勇者がログインしました ~異世界に転生したら、周りからNPCだと勘違いされてしまうお話~   作:ぐうたら怪人Z

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【2】

 夜。酒場“ウェストホーム”の一室。

 数日前に“暁の鷹”との打合せを行ったこの部屋に、“エルケーニッヒ”の面々が集まっていた。

 

「……ミナトちゃんのこと、なんとかならないのかな」

 

「なんとかって――どうすりゃいいのさ」

 

 話題は、ミナトという少女についてだ。

 

「あの子のアカウントはもう停止してる。

 俺達にできることなんて――」

 

「で、でも、あの“ゲーム”をクリアすれば、助かる(・・・)んでしょ!?」

 

「アホか。今まで誰もクリアしたことが無い“ゲーム”だぞ」

 

 皆、昼間は彼女についての話題を避けていた。だからこそ、だろうか。夜のこの場になると堰を切ったかのように言葉が飛び交う。

 

「あんなの、ただの“見せしめ”だろう。運営に逆らえばこうなるっていう」

 

「いっそ見せしめの方がまだマシだ。運営に従順な奴だって参加させられるって話じゃないか」

 

「“参加者”は完全ランダムに選出されてるって言うけど。その割に、運営関係者は出てこないのよね」

 

「はっ! 分かりやすい話だこって!」

 

 話は運営への愚痴――愚痴という単語では収まりきらない程の感情が込められていたが――も混じり出す。そんな中、一人がぽつりと呟きを零した。

 

「アスヴェルなら――」

 

「え?」

 

「――あのNPCなら、“ゲーム”をクリアできるんじゃないか?」

 

「……急に、何言い出すんだ。NPCが“ゲーム”をクリアするなんてできる訳ないだろう」

 

 もう一人の面子が否定する――が。すぐに横から別意見が飛び出した。

 

「いや――可能性は、あるかも」

 

「そうだ、アスヴェルがこのゲームの“バグ”だとするなら――」

 

「――運営を、出し抜けるかもしれない?」

 

 僅かだが会話の“色”が変わった。希望、或いは期待感。

 

「待て待て。そもそも、NPCが参加してもいいものなのか?」

 

「NPC本人の了解があれば可能だった筈だぞ。召喚獣や使役モンスターを戦わせることができるし」

 

「だったら、ひょっとして――」

 

「アスヴェルを“ゲーム”に送り込めれば――」

 

 騒めきが広がる。あのNPCを上手く使えば、少女を救えるかもしれない――通常であれば夢物語と一笑に付されるような内容を、大の大人達が真剣に語り始めた。“藁”にもすがってしまう程、彼らが切羽詰まっているとも言える。

 そんな中、真っ向から反対する者が現れた。

 

「皆様方! 妄想(・・)も大概にして下され!!」

 

 恰幅の良い青年ハルだ。

 

「仮定の話が多すぎますぞ!? アスヴェル殿が“ゲーム”をクリアできるかなぞ全く持って不明でありますし、そもそも如何なる方法でアスヴェル殿をあの“ゲーム”に参加させるおつもりでござるか!?」

 

「そ、それは――」

 

 図星を突かれ、熱くなりかけていた面々が静まり返る。

 

「も、もう――もうっ、ミナト殿は助からないでござる!! もうどうにもならないんですよ!! このような不毛な話を続けるというのであれば、拙者は帰らせて頂く!!」

 

 そう吐き捨てると、宣言通り青年は部屋を出て行ってしまう。

 残った人々は――

 

「――なんだよ、あいつ。ミナトちゃんとは付き合い長かった癖に」

 

「だからこそ、でしょ。きっと彼が一番混乱してるはずよ」

 

「あいつら、仲、良かったもんな」

 

「だからって――」

 

 ――ハルを非難する声、同情する声、様々だ。しかし結局のところ、

 

「……本当、どうにかできないもんかなぁ」

 

 そのぼやきこそが、この場に集まった人々の総意であった。

 

 

 

 

 

 

 酒場からハルが飛び出してきた。涙を流し、目を赤く腫らしながら、夜の町を駆けていく。何処かへ向かおうとしている様子は無い。ただただ感情の赴くままに走っているように見えた。

 ――そんな彼へ、アスヴェルは声をかける。

 

「ハル」

 

「っ!?」

 

 すぐ、ハルは足を止めてくれた。彼は泣き晴らした顔でこちらを向くと、

 

「あ、アスヴェル殿。奇遇ですな、こんなところで会うとは――」

 

「ミナトのところへ連れていってくれ」

 

 単刀直入にこちらの目的を伝える。いきなりの内容に目の前の青年は大きく目を見開き、

 

「……な、何を仰っているのですかな? 拙者にはちんぷんかんぷんですぞ」

 

「酒場での話は聞いていた」

 

 最初から、全て。前々から、どうも“ここの人々”は自分の前で本当のことを話さない(・・・・・・・・・・)傾向があるように感じていた。だから、隠れて様子を伺っていたのである。

 

「ハル――正直に答えて欲しい」

 

「その……せ、拙者に答えられることならば」

 

「ミナトは、殺されようとしているんだな?」

 

「うぐっ!?」

 

 そうとしか考えられなかった。ただこの大陸に来れなくなる、自分の力が無くなる、それだけであればあんな反応はしない。あんな顔はしない。

 あの時のミナトの顔は――アスヴェルが元の世界で幾度も見てきた――己の死を覚悟した(・・・・・・・・)人間の顔だ。

 

「何故だ。何故、彼女の命が奪われねばならない?」

 

「そ、それは……えと……その、なんと言いますか……」

 

