「一年を通して狂い咲く藤の花……まさか、ゴルゴムの仕業か!?」BLACK死す!? 砕かれたキングストーン!(タイトル詐欺は(ry))   作:葛城

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太郎、死す

 ……。

 

 ……。

 

 …………そのまま、どれぐらいの間そうしていただろうか。

 

 

 少なくとも、子供たちの意識が、深く深く眠りの底へと沈んでしまったぐらいには、時間が流れた。

 

 そんな、何ともいえない静寂の中で……改まって話を切り出したのは、太郎の方からであった。

 

 

「すみません、晩飯の世話になってしまって……」

「いや、構わんよ。聞けば、錆兎と義勇の命の恩人でもある。その恩に報いたいだけの話だ」

「そう言われても、私は大した事はしておりません。たまたま迷い込んだ場所に、たまたまいた彼らを、偶然にも助けた……それだけのことです」

「謙遜をするな。あの場にいたのなら、分かっていることだろう。君は、自分で思っている以上に勇気ある行動を取ってくれたのだ」

 

 

 そう、鱗滝が答えた途端──ぱちり、と。

 

 囲炉裏にくべられている薪が一つ、弾けた。

 

 

 それはけして大きな音ではなかったが、思いの外響いたその音が……室内に満ちていた何かを、ぱちりと切り替えたのかもしれない。

 

 鱗滝が、特に何かをしたわけではない。太郎が、何かをしたわけでもない。けれども、天狗の面の、その奥から……意識が向けられているのを、太郎は感じ取っていた。

 

 

「……一つ、尋ねてよいか?」

 

 

 視線を囲炉裏に向けたままの鱗滝の言葉に、太郎は頷くと。

 

 

 

 

 

 

「君は……人間か?」

 

「……心は、人間のつもりです」

 

 

 

 

 

 

 続けられた問い掛けに……少し間を置いてから、はっきりとそう答えると。「どうして、そんな質問を?」理由を、尋ねた。

 

 

「なに、ワシは他人より鼻が利く。相手がどんな人物なのか、その人となりが分かる程度に、な」

 

 

 鼻が利く……その言葉を前に、太郎は尋ねた。

 

 

「俺からは、化け物の臭いがしますか? 貴方達が『鬼』と呼ぶ、その者たちと同じ臭いが……しますか?」

「いや、しない。君からは戦いの臭いこそするが、あいつらとは違う」

 

 

 先ほどの太郎以上にはっきりと、鱗滝は否定して首を横に振った。

 

 

「君からは、やつら特有の臭いが全くしない。だが、ワシがこれまで嗅いできた人たちの、どの臭いにも当てはまらない不思議な臭いをしている」

「…………」

「少なくとも、人間の臭いではない。だが、それでも……ワシは、君に対してさほどの脅威も警戒も感じてはいない」

 

 

 それは、君からは優しい臭いがするからだ──そう、鱗滝は言葉を続けた。

 

 

「しかし、ワシには君が分からない。良いやつなのか、悪いやつなのか。ワシが分かるのは、君からは日光のような……そう、お天道様の臭いがする」

「お天道……太陽、の?」

 

 

 思わず呟いた太郎に、鱗滝は……そこで初めて、太郎へと天狗の面を向けた。囲炉裏の火に照らされた首元は、鱗滝が重ねた年月が刻まれていた。

 

 

「先ほど、錆兎たちが話していた『昆虫人間』……それは、君のことだな?」

「…………」

「ああ、答えなくていい。私が知りたかったのは、君が何故隠そうとしたか、だよ」

 

 

 太郎は、答えなかった。けれども、鱗滝には御見通しのようであった。

 

 

「人は嘘を吐く時、様々な事を考える。それは大体にして嘘を吐かなければならない理由についてだが……君の場合は、誰かの為だ」

「…………」

「他人を怖がらせない為に、誰かを不安にさせない為に、君は自らを隠している。そこに、悪意はない。だからこそ、ワシは君に対して警戒心を覚えない」

 

 

 そこで、鱗滝は言葉を止めた。どうしたのかと、おもむろに顔を上げた太郎が目にしたのは……天狗の面を下ろした、初老の男の顔であった。

 

 隠されていたその顔には、様々な想いが刻まれていた。

 

 皺が目立つ額や頬に、大きな傷痕が一つ、二つ、三つ。苦難と後悔を繰り返してきたのが一目で分かる、一人の年老いた男の目が、太郎を捉えていた。

 

