勇者がログインしました ~異世界に転生したら、周りからNPCだと勘違いされてしまうお話~   作:ぐうたら怪人Z

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【2】(挿絵有り)

「さ、着いたぞ」

 

 そんな声と共に、視界が晴れる。

 ここは――どこだろう? 目隠しされた上に、どうもテレポートアイテムまで使われたようで、位置関係など把握しようも無かった。

 一つ分かっているのは、ここが――

 

「この部屋がミナトの自室(マイルーム)なんだな?」

 

「おう。言っとくけどハルだって呼んだことないんだからな。光栄に思えよ」

 

 ――まあそういうことらしい。自分の部屋を案内するのにここまで厳重なプロセスを踏む必要は無いだろうと思うが、まあミナトとて乙女なのだ、仕方あるまい。

 

 結局あの後、デートの件もあるし今日の冒険は一旦中止という形になったのである。アスヴェルとしては個人的な事情で彼女等のスケジュールを狂わせるのは忍びなかったのだが、意外なことにミナトが強く主張してきたのである。曰く、「さっさと済ませたい」とのこと。

 

(順調に、距離は縮まっているな……!)

 

 アスヴェルの心に満足感が去来する。彼女との蜜月が始まるのも時間の問題なようだ。

 

「……その場合、ここが私達の愛の巣になるわけか」

 

「何物騒なこと呟いてんだ」

 

 ジトっとした目でミナトに睨まれるが、些細なことだ。

 

(しかし、女の子が住むにしては殺風景――というか、物騒な気も)

 

 部屋は飾り気が余り無く、“銃器”が所せましと置かれている。ミナトが持っているような短筒から、両手で構える必要がある程の大きなサイズの代物まで多種多様。

 

「壮観だな、これは。この部屋だけで相当の戦力を保持しているなんて」

 

「あ、ここにある奴は全部模造品(レプリカ)だよ。オレが趣味で揃えただけ」

 

「おっと、そうだったのか。残念だ」

 

 本物であれば、分解したりして色々調べてみたかったのだが。

 

「ところで、デートコースはもう決まっているか? こんなこともあろうかと、既に私はベイリア周辺のおすすめスポットを把握しているのでエスコートはばっちりだ」

 

「変なとこだけしっかりしてるな……安心しろ、どこに行くかはもう決まってる。オレが案内してやるから、オマエはついてくるだけでいい」

 

「そこまでしてくれていたのか」

 

 至れり尽くせりとはこのことだ。今日のためにアレコレ用意してくれた彼女の健気さに、感動すら覚える。

 

「では、早速出掛けるとしよう。それとも、まだ準備が必要かな?」

 

「ああ。ちょっとやることがあったな。少し待っててくれ」

 

「了解だ」

 

 男と違い、女性はその辺り色々時間がかかるのだろう。待たされることにアスヴェルは何の不満も無かった。それに、しばしこの部屋で共に過ごすのも悪くない。

 と思っていたら、ミナトは(おもむろ)に――

 

「<ログアウト>」

 

 ――消えた。

 

「え?」

 

 余りに唐突な行動に、目が点になる。今のはログアウトという、他の大陸へ転移する技の筈。ということは今、ミナトはロードリア大陸にすら居ない……?

 

「ちょっ――え?

 ――――――え?」

 

 残されたアスヴェルは若干涙目になりながら周囲を見渡すが、何があるという訳でもない。この部屋に自分しかいないということを再確認できただけだ。

 

「そ、外に――!」

 

 扉へ駆け寄るが――開かない。アスヴェルの力をもってしても、びくとも動かなかった。ただ鍵をかけているだけでなく、何らかの力で固定されているかのようだ。

 

「……閉じ込められた?」

 

 そんな言葉がぽつりと零れる。どうすればいいのかと愕然としていたところで。

 

『おーい!』

 

 突如、部屋に声が響く。ミナトのものだ。次いで、

 

『お、ちゃんと居るな(・・・)! よし、上手くいったみたいだ』

 

 何もない空間に、彼女の姿が映し出された。さながら、空中に突然“窓”が出来たかのように。ミナト達が<アイテムボックス>や<ステータス>を使った時と感じが似ている。

 

「み、ミナト? これはいったいどういう……?」

 

『ん? ああ、<ログアウト>のことは前に入ったよな。つまり、今俺は“別の大陸”にいるわけ。そこから、オマエのとこに映像繋げたんだよ」

 

「え、映像を、繋げられるの……?」

 

 本当なら凄い技術だが。

 

『うん、繋げられるのだ。で、これからオレがこっちで住んでる街を案内してやろうと思ってる」

 

「それは、興味深い提案だな。しかし、私達はデートをする筈だったのでは?」

 

『何言ってんだ、一緒に話しながら色々見て回るんだからデートみたいなもんだろ。何か文句あるのか?』

 

「えー」

 

 なんだか、デートという概念が揺るがされるような宣告を受けた。

 

「……そもそも、その流れであれば君の部屋に来る必要なかったのでは?」

 

『<マイルーム>にしか繋げられないんだよ』

 

「そっかー」

 

 仕組みはまるで分からないが、断言されてしまっては納得する以外ない。

 

「……私がそっちに行くことは、どうしてもできないのか?」

 

『できない』

 

「そっかー」

 

 仕組みはまるで分からないが、断言されてしまっては(以下略)

 

「……ちなみに、この部屋から出れなくなってるんだけども」

 

『ああ、オレが許可しないと出れない」

 

「そっかー」

 

 仕組みはまるで(以下略)

 

『じゃ、オレはもうちょい準備があるんで、またな』

 

「え?」

 

 プツっと映像が途切れた。またもや一人きりになるアスヴェル。おそらくはすぐにまた映像を繋いでくれるだろうから、慌てはしないが……

 

(準備、か……)

 

 さて、何の準備だろう?