「今更はぐらかすのは無しにしてくれ。もう時間は無い(・・・・・)んだろう!?」

 

「あ、う、う――」

 

 それでもハルは逡巡しているようだ。だがアスヴェルは、答えを強制するような真似をしない。彼なら大丈夫だと信じているからだ。ハルは――決して、友人を見捨てられるような人間ではない。

 

「――分かりました。お話します」

 

 数分に渡り考え抜いた後、青年はそう答えてくれた。

 

 

 

 長話になるからと、場所を移した。誰も居ない夜の公園で、2人はベンチに腰かけていた。

 

「アスヴェル殿は、東京をご覧になられましたかな?」

 

「ああ」

 

 ハルが切り出してきた質問に、首肯で返す。

 

「ならば、あの“屋根”も見たことでしょう」

 

「見た。この街を包むような天井を」

 

「いえ、実際に東京という街全体を包み囲っておるのです」

 

 巨大な屋根だったが、そこまでの代物だったか。

 

「アレはですな、“柵”なのでござるよ。あの街に住む人々が、逃げ出さないようにするための」

 

「……何故、そんなことを?」

 

「分かりませぬ。住人を“管理”するための一環ではないかと噂されておりますが、真相は拙者も把握しておりませぬ。誰も彼もが、この街の中のみで一生を過ごすのでござる」

 

「そうか……」

 

 ミナトの話から、どういう理由で街を囲う屋根の話になったのか。それをアスヴェルは問い質さない。というより、薄々分かり始めていた。

 

「……ミナトは口減らしのために(・・・・・・・・)殺されようとしているんだな?」

 

「っ!! そ、その通りです」

 

 人を一定の領域内に収め続ける場合、まず問題になるのは人口だ。食料を始めとした生活の必需品が無限に手に入ることなど無い。である以上、人が多くなりすぎたなら、数を調整(・・)する必要がある。

 

「……君達のところの政府は、出産数の管理を行っていないのか?」

 

 ふと疑問に思ったので聞いてみる。人口の維持が目的なら、産まれる子供の数を調整した方が余程効率よいように思えたのだ。

 

「いえ、そのようなことは行っておりませぬ。その……敢えて余剰(・・)が出るように人を増やした上で不要な人間を切り捨てることで、“有用な人間”の割合を増やす、という目的のようです」

 

「――そうか」

 

 納得はできた。全く持って人倫にもとるやり方だが。よくもまあ、そこまで残酷な政策を実行できるものだ。

 

「ミナトは、不要な人間か」

 

「そんなことはありません!! ミナトさんが要らない人の筈が無い!! で、でも――」

 

「口減らしの対象に選ばれてしまった、と」

 

「――はい」

 

 ハルは俯き、震えている。感情がまだ制御できていないのだろう。彼の立場を考えれば無理のないことだが、質問は続けなければならない。

 

「だが、まだ助ける術があるんだな?」

 

「……無理です」

 

「あるか無いかだけ、聞かせてくれ」

 

「…………あり、ます」

 

 絞り出すような声でそう答えた。

 

「“調整”の対象に選ばれた人には、ある“ゲーム”が課されるのです。それをクリアできたなら、その人は対象から外される……」

 

「察するにその“ゲーム”とやらは、必要な人材かそうでないかを最終判断する場か」

 

「政府はそう発表しています。でも――」

 

「クリアした人は、未だいない?」

 

「はい――あんなの、ただの謳い文句です。選別された人にも温情を示しつつ、その上で“調整”されても仕方ない――不要な人であるのだと主張するために行っているだけなんですよ。どうせ、万に一つクリアしたってもみ消されるに決まってます!」

 

 それは――どうだろう? 非人道的な真似までして“無機質に”管理を徹底している政府が、自分達の言い出したことを撤回するなどという――“人間的な”行動をとるとは考えにくい。“ゲーム”とやらをクリアすれば、助かる算段はそれなりにあるのではないか。

 

「それで、その“ゲーム”の内容とはどんなものなんだ?」

 

「……限定されたエリア内で、特定の目的達成を目指すのででござる。目的は毎回異なり、例えば散らばっているアイテムを集めるだとか、魔物を一定数倒すだとかが、設定されておりますな」

 

 先程からハルの口調が安定していない。それ程までに追い詰められている、ということか。余り辛いことを聞きたくは無いが――今ばかりは仕方ない。

 

「それだけなら、クリアはそう難しく無いように思えるな」

 

「左様に。ですから、難易度を上げる“仕掛け”があるのでござる。“ジャッジ”と呼ばれる者達がエリア内に出現し、参加者を妨害してくるのでござる」

 

「妨害とは、何をされるんだ?」

 

「主に……参加者の殺害を」

 

「ふむ」

 

 攻略不可能とまで言われている以上、相当な強者が用意されているのだろう。だが、力づくでどうにかなる(・・・・・・・・・・)なら、アスヴェルの得意分野だ。

 

「その“ゲーム”はこのロードリア大陸で行われる、ということでいいんだな?」

 

「……はい」

 

 幾分か迷ったものの、はっきりと肯定してくれた。

 ならば話が早い。アスヴェルがその“ゲーム”に潜り込めば、それで話がつく。酒場で聞いたところによれば、NPCと呼ばれる人物――アスヴェルもそれに含まれるらしい――が参加すること自体は反則にあたらないようだし。

 

「そして――君は、私を“ゲーム”の開催場所へ連れていくことが(・・・・・・・・)できる(・・・)

 

 最後にアスヴェルは、最も肝となる質問を投げかけた。

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