、記憶どころか意識の片隅にすら欠片も残さない刹那の瞬間……その時にはもう、二体の異形が繰り出す拳が、互いの拳と激突していた。

 

 

 ──ばきん、と。

 

 

 人の姿をした異形と、異なる姿をした異形。互いの異形が放った、渾身の拳──肉を切り裂き骨を砕き、勝利を得たのは……Blackの拳であった。

 

 そう、勝利だ。傷一つ負わなかった片方とは裏腹に、瞳に文字を浮かべた異形の怪物……猗窩座の片腕は、肘の辺りまで粉々に破損する結果となった。

 

 

 ──が、しかし。

 

 

 腕を砕かれた猗窩座は、欠片も動揺していなかった。いや、むしろ、逆だ。腕を砕かれたというのに、まるで新しい玩具を前にした子供のように喜色の笑みを浮かべた。

 

 と、同時に、砕かれた腕が瞬時に再生される。比喩でも何でもなく、瞬時に、だ。まるで事象そのものが巻き戻っているかのように、びたん、と腕が元に戻った。

 

 

 痛みを──全く感じていないのだろう。

 

 

 その証左と言わんばかりに、堪えた様子もなく猗窩座は二撃目の拳を放つ。ぼっ、と空気を貫くその拳には太い血管が浮き出ていて、寸分の狂いもなく正確にBlackの急所を突いた。

 

 

 ──が、駄目。

 

 

 どすん、と重苦しい打突音。僅かにBlackはたじろいだ……が、それだけ。「──っ!」拳から伝わる手応えから察した猗窩座は、勢いをそのままに連撃を放つ。

 

 名前を付けるとするならば、正拳突き、手刀、膝蹴り、ひじ打ち、裏拳、地獄突き、足刀……流水が如き滑らかな体捌きと共に放たれるそれらは、吸い込まれるようにBlackの全身へと叩き込まれてゆく。

 

 

 一目で、その動きは武術を修めているのが分かる動きであった。

 

 

 無駄を極限まで排除した、猛獣以上の連撃。その度に、腹の奥底にまで響く重低音が辺りに響く。びりびりと、衝撃が伝わった辺りの砂埃が、怯えるように震えた。

 

 常人であれば、人間であれば、肉体を16個に分断され、砕かれ、磨り潰されているほどの、必死の攻撃。普通に考えれば、そんな攻撃を受けた生物は瞬く間に命を奪われてしまうところだ。

 

 

「──とぅあ!」

 

 

 ……相手が、仮面ライダーBlackでなければ、の話だが。

 

 

「──ぎっ!?」

 

 

 相討ち同然に放たれた、Blackの拳。結果は先ほど同じく、Blackはほぼ無傷、猗窩座は腹部に風穴を空けられた形で、ぶっ飛ばされてしまった。

 

 

 今度は──Blackの番である。

 

 

 Blackは猗窩座とは違い、動きは素人のソレに近い。いや、素人というよりは、幾度の実戦経験から得た我流の体捌き……というやつだろうか。

 

 猗窩座と比べれば、その動きはあまりに泥臭く、無駄が多かった。だが、それでも、Blackの身体能力によって後押しされたソレらは、猗窩座の防御を押し切るには十分であった。

 

 もちろん、猗窩座も黙って食らうわけではない。修めた武術を駆使して、Blackの連撃を受け流そうとはしている。しかし、武術を以ってしても……Blackの猛攻を防ぎ切ることは出来なかった。

 

 受け止めた足は、衝撃に耐えきれず中心から砕け、受け流した腕はヤスリで削られたかのようにズタボロになる。時間にして5分と経たないうちに、猗窩座の身体は血まみれになった。

 

 

「──はははは!! いいな、いいぞ、強いな、お前は本当に強いな!」

 

 

 けれども……それでも、猗窩座は笑った。

 

 全身の骨という骨を砕かれ、血飛沫が噴き出し、臓腑の一部がはみ出ているというのに……猗窩座は笑っていた。心底嬉しそうに、Blackへの称賛を口にする。

 

