勇者がログインしました ~異世界に転生したら、周りからNPCだと勘違いされてしまうお話~ 作:ぐうたら怪人Z
【1】(挿絵有り)
明くる日。アスヴェルは、とうとう町の外へと足を運んでいた。目的地は程近くにある山。何故そこへ向かっているかと言えば。
「元の大陸に戻るヒントがどこにあんのか全然分かんねぇし、とりあえず近場の“それっぽい場所”片っ端から当たってみようぜ」
――とは、ミナトの言である。そんなのでいいのかとツッコミたくもあったが、情報を足で集めるのは基本といえば基本だ。そもそも、ロードリア大陸の事情に詳しいミナトとハルの2人が出した結論に対し、事情に疎いアスヴェルが口を挟むのも体裁がよろしくない。
ただ、それを理解した上でどうしても指摘したくて仕方がないところもある。
(……
通常、街からここまで徒歩で2日はかかるらしい。その距離を、ミナト達は一瞬で移動した。なんでも、<登録>しておいた場所に転移させてくれるアイテムがあるのだという。
簡単な説明しか受けていないのだが、このアイテムがまた酷い――もとい、素晴らし過ぎる性能で、<登録>の数に制限があったり、一部<登録>できない場所があったりという多少の制限はあるものの、実質的にロードリアのどこへでも瞬く間に転移できる。しかも、自分が携帯している物品も一緒に、だ。
(ここではラグセレス大陸と物流の概念が根本から違いそうだ)
アスヴェルの居た大陸では、物の運搬は主に
(そういえば、ロードリアではどの町でも基本的に物価は同じと言っていたな)
それも、そのテレポートアイテムのおかげであろう。<ログアウト>といい、ここの移動手段はいったいどれ程の高水準にあるというのか。少なくとも、ラグセレスはその足元にも及んでいないだろう。
当然、こんな便利アイテムをいったいどうやって製造しているのか尋ねたのだが、帰ってきた答えは――
(――加護のおかげ、か)
この大陸、神からの祝福が多すぎではないだろうか。どれだけ庇護されているというのだ。真面目に考察しようとすると頭痛を感じてしまう。
(まあいい。今は目の前のことに集中だ)
考えれば考える程ドツボに嵌りそうな思考をすぱっと切り替え、現実に意識を移す。アスヴェルは今、山の――草木がほとんど生えていないため、岩山と呼んだ方がしっくりくるか――
「言っていた場所というのは、この上にあるのか?」
「おう」
尋ねる言葉に、ミナトが頷いた。
「崖を登った先に、山の中に入っていく洞窟があんのさ。今日からはそこを探索してくんだ」
「ぬふぅ、内部はなかなかに広いので、攻略は数日がかりになりますなぁ。
まあ、<翼の書>――お話したテレポートアイテムのことですが――それを使えば帰還は簡単ですので、野宿は必要無いですし、食料も心配ありませんぞ」
さらにハルが補足をしてくれる。至れり尽くせりな冒険もあったものだ。こんなアイテムが巷に溢れているのだとしたら、この大陸における冒険稼業はさぞかし捗ることだろう――と、思っていたところへ、ミナトのぼやきが聞こえた。
「……<旅路の書>はともかく、<翼の書>は課金アイテムだからあんま使いたくないんだけどなー」
その若干沈んだ面持ちから察するに、どうやら同じテレポートアイテムでも希少さに違いはあるらしい。察するに洞窟やら遺跡やらの内部への転移は、そう易々と行えるものでは無いようだ。
課金とやらが何のことかは分からないが、テレポートアイテムが加護と関わりのある代物であることを考えると、神への奉納か何かか。
「なるほど。だから初めて私と出会った遺跡では、テレポートアイテムを使わなかったのか?」
「ん? あ、まあ、そんなとこだ」
ふと思いついた問いを口にすると、思った通りミナトから肯定の返事。初めて出会ったあの時は、希少アイテムを使う程に危急な事態では無いと判断したのだろう。逆にこの探索ではそれを使ってくれるというのだから、感謝をせねばなるまい。
「……途中すっ飛ばして町行ったら、フラグ踏み忘れがありそうで怖かったんだよな」
「……ぬむむむ、Divine Cradleのフラグ管理は徹底されている筈ですが、万一が無いとも言い切れませんですからなぁ」
その後、またしても何やら2人でこそこそ話を始めたが。どうにもこの大陸の言語は専門用語(?)的なものが多く、理解しにくい。
追々その辺りも把握していくこととして、まずは
「しかしこの崖を登攀していくのか……私はともかく、君達は大丈夫なのか?」
「あん? 舐めんなよ、これでもクライミングは得意なんだ」
言うや否や、ミナトは崖壁に張り付くと、ひょいひょい登り始めてしまう。まるで体幹のぶれない、良い動きだ。得意と言うだけある。
あっという間に見上げる高さまで登った少女は、不敵な顔でこちらを振り返ると、
