勇者がログインしました ~異世界に転生したら、周りからNPCだと勘違いされてしまうお話~   作:ぐうたら怪人Z

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第18話 勇者⇒チュートリアル
【1】冒険再開


「えー、という訳で、レベリングをしようと思う」

 

 開口一番、テスラが言ったのはそんな台詞だった。

 

「レベリング――つまり、私の力を取り戻そうということだな?」

 

「その通り」

 

 アスヴェルの確認にテスラは首肯する。

 今、勇者と魔王の2人がいるのはちょっとした広さの“会議室”だった。ここは昨日、アスヴェルが勢い余って更地にした場所であり、一夜の内にそこへレジスタンスの技術班というチームが建屋を作っていたのだ。この会議室以外に、講堂だの執務部屋だの食堂だの、これから行うレジスタンス活動に必要な設備が揃っている。運営を滞りなく行うための、ゲーム内施設だとかなんとか。

 こんなものをささっと建てられてしまう辺り、仮想現実というのは便利なものである。

 

「というか、それなら私の家もついでに作ってくれれば」

 

「作ったよ?」

 

「え?」

 

 予想外の一言を浴びせられた。

 

「ここの裏手に、君専用の家屋があるんだ。湊音から聞いてないのかい?」

 

「……聞いてないな」

 

 そうだったのか――そうだったのか。色々と(・・・)合点がいった。

 

「あれ? それじゃ君は昨日いったいどこに泊まっていたんだ?」

 

「その質問の回答を――」

 

 一呼吸、もったいぶってから。

 

「――聞きたいかね?」

 

「…………ちょっと、心の準備が欲しいかなぁ」

 

 魔王はヘタレた。そう遠くない内に思い知ることになるのだが。

 それはそれとして。

 

「しかしレベル上げか。1か月足らずでどこまで強くなれるものなんだ?」

 

 レベルというものがこの世界における“強さの基準”であることは既に知っている。ただ、ミナトやハルの言動からして早々簡単に上がるものでもなさそうだった。2人とは割と長く一緒に行動していた筈だが、アスヴェルが知る限りではミナトのレベル上昇は2回、ハルのレベルが上がったことは一度も無かった。

 

「レベルの低い内は頻繁にレベルアップできるのだけれど、正直なところ、1か月で元に戻るのは不可能と思った方がいい。寝る間も惜しんで励んだとして、せいぜい50レベル、つまり以前の君の“20分の1”にも満たない強さになるのが精々だろう」

 

「そうか……まあ、問題ない。元通りになるのが目的ではないからな。あの女(オーバーロード)を倒すことができるのであれば私の強さなどどうでもいい」

 

「相変わらずな思い切りの良さ――頼もしいね」

 

 微笑むテスラだが――そうは言ったものの“20分の1”というのは流石に心もとなかった。あと少し(・・・・)欲しい。“あの技”を一発使えるだけの魔力が必要なのだ。

 

「……オーバーロードになるという手段もあるにはあるが」

 

「僕はおすすめしないけれどね。余り愉快な連中とは言い難い」

 

「とはいえ、背に腹は代えられないだろう」

 

 ミナトの命まで懸かっているのだから、失敗は許されない。レベル上げと同時並行して、(オーバーロード)化への方法も模索しなければ。

 

「何にせよまずはレベルを上げなければならないか。今の私では、あちこち動き回るのにも支障が出そうだ」

 

「懸命だね。確かにLv1では、最弱クラスのモンスターにも手こずることになる。下手をすればあっという間にゲームオーバーだ」

 

「……まあ、自分がどれだけ弱くなっているかは理解しているつもりだよ」

 

 言いながら、手をぐっと握りしめる――やはり、力が入らない。子供の頃に戻ったかのようだ。いや、あるいは子供相手に腕相撲で負けるかもしれなかった。

 

「確か、レベルを上げるには魔物を倒せばいいんだったな。そっちでシステムを弄って、適当な魔物を出現させることはできないか?」

 

「それは可能なんだけれど――さあ、ここで問題が浮上する」

 

 テスラは困ったように苦笑いすると、

 

「“ココ”ではレベルが上がらないんだ」

 

「何!?」

 

 アスヴェルの目論見を根底から崩す一言だった。

 

