勇者がログインしました ~異世界に転生したら、周りからNPCだと勘違いされてしまうお話~ 作:ぐうたら怪人Z
「ところがどっこい、拙者にござる!」
「ああああああああああ!?」
部屋の扉を開け、振り返ってみたらびっくり。後ろについて来た少女が男性になっていた。というか、おデブな青年になっていた。つまりは、ハルになっていた。
彼は得意満面の笑みを浮かべ、
「ぬふふふふぅ、その様子ですと大分驚いたようですなぁ! これは<アバター>と言いましてな、この大陸の人々は割と簡単にこの加護を使って容姿を変えることができるのでござるよ」
「あああああああああああ!!?」
「ですから、アスヴェル殿も人を外見で判断してはいかませんぞぉ! どのような御仁が姿を変えているか分かりませんからなぁ! 特に言い寄ってくる女性には気を配って下され!」
「ああああああああああ!!!?」
「しかしてご安心を。拙者の見立てによれば、ミナト殿は<アバター>を使っておりませぬ。正真正銘、可憐な女性ですぞ! 良かったですなぁ、アスヴェル殿!!」
「ああああああああああ!!!!!?」
「ではでは本日はこの辺りで! いやぁ、晩酌は楽しかったですぞぉ! アスヴェル殿、また明日!!」
「――――あ、ああ」
ハルの言葉に、どうにか頷く。ひとしきり全力で驚愕し続け、どうにか心が落ち着いた。落ち着いたから何がどうなる訳でも無いのだが、とにかく落ち着いた。
目の前の青年は既に部屋へ入り、扉を閉めてしまっている。どうもこの店に泊まるという台詞自体は偽りのないものだったようだ。
「…………寝よう」
一言そう呟くと、アスヴェルは踵を返し、自分に宛がわれた部屋に戻るのだった。何やら色々やらかしてしまったような気がしてならないが、その全てを忘却しようと心に決めて。
一方、ハルが入っていった部屋の中。
「ああああああああ!!」
「私ったら! 私ったらなんてはしたない真似を!!?」
わしゃわしゃと頭を搔き乱す。サラサラとした髪が流れるように波打った。
「こんな、こんな破廉恥な格好でっ!?」
改めて自分の姿を見る。あちこち肌を露出した、しかも身体のラインがバリバリに出ている、とてつもない服装である。いや、その観点で言えば普段のミナトの方が凄いのだが――
(な、なんでミナトさんは平気なんでしょうか!?)
その理由を考えても詮無きことである。彼女が大丈夫だからといって、それが自分に当てはまる訳も無いのだから。
「ああああ!! で、でも、でもでも私、あのアスヴェルさんと2人きりで酒席を――こ、これはもうアスヴェルさんとは大人な関係になってしまったといっても過言でないのでは!?」
過言である。そもそも、自分は酒を飲んではいない、というか、飲めない。お酒は二十歳になってから、である。
「ま、まあそれは流石に言い過ぎですけれども、仲が一歩――いえ、二歩三歩前進したのは確かというか何というか」
例の青年のことを頭に思い浮かべ、ハルカは熱い吐息をついた。
あの野性味のある顔立ち、均整取れた逞しい身体、常に自信溢れ出る態度を崩さず、それでいて他者への気配りを忘れない優しさを持つ(個人の感想であり、品質を保証するものではありません)。彼を構成する要素、どれもこれもが少女の心を掴んで離さなかった。
……ここにアスヴェルを知る
「はぁぁぁぁ――アスヴェルさぁん♪」
なのでついつい、この上なく頭の悪い台詞まで吐いてしまう。万一誰かに聞かれたら当分立ち直れないこと請け合いでだ。それでもなお彼女は止まらず、
(……も、もしあのまま<アバター>を
正しく妄想である。これぞ妄想である。
(本来であれば
そんな考えにまで至ってしまう。もう、自分があの青年相手に特別な感情を抱いていることは疑いようが無かった。だからこそ、“あんな真似”をしてまでアスヴェルに“嘘”を刷り込んだのだ。
“嘘”。
それはつまり、<アバター>のことである。この“Divine Cradle”では、ハルカのような
しかし、ハルカの発言を受けて、アスヴェルは全ての人が<アバター>を使っているものと誤解したことだろう。これで、彼の方から他の女性にアプローチを仕掛けるようなことは、早々起こらない筈だ。
本当を言えば、ミナトもまた<アバター>を使用していることにしてしまえば――
「――いえ。それは不義理に過ぎます」
頭を振って、ここはしっかりと断言する。そんなことをしてしまったら、自分は二度とあの少女を友人と呼べなくなる。例えアスヴェルの気持ちが今、完全にミナトへと向いていたとしても、それとこれとは話が違うのだ。友達を裏切るような真似は、ハルカの倫理観が決して許しはしなかった。
もっとも、彼女が心の底からあの青年を嫌っているのなら話は別だが――
(実のところ、ミナトさんもアスヴェルさんのことを憎からず思っているようですし)
本人に確認してはいないが、傍から見てまず間違いない。嫌なら、もっと徹底的に突き放しているだろう。文句を言っても一緒に居る辺りに、少女の本心が見え隠れしている。
「それに、これから先がどうなるかなんて、まだ分かりませんもの」
口に出して、そう言う。実際、まだアスヴェルとは会って大した日も経っていないのだ。碌にイベントも発生していない。ここからの動き次第で、自分が彼の心を射止めることだってできる筈だ。
ハルカは決意を新たにすると、夜も大分更けていたため、素早く身を整えてベッドに潜り込んだ。
……その日、ハルカは<ログアウト>しなかった。部屋が別々とはいえ、せっかくアスヴェルと2人きりで一つ屋根の下、眠れる機会を逃したくなかったのである。
ただ、根本的な問題として。
あんな風に<アバター>を使ってしまっては、ハルがハルカであると明かすことを自ら封じてしまったようなものなのだが。そのことに彼女が気づくのには、まだ時間を必要としていた。
◆勇者一口メモ
何やら特殊ルートが発生した模様。