 気が狂った──いや、違う。Blackの猛攻が効いていない……というより、有効なダメージになっていないのだ。

 

 言うなれば、Blackが圧倒的な防御力なのだとしたら、猗窩座は圧倒的な再生力である。

 

 どれだけ攻撃を重ねても、どれだけ傷を負わせても、猗窩座は瞬く間に再生を終えてしまう。Blackの猛攻を以ってしても、死に至るまでのダメージを与えられなかった……が。

 

 

「──バイタルチャージ!」

 

 

 まだ、Blackは打つ手無しではない。

 

 

 両の拳を、がちりと打ち合わせる。それは、エネルギーを一点に凝縮する『バイタルチャージ』。きゅいん、と甲高い音と共に、Blackの拳が白く輝き始める。

 

 通常の攻撃で駄目ならば、必殺の一撃をもって決着を付ける。

 

 それは正しく必殺、それは正しく奥義。飽和したエネルギーが熱と光に変換され、傍目には拳が揺らいで見えるほどの「ライダー……!」一撃が、猗窩座へと──。

 

 

『月の呼吸……壱ノ型 闇月・宵の宮』

 

 

 ──放たれなかった。

 

 

「ぐはぁ!?」

 

 

 衝撃が、Blackの背中を走った。ばちん、と火花が飛び散る。意識の死角より受けたソレは、さすがのBlackも体勢を崩すに十分過ぎる威力であった。

 

 堪らず、Blackは転がる。しかし、ダメージはそこまでではない。いや、これは加減をされたのか……むくりと身体を起こしたBlackは、新手の登場に素早く身構えた。

 

 

 ……暗闇より奇襲を掛けた新たな異形は、一目で怪人だと分かる風貌をしていた。

 

 

 具体的に違う点は、目だ。『上弦』と『壱』。猗窩座と名乗った怪人と同じく、眼球に文字と漢数字が浮き出ている。数字が違うと性格が異なるのか、その怪人は沈黙を保っていた。

 

 左右三対、合わせて六個の目が見開かれた顔が、Blackを見つめている。姿こそは人の形をしていて、片手に持った刀から武士を彷彿とさせるものではあったが……やはり、纏っている気配が人のソレではない……と。

 

 

 すらり、と。

 

 

 音も無く、そいつは刀を構える。たったそれだけの所作。されど、淀み無く行われたその動きは、正しく熟練者のソレ。「──っ!」猗窩座と同じく只者ではないと、Blackが反射的に身構え──っ! 

 

 

 ──速い! 

 

 

 そう思った時にはもう、Blackは斜めに切られていた。「──ぐっ!?」ばしゅん、と。暗闇の最中に飛び散る火花。Blackの体内にて渦巻く力が外気に触れると、そうなる。

 

 つまり、火花が散るということは、Blackの強固な身体がダメージを受けたということ。当然、火花が飛び散れば飛び散るほど、比例して相応のダメージを受けているということだ。

 

 

「くっ!」

 

 

 それは、胴体に受けようが腕に受けようが、変わらない。反射的に腕でガードしたBlackだが、その腕から火花が飛び散るのを見て……反撃に打って出る。

 

 

「……遅い」

 

 

 だが……相手は、Blackよりも上手かった。戦い方という点においては、Blackよりも何枚も上手であったのだ。

 

 繰り出す刃は、文字通り手足のよう。常人ならば捉えることすら出来ない速さで繰り出されるBlackの反撃。その全てが、柳の葉をしならせるかの如く、手応えなく逸らされる。

 

 刀の腹で滑らせ、鍔で軌道を逸らされ、体捌きで体勢を崩される。単純な身体能力はBlackに軍配が上がるだろうが、それ以外の全ては……六つ目の怪人が格上であった。

 

 

 一閃、二閃、三閃。

 

 

 避けようとしても、受けようとしても、駄目。まるでそこへ吸い込まれるように、刃が防御の穴を突いてくる。「──っ!」数にして50を超える斬撃を受けたBlackは、堪らずその場より飛び退いた──途端。

 

 