「“ゲーム”のために作られた場所だからなんだろうね。僕達が管理するこの世界(サーバ)では、幾らモンスターを倒してもレベルが上がらない仕組みになってる。正確に表現するなら、“レベルアップ”機能がここでは省かれているんだ」

 

「“ゲーム”の最中に強くなられちゃ困る、ということか」

 

「そうだろうねぇ。困った奴らだよ、“運営”は。おかげで僕は大分悩まされることになった」

 

「ある意味で有能な連中だ。で、対応策はあるんだろうな?」

 

「“Divine Cradle”の本サーバに戻るしかないね」

 

 当たり前といえば当たり前のことを口にするテトラ。

 

「“ここ”から“あちら”には直接渡れないと聞いたが」

 

「その通り。だから頭をひねる必要がある。まあ、その辺りは僕に任せてくれ。こっそり忍び込む方法の一つや二つ、用意してある」

 

「ほほう」

 

 流石はレジスタンス。そういう裏技は確保しているらしい。

 

「ただ、準備にちょっと時間がかかるんだ。“Divine Cradle”への侵入は明日まで待って欲しい」

 

「うーむ、仕方ないか」

 

 時間は惜しいが無い袖は振れない。アスヴェルより遥かに事情へ詳しいテトラがこう言っているのだから。

 

「となると、今日一日空いてしまうことになるな。何かできることはないものか……?」

 

「それなんだけどね」

 

 ずいっと魔王の顔が近づいた。

 

「――ちょっと、チュートリアルしてみないか?」

 

 

 

 

 

 

「よっしゃ、冒険の始まりだぜ!」

 

 ガッツポーズと共にそう叫ぶのは、アスヴェルの恋人(と表現して問題ない筈だ、うん)であるミナトだ。昨日は気落ちしていたようだったが、一転、今日は大分元気が回復していた。その顔には眩しい笑顔が戻っている。

 

「いいか、アスヴェル! オレが“Divine Cradle”でのやり方っつーもんを徹底的にレクチャーしてやるからな! しっかり覚えるんだぞ!」

 

「お手柔らかにな」

 

 ビシっとこちらを指さす少女に相槌をうつ。回復どころかちょっと元気過剰気味のようだが、悪いことではあるまい。

 

 アスヴェルがテスラに案内されたのは、一つの洞窟(ダンジョン)であった。ここが“チュートリアル”とやらの場所らしい。

 ここもまたレジスタンスの技術班が作り上げた代物だそうで、次のような特殊ルールが適用されるとのことだ。曰く、

 

・中に入るとレベルが1になる。

・中で死亡したとしても、洞窟入り口へ戻されるだけで何のペナルティも発生しない。

 

 なんでこんなルールを、と不思議に思うかもしれないが、これはアスヴェル用に設置されたダンジョンなのだ。

 通常のプレイヤーは、“Divine Cradle”内で死亡してもデスペナルティを負わされるだけでゲームから除外されるようなことはない。しかしアスヴェルはNPCという立場であるため、それが適用されるかはかなり怪しい。いや寧ろ、ゲーム内の死が“本当の死”となる算段が高い。アスヴェル本人は勿論、アスヴェルを対オーバーロードの切り札として考えているテスラ達にしても、その危険性は無視できないものであった。

 そこで、この洞窟の出番なのだ。ここならばかなり無茶をしたとしても、死亡することは決してない。彼がレベル1(弱体した状態)での立ち回り方を覚えるために、うってつけの場所(チュートリアル)という訳である。

 

「うん、有難い」

 

 態々自分のためにそこまでしてくれたレジスタンスの人々に、そっと感謝を送った。

 で、そんな洞窟へ一緒に潜るのがミナトと――

 

「この3人でまた一緒に冒険できるなんて――嬉しいです!」

 

 ――そう言って顔を綻ばせているハル、改め(ハルカ)である。

 

「…………」

「…………」

 

 なんとなく、アスヴェルはミナトと顔を合わせた。

 

「ど、どうされたんですか、お二人とも? まだ調子戻りませんか? 凄く変な空気を感じるのですけど」

 

「い、いや、そんな大したことじゃないんだ。大したことじゃないんだが――」

 

