―――副隊長に拝命してから二ヶ月後、ここさいたまスーパーアリーナにて、今年度の第63回戦車道全国高校大会の抽選会が始まった。
日本中の乙女たちが一同に集う中、壇上に小動物…失礼、元副隊長があがり、抽選箱に手を入れた。そしてそこから引き抜いた番号は…
【大洗女子学園八番】
その放送を聞いて騒めきが起きる。もちろん元副隊長の対戦相手であるサンダース大学付属高校が。
そして我々は…黒森峰女学園は、前回の優勝高校なので…自然と一番になっていた。もちろん、我が隊長が一番を引き抜いたのは言うまでもないわ。
「―――……」
無言で、壇上でソワソワしている元副隊長を見つめ続ける隊長。しかしその手には、一年生たちの動きを見る一環で買ったはずの新型デジタルカメラが握られていた。―――何を隠そう隊長は姉バカです。もちろん私も…超望遠ズームレンズを使ってドアップの副隊長…みほの困った顔を撮影していますが、何か? かわいいのは正義です。
戦車道全国高校大会の抽選を終えた私逸見エリカと凛とした雰囲気を漂わせる西住まほ隊長。その隊長のご希望で、近くの戦車カフェで寛いでいた。
「……これと、これ…あと…」
「隊長、カロリー気にしてくださいよ。」と、乙女チックな表情で食べるケーキを選ぼうとメニューを睨む隊長に私は、釘を刺す。
「わ、わかっているわ。すいません、ストロベリーレアチーズと…」
私の釘に少しすねた顔をしながらもテーブルの上にある呼び鈴…フィアット2000を押し、ウェイトレスを呼び次々とケーキを注文する。普段は絶対にしほさんや門下生らに見せてはいけない年相応の表情を浮かべる隊長の横顔を見ながら自分も注文する。
「私は、ミルフィーユ風味ブルベリーレアチーズセットをひとつ。そして紅茶はダージリンでお願いします」
「畏まりました!」
私たちの注文を聞き遂げたウェイトレスは敬礼しながら立ち去る。
「―――あれ? あそこにいるのって…」
ウェイトレスの後ろ姿の先、視線に入った五人組の大洗の制服を着た少女達。楽しそうにメニューを見る彼女らの中で、まだ少しソワソワした雰囲気を見せる自分の前でケーキを今か今かと待っている隊長に似た少女を見た私は、安堵の表情を浮かべる。
「―――相変わらず、あまっちゃろいわね」
「? 何か言ったか?」
その光景を見て思わず呟いた私の言葉に隊長が(〇ω〇)?とした顔で私を見る。
「いいえ。隊長、ケーキ楽しいですね」
「うん♪」
「(か、かわいい…)」
話を誤魔化すように言うと人の目線がないときだけ見せる隊長の満面の笑顔にほれてまるやろーと叫びたくなる私。
そうしているうちに注文したケーキがM25ドラゴンワゴンに載って届く。それをワゴンから下ろし、さっそくケーキをおいしそうに頬張る隊長。その姿は、リス…もとい小狼が、母狼からエサを貰ってはしゃぐように食べる姿に私の脳裏が処理されそう見えている。そんな隊長の頬にホイップクリームがついていた。
「隊長、頬にクリームがついてますよ」といいながらホイップを指ですくい、自分の口に入れる。それを見た隊長は頬を真っ赤にして私の見つめる。
「……ほれちゃうわ…エリカ」
「ん? 何か言いましたか?」
「な、何でもないわ…この鈍感娘…」
そっぽを向き唇を少し尖がらせて不機嫌そうな顔で小さく呟く隊長。私の耳にはそう聞こえたような? もしかして私? と首を傾げるも、考えていても前には進まない。と判断した私は、自分が注文したケーキを頬張り、口の中で広がる甘くて少し甘酸っぱいブルベリーの味に頬を緩める私であった。
食べ終えた私達は、会計を済ますため、席を立ち、その大洗の横を通過する。その際、少し挨拶しておくことにした…。
「…? 副隊長?」
「え?」