「──黒死牟っ! キサマ、何のつもりだ!」

 

 

 夜の闇に響いた怒声の主は、今しがたまで戦っていた猗窩座であった。

 

 おそらく、当人の感覚では『良い所を邪魔された』なのだろう。その証左に、先ほどまで浮かべていた笑みは消え去り、代わりにあったのは憤怒であった。

 

 

 ……そうか、こいつの名は黒死牟(こくしぼう)と言うのか。

 

 

 油断なく黒死牟と呼ばれた怪人を見据えるBlackを他所に、猗窩座はずんずん、と。抑えきれぬ怒りが、地面を踏み砕く。「俺の戦いを愚弄する気か!」馬鹿げた足跡を残しながら、猗窩座は黒死牟の胸ぐらを掴んだ。

 

 

「誰が助けてくれといった!? 誰が手助けしてくれといった!? 俺の好敵手だぞ! 俺の強敵だぞ!」

「……だから、どうした?」

「──キサマぁ!!!」

 

 

 怒りを露わにする片方とは真逆の、冷めきった片方。それがより猗窩座の怒りに油を注ぐ形になったのは当然の話で、振り被った拳が黒死牟の顔面へと──。

 

 

「……少し、黙れ」

 

 

 ──叩き付けられる前に、その腕が切り落とされた。

 

 

 しゃらん、と。空を切るかのように、あっさりと断たれた腕が、宙を舞う。ギョッと目を見開いた猗窩座は……距離を取ったことで初めて、両腕とも切り落とされていることに目を向ける。

 

 

「……好敵手だからなんだ? 強敵だからなんだ? お前の力では、こいつは倒せん」

「なんだと……!」

「言い返すか? ならば、お前はどれほど戦い続けた? 途中から見せてもらったが……その間、お前は何が出来た?」

「……っ!」

「お前も分かっているのだろう。お前はこいつを倒せないが、こいつはお前を倒せる。それが、この戦いの全てだ」

 

 

 ……猗窩座は、何も言えなかった。噛み締めた唇が切れて、ぼきぼきと噛み締めた歯までもが砕ける音が辺りに響いた。

 

 

「死にたければ勝手に死ねばいい。朝まで延々と無駄な足掻きを続け、そのまま朽ちたいのであれば……な」

 

 

 憤怒と屈辱で言葉を失くしている猗窩座を前に、淡々とした調子で告げた黒死牟は……次いで、「お前の事は、知っている」Blackへと振り返った。

 

 

「なるほど、あの御方が危険視し、慎重になるわけだ。俺たちとも、やつらとも異なる、全く別の『力』……興味深い」

「…………」

「問答するつもりはない、ということか……なるほど」

 

 

 沈黙を保つBlackを前に、黒死牟は気にした様子もなく刀を鞘に納めた。そして、しばしの間、黙ってBlackを見つめた後。

 

 

「……御堂に隠した、幼い娘が二人」

「──っ!?」

「巧妙に隠してはいるが、見ていればすぐに分かった。少しずつ、猗窩座を御堂から遠ざけようとする、お前の意志を」

 

 

 ポツリと、この戦いが始まった、そもそもの原因を口にした。「……ここは、引け」次いで、放たれた言葉に……Blackは、一歩退いた。

 

 

「……追わない」

 

 

 ポツリと、更に続けられたその言葉。

 

 

 ……考えるまでもなかった。考えるよりも前に、Blackは走り出した。隠れていろと念押しした、少女たちの下へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──走った。

 

 

 

 ──とにかく。

 

 

 

 ──走った。

 

 

 

 

 

 

 

 常人ならば三分は掛かる距離……Blackの脚力ならば、十数秒。あっという間に御堂へと到着したBlackは、少女たちが隠れているお堂の中へと足を踏み入れた。

 

 

 ──その、直後。迫り来る鉄球が、Blackの視界を埋めた。

 

 

 衝撃に、Blackは少しばかり後方へ吹っ飛ばされた。油断していた。完全な、油断であった。だが──すぐさま立ち上がったBlackは、室内より出てきた男を睨んだ。

 

