勇者がログインしました ~異世界に転生したら、周りからNPCだと勘違いされてしまうお話~   作:ぐうたら怪人Z

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【2】

 結局、装備は自分で選んだ。動きやすく丈夫な布地の服に、革製のコートを羽織った格好だ。金属鎧も良質なものが揃っていたのだが、動きやすさを重視した結果である。

 なお、支払いは昨日倒した魔物が落としたアイテムを売り払ったお金で行った。

 

「無難に纏めやがって」

 

「拙者の推しも悪くないと思うのでござりますがなぁ」

 

 2人からの物言いはあるものの、満足いく買い物ができたと自負している。実際、サラッと“丈夫”の一言で流してしまったが、この服は炎や氷など様々な攻撃に高い耐性を持つらしい。

 

(そんなものが店売りされている事実こそが恐ろしい)

 

 同等の品をラグセレス大陸(自分のところ)で手に入れようとしたら、金だけでなくコネや運が必要だ。やはりロードリア大陸の技術は一歩も二歩も先を進んでいる。

 

(一度、製作した職人と会ってみたいものだ)

 

 そんなことを考えだす。これだけの技術をものにするなら、自分で分析するより製作者に教えを請うた方が手っ取り早い。問題は如何にしてその人物と交渉するか、だが――

 

「――ん?」

 

 そんな折、大通りから離れた路地裏で妙なやり取りをしている男達を見つけた。

 

「よぉよぉ兄ちゃん、俺っち、今日はちょっとイライラしちゃっててさぁ」

 

『こんにちは、ここはベイリアの町です』

 

「このイライラを発散したいわけ。分かる? 要するにサンドバックになって欲しいんだけどさ」

 

『工業が発展しているので、他の町には無い装備が置いてありますよ』

 

 ガラの悪い男が、品の良さそうな青年に対して一方的に絡んでいるようだ。青年は男を相手にしていないのか、会話が成立していない。

 

「へっへっへ、拒否しないってーことはOKなんだよな? じゃあ、歯ぁ食いしばれや!!」

 

『最近、街の近くに強い魔物が出没するようになったので注意し――』

 

 言葉を終えるより前に、青年が吹き飛んだ。男に顔を殴られたのである。相当強くやられたのか、そのまま倒れ込んでしまう。

 

(な、なんだ!?)

 

 理解の及ばぬ出来事に、動揺してしまう。

 

(何故、抵抗しなかったんだ!?)

 

 アスヴェルの疑問はそこだった。男は攻撃に対し、青年は何のリアクションもしなかったのだ。例えあの青年が喧嘩に不慣れなのだとしても、これはおかしい。

 

(さて、どうしたものか……?)

 

 目の前で立派な暴行事件が起きたわけだが、この不自然さ、何か事情がある可能性も捨てきれない。仮に大した理由が無いのだとして、つい昨日この大陸を訪れたような自分がこのように私的なトラブルへどう手を出したものか。下手なことをすれば、自分の身元引受人(立ち位置的にそう形容するしかあるまい)であるミナトやハルへ迷惑をかけてしまう。自らの行動を決めかねていると――

 

「あ、あの、アスヴェル殿?」

 

「んん? どうした?」

 

 ――ハルがこちらに追いついて(・・・・・)、遠慮がちに話しかけてきた。

 

「色々言いたいことや聞きたいことはあるのでござるが、まず取り急ぎ――もう、その辺りで良い(・・・・・・・)のではないかと(・・・・・・・)

 

 ハルの目が、例の“ガラの悪い男”へと向く。今現在、アスヴェルに片手で首を掴まれ、吊るされている男へと。

 

「ぐぇえええええ……」

 

 気管を閉ざされた男が、肺に残った最後の空気を吐き出す。顔は大分青くなり、もうじき意識が落ち、次いで命も消えることだろう。

 何のことは無い。男が殴りかかった次の瞬間、青年への追撃を防ぐためにささっと取り押さえた(・・・・・・)までだ。

 

(本来なら彼が殴られる前に止めねばならなかったのだが――己の未熟さが恥ずかしい)

 

 言い訳になってしまうが、男と青年のやり取りが特殊だったため、コンマ数秒判断が遅れてしまったのである。

 ちなみに、先程悩んでいたのはこの事態にどう対処するかについて、ではない。“後処理”をどうするか、考えあぐねていたのである。人が一人消えた(・・・)ことに対して、この大陸の公僕がどう動くのか、まだ把握できていないからだ。

 

「えー、アスヴェル殿。その人、本気でヤバそうですぞ?」

 

「ああ、すまない、今トドメを刺す(・・・・・・)

 

「刺すなぁ!!」

 

 ハルに急かされたためささっと仕留めよう(・・・・・)とした矢先、ミナトの飛び蹴りが後頭部へ直撃する。

 

「こ、ふっ!?」

 

 視界が揺れ、刈り取られそうになった意識をどうにか繋ぎとめる。しかし完全にとはいかず、男の首から手が離れてしまった。

 

「ミ、ミナト――今、かなり危険なとこに入ったぞ?」

 

「オマエが物騒なこと言い出すからだろ!?」

 

 不満を零すも、彼女は取り合ってくれない。どうやら余りお好みの対処方法では無かったようだ。

 

「しかし何の因縁も無さそうな相手を殴る輩、放置する訳にも」

 

「だからってネックハンギングツリーかますな! しかも綺麗にクビ極まってたじゃねぇか!! 殺意が高すぎんだよ!!」

 

 後頭部を蹴飛ばすのは問題無いのだろうか?

 

「ぬ、ぬぬぬ、つま先で的確に延髄を貫くあたり――ミナト殿はミナト殿で殺意高すぎな気もしますでござるがなぁ」

 

 横に居るハルも同意見のようだ。彼女がアスヴェル以外の人間に似たようなことをしでかさないよう、祈るばかりである。

 ま、それはともかく。

 

「止められてしまったものは仕方ない。こいつは街の衛兵にでも突き出すか」

 

「……あー」

 

 そう提案した途端、ミナトの歯切れが悪くなった。

 

「突き出してもいいんだけどさ……これ位じゃ(ペナルティ)受けないんだよなぁ」

 

「これ位?」

 

 聞き間違いかと思い、未だ咳き込んでいる男を指さしながら再度問いかける。

 

「倒れる程の勢いで人が殴られているんだぞ。どこからどう見ても傷害罪じゃないか」

 

「うーん、NPCへの攻撃は、余程悪質じゃないと(ペナルティ)対象にならねぇんだよ。PC相手だったら即BANもあり得るんだけどさ」

 

「……PC? NPC?」

 

 以前にちらっと聞こえた単語が、また出てきた。

 

 

 

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