 どうして、面を外したのか。

 

 そのことを、太郎はあまり驚かなかった。それよりも太郎を驚かせたのは、鱗滝がおもむろに……額を床に押し当てんばかりに、深々と頭を下げたことであった。

 

 

「──ありがとう。あの子たちが生きて戻って来られて、ワシは本当に嬉しかった」

 

 

 いきなり、どうしたのか。

 

 そう思った太郎だが、直後に成された鱗滝の感謝に……太郎は、伸ばし掛けた手を引っ込めた。

 

 

 面を外し、頭を下げる。

 

 言葉にすれば、たったそれだけのことだ。けれども、それが鱗滝なりの誠意であることは、考えるまでもないことであった。

 

 

「……あの子たちは深く寝入っている臭いがしている。明日になって起きだして来れば、ワシから話をしておく。ワシらに構わず、行きなさい」

 

 

 ゆっくりと、鱗滝は頭を上げて。黙って鱗滝の感謝の言葉を受け入れた太郎へと続けられた言葉が、それであった。

 

 どうして……そう尋ねようと思ったが、太郎は止めた。

 

 臭いで分かると口にしていた通り、既に太郎の内心を察していたのだろう。皆が寝静まった頃合いを見て、この場を後にする……ということを。

 

 

 ……後ろめたいというか、申し訳のない気持ちはあった。

 

 

 短い間とはいえ、互いを助け合う錆兎と義勇は良い子だと思った。最初こそ面食らったが、互いを想い合う胡蝶姉妹もまた、良い子だと思った。

 

 出来るなら、この子たち傍に……もう少し傍にいたいと……それは、太郎の紛れもない本音であった。

 

 だが、同時に……あまり長く傍にいてはいけないという想いもまた、太郎にとっての本音でもあった。

 

 

 何故なら、己は仮面ライダー。己が如何に普通を自称しようが、それはあくまで自称だ。

 

 

 その気が有ろうが無かろうが、異質な力は人々を不安にさせる。太郎が知る『夢の世界のライダー』たちがそうだったように、異質を警戒するのは致し方ない事なのだ。

 

 太郎が危惧するのは、その不安と警戒の視線が己以外に向けられること。

 

 己一人に向けられるのであれば、それでいい。だが、そうはならない。露見した時、必ず彼の傍にいる誰か……例えば、あの子たちにもまた……同じ目を向けられてしまうだろう。

 

 

 ──それだけは、駄目だ。

 

 

 だからこそ、太郎はあの子たちから離れようと思った。

 

 今はまだ情がそこまで移ってはいない。けれども、このまま傍にいれば……間違いなく、自分は絆されてしまう。だからこそ、今しかない。

 

 

 ……故に、太郎もまた鱗滝に頭を下げた。

 

 

 それは晩飯を御馳走になった事と、己の内心を慮ってくれた事。そして、面を外して素顔を見せてくれたことへの誠意に対してであった。

 

 

 ……故に、太郎もまた鱗滝に誠意を見せようと思った。

 

 

 異質な怪物として見られるのならば、それでも良い。だが、与えられた誠意を、ただ受け取るばかりではいたくない……そんな、矜持にも似た想いが太郎にはあった。

 

 

「──見てください、鱗滝さん」

 

 

 故に……太郎は、立ち上がる。見上げる鱗滝の視線を真っ向から受け止めた太郎は……構えた。

 

 

 ──変身! 

 

 

 太郎が、仮面ライダーBlackに変身を終えるのは、瞬きよりも速い一瞬であった。

 

 バッタを思わせる顔、真っ赤な目に、黒いボディ。関節より淡く噴き出す熱気は、変身の際に溢れ出た『キングストーン』の力。

 

 数多の怪人たちを打ち払ってきた、愛の戦士……仮面ライダーBlackへと成った、鱗滝の前に立っていた。

 

 

「……なるほど」

 

 

 長い……長い沈黙であった。けれども、鱗滝の目には恐怖は宿っていなかった。けれども、言葉を選んでいるようだった。

 

 それは、Blackを……否、太郎を気遣う為のモノではないことは、臭いが分からない太郎にも分かった。

 

 ただ、どのような言葉が良いのか。どれが、己の内心を上手く言い表すことが出来るのか。そう、悩んでいるように太郎には──と。

 

 

 

 ──眠れ。

 

 

 

 不意にBlackの耳が拾ったのは、そんな言葉であった。

 

 あまりにそれは唐突で、聞こえたのはそれっきりであった。「……?」思わず辺りを(というか、室内を)見回したBlackだが……はて、と首を傾げ……いや、これは? 