私の声に一番に反応を見せる元黒森峰女子学園副隊長西住みほが私、隣に立つ隊長の姿を見て驚愕した表情を浮かべる。
「いえ、元でしたね」
「……えり、逸見さん、それにお姉ちゃんまで…」
そんな反応を見せて隊長は、小さくそして普段通りの口調で言う。
「―――まだ、戦車道をやっていたとは思いもしなかった…」
隊長が喋った瞬間、その空間を一瞬に体感温度が下がった感覚を感じらせるほど冷たい口調で、妹に言う。それを聞いて大洗の戦車マニアこと秋山優花里が立ち上がる。
「お言葉ですが、あの試合のみほさんの判断は間違ってはいませんでした!」
「……部外者が口を出さなくもらえるかしら? あと…言っておくけど、あの行為がなければ易々と三両も失わなかったわ。それは嘘偽りのない事実よ」
「―――す、すいません」
私の毒舌の言葉を聞いて秋山は、ムスッとした顔のまま座り直す。
「…いこう」
「はい隊長」
そう言われ、隊長の後をついていく。と何歩か歩いたのち、大洗の面々に置き土産をしておくかしらね。
「そうそう。一回戦、サンダース大学附属高校とあたるでしょう? 無様な戦い方をして西住流の名を汚さないよう精々、空を見上げないように頑張りなさいよ」
「………」
俯いたままのみほを見つめながら私はその場を立ち去るが、その言葉に他のメンバーが怒りの表情を浮かべ次々と立ち上がり意義を唱え始める。
「何をその言い方!」
「あまりにも失礼じゃ!」
みほを守ろうとする、オレンジ色の髪の…どこか母性があふれる…胸、ごほん! 雰囲気を見せる武部沙織と定番といえるお嬢様の雰囲気を見せる五十鈴華の二人が私を睨みながら言う。それに負けじと目を細めるように秋山を含め三人を睨み返す。
「アンタ達こそ、戦車道に失礼じゃないの? ―――無名校のくせに…。この大会はね、戦車道のイメージダウンになるような高校は、参加しないのが暗黙のルールになっているのよ」
「……」
もっともらしい言葉を言って三人は言葉を詰まる。そんな中、それを壊すように白い修道服…いんなんとかさんに似た声が言い返す。
「―――強豪校が有利になるように示し合わせて作った暗黙のルールとららで負けたら…はずかしいな」
「……そうね。表上は、あなたの言う通りよ。だけど、裏は…そうね、戦車道を復活させたあなた達の生徒会にでも聞いてみなさい。その理由がわかるわ」
と、先の会話からそこまで読み取った黙々とケーキを食べる大洗の勉強だけは優等生の冷泉麻子。それに負けないくらい言い返した私。
しかし、そんな私の言葉にみほが顔を上げて反応を見せる。
「え? どうして生徒会が…」
「……それは暗黙よ、副隊長…」と、思わず口から零れた言葉に慌ててその場を立ち去る私。その後姿を見つめているみほの目線がすごく悲しく感じてしまった。
―――戦車カフェから少し離れた場所で私は小さく口を開く。
「……元気そうでしたね、みほ」
「そうだな」
少し怒った口調で言う。まあ当たり前といえば当たり前か。大切な妹を汚すようなことを言ったんだし。でも…私だって…、
「……あれくらい追い込んだら、あの子も少しはやる気出すかしら…」
「……エリカ…もしかして…貴女」
「多分、大洗はこの大会で“優勝”の二文字以外目に入っていませんよ。学園艦存続の危機なんですし」
私の真意を知り、隊長は心配そうに私を見つめる。そんな隊長に私は、作り笑みを溢しつつその場に立ち止まった。そしてみほたちが居る戦車カフェを見つめ寂しげに呟く。そして再び隊長の方を振り返りながら自分の胸の内を話す。
「ですが、負けませんよ。だってこの大会に私も…賭けてますから…。“自分の戦車道”を」
「―――見つかりそうか?」
妹を心配するような微笑ましい顔をしながら私に訊ねる隊長に私は元気いっぱいの笑顔で返す。
