「一年を通して狂い咲く藤の花……まさか、ゴルゴムの仕業か!?」BLACK死す!? 砕かれたキングストーン!(タイトル詐欺は(ry))   作:葛城

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ここから先、無惨ファンは注意ね
正確には、この次の話だけど


wake up the ヒーロー

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 ………………そのまま、どれぐらいの時間が流れたろうか。

 

 

 気付けば、太郎は暗闇の中で微睡んでいた。自分が目を瞑っているのか、それとも開けているのか。寝ているのか立っているのか……何一つ、上手く認識出来ない。

 

 

 自分はあの後、いったいどうなってしまったのか。

 

 負傷した痛みが消えているが、出血は止まっているのか。

 

 怪人たちは、鱗滝たちをどうしたのだろうか。

 

 気紛れを起こして去っていったのか、それとも……ああ、分からない。

 

 考えようとはしている。だが、それだけだ。

 

 

 ……そう、そうだ……とても、心地良い気分であった。

 

 

 まるで、丁度良いお湯の中を漂っているかのような……それでいて、愛を持って優しく抱き締められているかのような……苦しみの一切を、太郎は感じていなかった。

 

 有るのは、この心地良さだけ。

 

 それで良いと、太郎は思った。それだけで良いと、太郎は思った。このまま、この心地良さの中で浸っていたいと太郎は思い……只々、心地良さの中を漂っていた。

 

 

 

『起きて……起きなさい……』

 

 

 

 そんな時であった。静寂が支配していた此処に、何者かの声が響いたのは。

 

 声は、同じ言葉を繰り返している。起きろ、起きなさい、と。

 

 女の声だ、聞き覚えはないが、確かに女の声だ。しかし、どうしてだろうか……懐かしくて優しい気がして、ともすれば涙が出そうになってしまう。

 

 

 

『起きなさい……起きるんだ……』

 

 

 

 涙を堪えていると、また声が聞こえる。今度は、男の声だ。聞き覚えはないが、どうしてだろうか……懐かしくて暖かい気がして、ともすれば涙が出そうになってしまう。

 

 

 

『……起きて、起きなさい』

 

『……起きなさい、起きるんだ』

 

 

 

 女の声と、男の声。交互に聞こえていたそれらの間隔が狭まる。気づけば、二つの声は一つに合わさり、暴風となって太郎の身体を揺さぶっていた。

 

 最初は鬱陶しく思って無視していたが、声は治まらない。いや、それどころか、刻一刻と強まり続けるおかげで、気付けば太郎の身体は右に左にぐらぐらと……ああ、もう! 

 

 

 

 ──止めてくれ、俺は眠いんだ。

 

 

 

 己を起こそうとする輩へ、目を瞑ったまま言い放った言葉。それは多分に怒気を孕んだモノであり、普段の太郎からは想像もつかないぐらいに冷たく不機嫌を露わにしていた。

 

 そのおかげか……声は、止んだ。

 

 己の怒気が通じたからか、それとも別の理由で諦めたのか。さておき、これでゆっくりこの微睡みに身を浸せると思った太郎は、そのままスーッと身体の力を抜いた。

 

 

 

『……本当に、それでいいの?』

 

 

 

 けれども、間を置いてから新たに聞こえてきた……女の声は、まるで涙と悲しみを堪えるかのように、か細く震えていて。

 

 

 

『本当に、それでいいのか?』

 

 

 

 その後に聞こえて来る男の声は、まるで激情を堪えるかのように、一つ一つ力が込められ、でも、気遣うようでいて。

 

 

 

 ──それでいいんだ。俺はこのまま眠っていたいんだ。

 

 

 

 だから、太郎は率直な本音を吐いた。それは嘘偽りない太郎の本音で、このまま眠り続けたいと太郎は本気で思っていた。

 

 

 

『──でも、お前が眠ればあの子供たちは皆殺しにされてしまうわ』

 

 

 

 だが、しかし。

 

 

 

『それでいいの? お前の恩師がそうなってしまったように、あの子たちもまた……そうなっても良いと思うの?』

 

 

 

 そう、尋ねられた瞬間。

 

 

 

「──駄目だ。それだけは、駄目だ」

 

 

 気付けば、太郎は目を開けていた。と、同時に、全身にもたれ掛っていた倦怠感も消え……太郎の前には、見覚えのない男女の姿があった。

 

 

「……ここは? 貴方達は、いったい……?」

 

 

