「一年を通して狂い咲く藤の花……まさか、ゴルゴムの仕業か!?」BLACK死す!? 砕かれたキングストーン!(タイトル詐欺は(ry)) 作:葛城
今、己の首を断たんとする光の戦士を前に、無惨の孤独な戦いが始まろうとしている
仮面ライダーBlack・RXとは、端的に言えばBlackが進化してパワーアップした存在である。
当然、その身に秘めた能力は、Blackの比ではない。全てにおいてBlackの上位互換に当たる故に、その力は……強大の一言で。
──が、ぎ……っ!?
直撃した『下弦の壱』は、状況を理解出来ないようで。余波によって胴体が燃えて消失している部分を、呆然とした眼差しで見やった──瞬間。
……まるで紙切れが燃え尽きるかのように、瞬く間に頭部へと炎が回った『下弦の壱』は、塵となって消滅した。
それは、必然の結果であった。相手が『下弦の壱』であろうとも、バイタルチャージを行っていなかったとしても、だ。
夢の世界(正確には、夢の世界での特撮の中では、だが)において、数多の怪人たちを一撃で倒してきた必殺技を受ければ……即死して当たり前であった。
「──キサマ!」
当然……攻撃された鬼たちは激昂した。
一人、現実の理解を拒否して動けなくなっている精神まで無惨な御方になっている方がいたけど、彼の部下であり手足である『上弦の鬼たち』は、動いていた。
『──術式展開・破壊殺』
最初にRXへと仕掛けたのは、奇しくも一番近くにいた『上弦の参』……すなわち、猗窩座であった。
一瞬にしてRXの懐へと入った猗窩座は、構えと共に地面を踏み砕く。途端、猗窩座を中心にして広がる雪の結晶のような形をした陣。
壱から拾までの数字が猗窩座を囲うように書かれているそれは、陣に入った者の全ての動きを瞬時に猗窩座に伝え、反撃の一手を即座に取らせる術である。
つまり、カウンター(反撃)型の術である。
猗窩座は一度、Blackと戦っている。故に、その実力をこの場の誰よりも把握している。すなわち、自身の攻撃ではBlackを倒せないことを理解していた。
だからこそ、猗窩座は攻撃ではなく反撃に徹した。力が足りないのであれば、相手の力を借りれば良い。そう判断したが故の、猗窩座なりの戦法であった。
「──っ、リボルケイン!」
だが、しかし。
そんな、戦いによって培った猗窩座の思惑も、その言葉と共にRXが腰のベルトより取り出した(というより、精製した)、光り輝く杖によって、無駄に終わった。
何故なら、繰り出されたリボルケインの一撃。
首ではなく腹部を狙ったそれをあえて受けた猗窩座は、迫るRXの勢いを利用してカウンターを放とうとしたのだが……出来なかったのだ。
どうしてかといえば、刺さったリボルケインが原因であった。
猗窩座は、その光る杖を見た時、只の杖ではないことを瞬時に悟っていた。鬼殺隊が持つ刀とは違うが、脅威になる武器であることには気付いていた。
しかし、猗窩座の失敗はそこではない。猗窩座が犯した最も大きな失敗は、リボルケインの特性を見誤ってしまった事であった。
というのも、リボルケインはその形状から誤解され、それで相手を傷つける類の武器である(実際、切れ味もヤバい)と思われるのだが……その本質は、直接的な攻撃にあらず。
リボルケインの真価は、相手の体内に膨大なエネルギーを送り込み、内部からオーバーフローを起こして自爆させるということにある。凶悪極まりない武器なのである。
故に、リボルケインをまともに受ければ最後、敗北は必至である。
それは、鬼たちとて例外ではない。いや、むしろ、太陽の光が弱点である彼らにとって、例えるなら体内に直接小さな太陽が出現したのと同じ状況に陥ってしまうというわけだ。
……そんなの、初見で分かるわけがない。
けれども、悪いのは猗窩座ではない。存在そのものが凶悪過ぎる、RXが悪いのだ。培ってきた経験が大きければ大きいほどに初見殺しという、敵からすれば悪夢のような武器なのである。
だからこそ、首を落とされない限りは大丈夫だという油断が、リボルケインを……『キングストーン』より生み出された膨大な太陽の力を、まともに受ける選択を取ってしまったのだ。
──ぎ、があ、あああ!?