「…大丈夫です。私にはとっても大きくて優しい目標がありますから」
「―――エリカって本当に乙女心を鷲掴みするわよね~」
隊長のその言葉が風のささやきのごとく消え去るように再び歩き始める隊長の後をついていく私であった。
逸見たちが戦車カフェから居なくなった店内では、先ほどの逸見の言葉に考え込むように険しい表情を浮かべるみほ。
「……どうして、逸見さんが私達の学校の事情を知っているの…」
「それよりもさっきの人、本当頭にきちゃう!」
「さっきの人たち、昨年の優勝校。それも十連覇をやり遂げた黒森峰女学園の隊長たちですよ」
「え”」
頬を膨らませて怒る武部。そんな武部に秋山は、逸見たちの事を話す。それを聞いて戦車道を受講していない武部でも知っている…大ニュースだった。それを知った武部は、少し困惑した顔で話題を変える。
「そーいえば、同じクラスの猫田さんが「…私達も協力する」って駐車場に止めていた…戦車に乗りながら言っていたよね」
「…三式中戦車、通称【チヌ】ですよ、武部殿」
「それよ!」
秋山の訂正した言葉に武部が反応する。そんな二人のやりとりを横目に冷泉はみほに聞く。
「……なぁ、あいつが言っていたもう一つの理由ってなんだ?」
「……たしか、無名校が参加してもその膨大な維持費で学園艦の運営が大きく傾き、翌年は参加できないっていわれては戦車道連盟側の微調整が難しい、って。昔、逸見さんが私に教えてくれたの」
「………なるほど、それじゃ暗黙のルールになるんでありますね」
みほの説明を聞いてみんな納得した顔をし、その中で秋山が何度もうなずく。
「逸見、下の名前はなんていうんだ?」
「逸見、逸見エリカちゃん。私と同じ二年生で…いつも私と一緒に居てくれた、大切な幼馴染…」
「へぇー私と麻子みたい」
「そんな奴が何故、あんな言葉を…?」
冷泉と武部の関係に似ていること、そして逸見に対しての質問にみほは嬉しそうに逸見のことを話す。だが、話すにつれて段々と声のトーンが下がっていく。
「……多分、…エリカちゃんは、何も言わず黒森峰を出っていった私に怒っていると思う…。」
懺悔をするように内に秘める思いをこぼし始めるみほ。そんなみほを静かに見守る秋山達。
「……エリカちゃんは、あの試合で川に落ちた戦車の皆を救おうと一人飛び込んだ私と、残された分隊の皆を必死に守ってくれたのに…私は…」
下を向いて涙目でしゃべるみほ。そんなみほに秋山が同じような涙目の顔をしていた。
「西住殿…」
「ご、ごめん。頑張らないといけないのにね。私、また一人で抱え込もうと…」
「だいじょうぶよ、みぽりん! 今は私達がついているからね!」
「そうですよ。わたくし達も手伝いますから」
「そうです! 今は私達が居るであります!」
「……最後まで付き合ってやる。…それとケーキをもう一個、いや二個食べていいか?」
「ありがとう…みんな」
自分を励ましてくれるみんなの姿に元気をもらうみほだった。
―――オンラインゲーム内のガレージにて、
ねこにゃー:「…その後、みほ隊長たちは、サンダースの車輛で頭を悩ませていたよーです」
ももがー:「隊長さん達たいへんだっちゃ。それに比べてももがー、一向に上達しないっちゃ…」
ぴよたん:「がんばー」
フラン:「そーなの。私も戦車道やってみよーかなー。今日は、四号戦車を育てているから…」
ねこにゃー:「りょーかい、三突だすよー」
ももがー:「ももがー、チヌ出すっちゃ」
ぴよたん:「VK.30.02Mでもいい?」
フラン:「一向にかまいません」
―――二個小隊、ランダム出撃中
今日の練習と書類整理を終え、帰宅した私は、早速情報を集める。自作のパソコンに電源を入れつつ、冷蔵庫から…朝の作り置きの夕ご飯を電子レンジで温める。その間にラフな格好になる。