 二人から視線を外した太郎は、辺りを見回した。辺りは、闇だけが広がっている。何処までも、何処までも、果てのない闇だけが広がって……いや、違う。

 

 遠くの方で……光り輝くナニカが見える。

 

 それは……正しく光の世界という言葉が当てはまる光景であった。暗闇の中に浮かぶ、光の世界。そこから、温かい何かが……こちらに向かって漂って来るのを、太郎は感じ取った。

 

 

 いったい、あそこは……いや、それよりも、だ。

 

 

 いったい、俺はどうなったのだろうか。何時の間に、こんな場所に連れて来られたのだろうか……全く、覚えがない。

 

 ともすれば、恐怖を覚えるであろう状況だ。けれども、どうしてだろうか……不思議と、太郎は何の恐怖も覚えなか──ん? 

 

 

 気配を感じた太郎が振り返れば、そこには先ほどの男女とは異なる美男美女がいた……が、それよりも太郎が気になったのは、二人の姿であった。

 

 何をしているのか……土下座しているのだ。太郎と視線が合った直後、太郎に向かって膝をつくと、深々と頭を下げた……いったい、何故だ? 

 

 

『お願いします。娘を、カナエとしのぶを守ってやってください』

『あの子たちは、私たちの最後の宝なのです。どうか、どうか……』

 

 

 呆気に取られている太郎を他所に、美男美女の二人はそれだけを呟き、頭を下げ続け……いや、待て。

 

 

 ──カナエとしのぶ? それは、あの姉妹と同じ名前ではないか。

 

 

 意味が分からない。というか、状況が……そう思っていると、また気配を感じた。振り返れば、何時の間にそこにいたのか……狐の面を被った少年少女たちが、太郎を見上げていた。

 

 

『お願い、鱗滝さんたちを助けて。みんな、死んでほしくないの』

『僕たちは、何も出来ない。太郎さん、貴方にしか、出来ないんだ』

『錆兎も、義勇も、生きて戻った。あの人が心から笑ったのを、初めて見た』

『だから、助けて。立ち上がって、皆を守って。僕たちの分も、戦って』

 

 

 口々に語りかけてくる(というか、お願いしてくる)子供たちを前に、太郎は思わず一歩退いた……が、その足がそれ以上下がることはない。

 

 

『お願いします、太郎様。どうか、どうか……義勇を、私の弟を守ってやってください』

 

 

 何故なら、太郎の後ろにはまたもや、見慣れぬ女が立っていたから……いや、いやいやいや、待て、こいつは今、何と言った? 

 

 

 

『──太郎くん、立ち上がりなさい』

 

 

 

 何が何だか分からない。そう思うしか出来なくなっていると……初めて、聞き覚えのある声がして……太郎は、絶句した。

 

 

 ──まさか、そんなまさか!? 

 

 

 再び振り返った太郎は……それ以上、何も出来なかった。何故なら、視線の先……そこに、今は亡き恩師が立っていたからだ。

 

 

「せ、先生……? ど、どうして……」

『立ちなさい、君はまだ、こんな所で倒れるわけにはいかない』

 

 

 辛うじて絞り出した問い掛け。しかし、恩師は答えず、『まだ、君にはやることが残されている』そう言葉を続けた。

 

 

「ですが、先生……俺は、もう……」

 

 

 やる事……そんなの、考えるまでもない。だが、己はもう……そう言葉を濁す太郎だが、恩師は静かに首を横に振ると……おもむろに問い掛けてきた。

 

 

『君は、何の為に戦っていたのかね?』

「何の為……それは、先生たちのような犠牲者を、これ以上増やさないようにと……」

『そうだったね。だが、それで?』

「それで……って」

『その先は、どうするつもりだね。仇を討ったら、世の為人の為に自害するかね? 化け物として、人間の為に死を選ぶと?』

「──っ! そ、それは……」

 

 

 それは……太郎が考えないようにしていた未来であった。

 

 

 そう、そうだ。今はまだ、怪人という敵がいるから己は正義として戦える。だが、仮にゴルゴムを滅ぼし、怪人たちがこの世からいなくなれば……自分はどうなる? 

