勇者がログインしました ~異世界に転生したら、周りからNPCだと勘違いされてしまうお話~   作:ぐうたら怪人Z

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第2話 アイテムボックスって、何?
【1】


 

「ふーむ、アドモン遺跡? 聞いたことがない場所だな」

 

「そうなのか」

 

 とりあえず、(何故か自分に近づこうしない)ミナトから色々と聞いてみた。ここは、ロードリア大陸のクレスナ地方にあるアドモン遺跡という場所(ダンジョン)らしい。

 

(……何度思い返しても、知らない)

 

 大賢者が教えを請いに来る程の知識を誇る(自称)アスヴェルであったが、そんな地名も遺跡の名前も、噂ですら耳にしたことが無い。これは一体どうしたことか。

 

「君の方はどうだ? 私の言った単語に聞き覚えは?」

 

「ラグセレス大陸? オマエは魔王と戦ってる勇者だって?

 ……いやぁ、全然」

 

「むぅ」

 

 向こうは向こうで、こちらのことなどまるで知らないらしい。

 

(名称まで異なるとなると、ここは私が居た大陸ではない可能性が高い。あの“爆発”で空間の捻じれでも起きて、海を遥かに超えた先にでも転移したというのか? いや、だとしても、それなら何故言葉が通じる(・・・・・・)?)

 

 様々な考えが頭を錯綜する。しかしアスヴェルはその混乱を理性で無理やり押さえつけ、

 

(ま、ここでアレコレ考えたところで仕方がない)

 

 そう結論付けた。実際、情報が足りなすぎる。それに今は、そんなことよりも優先すべき事がある。ミナトだ。

 

(彼女、この場所を探索しに来たと言っていたな)

 

 確かにそう言っていた。つまり彼女はトレジャーハンターという訳だ。

 

(信じられん)

 

 なるほど、普段使いの服装にしては、やや無骨(・・)であるように見える。だが、遺跡探索という冒険を行うには余りに軽装備過ぎる。ハッキリ言って、布地(・・)が少なすぎる。お腹も太ももも丸見えではないか。それはそれで嬉しいのだけれども、冒険を志す者の出で立ちとしては失格である。

 

(魔力も大して感じられない)

 

 魔化された服であるという線も、これで消えた。つまり、彼女が来ているのは只の布服――いや、意匠はなかなか凝っているので、実はお高い代物なのかもしれない。

 

(その上、冒険に必要な道具すら持っていないじゃないか)

 

 明かりとして用いる松明かカンテラ、装備類を入れる小袋に水袋、その他諸々。それら冒険者必需品セットを、彼女は持っていない。というか、手ぶらだ。必需品どころか、碌にアイテムを所持していない。唯一、腰に何か“筒状の物”を下げているようだが――武器すら持っていないとは、驚きを通り越して呆然としてしまう。

 

(まさか、碌に知識も持たず冒険者に憧れて、大した装備も用意せず遺跡へ潜った――!?)

 

 聞く話ではある。英雄――例えばアスヴェルのような――への憧れだけを胸に町を飛び出してしまう若者、というのは。その末路は――生きて帰ることができれば上々、といったところか。

 

(ならばミナトの幸運は上等な部類だろう。なにせ、私に出会えたのだから)

 

 無辜な民を守ることが勇者の役目。となれば、彼女を安全に街へと運ぶことはアスヴェルの使命である。

 

「そうと分かれば善は急げ。早速だが、この遺跡を出よう」

 

「あれ? なんか一人で勝手に納得してないか、オマエ?」

 

「大丈夫だ、全て理解した。私は君を安全に町まで連れていかねばならない。君のご家族とも挨拶をせねばならないし」

 

「何で家族と?」

 

「結婚で最も大事なのは当人達の意思だが、家族の意向というものもやはり無視はできないからだ。祝福して貰えるに越したことは無い」

 

「ちょっと何言ってるか分かんない」

 

「何、気にすることは無い。私に任せておけ。全て滞りなく済ませてあげよう」

 

「あー、どうしよう。そろそろオレ一人でオマエの相手すんの限界だなー。なんか頭痛くなってきた」

 

「それは良くないな」

 

 尚更、ここからの脱出を急がねば。このまま留まったところで、何のメリットも無いのだから。ミナトを促して立ち去ろうとする――のだが。

 

「――む?」

 

 不穏な気配を感じて訝しむ。察した方向を見やれば、部屋から伸びる通路の先から怪物――としか呼べない代物が数匹現れた。

 猿の顔に虎の身体、ついでに尻尾が蛇になっている生物なんて、怪物としか呼べないだろう。

 

「あっちゃー、魔物が来ちゃったかー。

 ……ていうか今、イベントシーン(・・・・・・・)じゃなかったのか? それともこれもイベントかなぁ?」

 

 渋い顔をする(そんな表情も可愛い)ミナトから察するに、アレはこの大陸の魔物(モンスター)なのだろう。後半、よく分からないことを呟いていたが。

 ともかく、あれが魔物ということは――

 

「敵なんだな?」

 

