勇者がログインしました ~異世界に転生したら、周りからNPCだと勘違いされてしまうお話~ 作:ぐうたら怪人Z
勇者の話をしようと思う。
しかし、アスヴェルが何者かを話すには、まずは自分――魔王と勇者との関係を説明せねばなるまい。つまり、これより紡がれるは魔王の記憶。
目覚めた彼は、すぐに己の責務を果たすべく行動を起こす。各地に配下たる魔物を飛ばし――
「――魔王様」
「見つけたか?」
「はい、ここより南西の方角、山を越えた先に人が住む村を発見いたしました」
「分かった。すぐ向かおう」
人間を発見した報を受けるや、すぐに部下達を引き連れ進軍を開始した。無論、向かうはその集落である。飛行可能な魔物を厳選し、魔王軍の全速力をもって目的地へ向かう。その機動力たるや、遠く離れた場所へ一刻も経たずに辿り着く。
「な、なんだ!?」
「ひぃいいいいっ!?」
「ま、魔物の大群だぁ!?」
到着した途端、自分達を見た人間が怯えだした。当然の反応と言える。しかし彼等に逃げ場など無い。魔王は指示を飛ばし、魔物に集落を囲ませる。
村人も自分達の置かれる状況が理解できたのか、早々に抵抗を諦めたようだ。
「いいか人間共、よく聞け――」
「大変です、魔王様!」
人々に声をかけようとしたところへ、部下からの報告が割って入る。
「
「もう来たのか!?」
彼等の間に
「いいか人間共、よく聞け! これから僕達は奴等を――
死にたくなければ余計な真似はしないことだ!!」
「た、
「結果的にそうなるだけだ!」
村人の一人が発した疑問へ簡潔に答え、すぐさま迫る“敵”へと集中。
「大きさからみて
その言葉の直後、10mを超える巨大な生き物が飛来した。頑強な鱗に全身を覆われ、爬虫類然としたその姿はなるほど確かに竜と呼ぶに相応しい。
正しく“一般的に”想像できる通りの竜という存在なわけであるが、ここで一つ特記するとするならば――こいつらの主食は
『――――!!!』
竜が吼えた。大気が震え、弱い生物であればそれだけで身動きとれなくなることだろう。どうやら村への侵入を阻むように陣取った魔王軍を、排除すべき障害と認識したらしい。
しかしそれはこちらも望むところだ。
魔王と竜との戦いが始まる。
数の上ではこちらが遥かに有利。しかしここで、もう一つ記さなければならない事項がある。
――竜は強い。恐ろしい程に強い。
竜という単語からも強大さは十分連想できようが、奴等はそれに
魔王である自分が、
魔王が振るう剣の斬撃が。
魔王の唱える魔法の爆撃が。
それ単体では、竜に致命傷を与えられないのだ。
逆に相手の攻撃は、まともに食らえば一撃で戦闘不能になりかねない破壊力。
しかもそんな敵が同時に3匹。
単独で戦って勝ち目が無いとは言わないが、負ける算段も相応にある。
故に、配下の存在が必要なのだ。
魔物達と連携を取り、時には盾として、時には矛として使うことで、勝利を確実なものへと変える。
しかし無論、魔王軍側とて無傷とはいかない。
一体、また一体と、竜の前に魔物が倒れていく。
爪で引き裂かれたもの、火の
中には命を落としたものもいるだろう。
それでも――
一時の勝利に沸き立つ魔物達を収めつつ、
「被害状況を確認しろ! 怪我をした者にはすぐ治療を!」
手短に指示を飛ばすと、再度魔王は人間達に向き直った。竜との戦いを間近で見て怯え切った彼等を一睨みしてから、こう通告した。
「このままここに居れば竜の餌食になることは理解したか!? 死にたくなければ、僕に着いて来い! 我が城には、
――魔王が眠りについていた間に、ラグセレス大陸は人食い竜が大量発生していた。奴等はその絶対的とも言える力で瞬く間に大陸を席捲する。
人間は竜に対し余りに無力であり、ただただ貪られ続けるだけの日々を送らざるをえない。その数はかつて繁栄を極めた時代から遥かに減衰し、細々とした生活を余儀なくされた。
故に。
魔王は人類を
全ては己の責務を全うするため。魔王とは“人類を支配し蹂躙する存在”なのだから。竜の台頭を許すことはできなかった。
決して、哀れな人々を助けたいというセンチメンタルに駆られた訳ではない。
魔王は自らの城を拠点とし、その周辺に住む人々を次々と
しかし、それにも限界が来た。業を煮やした竜達が一斉に魔王城へと攻めてきたのだ。
「魔王様! かつてない数の竜がこちらへ向かっております! 中には、
「……そうか」
報告を聞いた魔王は一つ息をついた後、“城の放棄”を決意した。
老竜とは成竜と比べ物にならぬ程の脅威を放つ存在。魔王軍の全兵力を費やして、勝てる見込みは五分五分程度。いや、相手には老竜以外もいることを考えれば、圧倒的に分が悪い。
一方でこちらの目的が人類の保護である以上、別段魔王城に拘る必要もなく――となれば、戦術的撤退が最上の選択である。
「だが、ただ逃げただけでは駄目だ」
独りごちる。
人間を連れる以上、速度は竜が上。どこかで追いつかれるのは間違いない。
「……つまり、囮がいる」
ぽつりと呟いた。竜を一定の時間以上その場に留め置く必要があるのだ。最も手っ取り早いのは、奴等に餌を――人間をくれてやることだろう。
「年老いた者達を城に残し、竜がソレを食らう間に距離を稼ぐ」
それしかないように思える。気の毒ではあるが、次世代が生き延びれるであれば人間とて反論はできまい。
気分が重くなるのを堪え、魔王が人間達へそれを伝えにいくと――
「私達を囮に使って頂きたいのです」
――先んじて、そんなことを言われてしまった。集まっていたのは、年老いた人々。ちょうど、
その中の一人が言葉を続ける。
「何の縁も無い我々をこうして助けて下さり、貴方には感謝のしようもありません。私達は自分を守る術すら持たないが、いつまでも甘えてばかりではいられない。
戦況が厳しいことは伺っております。どうか私達をご活用頂きたい。せめてもの力添えをしたいのです」
願っても無い話だった。こちらが命じようとしていた内容を、向こうから提案してくれるとは。これで何の呵責も無しに彼等を使い潰せる。
青年は老人達を
「お前達は魔王を侮辱するつもりか……?」
思ってもいない台詞が口をついた。
「
――こうして、魔王は竜との徹底抗戦に臨むこととなる。