アメリカで「YAWARA!」が発売されて間もなく、日本の記者の間でも話題になった。その理由は元々噂の合った耕作が書いたということで、もしかして中に二人のことが語られているのではないかと憶測が飛び取材が来た。しかし、柔は「内容に関しては書いてある通りです」と言い続け、記者たちはアメリカで本を購入し翻訳をしてもらい確認した。当然だが、二人の事には触れることはなかった。
面白くないと期待した記者たちは言うが、それに反してアメリカではじわじわと話題を呼んだ。なぜなら、日本人記者を始めアメリカに滞在している日本人が聞きつけ購入し書店からは本がなくなり直ぐに重版がかかったのだ。その重版情報もあり、今度はアメリカの柔道関係者、スポーツ関係者が注目し発行部数を伸ばして行った。
その一連の流れで耕作にも少しだけ取材が入り、柔との仲も勘繰られることがあったが、本当に何と答えていいのかわからず記者と選手の関係とだけ言うにとどまった。
そんな中、日本から寄せられたニュースに4月の全日本女子柔道選手権大会に柔は出場し、決勝戦でさやかを下し優勝したと伝えらえた。日刊エヴリーの記事もFAXが送られてきて読んだ。2年ぶりのさやかとの試合は鬼気迫るものがあり、序盤に技ありを取られた柔は巻き返しを狙い一本背負いを仕掛けるも不発。しかし、その後さやかお得意の寝技を掛けられ万事休すかと思われたが、逆に柔が袈裟固めを完璧に仕掛け一本勝ち。前回、苦しめられた寝技で勝利する辺り、さやかは苛立ちそうだが柔にその意図はないようで写真には笑顔で表彰されるところが写っていた。
何で一本勝ちしたところじゃないのだろうかと、思ったが寝技での一本勝ちでは写真に迫力がなくボツになったのかもしれないと推測した。でも、耕作は笑顔でいる柔を見て少しだけ安心した。柔道を続けてくれてよかったと心から思う。
仕事がひと段落してスパイス・ガーデンへと行った耕作は久しぶりにイーサンとデイビットの顔を見た。最近は忙しいのかあまり会うことがなかったのだ。
「よー久しぶり。元気だったか?」
イーサンはジョッキを片手に耕作に言うと、デイビットは本を掲げて笑っている。
「あ!デイビット、本買ってくれたのか?」
「本屋で見かけたんだ。まさかコーサクが書いたとは思わなくて、正直驚いたよ」
「俺もさ。何で教えてくれないんだよ」
イーサンも持っている。だが読んでいるようには見えない。
「何か恥ずかしいだろう」
「一生懸命書いたものが恥ずかしいものなわけないだろう。まあ、俺はゆっくりじっくり読むタイプだから内容はまだ知らないんだけど」
「おいおい、イーサン。まさかここで俺に本の内容を話させるつもりじゃないだろうな」
「それでも構わないよ。俺はそれでも楽しめるタイプさ」
「嫌だよ。買ったんなら読んでくれよ。きっと損はしない」
「そこまで言うなら、読んでみるかな」
耕作が笑いながらビールを飲んでいると、ジェシーが現れた。今日は取材じゃないので一緒じゃなかったが、なんだかんだでいつも顔を合わせているような気がしていた。
「ハイ!みんな元気?」
お決まりのあいさつから入り、ジェシーもビールを持って席に着く。テーブルの上にある本を見つけると、ニヤリと笑う。
「みんな買ってくれたんだね。どんどん周りに薦めて、どんどん買って貰おう!」
「なんでジェシーがそんなこと言うんだよ」
イーサンの意見はもっともだ。しかしジェシーには野望があった。
「沢山売れたら、そのお金であたしを日本に連れてって!」
「は!?日本に?なんで?」
「何でって、そんなの決まってるじゃない。ヤワラに会うためよ」
耕作は何も言えなかった。そんな約束は出来ない。
「コーサクなら会えるでしょう。こんな本出すくらいの仲なんだもの」
「向こうも忙しいからな。どうだろうな」
「もー、いいのよ。行けば会えるわ」
「まずは売れないと話にならないな」
デイビットの言うとおりだ。だが、売り上げは順調だと連絡が入ったばかりだ。ジェシーの願いを叶えないといけなくなるかもしれない。