 思い返せば先程のミナト、いつもと格好が違っていた。無地の長袖に長ズボンという、動きやすくはあるだろうが、正直野暮ったさを否定できない服装だ。女性がデートの際に着る服としては、余り似つかわしくないように思う。準備と言うのは、より相応しい格好になるためだろうか。

 

(つまり今、彼女は着替えをしている……?)

 

 ……勇者として。

 不可能を、不可能のままにしておくのは良くないことでは無いだろうか。分からないものを分からないで済ませて良いものだろうか。

 

(否。断じて否だ!)

 

 そのままにしておいて良い訳が無い! 勇者として! あくまでも良識ある判断の結果として!

 ――“大陸間で映像を通信する”というこの技術、調べない訳にはいかないのである!!

 

(何か……何か、ヒントは無いか!)

 

 調査するにしてもとっかかりが必要である。“空中に窓が浮かび上がった”だけでは、調べようが無い。

 

(いや待て。そういえば――“窓”が現れる時と消える時、僅かだが電気が動いた(・・・・・・)ような――)

 

 雷系の――より正しく言えば磁力系(・・・)の――“魔術”は、アスヴェルが最も得意とするところである。己の領分で、彼の“知覚”が誤作動を働く筈がない。

 

(ということは、雷を上手く操作すれば、或いは――!?)

 

 そうと決まれば善は急げ。アスヴェルは意識を集中し、周囲に微弱な電流を流し始める。

 

「ふんぬぬぬぬぬぬ!」

 

 何も起きない。

 

「ふんぬがぁぁああああっ!!」

 

 何も起きない。

 

「ふんぬらばぁあああっ!!!」

 

 何も起きない。やはり、無理なのか。

 

「いや、やれる!! 私はやれる!! 私は勇者だ!! 勇者に不可能は無いのだ!!」

 

 最早自分でもどこをどう動かしているのか分からない程、複雑に、緻密に、電流を操作する。

 

「うぉおおおおおおっ!!! ミナトの裸ぁあああああっ!!!」

 

 最後に本音が漏れ出た。

 その、次の瞬間!

 

「見えた!?」

 

 “窓”が現れた!! 何がどうなってこうなったのかよく覚えていないが、とにもかくにもアスヴェルは映像を映し出すことに成功したのである!!

 

「ミナトは――!?」

 

 宙に浮かんだ“窓”を覗き込む。そこには――

 

『~~♪ ~~~♪』

 

 小さく鼻歌を口ずさみながら、着替えている少女の姿が! 残念ながら裸ではなく下着姿だけれども。

 

(それはそれで――構わない!)

 

 こちらに後ろを向いているせいか、“窓”の中のミナトはアスヴェルに気付いていないようである。タンスをアレコレ探りながら、服を物色している。

 

(――良い)

 

 その後ろ姿をじっくりと観察する。

 ブラとショーツは伸縮性に富んだ生地でできているようで、ぴったりと彼女の肢体にフィットしていた。そのため、ミナトのスタイルが惜しげも無く晒されている。少女は普段から露出の多い姿をしているが、それでもあのプリプリっとしたハリのある綺麗なお尻は、今しか見ることはできない逸品である。ショートカットの髪の間からチラチラと見えるうなじも艶かしい。鍛えているせいか無駄肉の無い、それでいて柔らかそうな少女の身体が、極僅かな布地にのみ隠されているという光景は、もう、最高だった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

『んー』

 

 などと興奮している間にも、ミナトの着替えは続いている。ただ、別の服を着るでもなく、鏡の前で自分の姿をチェックしているところを見るに――どうも、着ている下着を品定めしているようだ。

 

『流石に、これじゃ地味かな……?』

 

「いやそんなことは無い、実に似合っているぞ」

 

『え?』

 

 ぼそっと呟かれた言葉に、つい反応してしまった。

 

「…………」

 

『…………』

 

 “窓”を通して見つめ合う2人。しかしそこにロマンチックさは欠片も存在しなかった。そして数秒後――

 

『お、オマエーーー!!!? 何で!? 何で画面映ってんの!? 確かに切っただろ、おい!!!』

 

 ――ミナトが暴れ出した。こちらに近づいて、がなり立ててくる。

 おかげで、魅力的な曲線を描く彼女の肢体をよりよく鑑賞できる訳だが。今それを言ってしまうと致命的(クリティカル)なことが起きるのは、アスヴェルも理解していた。

 

「ま、待て!! 落ち着くんだミナト!!」

 

『これが落ちつけるかぁあああっ!!?』

 

 何故か映像がガクンガクンと揺れている。どうやら彼女、通信用のマジックアイテムを手で掴んで揺さぶっている模様。これは危険だ。可及的速やかに彼女を鎮静化させなくては。

 アスヴェルは慎重に言葉を選んで、説得を試みる。

 

「いいか、よく聞いてくれ。

 別にその格好、肌色の多さではいつものとそんなに変わらない―――」

 

『死ねぇ!!』

 

「ああ!! 待て!! 待って!! “窓”を蹴らないで!! ああ、ヒビが!? 何故ヒビが!!?」

 

 ……致命的なことを言ってしまったらしい。

 この後、ミナトが冷静さを取り戻すまで、多大な時間が要されたことをここに記しておく。

 

 

 

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