 

 

 そんなの……決まっている。己が、仮面ライダーBlackこそが、『最後の怪人』となって……人間に追われる形になるだけ。

 

 

 納得は出来ないが、それが現実になるだろうと太郎は思っている。

 

 太郎がどれだけ人間を自称しようが、普通の人間は変身など出来ない。Blackの姿は怪物以外の何者でもなく……それは、致し方ない現実でしかなかった。

 

 

『……君はもう、過去ではなく未来へと進むべきだ』

 

 

 自問自答し続ける太郎に、恩師は言った。「──先生っ」ハッと顔を上げた太郎が目にしたのは……かつてと同じように向けられた、恩師の笑顔であった。

 

 

『私たちはもう、死んでいる。死んだ私たちを想って戦ってくれるのは嬉しい。だが、君はもう過去よりも未来の為に戦うべきなのだよ』

「過去ではなく、未来……」

『例えば……あの姉妹。あの子たちは、かつて君が怪人たちから救いだした二人の少女だ……覚えているだろう?』

「二人の……っ!? ま、まさか──あの子たちは!?」

 

 

 太郎の脳裏を過ったのは、かつて助けた二人の女の子。最後には怪人の仲間として怖がられてしまったが……まさか、こんな形で再会しようとは夢にも思わなかった。

 

 

 ……どうして、あの子たちが。

 

 

 率直に、太郎はそう思わずにはいられなかった。

 

 

 あの時、太郎は思った。例え助けた少女たちから怪物として怖れられたとしても、女として母として、幸せになってさえいてくれれば、それで良い……と。

 

 なのに、かつての少女は刀を手に取った。『怪人』を相手にする為に、大人ですら根を上げるであろう厳しい修行を積んで、試験を突破した。その少女よりも幼かった妹も、姉と同じ道を辿ろうとしている。

 

 それでは……いったい、何の為に悪役となったのか。どうしようもない無力感に、太郎は言葉を失くすほか出来なかった……なのに。

 

 

『自惚れてはいけないよ。あの子たちは、自らの意志で刀を持った。自らの意志で、戦う未来を選んだ……それを、君の勝手な想いで穢してはならない』

 

 

 恩師は、そんな太郎の葛藤をあっさり切って捨ててしまった。

 

 

『あの子たちがどんな思いで刀を手にしたのか。それは、あの子たちにしか分からないことだろう。でも、勘違いをしてはいけない。それもまた、あの子たちが選んだ道なのだから』

「でも、でも……先生!」

『あの娘たちだけじゃない。君が助けた錆兎くん、義勇くん。二人もまた、前を向いている。君と同じく悲しい過去を抱えていても、彼らは彼らの意志で未来を……みんなを想って戦っている』

「それは……ですが、先生……」

『否定するかい?』

 

 

 太郎は……迷いながらも、微かに頭を振った。

 

 

「だって、納得出来ない。そんなの、あんまりじゃないですか! 俺は、俺はただ……あの子たちだけじゃない。皆が、笑っている未来を望んでいただけなのに……」

 

 

 そう叫んだ太郎は……ハッと、我に返った。見やれば、『そうだ、君に必要なのはソレだよ』してやったりと言わんばかりに笑う恩師と目が合った。

 

 

『過去を想うのも重要だ。でも、過去ばかりに囚われていては、いずれ足元を掬われる。生きるというのは、前を向いて歩くということなのだよ』

「前を向いて……」

『難しく考える必要はないよ。前を向く為に、あの子たちは刀を手に取った。結果的に、それが世の為人の為に成っているだけのことさ……君と同じくね』

 

 

 そう、恩師が呟いた瞬間……太郎は、気付いた。ああ、そうだったのかと……太郎はこれまで感じていた己の中にあるナニカを理解し、納得した。

 

 

 自分は……ただ、復讐がしたかっただけなのだ。

 

 

 恩師たちのような悲劇をと、もっともらしい理由をつけたが……何の事はない。己は、あの怪人たちを……ゴルゴムを滅ぼし、この身に宿る憎悪を晴らしたいと思っただけ。

 

 

「でも、先生……俺は、守りたいんだ」

 

 

 それに気づいてしまった太郎は……それでもなお、恩師を見つめた。その目には、これまでにない……強い光が宿っていた。

 

 気付けば、この場の誰もが真剣な眼差しを太郎に向けていた。己に問い掛けた男女も、頭を下げていた美男美女も、狐の面を被った子供たちも、弟を助けてと訴えた女も……みな、太郎を見つめていた。

 

 

「俺は……それでも俺は、怪人たちから人々を守りたいと思った」

 

 

 その中心にて……太郎は、宣言をする。

 

 