 

 

(外に……幾つか気配がある?)

 

 

 気のせいかとも思ったが、違う。以前とは異なり、変身前であっても常人よりも感覚が鋭くなった太郎だが、Blackへと変身すれば、それらの感覚は数十倍、数百倍にも強化される。

 

 だからこそ、Blackは外にいる何者かを気のせいとは判断しなかった。

 

 

 いったい、こんな夜更けに……と、思った途端。

 

 

 視界の端で、前触れもなく、ぐらりと鱗滝が姿勢を崩した。「──危ない!」頭から囲炉裏に落ちかけた鱗滝を抱き留めたBlackは……そこで初めて、違和感に気付いた。

 

 

「……鱗滝さん?」

 

 

 ぐったりと脱力するその顔は……安らかな寝息を立てていた。そう、寝息だ。ふうふう、と微かに聞こえる一定の呼吸音、鱗滝が眠っていることを証明していた。

 

 

 ……状況が分からない。もしや、何かしらの病気なのだろうか。

 

 

 そう思ったBlackは、マルチアイを使って鱗滝の身体を見てみるが……分からない。少なくとも呼吸や心音に不自然な乱れはなく、表面上は、ただ寝ているようにしか見えない──と。

 

 

 

 

 ──眠れ。

 

 

 

 

 再び、声がした。今度のも、先ほど同じ言葉で、同じ声であった。

 

 

「──誰だ!?」

 

 

 だが、しかし。先ほどとは違い、今度はBlackに変身していたおかげで……ソレを捉えることが出来た。

 

 ほんの一瞬、空間より出現した……『目玉と口が幾つも付いた腕』が、しゅるりとその姿を消したのを。

 

 

 ──ゴルゴムの仕業か!? 

 

 

 結論は、早かった。おそらく、外にいるのはゴルゴムの怪人……鱗滝たちが『鬼』と呼ぶモノたち。

 

 ここで戦うのは不味いと判断したBlackは、扉を蹴破って外へと飛び出し……次いで、待ち構えていたかのように佇むその者たちを前に、身構えると。

 

 

「お前たちは……っ!?」

 

 

 思わず……Blackは、握り締めた拳をぎりぎりと音を立てた。

 

 

 ──そこには、見覚えのある怪人が3体と、そうでない怪人が2体いた。

 

 

 見覚えのある怪人は、瞳に『上弦』『壱』と記された、六つの目を持つ剣士の怪人……覚えが確かなら、名を、黒死牟。その剣技は、Blackでは足元にも及べない。

 

 

 その傍には、『上弦』『参』と記された、目元の皮膚がひび割れた徒手空拳の怪人。名は……猗窩座。単純な身体能力はこちらが上だが、格闘技術そのものはBlackを大きく突き放す。

 

 

 見覚えのない怪人の内、頭から血を被ったかのような文様の髪と、虹色に鈍く輝く瞳を持つ、男の怪人。『上弦』『弐』と記されているところから推測する限り……爽やかな笑みを浮かべて、こちらを見ている。

 

 

 もう一体の見覚えのない怪人は、洋装の優男といった風貌の、『下弦』『壱』と瞳に記された男だ。ただし、こちらは『上弦』と記された3体とは違い、威圧感というか……それが薄いように思える。

 

 

 そして……ああ、そして。

 

 

 そんな怪人たちの中央に立つ、帽子を被った洋装の男。その男は、見間違うはずもない。かつて、Blackの……太郎の恩師たちを皆殺しにした、因縁の怪人であった。

 

 

「キサマ……ゆるさん!!」

 

 

 怒りが、噴き出す。多勢に無勢であろうが、構わない。

 

 仇を……恩師たちの無念を晴らす為に。そして、怪人たちによって未来を狂わされ、気紛れのように大切な者たちを奪われてしまった人たちの為に……Blackは、その男へ──。

 

 

 

「良いのか? こっちに向かう隙に、部屋の中にいるやつらが死ぬぞ?」

 

 

 

 ──向かおうとしたが、出来なかった。その僅かな隙を──突かれた。

 

 男の腕が、動いた。その動きは、Blackの目を以ってしても『速い!』と思わせる速度で。鞭のような何かが、暗闇の中をしなり──Blackの表皮に火花を散らせた。

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 かつて、この男と戦った時……おそらく、この男は油断していたのだろう。その時は不意を突いたおかげで一方的に戦いが進んだが、今は違う。