リボルケインが体内を貫通した、その瞬間。強烈な激痛と共に、猗窩座は己が指一本動かせなくなっていることに気付いた。
と、同時に分かってしまった。
リボルケインより体内に流れ込む、太陽の力。それは己にとっては致命の毒であるということを。もはや逃れる術はなく、毒は瞬時に全身を巡って、勝敗を決してしまった。
辛うじて……辛うじてだが、猗窩座が己の死を理解した、その時。
何かを思いだしたかのように、あるいは何かを見てしまったかのように、視線をあらぬ方向に向けて、大きく目を見開いた後……声一つ発することなく、己の全てを塵に変えて、燃え尽きてしまったのであった。
「……なんだと?」
これには、『上弦の壱』である黒死牟も、六つある目を全て見開いた。
何故なら、猗窩座は上弦の鬼(RXは、怪人だと思っているが)。RXは知る由もないことだが、『上弦』の位は、数多に存在している鬼の中でも上位6名にしか与えられない強者の証。
つまり、猗窩座はその中でも、3番目に位置する実力を持つ鬼である。
その実力は位に相応しく、これまで幾人もの『柱』(鬼殺隊の中でも、特に優れた実力を持つ人物に与えられる位である)を返り討ちにし、その実力を示し続けた戦士である。
その猗窩座が……一撃で倒されてしまった。
しかも、鬼を殺せる鬼殺の刀はおろか、弱点でもある首を落とさずに、光り輝く不可思議な杖を使って……だ。その事実に、黒死牟の警戒心が一気に引き上げられた。
『月の呼吸……』
出し惜しみはしない。様子見も、不要。眼前の異形は、かつて相対した存在とは全く別の、己の脅威になる存在であると判断した黒死牟は──瞬時にRXへと迫ると。
『──月の型 闇月・宵の宮』
一刀にて仕留めるつもりで、本気の一撃を放った。
それは、かつてBlackへと放った一撃に比べて桁違いの力が込められている。故に、速さもキレも何もかもが、以前のソレとは桁外れ。
刃の軌道は月の如く円を描き、夜空に浮かぶ月のように音もなく切り裂いてゆく。
正しく、必殺の一撃であった。
常人ならば己が切られたことすら自覚できず、『柱』ですら成す術もなく命を絶たれ、Blackも防ぐこと叶わず直撃していただろう。
「──とぅあ!」
「なに!?」
だが──それはあくまでBlackの話でしかなくて。BlackからパワーアップしたRXにとっては、十分に防ぐことが出来る一撃であった。
まさか……これは?
黒死牟の刃と、RXのリボルケインがぶつかり、火花が散る。偶然か、否か。それを調べる為に、黒死牟はそのまま流れるように、RXへと斬撃を放った。
「無駄だ! それはもう、俺には効かない!」
結果は──黒死牟にとっては信じ難い事に、否であった。
しかし、黒死牟に落ち度はない。全ては、RXが持つ驚異的な反射神経と、視覚能力……マルチアイと呼ばれる両眼をさらにパワーアップさせた、マクロアイが原因であった。
これは、マルチアイが持つ望遠・広視界・暗視をパワーアップさせたうえに、透視能力まで備わった、もはや反則技のような両眼なのである。
……もしかしたら、それって『透明な世界』ってやつなのでは……はて、何の事かは分からないから、その話はここで終わろう。
とにかく──剣技では黒死牟に劣っているのは変わらないが、それを差し引いても、RXは完全に黒死牟の剣技に対応出来ていた。
「──とあ!」
「ぐっ、か……!」
その証拠に、以前は一方的に嬲られっぱなしであった戦いも、ほぼ互角……いや、RXが少しばかり押している。それは、致し方ないことであった。
本来ならば身体能力という圧倒的なアドバンテージが『鬼(怪人)』側にあるところなのだが、此度は違う。あらゆる面において、RXの方が上回っている以上……そうなるのは必然であった。
「──き、さま!」
けれども、だからといってあっさり受け入れるほど、黒死牟の矜持は小さくない。全力を出しても押されているという現実に、黒死牟の苛立ちは瞬く間に頂点へ──と。
──べべん、と。
琵琶の音がRXの耳に届いた瞬間、突如として黒死牟の姿がRXの前から消えた。
マクロアイを以ってしても捉えきれなかった変化に、RXは思わず辺りを見回し……己以外誰もいなくなっていることに、気付いた。
これは……あの時と同じだ!