そしてモニター前で、四号戦車を走らせる私。意外と四号って使いやすいし、バリエーションが豊富だから、魔改造ができる。
…後で、予算あまったら小学校に寄付された四号戦車D型をH型に改造してみたいなー。って、思いながらバーチャルで作られたフィールドを駆け抜ける。
…様々な偶然が重なり、今では大洗の三式中戦車《チヌ》の乗員らとバーチャルな戦車道をやる日々。
何戦か勝利した頃、ねこにゃーがボソッと呟く。
ねこにゃー:「あと一両、あれば…サンダースに勝てるのになー」
フラン:「サンダースだったら、パンター五両を前方に展開しつつ四駆と三号で左右から奇襲を仕掛けながらその背後より重戦車で仕留めるのが、効率性が高いわよ?」
と、ねこにゃーの呟きにみほが黒森峰から居なくなった後、一度だけサンダースとの練習試合があった。そこで仕掛けてみた戦法をボソッと返してしまう。
ねこにゃー:「フランさん、意外と参謀向きですか?」
ももがー:「すごいだちゃー!」
ぴよたん:「……もしかして秋山理髪店の娘さんの同類者?」
ふらん:「ち、ちがうわよー!? あんな…オッドポール軍曹なんて………」
三人:「…………」
フラン:「ききょうようは! これでおちるわー!」
と、その場から逃げるように一方的にパソコンを落とす私。椅子にもたれかかりながら大きなため息をこぼす。
「はぁ……さっきからぼろが出すぎ…あー不幸だ―。」
その言葉が言霊となって…何故かいらん子中隊の溜まり場となった私の部屋。そんな部屋に今日は、直下と赤星の二人が泊りに来ていた。その二人が私の方を見て不思議そうに見ていた。
「逸見、さっきから何独り言言っているんだ?」
「エリカちゃん、大丈夫? 何か心配事あるの。私達でよければ相談聞くよ?」
「―――大丈夫よ。それよりも小梅。アンタ、今日のマウスの操縦、少し慌てすぎよ。もう少し落ち着いて…」
「…うん。わかってはいるんだけど、以前の戦車の癖で、どうしても急いで回りたくなるだよね」
「そこを注意して頂戴。それと、直下。お前もヤークトパンターの履帯が重いのは当たり前じゃない。試合中、切れるたびに《うちのりたいはおもいんだぞー!》といちいち叫ばない」
「だ、だって! どこかの人が、毎回横から履帯ばっかり切るだもん!」
「周りに意識がいきわたっていない証拠だ。副隊長命令だ、な・お・せ」
「り、りょうかい。逸見副隊長…」
私に叱られしょんぼりする直下の頭を優しく撫でる赤星。そんな二人の姿を見ながら遠く、新しい友達たちと一緒にいる幼馴染を思う。
「(―――今頃、みほ。なにをしているかなー。ちゃんとお風呂に入れたかしら。あの子、いつも‥私と…ふふふふ、)」
幼いころから一緒にお風呂に入っていた私。その年々と出ることは出て、締まった体つきになるみほの成長した体を思い出して、思わず顔が緩み切ってしまう私であった。
―――逸見が、みほを事を思っている頃。その張本人のみほは、一人机に向かって過去のサンダースとの練習試合および公式試合で黒森峰女学園と対戦した際のデータを見て、サンダースの車輛を考えていた。
「やっぱりファイヤフライは、一回戦では出してこないと思うけど…やっぱり油断できない」
ページをめくりながらもボツボツとつぶやくみほ。そこにEメールが届く。
「ん? だれだろう?」と、メールを開くと知らないメールアドレス。そして本文には、漢字一文字が書かれていた。
「《竹》?」
その文字に?マークが頭の上にたくさん浮かべて首を傾げるみほであった。
西住まほ、お姉ちゃんはやっぱりおねえちゃんだね♪
イメージは、不器用なお姉ちゃん。しかし、妹が絡むと……某お姉ちゃん化するの!
それじゃ次回に向かって パンツアーカイル!!!