勇者がログインしました ~異世界に転生したら、周りからNPCだと勘違いされてしまうお話~ 作:ぐうたら怪人Z
【1】
昼。ミナト達に連れられ、アスヴェルはとある広場へ訪れていた。
「さ、ついたぜ。ここが“訓練所”だ」
「ほうほう」
訓練所の名の通り、ここは戦闘訓練を行う施設だそうだ。あちらこちらに簡素な造りの木製人形が設けられており、それに向かって武器を振るう幾人もの若者の姿が見える。
「ここで私の力を評価する、という訳だな」
「そ。結局オマエのステータス見れなかったしな。これからも一緒に動くなら、互いのこと知っといた方がいいだろ?」
アスヴェルの身体能力は数値化が行えなかったため、実際に動いてもらって力を推し測ろうということらしい。まあ、こういう訓練の場で実戦的な力の把握は難しいが、やらないよりはやった方がいいだろう。
「ああ、お互いを理解し合うのは2人の新生活に向けて必要なことだ」
「うん、そういう意味合いで言ったわけじゃないぞ?」
「はっはっはっは」
朗らかに笑うが、ミナトは顔をしかめたままだった。
まあ少々茶化してはみたものの、アスヴェルも今日行うことに対しては関心がある。
(ミナトやハルの実力も見せてくれるようだからな)
結局、アスヴェルの方もステータスを見れない――文字が読めない――ということで、2人のどれ程やれるのか把握できていないのだ。彼の“目”をもってすれば、相手の大よその力量など見ただけで正確に推量できるのだが……こちらの大陸はどうにも文化が違い過ぎるため、下手な先入観は危険と判断した。
(実際、昨日からどうにも“気にかかる”ことがある)
それは戦闘時における彼らの行動に対する“違和感”だ。その違和感は、この訓練所に来て確信めいたものになっていた。
(……せっかくだし、今聞いてみようか)
思い立ったら即行動がアスヴェルの信条である。彼は隣を歩くミナトに前述の違和感について尋ねることにした。
「すまない、一つ質問したいのだが」
「どうした? オレのプライベート以外だったら答えてやろう」
「それはいずれ聞かせて貰う――と、それはそれとして。
昨日見た君達の戦いや、ここでの訓練を見て気付いたんだが……君達は戦闘中、“似た行動”を繰り返すことが多くないか?」
そうなのである。どうにもこの大陸の人々は――不適切かもしれないが、一括りにさせて貰う――戦いの場で“全く同じ動き”を何度も行うのである。一定の戦術パターンを反復している、というレベルではない。武器の振り上げ方から力のため具合、残心の時間まで同じなのだ。ここまで来ると、異常性すら感じてしまう。
昨日の遺跡の戦闘で、ミナトは何度も
「……あー、ひょっとして<スキル>のこと言ってるのか?」
「スキル……?」
ミナトの口から、又しても聞きなれない単語――いい加減このパターンばかりなのは如何なものかと思うが、如何せんこの大陸の技術がアスヴェル居た大陸と違い過ぎて、なかなかお約束からの脱却できない。
「その顔、ひょっとしなくともオマエ、<スキル>を知らないな?」
「ああ、無い」
知ったかぶっても意味が無いので、速攻で断言する。するとミナトは少し思案気な顔をして、
「<スキル>ってのは――えと、つまり技だよ。必殺技とか奥義とか、そういうの。オマエだって使えるだろ?」
「まあ、それに該当する技術は幾つか保有している。しかし私が気にしているのは、 状況に応じて技の形を変えないのは何故なのか、という点なんだ」
「んー……」
黙り込んでしまうミナト。どうも、上手い説明の仕方を考えあぐねているようだ。
「アスヴェル殿、<スキル>というのはですな、最適な動作を身体に覚え込ませ、任意のタイミングでその動作を使用できるようにする技術体系のことを指すのでござる」
そこへ、ハルが助け船を出した。なるほど、そう言われると納得がいった。
「つまり、武術で言うところの“型”か」
「あ、それそれ。それが近いかも」
アスヴェルの言葉に、ミナトも同意する。“型”とは決められた通りの動きを忠実に実行する鍛錬の一つである。これによって、その武術における“動き方”の基礎を身につけることができるのだ。ただ、型の動きは応用性が乏しく、実戦で型をそのまま使うことは少ない――のだが。
(この大陸では違う、ということだな)
ナンセンスとは言い切れない。型とは武術の基本であり、基本であるがゆえに適用しうる場面は意外と多い。
(応用力を高めるよりも、基礎を極めることを選択したのだろう)
型の精度・威力を高めることで、多少の状況変化をものともしない技術へと昇華させたのが、<スキル>なのだ。アスヴェルはそう理解した。
「しかしそうだとして、応用力の低さ自体は解決できていない。<スキル>で対応できない状況に陥った場合、どうするんだ?」
「そういう時は別の<スキル>を使ってカバーすんのさ」
答えたのはミナトだ。
「……そういうことか」
抱えていた疑問が解消していく。つまりこの大陸では、<スキル>という名の非常に高い完成度を誇る“型”を複数身につけ、それをもって戦闘を行うという手法をとっているのだ。
(理にかなっている)
いざ説明されると、悪くない方法に思えた。それがどれだけ高度であっても、特定の動き
もっとも、その“汎用性の高い所作”を見出すことが、まず至難の業であることは言うまでもない。だがこのロードリア大陸においては、既にその技術体系が出来上がっているらしい。
ミナトの説明はまだ続く。
「逆に幾つも<スキル>を覚えないで、一つだけをめちゃくちゃ熟練度上げてる奴もいるけどな」
「そういうケースもあるか」
それはそれで理解できる。究極的にまで一つの“型”を鍛え込み、“それさえ出せば勝てる”――正しく
(頼れる技があるというのは、それだけで
と、そこまで考えてからアスヴェルはあることに気付く。
「……ん? もしかして<スキル>というのは、武術だけに留まらない?」
「お、そこ気付いたか。そうだよ、魔法だって<スキル>そうだし、罠探しや鍵開けとかも<スキル>だ」
「なん、だ、と……!?」
舌を巻く。そこまで徹底しているのか、この大陸は。
(ありとあらゆる技術――知識やノウハウレベルのことすら、<スキル>として体系化しているとは!)
ラグセレスでは不可能なことだ。仮に<スキル>を再現できたとしても、技術を保有する各組織がそれを許すかどうか。十中八九、既得権益を巡る問題に発展する。
と、アスヴェルがアスヴェルがアレコレ思考を巡らしている最中――
――ミナトとハルがこそこそ会話をしていた。
「なあハル、これってさ」
「ぬふぅ、スキルの概念が無い、新しいシステムが導入されようとしているのかもしれませんなぁ」
「あ、やっぱり?」
「<スキル>発動で動きが強制されることについて、一部から不評が挙がっておりますから」
「オレもそれは思ってた。身体が自由に動かせなくなるの、嫌なんだよ」
「ミナト殿はプレイヤースキルで戦闘するタイプですからなぁ。運動神経の無い拙者には、有難い仕組みなのでござるけれども」
「俄然、新しいシステムに興味が湧いて来たぜ」
「アスヴェル殿とのイベントを進めていかなければですなぁ。そのためには――」
「もっと積極的に関わっていけってんだろ? 分かったよ」
「むふふふ、その意気ですぞぉ!」