RXの脳裏を過ったのは、恩師たちが殺されたあの夜。あと一歩というところで聞こえてきた琵琶の音。あの時もそうだった……琵琶の音がしたかと思えば、こうなった。
いったい、どのような力が働いているのだろうかと、RXは考える。
RXに幻覚や幻聴を見せて姿を消す……無理だ。
如何なる能力であろうが、こうまでRXの五感をかく乱するだけの力を持っていたら、わざわざ姿を隠したりはしないだろう。
では、周囲の景色に溶け込んで息を潜めている……それも有り得ない。
RXのマクロアイから逃れられる生き物はこの世にいない。それに、どれだけ周囲に同化したとしても、パワーアップしたセンシティブイヤーから逃れられるわけが──はっ、そうか!
「──異空間に逃げ込んだのか!」
どのような思考を経て、そんな結論を出したのか。
まあ、RXだから……で、納得させてしまうのが、RXなのであって。そして、恐ろしいことに、その結論は正解であって。
「ゴルゴムめ! 逃がさん!」
これまた恐ろしいことに……異空間だろうが何だろうが、RXから逃げ切るのは至難の業であって。
「キングストーン・フラッシュ!」
腰の変身ベルト(サンライザーとも言う)より放たれた光。キングストーンの神秘の光がRXの前方を照らせば……そこにはもう、異空間への入口が出来ていた。
その入口は、障子で形作られた和風チックな……まあいい。
とにかく、これで逃げた先は分かった。「来い、バトルホッパー!」早速、RXが相棒の名を呼べば、何処からともなく駆け付けたバトルホッパーがRXの傍で停止した。
……その時、(鬼たちにとっては)またまた恐ろしい事が起こった。
RXがバトルホッパーに跨った、その瞬間。バトルホッパーは数回ほど光を放った後……その形状を変えたのだ。
その名を、アクロバッター……それは、バトルホッパーが進化したRX専用の光機動生命体バイクである。
これの何がヤバいって、単純に耐久性や性能が上がっているだけでなく、光の粒子を噴射する推進器『フォトンバーナー』が備わったことで、下手すれば傍を通り過ぎるだけで弱い『鬼』なら死んでしまうような感じなのだ。
つまり、簡潔に述べるのであれば、だ。RXより送り込まれたエネルギーを吸収し、進化し、鬼にとってはより凶悪となった……相棒の新しい姿であった。
「バトルホッパー……いや、アクロバッター! お前も、俺と同じ気持ちなのだな!」
RXの言葉に呼応するかのように、ぶおん、とバイクは活発にエンジンを稼働させる。それを感じ取ったRXは──スロットルを回すと、勢いよく異空間へと突っ込んだ。
……。
……。
…………異空間。その正体は『無限城』と呼ばれる、地の底に作られた特別な空間であり、鬼無辻無惨が密かに作り上げた、彼の隠れ家のような場所である。
その所在は、正確には不明。上弦の鬼たちですら、その正確な位置を知らない。
外観は、和室1部屋を一つのブロックとして、回転させたり移動させたりしたうえで、階段や渡り廊下などを随時繋ぎ合わせることで各ブロックへと繋がる。
いわば、城の外観の中を巨大なルービックキューブにしたような……まさに、異空間に迷い込んでしまったかのような異常な光景が広がっていた。
下手に迷い込めば、文字通り死ぬまで出られない(まあ、出口は無惨が命じない限り現れないのだけれども)迷宮。パッと見ただけでも、相当な広さが伺えるぐらい、そこは広大であった。
「──見つけたぞ、ゴルゴム!」
だが、しかし。マクロアイを持つRXの前では、障害物や遮蔽物などは隠れ蓑にはならない。