 アスヴェルが言い渋ると、その後をミナトが継ぐ。

 

「――ハル、居なくなっちゃったんだな、てさ」

 

「ハルは私ですよ!?」

 

 響く戸惑いの声。

 それは分かっている。それは分かっているのだが、これまでアスヴェルと共に冒険してきたハルはこんな正統派美少女ではなく、太っちょな青年だったのだ。

 頭では2人が同一人物だと理解していても――いつもならそこに居る筈の人物が居ないことに、一抹の寂しさを感じてしまう。

 

「もう、会うことは無いのかな、アイツには……」

 

「だから目の前に居ますって!!」

 

 遠い目をするミナトと、それに抗議する悠。ミナトの気持ちも分かる故、悠への弁護がどうもしにくい。

 しかしそこでアスヴェルは不敵な笑みを浮かべた。

 

「安心しろ、ミナト。こんなこともあろうかと私に考えがある」

 

「お?」

「え?」

 

 2人の少女から一斉に視線を浴びる。そんな中、アスヴェルは大きく手を振り上げ、

 

「さぁ来い! 今こそ君の出番だ!!」

 

 ある人物の登場を促した!

 

 

「お呼びのようですなぁ!!」

 

 

 そんな声と共に、一人の男が姿を現す。顎だの腹だのに随分と脂肪を蓄えた、恰幅のいい青年。

 

「あ、貴方は――“ゲーム”中、なんか向こうの方で『でゅふでゅふ言っていた人』!? 『でゅふでゅふ言っていた人』じゃないですか!!?」

 

 どうやら悠とは顔見知りだったらしい(第14話参照)。どうしたことか、物凄く複雑そうな顔をしている。

 だが、一方でミナトはと言うと満面の笑みを浮かべ、

 

「お、おお! ハル! ハルだ! ハルが帰ってきた!!」

 

「ハルは私なんですよぉ!? 確かに自分でもちょっとこの人とはキャラ被りしてるなって思ってましたけど!!」

 

 そこで悠は太い青年の方へ人差し指を突き付け、

 

「だいたいこの人、悪人じゃないですか! 

 

「おおっとこいつは手厳しいご反応――ですがご安心なされい、ワタクシ、あの時のアスヴェル殿の活躍を見て心を入れ替えたのです! この方がワタクシを真人間へ変えてくれたのですよ!」

 

「えー」

 

 悠が凄まじく納得いかなそうな顔をしている。そんな彼女を安心させるため、アスヴェルが補足を加える。

 

「過去はともかく、今の彼が真っ当な人格であることは私が保障しよう。割かし有能そうな感じだったのでスカウトしてみたんだ。何よりハルっぽいし」

 

「り、理由がなんか適当……」

 

 残念ながら十分な御理解を頂けなかったが。

 さておき、アスヴェルは恰幅のいい男へと振り返ると、高らかに宣言する。

 

「さあ、これで君は我々の仲間だ! これよりはハルツーと名乗るがいい!」

 

「そんな、プ●ツーみたいなネーミング……」

 

 悠がぼそりと呟くも、一旦スルー。

 しかし、ハルツー(仮)はアスヴェルの言葉を素直に受け取ることはせず、

 

「かの稲垣悠嬢に連なる名前を頂けるとは恐悦至極。しかし、敢えてその名は名乗るまい……」

 

「むむっ!?」

 

「でゅふふふふ、何を隠そうこのワタクシ、本名は春雄(はるお)! 故にこう呼んで頂きたい――“ハル・(オー)”と!!」

 

 高らかにそう叫んだ直後。

 

「えい☆」

 

「あふんっ♪」

 

 いったいどっから取り出したのか、悠の振るった巨大メイスの一撃によってハル・O(自称)はその場に崩れ落ちた。

 

「ハルオォオオオオオオオオオオ!!!!?」

 

 抱きかかえるが、ハルオ君は微動だにしない。もうダメだ。何がダメってこのネタこれ以上続けられそうにない。

 

「さ、おふざけはこれ位にして、真面目にお話を進めましょう? ね?」

 

「「あ、はい」」

 

 とてつもなく怖い笑みを顔に張り付けているハルに、アスヴェルとミナトは異口同音で返事した。

 

 

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