「もう、悲しみの涙も、怒りの涙も、見たくない。涙を流してほしくないから、笑っていてほしいから、俺は戦う道を選んだのです」

『そうだね、それもまた君の本心だ……が、しかし』

「分かっています。怪人たちを滅ぼしたいという俺の憎しみもまた、俺の本心です。もう俺は……怒りを、悲しみを、誤魔化して生きて行くことはしません」

『……それでいい』

 

 

 そう答えた恩師は、穏やかな……それでいてどこか寂しそうに微笑んだ──途端。遠くの方で輝いていた光が……強くなった。

 

 それは、正しく太陽が如き輝きであった。

 

 その光は瞬く間に太郎を照らし、皆を照らし、暗闇を晴らしてゆく。思わず目が眩む太郎を他所に、一人……また一人と、太郎を囲んでいた人々が光の向こうへと消えてゆく。

 

 

「──先生!」

 

 

 それは、恩師とて例外ではない。

 

 目も開けられない眩しさの中で、太郎は……消えゆく恩師へと手を伸ばす。だが、その手は恩師を掴むことはなく、ますます増して行く光を淡く掴むだけ。

 

 

『──忘れてはいけないよ。私たちは、君を見守っている』

 

 

 遂に、太郎1人だけが残された光の世界……そこに、恩師の声と。

 

 

『──お前を、誇りに思う。お前も幸せになってほしいと思う事しか出来ない俺たちを、許してくれ』

『──貴方の無事を、祈っております。貴方を見守り、想うことしか出来ない私たちを、許してください』

 

 

 最初に声を掛けてきた男女の……いや、違う。この二人は……そうか、そうなのか。

 

 

「──ありがとう、父さん、母さん。こんな俺を、見守っていてくれて」

 

 

 己は、一人じゃない。孤独な戦いの中でも、己と同じく志を持って戦う人たちがいる。ゴルゴムに負けない光の意志に燃える者たちがいる。

 

 

「もう、負けないよ。俺は……戦う! みんなの為に、自分の為に、心の光を灯し続ける!」

 

 

 それが分かった太郎は……否、太郎ではない。

 

 

『──負けるな、光太郎(こうたろう)。それでこそ、私たちの息子だ』

 

 

 忘れていた、己の本当の名前。重なる、二人の……両親の声。そして、注がれる……数多の想い。それらを一身に受け取った……光太郎の腰には──。

 

 

「──いくぞゴルゴム! もう、俺は負けない!」

 

 

 力強く活動するライダーベルトと……その中心に生まれた『キングストーン』の輝きが、有った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………鳥や獣の声はおろか、虫たちのざわめきすら静まり返った、そこ。

 

 

 漂う血の臭いと、異形の気配。そこに、絶命しているはずの光太郎の身体から光が放たれたのを──誰も、予見出来なかった。

 

 

「──なに?」

 

 

 気付いたのは、この場にいる全員であった。だが、不思議と……振り返って異変の主を視線に捉えたが、誰もが、そこから先に動くことが出来なかった。

 

 

「……人間って、心臓が止まっても生き返るんだっけ?」

 

 

 あっけらかんとした様子の『上弦の弐』の視線の先。

 

 そこには、今しがたまで絶命していたはずの男が……悠然と立ち上がっていた。

 

 

 しかも、それだけではない。

 

 

 それは、不思議な光景であった。と、同時に、『鬼』と呼ばれた彼らは、金縛りにあったかのように身体が動いてくれないのに、それを苦に思わないという不思議な感覚を覚えていた──。

 

 

 ──突如、一筋の光が光太郎より放たれた。

 

 

 それは寸分の狂いもなく、『キングストーン』を貫いた。「──っ!?」ギョッと目を見開いた全員が、何の反応も出来ないまま……拳ごと、『キングストーン』は塵となった。

 

 なのに……何故だろうか。誰も、動けないのだ。誰も彼もが驚愕に目を見開きつつも、どうにも出来ない。それは、消滅した拳を再生させている男も同じであった。

 

 

(……何だ、何が起こっているのだ?)