RXの優れた視界能力が、幾つもの遮蔽物の向こうに隠れている無惨を捉え……気配に気づいた無惨が、振り返ってRXの存在に気付いた瞬間。
──はた目にも分かるぐらいに、目を見開いて驚いた。
まあ、無理もない。まさか相手が異空間を渡って追いかけて来るとは、夢にも思わなかっただろう。その証拠に、傍に控えている先ほどの二人(上弦の壱と弐)も、ギョッと目を見開いていた。
……だが、RXは止まらない。
器用にバイクを走らせ、階段を駆け上って行く。その際、バキバキと板の間や階段を粉砕していったが……まあ、相手は鬼だし問題は無いだろう──あっ。
──べべん、と。
また琵琶の音がしたかと思えば、突如として足場が消えた。瞬時に離脱したRXが「アクロバッター! 戻れ!」相棒の名を呼べば、アクロバッターは……パッと光を放ち、落下の途中で消えてしまった。
……ここからは、直接行くしかない。
そう判断したRXは、無惨を追いかける為に床を蹴って空へ──途端、再びべべんと琵琶の音が。「──なっ!?」その次にはもう、眼前へと迫る壁を前に、RXは瞬時に身を転身させて着地した。
そうして顔を上げたRXは……思わず、むむう、と唸った。
何故かといえば、先ほどまで前方にいたはずの無惨たちがいなくなって……いや、違う。いなくなったのではなく、己が別の場所に移動させられたのだ。
その証左に……マクロアイが捉えた無惨たちの位置は変わっていないのに、己の立ち位置が移動している。
どうやら、この琵琶の主。対象を異空間だけでなく、あらゆる場所に移動させる能力も持っているようだ……何せ。
「──っ!」
べべん、と異音がした瞬間。
あらぬ方向から繰り出された刃と、鉄扇が……RXへと直撃したからだ。当然、振り返ったRXの前には、攻撃した主は……いない。
さすがのRXも、何時から、何処から行われるか分からない攻撃を防御するのは難しい。
琵琶の音というタイミングを知ることは出来ても、候補となる角度は360度の全方位……純粋に、手が足りない。
ならば……どうするか。
攻撃を避けながら接近して直接相手を叩くか、あるいは琵琶の主が疲労して能力を使用出来なくなるまで我慢比べか……いや、決まっている。
「──チェンジ! ロボライダー!」
攻撃が避けられないのであれば、攻撃を受けても平気になれば良い。そう判断したRXは……構えた、その瞬間。
……その時、(鬼たちにとっては)またまたまた恐ろしい事が起こった。
パワーアップしたRXの力を以ってしても苦戦(?)を強いられるという危機的(?)状況が……彼らに殺された者たちと、その亡骸を前に流す者たちの涙が、RXの脳裏に想起されたことで。
──RXの秘められた力を、活き活きと発動させたのである。
変化は、一瞬であった。RXが昆虫人間を思わせるフォルムであるなら、その姿は正しく鋼鉄の戦士。黒と黄色が入り混じる武骨なフォルムへと、その姿を変えた。
……その名を、ロボライダー。RXが持つ、新しい力である。
血のように赤い涙の痕を目元から頬へと染めたロボライダーは、しゅいん、しゅいん、とロボットのように関節を鳴らし、腕をだらりと垂らすと。
「ボルティックシューター!」
その手に光が集まったかと思えば、次の瞬間にはもう……ロボライダーは、鈍く輝く銃を手にしていた。
それは、ロボライダーだけが使えるレーザー銃。それを、しゅいん、と関節を鳴らして掲げたロボライダーは……マクロアイによって捕捉した方向へ向かって。