 男は、立派な体格の男であった。パッと見た限りでも、Blackよりも背丈がある。黒い衣服の襟や袖から見える肌は遠目にも太く分厚く、鍛え込まれているのが分かった。

 

 その手には、鎖鎌と鉄球とが一体となった武器がある。常人ならば重くて持ち上げることすら一苦労しそうだが、眼前の大男には……あつらえたかのように似合っていた。

 

 

「誰だ、お前は!」

 

 

 悠然とする男を他所に、Blackには焦りがあった。Blackとしては、当然の事であった。既に、守ろうとしていた少女たちの居場所が、怪人たちに知られているからだ。

 

 先ほどのやつは、遠まわしに何もしていないと話してはいたが……保障は何もない。もしかしたら、眼前のこの男が怪人の……いや、待て。

 

 

 Blackの視線が、男の後ろ……扉の影から覗く、二人の少女に止まった。

 

 

 その二人は……間違いない。つい数時間前に、己が怪人たちから助け出し、追ってくる怪人から守る為に、御堂へと隠れるように言ったのだから。

 

 故に、一刻も早く、怪しい男から救出しなければならない。既に、少女たちの存在が怪人たちにバレてしまっているのだから……けれども、だ。

 

 

 ……Blackは、あえて少女たちを助けようとはしなかった。

 

 

 何故なら、己を見つめる二人の少女の視線に……怯えの色があったからだ。二人の瞳に浮かぶ……恐怖があったからだ。

 

 

(ああ……そうか、そうだな)

 

 

 それを見たBlackは……静かに、構えを解いた。それを見た大男は、警戒を露わにして武器を構えるが……Blackは構うことなく彼らに背を向け、歩き出す。

 

 

 ……考えるまでもない事だった。

 

 

 何故なら、少女たちの家族を襲った存在が異形の怪物であるならば、己もまた異形の怪物に他ならないのだから。

 

 あの二人からすれば、人の姿をした怪物と、人の形をした怪物。その違いなど、何の考慮にも値しない。

 

 せいぜいが、よく分からない怪物同士が、獲物を前にして勝手に仲間割れを起こした……そのような感覚なのだろう。

 

 

 ……そもそもが、偶然だ。そう、それは只の偶然であった。

 

 

 あの時、時刻は未だ、夜だった。たまたま御堂の傍を通ったBlackが、聞こえてきた悲鳴に駆け付けた時から、全てが始まった。

 

 

 そこに広がっていたのは、地獄絵図であった。

 

 

 手足や口元を血だらけにした怪人が一体。部屋中に転がった死体が多数。そして、部屋の隅で恐怖に震えて固まっている少女が二人。

 

 明かりは、消えていた。開け放たれた扉から入り込む月明かりに照らされた怪人の瞳が、Blackを見つめている。その向こうで、怯える二人の瞳が見つめている。

 

 

 ──己に出来る事は、もう何もない。

 

 

 それを理解したからこそ……Blackは、振り返らなかった。

 

 

 

 

 

 

 ……それは、とある惨劇の夜の……静かな終わりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──時は、大正時代。

 

 

 

 都心では一週間に一度程度にではあるけど列車が走り、車を見かけることがそれなりに多くなってきた程度に、様々な技術が発達してきた時代。

 

 後100年もすれば、今はまだ物珍しい『車』も、溢れ過ぎて見慣れ過ぎて、必要が無ければ、興味が無ければ、見向きもされなくなる……よりも100年前の、この時代。

 

 

 ──今はまだ、車や列車を見た者がいないのが大多数の、この時代にて……とある地方の山中を、金属の塊が駆け抜けていた。

 

 

 それは、この時代の者が見れば誰もが驚愕に目を見開く姿形をしていた。

 

 何故なら、その金属の塊は素人目から見ても複雑怪奇な形をしており、思わず耳を塞いでしまいそうになるぐらいの爆音を立てていたからだった。

 

 

 如何なるカラクリによって動いているのか。

 

 

