勇者がログインしました ~異世界に転生したら、周りからNPCだと勘違いされてしまうお話~ 作:ぐうたら怪人Z
【1】
最終的に訓練場での騒動は、偶然様子を見に来たサイゴウに周囲への説明をお願いする形で終結した。
(あの人には頭が上がらないな)
周りの反応を見るに、なかなか人望も厚い御仁のようだ。これからも何かと世話になることだろう。今回の件でのことも含め、近い内に何か返礼を考えておいた方が良さそうだ。
(ま、それはそれとして)
意識を現在に戻す。アスヴェルを含めた3人は武具屋に来ていた。彼の装備を揃えるためである。
「昨日今日を見てると、別に要らなそうだけどなー」
「そんなこと言うな、マイハニー」
「ハニーじゃねぇよ!?」
「はっはっは、そんなに恥ずかしがることでもない」
「恥ずかしがってないぞ? 鬱陶しがってるんだぞ? オレの嫌悪感に満ちた目、オマエにゃ見えない?」
「ふむ――綺麗な瞳だな」
「節穴か! オマエの目ん玉は!!」
「いやいや、これでも視力には自信があるんだ」
「そういうこと言ってんじゃねぇよ!?」
愚痴を零すミナトと、小粋なトーク(異論は受け付けない)を繰り広げる。
いや確かに、昨日出会った魔物程度であれば武器防具など無くとも戦い抜ける自信はあるのだが、それはそれとしてこの大陸の武具には興味があった。何せ、とてつもない精度を誇る小型銃を製造できる技術を持っているのだ。他にも高度な技術が盛り込まれた装備品があるに違いない。
(可能なら持ち帰って、うちでも量産できるようにしたいものだ)
そんな野望を秘めている訳なのだった――が。
店に入って十数分、アスヴェルの顔は曇ることとなる。
「……なんか、コレ、違わないか?」
「何がでござるか?」
青年のぼやきに、ハルが返す。
「何がというか、こう、全体的に」
「ふむぅ?」
彼は分かってくれなかった。
アスヴェルは現在、装備を試着しているところなのだが――さらに言えばその見立てはハルが行ってくれたのだが――ちょっとばかり、趣きがおかしい気がするのだ。方向性とか、そういうのが。
「せっかく選んでもらって非常に申し訳ないのだが、もうはっきり言ってしまうけれどもこの服似合わないだろ、私に」
「え~? そうでござるかぁ?」
意を決してぶっちゃけたのだが、それでもハルには通じなかった。おかしい、彼とは良好な関係を築けてきた筈なのに。
端的に今のアスヴェルがどんな格好をしているのかと言えば――王子様だ。見るだけで羞恥心を刺激するシルエットに加え、身体のいたるところにキラキラした豪奢な装飾が施されており、目が痛い。
「……ちょっと自分を直視できない」
ちらっと鏡で己の姿を見てしまったのだが、我が事ながら笑えるほど似合っていなかった。まあ、子供の頃は似たような服を着させられた時期もあったが、あれから色々成長してしまった今となっては不自然感が半端ない。というか、あの頃ですらここまでゴテゴテに着飾った服は着た覚えが無かった。
「ふぅ~む、それ程お気に召さないものでござろうか。店で買える中は最高クラスの防具なのでござるが」
「こんな服が!?」
ちなみに店の陳列棚には、かなり上等そうな金属鎧も並んでいる。それよりも性能が高いというなら、確かに驚きの一品だ。
(
デザインは致命的だが、それを度外視してでも勧めたい装備だということなのか。
「それに何より、アスヴェル殿に物凄く似合っておられますし」
「え」
「もう拙者、先程から興奮しっ放しにござる! アスヴェル殿のイケメン具合がよりパワーアップしているではござらんか!」
「え」
残念ながら、彼とは少々感性が食い合わないのかもしれない。
ちなみに、客観的に見てもこの服装が似合っていないことは、すぐ横で笑いを堪えているミナトが証明していた。アスヴェルはニヤける少女へ視線を向けて、
「……言いたいことがあるなら、言ってくれないか」
「宴会芸としちゃ一流だぞ」
「……ありがとう」
分かりやすくこの有様を言い表してくれた。とりあえず、自分の感性がこの大陸では異端ということではないようだ。
しかしハルは納得いかないようで珍しく不満げな表情を作ると、
「ぬむむぅ、そうまで言うならミナト殿が見立ててみては如何か」
「んー、まあ、そういうことなら。罰ゲームみたいな格好してる奴と一緒にいるのはオレも恥ずかしいし」
辛辣な一言があったものの、僥倖なことにコーディネートはミナトに変わってくれるようだ。これで少なくとも外見の問題は解決するだろう。
――などと考えていた頃が、アスヴェルにもありました。
「……あの、ミナトさん?」
「どうした? まあまあ似合ってんじゃん。馬子にも衣装って感じで」
「……似合って、る?」
改めて自分の姿を見る。ヤバい。とてもヤバい。何がヤバいって――
「これでは勇者というより、悪者な塩梅ですな」
自分の気持ちは、ハルが代弁してくれた。
ミナトが見繕った衣装は黒に統一され、あちこちに髑髏の意匠や悪趣味なアクセサリが施されている。全体的なシルエットも酷く鋭角で――
(――まるで
とてもではないが勇者の装備する一着では無かった。
こちらの気持ちを察したか、弁解に口を開く。
「えー、でも格好いいだろ?」
ハルの時と同様、不満をありありと伺わせていたが。
「いや、しかし、私にも勇者としてのイメージってものがあるし」
「いいじゃん、元からオマエ、勇者顔じゃねぇよ」
「勇者顔じゃない!?」
凄いこと言われた。言葉の刃が、アスヴェルの心の割と深い所にまで突き刺さる。
まあ確かにちょっと厳ついとか、少々強面とか評されたこともあるが、勇者は顔ではない。これだけは声を大にして主張したい。ホント、人を外見で判断してはいけません!