──引き金を引いた。
直後、銃口より放たれたレーザーが、遮蔽物の一つに直撃し、粉々に破壊した。そう、破壊したのだ。部屋一つ分を、一発のレーザーだけで。
『……え?』
これには、はるか彼方から……安全な位置でRX(今はロボライダー)を見ていた無惨も、絶句した。目の前の光景を理解するのに、僅かばかりの時間を要した。
まあ、何度目かは分からないが、無理もないことだ。実は千年近く生きているらしい彼ですらも、初めての光景なのだから。
いわば、初体験である。とはいえ、これっぽっちも嬉しくないであろう初体験だが……まあ、そんなことよりも、だ。
呆然とする無惨を他所に、一足早く我に返った者たちがいた。
それは、『上弦の壱』である黒死牟と、『上弦の弐』である……童磨(どうま)。そして、琵琶の音を奏でて空間を操っていた……鳴女(なきめ)という鬼たちであった。
彼ら彼女らの行動原理はただ一つ。主である鬼無辻無惨を守る、ただそれだけ。
だからこそ、復帰が早かった。それ故に、鳴女は琵琶を鳴らして空間を開き、黒死牟は刃を滑らせながら振り払い、童磨は鉄扇を振り被って打ち込んだ。
……が、駄目。
がきん、と異音を立てたのは、どちら側だったのか。驚愕に目を見開く鬼たちが目にしたのは、傷一つ付かない金属質のボディと、己の武器が砕け散り……微動すらしていない、ロボライダーの姿であった。
そう、鬼たちは知らなかった。ロボライダーは、言うなれば重厚装甲を身に纏った戦士なのだということを。
金属質の装甲ロボフォームに覆われたその身体は、RXを上回る防御力と剛力を発揮する。当然、そんなボディに何の対策もせずに打ち込めば……逆に武器が壊れても何ら不思議な話ではないのである。
──ボルティックシューター!
とまあ、そんなわけで、だ。微塵のダメージも受けていないロボライダーは、再び引き金を引く。今度は続けて……無惨がいる方向へと、連射を始めた。
『──ひ、ひぃ!?』
これには、無惨もビビった。何故なら、無惨は分かってしまったのだ。連続して放たれるこのレーザーの一発一発が、己にとっては無視出来ないほどのダメージを負わせる威力があるということを。
その予感は、正解であった。
というのも、ボルティックシューターの動力源はRXのエネルギー。すなわち、無惨たちの弱点である太陽の力と同質のものだ。
加えて、このロボライダー。次々に移動を続けて逃げる無惨の位置を瞬時に掴み、即座に修正して攻撃してくる。また、射程距離も半端ではなく、距離を幾らとっても威力が欠片も衰えない。
無惨からすれば、どこまで逃げても銃口が己から逸れてくれないばかりか、常に目の前にあるかのような、悪夢のような感覚を覚えた事だろう。
『──鳴女! あいつを落とせ! このままでは捕捉される!』
故に、鳴女へと送られたテレパシー……要は命令だが、その声は傍目にも情けなく震えていたが……鳴女は気にする様子もなく、命令通りに空間を操り、ロボライダーを落下させた。
──偶然にも、それはロボライダーにとっては有効な手であった。
何故なら、耐久性やパワーに優れたロボライダーにも欠点がある。それは、強い磁力によって動作が阻害されるという点と……スピードという純粋な欠点であった。
有り体にいえば、ロボライダーはRXと比べて瞬発力、跳躍力がかなり低いのだ。
だから、RXのように俊敏に姿勢を立て直すことが出来ず、まるでブリキの玩具のように不恰好な落下をするわけであった。
──瞬間変身!