 仮にその光景を目撃した者が百人いたならば、全員が首を傾げて妖怪に化かされたと思ってしまうぐらいに、それは摩訶不思議な事であった。

 

 何せ、現在の時刻は夜。山中なだけあって、明かりが無ければ足元すら見えないぐらいであり、事実として、山中は真っ暗であった。

 

 

 ……なのに、突き進むバイクの前方は明るい。金属より放たれているとてつもなく強い光が、突き進む道を照らしていた。

 

 

 それは、都会で売られるようになったランプなどというチャチな明かりでは到底成し得ないほどの、強い光であった。

 

 まるで、太陽の光を凝縮して放っているそれは、ともすれば、太陽の欠片がそこにあるかのような……そんな、摩訶不思議な光景であった。

 

 

 ……だが、摩訶不思議ではない。爆音を立てて突き進むその姿は紛れもなく現実であり、物質として確かに存在している。

 

 ……本来ならば、それが現れるのは今よりおおよそ数十年後。

 

 

 その未来では、『バイク』と称されありふれた乗り物となる、二輪駆動。とはいえ、今はまだその存在すらしていないバイクを巧みに操っているのは……一人の男。

 

 

 男の名は……太郎といった。

 

 

 名字は無く(記憶が無いので、有ったのかは定かではない)、顔立ちは平凡。着物に足袋に草履、黒髪に黒目というありふれた出で立ちの、その男……いや、太郎。

 

 特に物珍しい名でもない、平々凡々な名を持つ太郎というこの男……しかし、ありふれた恰好とは異なる、かなり恵まれた体格と、とある三つの秘密を有していた。

 

 

 まずは体格だが、背が高い。だいたいにして、180cm以上……といったところだろうか。

 

 

 100年後でも長身に入る部類のその背丈は、この時代では当然ながら長身な部類に入っている。それでいて骨格も太く、がっしりとしている。

 

 世捨て人同然の山暮らしをしていただけあって、筋肉も相当だ。顔立ちこそ平凡ゆえに怖れられることはないが、近くでみれば中々に鍛えられた体つきをしているのが分かる。

 

 そして、太郎が抱えている秘密の内の一つ……それは、太郎が太郎として自我を得たその時より会得していた、『夢の世界で得た事が現実になる』という不可思議な力。

 

 

 太郎自身、それの正体が何なのかを詳しくは知らない。

 

 

 ただ、分かっているのは『夢の世界』は太郎が暮らす現実とは異なる、文字通りの夢のような世界であるということ。

 

 何せ、夢の世界はそうとしか表現出来ない世界であった。何もかもが刺激的で、一時は目覚めることが苦痛に思えるほどで……そこで、太郎は二つ目の秘密……いや、『力』を得た。

 

 

 そう、『力』だ。邪悪を倒す、確かな『力』だ。

 

 

 それは、その『夢の世界』では娯楽の一つとして作られていた架空の戦士……その世界では『仮面ライダー』と呼ばれている、超常的な力を持つ者たちの能力、そのものであった。

 

 もちろん、どのような原理で『仮面ライダー』としての能力を得たのか……それは、太郎自身にも分からない。

 

 むしろ、分かっている事が有るのかと自問してしまうぐらいに、太郎は何も分かっていない。記憶だって、無いのだから。

 

 しかし、何もかもが分かっていないわけではない。

 

 ただ一つ、太郎が分かっていることがある。それは、言葉では到底言い表せられない……『仮面ライダー』としての責務……否、願いであった。

 

 

 ……さて、だ。

 

 

 そんな男……いや、太郎が、どうして今はまだこの時代には存在していないバイクを操り、夜の山中を駆け抜けるという危険な行為を行っているのか。

 

 

 答えは、一つ。太郎は、探しているのだ。

 

 

 運命の歯車が切り替わった、あの夜から、ずっと。『仮面ライダー』となったあの夜から、ずっと。

 

 

 それが、太郎が抱えている三つ目の秘密。

 

 それは、物ではない。そして、者でもない。太郎が探しているのは……とある組織。そして、その組織が生み出した……『怪人』と呼ばれる超常生物たち。

 