 

 

 だが、しかし……ただ一人。他の者たちと同じく動けないが、それを強烈な不快感と共に……表現し難い感覚に襲われている者がいた。

 

 それは、奇しくも太郎を……否、光太郎を二度に渡って殺め、たったいま手にしていた『キングストーン』を拳ごと壊された、洋装の……鬼無辻無惨、当人であった。

 

 

 ──鬼無辻無惨。その正体は、鱗滝たち鬼殺隊の悲願であり、宿願でもある『鬼』の総大将。全ての『鬼』を作り出した、正真正銘の怪物である。

 

 

 つまり、この場に集まっている『鬼』の親玉だ。

 

 彼は、光太郎を異形の存在へと変身させた『太陽の石』を求め、これまで光太郎を探し続けていた。その理由は、ただ一つ……『太陽の石』が普通の石ころでないことが分かったからだ。

 

 

 最初は……無惨も、アレは只の石ころだと思っていた。

 

 

 だが、蓋を開けてみればどうだ。原理は定かではないが、『鬼』を凌駕する力を手にしたばかりか、不可思議な術(としか、無惨には思えない)まで人知れず会得している。

 

 

 ……いったい、太陽の石とは何なのだろうか? 

 

 

 それは、無惨にも分からないことだ。だが、問題はそこではない。無惨にとって重要なのは、光太郎に力を与え、あのような姿に変身させる力……そして、太陽の下でも動き回れる、その特質性だ。

 

 

 ──人知を超えた力を持つ無惨にも、唯一といっていい弱点が二つある。

 

 

 一つは、鬼殺隊たちが用いる刀で首を切られて落とされること。全身がバラバラになったとしても死なない再生能力を持つ無惨でも、その刀で首を落とされれば相応にダメージを負う。

 

 

 そして、もう一つが……太陽の光だ。

 

 

 そう、無惨が『太陽の石』を求めたのは、この二つ目の弱点を克服する為だ。方法は分かっていないが、この石を使えばあるいは……そう思ったからこそ、無惨は光太郎を探し続け……そして見つけ、強襲したのだ。

 

 

 ……無惨は、己を完全無欠な存在だと思っている。いや、それは思う等という生易しい言葉ではない。

 

 

 無惨にとって、己以外は等しく餌であり暇潰しの道具でしかない。己を狙う鬼殺隊の事を『天災(己のやったこと)を憎悪し続ける異常者』だと本気で考えている。

 

 

 だからこそ、無惨には我慢ならないのだ。

 

 

 絶対的な上位者である己が、餌でしかない者たちが当たり前のように出来ている事……すなわち、日の下を出歩くことが、己には出来ないという事実が、だ。

 

 故に、無惨は探し続けた。数多の餌を殺し、傷付け食らい、その未来を奪い取ることに何の罪悪感も抱かず、ただひたすら自分の為だけに探し続け……なのに、それなのに。

 

 

(……不愉快だ。何だこの感覚は、何だこれは……気に入らない、非常に気に入らない……!)

 

 

 いったい、どういうわけなのか……気付けば、無惨は震える足腰を自覚した。

 

 最初は、それが何なのか分からなかった。だが、すぐに分かった。この震えは、この感覚は……数十年前に一度だけ感じた、アレだ。

 

 

 ──まさか、己が恐怖しているというのか? 

 

 

 それは、無惨にとって受け入れがたい事実であった。完全無欠、絶対に間違えず、絶対に正しい己が……たった一人の存在を前に、恐怖する、だと? 

 

 

 ──有り得ない、有ってはならない事だ。

 

 

 太陽が東から昇って西に沈むように、己は不変で絶対なのだ。それを阻もうとする相手が悪であり、己が正義である。だから、アレは……あの男は、この世に存在しては。

 

 

 

 

「──何故、殺す。生きる為でもなく、何故、(いたずら)に奪う」

 

 

 

 

 そう思い、憤怒を吐き出そうとした──瞬間。眩しい程に輝きつつも、どこまでも優しい光の中で佇む……そこから放たれた言葉に、無惨はぎくりと身体を硬直させた。

 

 

 

 

「お前は──人の命を、人の想いを、何だと思っているんだ?」

 

 

 

 

 それは……思い出したくもない言葉であった。と、同時に、無惨の脳裏を過ったのは……忌々しい過去の記憶。

 

 

 かつて──己の手足と首を切り落とした男がいた。

 

 

 己の命を狙ってきた数多の剣士を容易く返り討ちにしてきた己を、汗一つ掻かずに……己を見下ろした、その男。

 

 名は、思い出したくもない。だが、覚えている。忘れたいのに、頭が、心が、その時の光景を忘れさせてくれない。

 

 

(まさ……まさか、まさかまさかまさかまさか……まさか、そんなはずは!)

 

 

 嫌な予感が、無惨の脳裏を過った。

 

 

(まさか、こいつも同じなのか……あの男と、こいつもまた同類なのか!?)