まあ、それでも。怪人たち(鬼もそうだが)ですら知覚出来ない速度でフォームチェンジを行う事が出来る彼にとっては、それはあまり弱点にはならなかった。
なので、無惨たちからすれば、だ。
はるか下方の床へとぶつかる直前、気付けばRXに戻った状態で軽やかに着地して。空高くジャンプしたかと思えば、その時にはもう……ロボライダーになっていて。
──ボルティックシューター!
別の部屋の屋根へと着地したと同時に、再び行われる即死のレーザー連射を前に……無惨たちは成す術もなく、逃げ回ることしか出来なかった。
だが、何時までも逃げ回るわけにはいかない。
何故なら、ボルティックシューターから放たれるレーザーが、無限城の内部を次々に破壊していっているからだ。
何せ、一発一発がブロック(部屋一つ分)を粉砕し、粉々にしてしまう。
それを、休みなしでひたすら連射されるのだ。耐えられなくて当然であり、衝撃の余波で一部では崩落すら起き始めていた。
──その中で、べべん、と。
鳴女の琵琶が、鳴り響く。けれども、それはロボライダーに対してではない。
反射的に視線をさ迷わせるロボライダーの……頭上より出現した、ガラス瓶であった。
その瓶の中身は、油であった。それも普通の油ではない。
揮発性が高く、着火剤として利用される特別性のソレを、べべん、と鳴女が琵琶を鳴らせば……ぱりんと割れて、液体がロボライダーへと降りかかった。
──っ!
異変に気付いたロボライダーが鳴女がいる方へと視線を向けるが、もう遅い。べべん、と再び琵琶を鳴らせば、次の瞬間には……ロボライダーの身体が炎に包まれていた。
特別性なだけあって、その勢いは凄まじい。瞬く間に火達磨になったロボライダーは、堪らずといった様子で手を止める。それを見た無惨たちは、なるほどと足を止め、頷いた。
……さすがは鳴女、人知れず無惨の中では最上位にランクインしているお気に入りなだけのことはある。
実際、直接的な攻撃が通じない以上、鳴女の取った手段は有効策の一つだろう。火は、あらゆる生物にとって、一定以上のダメージを与えることが出来るからだ……が、しかし。
鳴女は……いや、無惨たちは忘れていた。自分たちが今、どんな存在を相手にしているのかを。まもなく、無惨たちはその事実を──。
「──無駄だ! 俺に炎は通じない!」
──身を以って、知ることとなった。
「何故なら──炎は、俺のエネルギーだからだ!」
炎に包まれた最中、はっきりと宣言したロボライダー。『──え、あいつ鬼じゃないよね?』心底ワケが分からないと言った様子の童磨の呟きが零れるのを他所に……ボルティックシューターが、再び無惨たちを狙い定める。
そうして始まる……一方的なワンサイドゲーム。攻撃が通じない以上、鬼たちが取れる手段は……回避の二文字しかなかった。
『──鳴女! 他の上弦を呼び戻せ!』
これには無惨も堪らず、白旗を挙げた。
『──近しい者ですと、玉壺(ぎょっこ)様ならば今すぐにでも』
『──構わん! やつを囮にして時間を稼ぐ!』
玉壺とは、『上弦の伍』の位を与えられている鬼である。
その精神性は生まれ持ってのサイコパスの一言。無惨の手で鬼にされる以前から猟奇的な嗜好が目立つ人物であり、生まれ育った村では異常者として忌避されていた過去を持つ。
その性質は、鬼になってからもほとんど変化していない。また、その性質からなのか、姿も他の上弦の鬼と比べて、異形の怪物……それだけだ。
目に当たる部位には口があり、額と口に当たる部分には目がある。液体に近い軟体を、己が作った壺に押し込め、壺ごと空間移動を繰り返して鬼殺隊の目を逃れ続けている……まあ、それはいい。