 

 刃が付いた鞭……いや、そのように形状を変えた腕が、Blackの身体を傷つけてゆく。その一撃は、常人であれば即死の一撃、必殺の刃。

 

 それが、二つ、三つ、四つ、五つ……縦横無尽に軌道を変えて繰り出される連撃が、雨あられのようにBlackへ──だが、そこまでだ。

 

 

「──むん!」

 

 

 Blackのマルチアイは、放たれた刃の鞭を一つを掴んだ。「──なに?」驚きに目を見開く男を尻目に、Blackはそのまま男を引き寄せようと──する前に、横合いから放たれた猗窩座の拳が、Blackの視界をがくんと揺らした。

 

 

「──とぅあ!」

 

 

 しかし、その程度でBlackは怯まない。瞬時に立て直したBlackの蹴りが、猗窩座の右腕の防御ごと、肋骨を砕いた。

 

 そのまま、猗窩座へと──攻撃を放つ前に、びゅう、と冷気がBlackのライダーセンサー(空気や熱源等を感知する)に反応した──いや、これは!? 

 

 夜の闇であることを差し引いても低すぎる、極寒の冷気。一息吸うだけで呼吸器を痛めつけるほどの異常な冷たさに、Blackは……足を止めると。

 

 

「『パワーストライブス』!」

 

 

 全身の至る所に走るラインから、エネルギーを放出した。それは強烈な熱気となってBlackの全身を覆い……周囲に広がっていた冷気を、瞬時に跳ね除けた。

 

 

「──へ~、凄いね。普通なら肺が凍ってボロボロになるところだけど、平気なんだね~」

 

 

 そこに声を掛けたのは、『上弦』『弐』の文字を両目に刻んだ怪人であった。何が嬉しいのか、ニコニコと何処までも爽やかな様子であった。

 

 

「凄いね~、凄いな~、皆が警戒する理由が分かる気がするなあ」

「…………」

「無視かい? いいよいいよ、不安にならなくて。僕が君の不安を祓ってあげるからさ」

 

 

 警戒するBlackを尻目に、『上弦の弐』はからからと楽しげに笑う。だが、Blackは見抜いていた。

 

 

 一見、この怪人は友好的な雰囲気や態度を示している。だが、内心は違う。

 

 

 表面のそれらはあくまでもポーズでしかなくて、その本質は……限りなく空虚であるということを。

 

 その証拠に、軽やかに笑うこの怪人の心音。センシティブイヤーによって探知した限りでは、欠片の変動もみられない。

 

 猗窩座や黒死牟……そして、恩師の仇である怪人も……この怪人はどうやら幾つもの心臓を持っているようだが、それでもBlackの反撃によって、心音に変化が現れた。

 

 当然の話だ。Blackであろうと怪人たちであろうと、攻撃を受ければ僅かでも鼓動に反応が出る。それは反射のようなもので、大なり小なり違いはあれど、意識して抑えられるものではない。

 

 

 なのに、『上弦の弐』には、それがない。

 

 

 先ほどの反撃の時も、己の攻撃が通じていないことを理解した瞬間でも、そうだ。常に一定で、同じリズムを延々と繰り返している。まるで、人の形をした機械を相手にしている気分であった。

 

 

(残るは『下弦』と『壱』の文字を目に記した怪人だが……手出しはしてこないのか……?)

 

 

 加えて、不確定要素が一つ。それは、威圧感こそこの場では一番弱いものの、離れた場所で様子を見ているだけの『下弦の壱』であった。

 

 

 ──おそらく……先ほど、室内にて突如出現した『奇怪な腕』の持ち主が、こいつだ。

 

 

 原理は不明だが、あの時聞こえた『眠れ』という言葉。おそらく、あれを聞いてしまった者を強制的に眠らせてしまう能力を持っているのだろう。

 

 

(ならば、真っ先にあいつを倒さねばならないわけか……)

 

 

 だが、しかし。

 

 

「……相当に頑強だろうと考えてはいたが、不愉快だ。なるほど、お前は実に私を不快にさせる」

 

 

 それをBlackが実行に移す前に……恩師の仇が、不快感を露わにそんな事を呟くと……その眼差しをBlackから、鱗滝が眠っている家の方へと向けた。

 

 

「元の姿に戻れ。嫌なら、あの人間どもを殺す」

「──っ!」

「5秒以内に決めろ……参、弐、い」

 