「どうだ? なんなら勝負してやってもいいぜ?」
「ほう、私相手にそんなことを言ってしまうのか」
挑まれたのなら応えねばならない。アスヴェルもまた岩肌に手をかけ、上を目指す――と、その前に、チラリとハルの方を見る。すると彼は、パタパタと手を振り出した。まるで“いってらっしゃい”とでも言うかのように。ならば、きっとあちらも大丈夫なのだろう。そう判断し、改めてアスヴェルは登り始める。
少女と青年が切り立った崖を軽い身のこなしで登っていく一方、一人取り残される形となったハルは、
「……お二人とも、何の装備も無しに登ってしまわれるのですなぁ。ぬふぅ、NPCなアスヴェル殿はともかく、ミナト殿のフィジカルもヤバい領域。この崖登り、プレイヤースキルも要求してくる難所の筈なのですがぁ」
そう呟くと、<アイテムボックス>からピッケルやロープ等の登山グッズを取り出し、2人の後を追い始めるのだった。
“戦い”はミナト有利に進んでいた。
アスヴェルが遅い訳ではない。単純に、ミナトが早いのだ。過去に何度かここを上ったことがあるのだろう、動作がかなりこなれている。あの自信は、確固たる実績に基づいていたのかもしれない。
しかし、アスヴェルに焦りは無かった。
(寧ろ、このポジションがベスト)
相手を大きく引き離しても、僅差であっても、どちらも勝利に変わりはない。ならば、少女のすぐ後ろで彼女の通ったルートを確認し、手をかけるのに最適な箇所を割り出した方が無駄な労力を払わずに済む。故にアスヴェルは、敢えてこの位置をキープしているのである。
決して――ここからだとミナトのお尻がよく見えるから、ではない。
(当然だ、勇者たる私がそんな下衆い真似する訳が無い)
崖を登っているのだから上を向くのは極々自然なことであり、そうなると少女の臀部が目に入ってしまうのも仕方ないことなのである。
ショートパンツから伸びるすらりとした生足や、むっちりとした健康的な太もも、桃のような曲線を描く魅惑のお尻。それらが躍動する光景を凝視してしまったとしても、それは仕方のないことなのだ!
「どうした、アスヴェル! 勇者だなんだと言っといて、大したことねぇな?」
「んー、そうだなー」
挑発してくるミナトの言葉に生返事してしまうのは、登攀に集中しているがためである。口よりも脚の方が余程こちらを挑発しているとか思ってはいない。さらに加えるなら、吹き上がる風で靡く亜麻色の髪も魅力的だ。
「この分じゃオレの勝ち確か? そういや、負けた奴の罰ゲーム決めてなかったなぁ、何にするかなー?」
「んー、そうだなー」
時折、少し離れた岩に足をかけるため、大股を開くこともある。その時の絶景たるや、もう、なんか凄い。人体の神秘とはこのことか。ついつい
そんな風にこの状況を愉しんで――もとい、真剣勝負に勤しんでいると、こちらの反応に何か思うところでもあったか、ミナトが怪訝な顔になりだした。
「……おい、アスヴェル?」
「んー、そうだなー」
少女の眉間に皺が寄った。
「――そういや、ハルのことなんだけど」
「んー、そうだなー」
「アイツ実は電子の妖精と交信ができて」
「んー、そうだなー」
「コンピューターの世界に入ることができるんだって」
「んー、そうだなー」
「…………」
何故か押し黙るミナト。
しばしの沈黙の後、少女の怒号が崖に響く。
「――テメェ、さっきからナニ見てやがんだ!?」
「君の下半身」
正直に答えた自分に乾杯。しかしミナトはアスヴェルの誠実さに感銘を受けなかったようで、
「ふっざけんなオマエ!? お、オレの尻見たいからずっと後ろについてたのかよ!?」
「いやいや、そんなことは無いよ。高度に戦略的な判断の下、この位置に居ただけだよ」
「どんな戦略だ!?」
「君の臀部を見ると、私のやる気が増す」
建前の無い意見を述べることができる男、アスヴェル。
「――死ねっ!!」
「あっ! 待て、危ない! 暴れると危ないぞ!?」
「うるせぇ!! このっ!! 死ねっ!! 死ねっ!! この色ボケ勇者がっ!!」
ミナトが脚を無理くり動かし、こちらに蹴りを放ってくる。無茶な動きのせいで却って際どいポーズになったりもしているのだが、お構いなしだ。
「このっ!! このっ!! 落ちろっ!! 落ち――――あっ」
「あー!?」
危惧した通りのことが起きた。少女が岩から脚を滑らしたのだ。体勢を崩したミナトの身体は宙に投げ出され――
「いかんっ!!」
――落下するよりも早く、アスヴェルによって受け止められた。間一髪、だったのだが。
「ぎぃやぁああああああああああああっ!!!?」
響き渡る絶叫。ミナトのものだ。
「お、おま、おま、オマエっ!!
「もがもが」
答えようとしたのだが、上手く声が出ない。それもそのはず、彼の顔の上には