とにかく、無惨の指示を受けた鳴女は玉壺を呼び寄せる。
普段の彼女であれば、己の上位者に当たる上弦を勝手に呼び寄せたりはしない。だが、無惨の命令さえあれば、何の躊躇も恐れもなく上位者を呼び寄せるのが鳴女であった。
『──あっ』
だが、しかし。
『──どうした、何があった?』
『──呼び寄せましたが、その瞬間に敵の光弾が、壺ごと玉壺様を破壊。断末魔すら上げる間もなく消滅しました』
『──なに、そんなはず……お、おのれぇ……本当に殺されているではないか!』
『──おいたわしや、玉壺様』
さすがの彼女も、有無を言わさず殺されるハメになってしまった玉壺の事を考えれば、ちょっと悪い事をしたな……と思うわけであった。
……。
……。
………………とまあ、そんな感じで、だ。
逃げ回っているうちに、いよいよ無限城がヤバくなってきた。
具体的には、冗談抜きで崩壊&崩落の可能性が……いや、というか、もう崩落し始めていた。
(……屈辱だが、放棄するしかあるまい)
根城を捨てること自体はどうでも良いが、逃げる為に捨て去るのは腹立たしい。傍を掠めてゆく光弾に冷や汗を掻きながらも、無惨は内心にて考える。
……現在、己を守っている上弦は、壱と弐だけ。
だが、その上弦も現状では己を守っているとは言い難い。何せ、相手はこの二人の全力の攻撃でもビクともしないだけでなく、直撃すれば場合によっては即死する攻撃を連続で放ってくるのだ。
この状況で上弦の二人が出来るのは、せいぜいが己の盾になる事だけ。
しかし、下弦ならまだしも、上弦の鬼をこのような形で使い捨てるのは……正直、もったいない。
他には鳴女がいるけれども、鳴女の戦闘能力は下弦程度。注意を引くことは出来るだろうが、どう足掻いても、それくらいが限度だろう。
それが出来るのは上弦ぐらいだが、参の猗窩座と伍の玉壺が一瞬でやられたのだ。それ以下の上弦を呼び寄せたところで、悪戯に戦力を失うのがオチだ。
(だが、使い捨てにするには惜しい。とはいえ、ここを脱出したところで、アイツが追いかけてくるのは必然……)
入ることが出来たのならば、出る事も出来ると考えた方が良い。鳴女と似たような能力を持っているのだとしたら、どこまでも追いかけて……いや、待て。
──あいつは、どうやってここに入って来た?
それは、閃きであった。と、同時に、無惨の脳裏に……全身に分散している五つの脳がもたらす愉悦に、ニヤリと無惨は笑みを浮かべた。
『──鳴女! 合図をしたら、私を地上に出せ!』
『──承知致しました』
『──黒死牟! 童磨! お前たちは私が脱出するまでやつを引き付けておけ!』
『──はいはーい、分かりました』
『……承知』
善は急げ(やっていることは善ではないが)と言わんばかりに指示を下した無惨は、ますます崩壊が進んでゆく無限城を見上げながら、タイミングを見計らう。
地上……そう、RXは知る由もないというか、誤解しているところなのだが、実はこの場所……つまり、無限城なのだが、異空間にあるというわけではない。
はっきり言えば、無限城は、地下にあるのだ。
つまり、この崩壊が進んだ先にあるのは……落盤。重圧に支えきれなくなった土砂が一気に流れ込み、5分と経たないうちに身動き一つ出来ない状態になるだろう……が。
それが……良いのだ。
そう思った瞬間、ばきん、と無限城全域に異音が響いたかと思えば……はるか彼方の天井の至る所から、おびただしい量の土砂が流れ込んできた。
(──よし、ここだ!)