「そういうこと。ちょっと待ってろ、今片付けるから」

 

「それには及ばない」

 

 数歩前に出るアスヴェル。丸腰の少女をあんな魔物――明らかに、雑魚には見えない――と戦わせるなど、勇者云々以前に人として有り得ない。彼女が一人でここに来たことを考慮するに案外見掛け倒しなのかもしれないが、希望的観測は禁物である。当然の帰結だが、彼は一人で戦うつもりだ。

 

「え? オマエ戦えるの?」

 

「当たり前だろう。ここは任せて貰おうか」

 

「へー、そっか。

 ……ヌエってかなり高レベルの魔物なんだけどな……ま、この流れならどうせイベント戦闘(・・・・・・)か。

 うん、それじゃ、お手並み拝見といこう!」

 

 なかなか太々しい台詞を吐いてくれる――途中でぼそぼそ挟んだ内容は意味不明だが。ともあれ、ミナトが見物するとあっては無様な姿は見せられない。

 

「さあ、来い!」

 

 掛け声一つ。それに挑発されて――かどうかは知らないが、ともかく一匹の怪物が自分に突進してきた。

 

「さて――」

 

 武器を構えよう、としたところで。

 

「――あ、あれ?」

 

 手が空ぶった。武器が無い。そういえば防具も無い。魔王との戦いの際に所持していたアイテムが、何も無かった。

 

「こ、これはどうしたことだろうか?」

 

 戸惑う内にもモンスターは迫ってくる。最早回避は不可能。

 

「ば、バカか!?」

 

 後ろからミナトの慌てる声。

 いけない。

 格好いいところを見せるつもりだったのに、これでは――

 

(お、落ち着け! 勇者は慌てない! 落ち着くんだ! お、お、お――――)

 

「オラぁ!!」

 

 仕方ないので殴った。拳で。

 

「ギャウンっ!?」

 

 殴られたモンスターは壁にまで吹き飛び――そのまま動かなくなる。最強の勇者たるアスヴェルの攻撃が当たったのだ、当然の結果だ。

 

「ふっ――ふ、ふ、ふ、見たか、これが勇者の力だ!」

 

 単なる腕力だが。

 

「な、なんだ今のっ!?」

 

 ミナトの叫びが聞こえる。しかしそれはアスヴェルへの称賛では無く、戸惑いの色が濃い。自分の活躍に見惚れたわけでは無いようだ。

 

(くっ、それはそうだ、こんな野蛮なやり方では――!!)

 

 咄嗟にやってしまったこととはいえ、素手で殴るのはまずかった。ミナトのように可憐な少女にこんなモノを見せては、ドン引かれるのも致し方ない。武器が無いなりに、もっとスマートなやり方で倒さなければ。

 

「と、考えている最中にもう次か!?」

 

 仲間がやられるのを見て、別の怪物が突っ込んできた。だが逆に丁度良い、次こそは勇者らしい華麗な戦い方を魅せる時!

 怪物がこちらを引き裂こうと、鉤爪の付いた腕を振り上げくるが――

 

「セヤぁっ!!」

 

 ――振り下ろされる腕を掴むと(・・・)、その勢いを利用して投げ飛ばす。

 

「ガフッ!?」

 

 脳天から石畳に叩きつけられた怪物は、2、3度痙攣を起こした後に動かなくなる。しっかり斃したことを確認してから、

 

「次はどいつだ?」

 

 魔物へと再度挑発。釣られてまた1匹が挑みかかってくる。前の2匹以上に猛烈な突進。どうも体当たりが狙いのようだ。

 

「ハッ!!」

 

 迫る猿頭にそっと(てのひら)を合わせると――次の瞬間、魔物の方が後方に吹き飛ぶ。敵から繰り出される攻撃の力を絶妙に操作し、ソレをそのまま相手に返すという特殊な体術である。

 怪物は1回転、2回転と転げてから、ようやく止まった。頭部が完全に陥没している。まず生きてはいまい。

 

「うわ、すげぇ!! <合気>じゃん!!」

 

 背後から歓声が上がる。そちらを見やれば、ミナトが眩しい笑顔でこちらを見ていた。どうやら当初の目的を果たせた模様。

 ……ところで“合気”というのは、“今の技”のこの大陸における呼称であろうか?

 

「はっはっは、まあざっとこんなものだ。満足頂けたかな?」

 

「おい、戦闘中によそ見すんな! まだ残ってるんだぞ!?」

 

「おっと」

 

 指摘され、視線を戻す。立て続けに仲間を殺され、怒り狂った魔物が2匹同時に(・・・・・)迫っていた。アスヴェルは額に少々の汗を流すと、

 

「……あー、これは対単体用の技なので、2匹一遍にはその、まあ、なんだ――――困る」

 

「なんか抜けてんなぁ、オマエ!!」

 

 響くミナトの怒号。彼女は腰から例の“短い筒”を取り出すと――

 

「<バレット・レイン>!!」

 

 ――そんな掛け声と共に、連続で炸裂音が響いた。

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