 

 

 心臓が……体内に七つある全ての心臓が、制御を外れて激しく鼓動する。冷や汗が吹き出し、ともすれば腰が抜けそうな……いや、まだだ。

 

 

(そ、そうだ──やつの身体には、私の血液を送り込んだ!)

 

 

 寸でのところで、無惨は気付いた。先ほど、腹を貫通して背骨を砕いた際……突き刺した触手から、己の血液を流し込んだことを。

 

 何故なら、無惨の血液は人間にとっては猛毒である。ごく微量であっても、人間の細胞が無惨の血液に耐えられず、例外なく壊死してしまう。

 

 体内に侵入した瞬間、細胞が異常な増殖と崩壊を繰り返し、5分と経たずに細胞が沸騰し、死滅して蒸発する。

 

 それが、己の血液なのだ。己の手足となる『鬼』にさせないようにしたとしても、その致死性は微塵も落ちたりしない。

 

 

 だから……やつは死ぬ。そう、無惨は安堵の笑みを零す。

 

 

 多少なり平気であったとしても、時間の問題だ。かつて、己を殺し掛けたあの男ですら、その肉体は人間であった。

 

 かすり傷一つ負わせられなかったが、一滴でも血を注入すれば……対して、こいつは相当な量を流し込んだ。

 

 

(──勝った! 私が、勝つのだ)

 

 

 光が邪魔をして姿は見えないが、もう間もなく終わる。不可思議な光景ではあるが、所詮は燃え尽きる蝋燭……もう間もなく、倒れ伏すだろう。

 

 そう、そうだ。もう間もなくだ。もう間もなく、眼前の忌々しい怪物は血反吐と共に地面へ……そう、地面へと……地面……? 

 

 

 ──何故、倒れないのだ? 

 

 

 一向に変化が訪れない光景を前に、無惨は目を見開いた。いや、まさか、そんな……再び湧き始めた予感に、無惨は──。

 

 

 

 

 

「無駄だ──毒であろうが何であろうが、俺を真の意味で殺すことは出来ない」

 

 

 

 

 ──堪えきれず、一歩退いた。これは悪夢かと、無惨は思った

 

 

 

 

「この命、例え奪ったとしても──みんなの心に、人々の心に──前を向き、大切な者を守る──その心に、想いの光が有る限り──」

 

 

 

 

 けれども、声は止まらず──直後、光は吸い込まれるように中心へと向かい……気付けば、そこには異形の存在が立っていた。

 

 

 

 

「──俺は何度でも蘇る」

 

 

 

 

 その姿は、先ほど見せたBlackとは、少しばかり外見が異なっている。具体的には、一回り身体が大きくなっていた。

 

 

 鎧に例えるなら、プロテクター(軽装装甲)から、アーマー(重装装甲)になった……というのが、分かり易いだろうか。

 

 そいつは、悠然と立っていた。言葉通り、今しがたの負傷など無かったかのように腹部の穴は消えている。

 

 Blackよりも大きな目に、Blackよりもより分厚い黒いボディ。なのに、そこに威圧感はなく……まるで忌々しくも空に輝く太陽のように、存在感が有って。

 

 

 

 

「──だ、誰だ、お前は!」

 

 

 

 

 気付けば……無惨は、そう口走っていた。

 

 瞬間、ギョッと目を見開いて無惨を見やる『上弦の鬼』たちと、『下弦の壱』。しかし、無惨はそれらに構うことなく、「──答えろ! お前は、何だ!」己の内より湧き出る感情を誤魔化すかのように声を荒げた。

 

 

 

「……俺の名は、仮面ライダー」

 

 

 

 対して、無惨の視線を一身に浴びたソイツは……仮面ライダーへと変身した光太郎は。

 

 

 

「俺は太陽の子……仮面ライダー……アールエックス! 仮面ライダーBlack・RX(あーるえっくす)!」

 

 

 

 そう、己が存在を知らしめるかのように答えると、ほぼ同時に。Blackとは比べ物にならない速度で瞬時に加速を果たしたBlack……否、RXは。

 

 

 

「──RXキック!」

 

 

 

 無惨ですら反応出来ない速度で頭上を通り過ぎ──術が解かれないよう後方に控えていた『下弦の壱』を、飛び蹴りで粉砕したのであった。

 

 

 







無惨「どぼじでごんなごどずるのぉぉぉ!!!」
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