 

 ──考えるまでもなかった。この怪人は、何の躊躇もなくやるだろう。

 

 

 相手が年若い子供であろうが、年老いた者であろうが、この怪人にとっては何の意味もない。

 

 だから……Blackはすぐに変身を解いた。その結果、直後に殺されることが分かっていてもなお……そして、現実は想像の通りに動いた。

 

 

 ──ひゅん、と。

 

 

 太郎の目では捉えきれない速度となって空気を切り裂いた肉刀の鞭が、寸分の狂いもなく……太郎の腹へと突き刺さり、背骨ごと貫通した。

 

 

 ──ごぽっ。

 

 

 痛みよりも前に、熱が走る。その直後にこみ上げてきた鮮血が、口から零れ出る。ずぶっ、と刃が抜かれた感触……気付けば、太郎は倒れている己を自覚していた。

 

 

 ……致命傷だ。

 

 

 それを認識してから、遅れてやってくる激痛。と、同時に穴の開いた腹部から、己の命が流れ出てゆく感覚。それはかつて、あの夜に一度だけ認識した……死の感覚であった。

 

 

 

 ──それが、『太陽の石』というやつですか? 

 ──ああ、そうだ。その男が曲りなりにも私に対抗する力を得たのは、この石が原因だ

 ──へえ~、僕にはそこらへんの石ころにしか見えないけどなあ~

 ──おそらく……偽装、なのだろう。それだけの……力を有しているのならば……納得も出来る……

 

 

 

 薄れゆく意識、掠れる視界の中でどうにか太郎の目が捉えたのは、血に塗れた『キングストーン』を手にしている仇と、仇を取り囲む怪人たちの姿であった。

 

 ……そうか、あいつの狙いは『キングストーン』だったのか。

 

 

 太郎は、理解した。

 

 

 あの夜、あの時、仇のあいつは『キングストーン』をただの石ころだと判断した。その腹いせに、太郎の腹部に埋め込んで鬱憤を晴らし……Blackを誕生させた。

 

 あいつにとって、想定外の事態だったのだろう。だが、同時に、あいつはこうも思ったはずだ……本物であることが分かったなら、捨て置く理由はない……と。

 

 けれども、Blackとなった太郎から『キングストーン』を取り出すのは容易ではなかったはずだ。

 

 変身していない状態でも『キングストーン』の影響からか、勘の鋭さは常人のソレではない。加えて、バトルホッパーで常時移動を続ける太郎の位置を知るだけでも、難しい。

 

 

 だから……出せる戦力を一気に出したのだ。

 

 

 確実に、絶対に逃げられないよう、人質を取ってまで。そのおかげで、太郎は致命傷を負った。そして、怪人たちは『キングストーン』を手にし……手にして、そうだ。

 

 

 ──皆が、危ない。

 

 

 危険を、鱗滝たちに伝えようとした。だが、手足がピクリとも動かない。腹部より広がる熱は冷たくなり始め、もはや呼吸すら出来ていないのが分かる。

 

 

 ──このままでは、全員が殺される。

 

 

 焦燥感が、胸中より湧き出てくる。

 

 

 ──だが、今の俺に何が出来る? 

 

 

 決まっている、何も出来ない。あの時とは違い、『キングストーン』は太郎の身体から離れてしまった。加えて、あいつの傍には……あの時いた怪人とは比べ物にならないぐらいに強大な怪人が、数体いる。

 

 例え、この場を見逃されて傷を治したとしても、Blackに変身する力を失った太郎に出来ることなど、何もない。仮面ライダーの『力』が無ければ、太郎は所詮、世捨て人の風来坊でしかないのだから。

 

 

(ま、ま……て……)

 

 

 意識が、遠のく。痛みも、遠のいてゆく。

 

 死が、意識を覆い始めている。辛うじて見えていた視界が闇に閉ざされ、冷たさも何もかもが遠ざかってゆく……その最中。

 

 

 

 ──あの……人間たちは……どうする? 

 ──好きにしろ。

 ──じゃあ、救済してあげないと。

 ──弱いが、より強くなる糧にはなるか。

 

 

 

 聞き捨てならない……いや、けして許してはならない言葉が、太郎の耳に届いてはいたが。

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………心の臓が止まってしまった太郎には、どうにもできないことであった。

 

 




太郎が死んだ、この人でなし!


無惨「勝ったな……風呂入るか」
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