そろそろ頃合いかと見た無残は、上弦の鬼たちに合図を送る。直後、黒死牟と童磨の両名が、ロボライダーへと向かう。
ダメージは与えられなくとも、無惨へと向けられる攻撃を邪魔することは出来る。いや、むしろそちらが狙いであり、さしもののロボライダーも、無惨から注意を逸らした。
──その瞬間、べべん、と琵琶の音がした。
一拍遅れて、無惨の視界がガラリと入れ替わる。月が夜空に浮かぶ真っ暗な森の中、辺りには人の気配はおろか、獣の気配も無かった……と。
ずずん……と。
離れた場所から、腹の奥底に響く重苦しい異音が響いた。それはまるで地響きのように力強く、ニヤリと笑みを浮かべた無惨はそこへ向かい……堪らず、膝を叩いて笑った。
無惨の視線の先……そこには、地面が陥没した巨大な穴が広がっていた。
陥没の原因は、分かっている。己が今しがたまでいた無限城の、その容積の分だけ、地上の土砂が沈み込んだ結果だ。
……如何なる能力を使ってココに入り込んで来たのかはさておき、能力の発動には相応な動作やタメが必要となる。
鳴女が琵琶を鳴らす必要があるように、己もまた、必要ならば発動に応じた事をしなければならない。
言い換えれば、指先一つ動かせない状況に追いやれば、やつは脱出出来ない。そう、無惨は考えたのだ。
本当は殺しておきたいが、それが無理なら……封じてしまえばよい。例えば、大量の土砂を用いて地下の奥底にならば……と。
「──鳴女か、やつはどうなった?」
「私が確認出来た限りでは、土砂が身体に降り積もっているところでした」
気配に振り返った無惨の前には、琵琶を手に地面に座っている鳴女がいた。「ふん……まあいい」ひとまず、鳴女は脱出出来たのを確認した無惨は、はるか地下にて埋もれている二人に意識を繋いだ。
『──黒死牟、童磨。やつはどうなった?』
『──さあ? ギリギリまで引き付けてはおいたけど、どうなったかはさっぱりだね』
『……分からん。私が見た限りでは、土砂を背中から浴びているところだった』
使えないやつらめ……思わず噛み締めた唇から血が滲む。とはいえ、どうやら脱出出来ていないのは確かなようだ。
二人を通して見える視界は、真っ暗だ。まあ、隙間無く土砂が積もっているのだから、見えなくて当然だが……ふむ。
「鳴女、黒死牟をこっちに戻せ」
無惨のその言葉に、鳴女はべべんと琵琶を鳴らした──直後、黒死牟が無惨の隣に現れた。状況に気付いた黒死牟は、すぐに立ち上がって無惨に頭を下げた。
その身体は土砂塗れで、全身が酷く汚れていた。「……失礼」ぶふ、と吐いた唾には大量の土砂が混じっていて……鬼でなければ間違いなく死んでいる状況にあったのが伺えた。
「よし、鳴女、次は童磨を──」
呼び戻せ──そう言葉を続けようとしたが、無惨は出来なかった。何故なら、童磨から送られてきている信号が途絶えたからだ。
……無惨と部下の鬼たちとの間には、ある種の信号のようなものが繋がっている。ただし、この信号はあくまで無惨の方に主導権がある。
なので、童磨の方から信号を拒絶することは出来ない。(というか、信号を認識することも出来ない)それが、途絶えた……そこから考えられるのは、だ。
「……まさか」
嫌な予感が、無惨の脳裏を過った……直後。その予感は、現実へと姿を変えた。
変化は……地面よりぼこりと湧き出した、液体であった。
それは僅かに色味を帯びた液体であり、その大きさは瞬く間に大樽一つ分にも膨れ上がった。自然と、無惨の(黒死牟と、鳴女の視線も)視線がソレに向けられる。
ただの水ではないのは、一目瞭然であった。
と、同時に、信じたくない思いもあった。けれども、無惨の淡い期待を他所に、その液体は地を這う蛇のようにぐにゃりぐにゃりと空を舞い……再び地面に降り立った時にはもう、液体ではなくなっていた。
具体的には、青色を基準とした昆虫人間のような姿をしていた。
初めて見る顔だが、その顔には見覚えがあった。というか、似たようなやつと先ほどまで戦っていた。そりゃあ、少しばかり外見が異なって……いや、まさか、ね。
「──仲間諸共生き埋めにするとは……許せん! 俺は怒りの王子! バイオライダー!」
その、まさかであった。
無惨「タスケテ……タスケテ……」