 

 ──世界を裏で操っている暗黒結社『ゴルゴム』。

 

 

 それは、太郎だけが知る『夢の世界』の娯楽作品の一つとして作られた架空の組織……のはずだった。恐ろしいことに、現実の世界に実在していたのだ。

 

 人間を家畜としてしか思わず、あらゆる非道を行い、時には人間を怪人に改造して組織に組み込むだけでなく、その怪人すらも平気で切り捨てる……邪悪の化身たちが集う秘密結社。

 

 

 そのゴルゴムを……仮面ライダーとなった太郎は、己の恩師たちを無惨に殺されたあの夜からずっと、追いかけ続けていた。

 

 

 

 ……だが、今の所、太郎はゴルゴムのアジトを一つも見つけられないでいた。しかしそれは、太郎の聞き込み能力や調査能力が劣っているわけではない。

 

 

 

 単純に、暗黒結社ゴルゴムは、隠れるのが上手いのだ。

 

 というのも、(あくまで夢の世界における設定上では)ゴルゴムは人類を超越した圧倒的な力と高い技術力を有している。

 

 

 そんな者たちが、わざわざ表舞台に出てくるだろうか……有り得ない。

 

 

 あらゆる非道を成しても、けしてその存在が表に出ることはない。ゴルゴムとは、そういう組織なのだ。

 

 表に出る時は、表に出る必要が有る場合か、既に世界の掌握を終えようとしている場合……その段階に至った時だろう。

 

 仮面ライダーになってさえいなければ、太郎もゴルゴムが存在していることすら気付けなかったぐらいだ。伊達に、秘密結社というわけではないのだろう。

 

 仮面ライダーの能力だけでなく、夢の世界云々の力を持たない一般人が、その存在に気付けというのが無理な話で……誰も彼もが『……ごるごむ?』と小首を傾げるのも、当然の話であった。

 

 

 ……それ故に、捜索はけして順調とは言い難かった。

 

 

 誰に聞いても知らない分からないの一点張り。時には『気が触れている野郎』として冷たい視線を向けられ、水を撒かれたこともあり、警官を呼ばれたことだってあった。

 

 

 もちろん、これまで何一つ成果を得ていない……というわけではない。

 

 

 あの夜にて戦ったゴルゴムの幹部怪人(モダンの男)とは別に、これまで太郎は幾度となくゴルゴムの怪人たちと遭遇し、撃退してきた。

 

 人間を軽く凌駕する怪人たちとはいえ、今の太郎は仮面ライダーBlackの力を得た、人外の者。遅れを取る道理は、何処にもない。

 

 惜しむらくは、その怪人たちのどれもが末端の……有り体に言ってしまえば、下っ端の怪人だったが故に、ゴルゴムの戦力をヤスリで削る程度のことしか出来ていないことだが……まあ、いい。

 

 

 何であれ、だ。

 

 

 何もかもがネガティブな現状ばかりではない。ポジティブとも言い難いが、ゴルゴムが表の舞台に姿を見せていない……その事実は、紛れもなく良い事であった。

 

 というのも、圧倒的な力を持つゴルゴムだが、その行動は慎重かつ用意周到だ。逆説的に考えれば、表に出てこない=完全なる世界掌握には至っていない……という事にもなる。

 

 確証も糞もない話だが、何一つ手掛かりを得られない、この現状。そんな仮説すらも、太郎にとっては数少ない、勇気づけられる事でもあった。

 

 

 ……この世界の何処かで、ゴルゴムの怪人たちは非道を繰り返している。

 

 

 己のように、大切な者たちの命を奪われ、恐怖に震える者たちが……今も、この世界の何処かにいる。

 

 

 ……そう思えば、手掛かり一つ無い、徒労にばかり終わる孤独な戦いにも……太郎は耐え忍ぶことが出来た。

 

 

 そうして、今日も太郎は愛車であるバイクを……『バトルホッパー』を乗り回し、暗黒結社ゴルゴムのアジトを探し回っていた。

 

 

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