「ところで、デイビットは最近ここに来なかったけど忙しかったのか?」
耕作が話題を変えようとふると、デイビットは疲れた笑みを零す。
「まあな。今度、まとまった休みを取ろうと思ってそのために仕事を片付けてたんだ」
「旅行でも行くのか?」
「そんなとこさ」
あまり深入りしないのがここでのマナーだ。聞いて欲しくなさそうな話題になった時はそれとなく話題を変える。
「そう言えば、イーサンは彼女とはどうなの?」
ジェシーがそう話題を振ると、さっきまで元気だったイーサンは思い切り沈んだ表情になる。その途端、その場に誰もが「しまった」と顔に出す。
「とっくに……とっくに別れたさ!」
「へー知らなかったな」
「そりゃそうさ。彼女と別れたとき、みんなここには来なかった。オレは一人で泣き続けたさ」
料理を運んできたウェイトレスが、肩をすくめる。店の中で泣いていたようだ。
「なんて迷惑な……」
「何か言ったか、コーサク」
「いや、何てかわいそうなんだと思っただけさ。ちょうどみんな忙しかったんだな。俺も本のことでバタバタしてたし。でも、ここに来てなかったわけじゃないんだぞ。タイミングが合わなかっただけだろうな」
みんなが頷く。フラれたばかりのイーサンに絡まれるのは正直、面倒くさい。
「いや、いいんだ。もう、俺は立ち直った。なあ、コーサク」
「ん?なんだ?」
「お前、この前、ブルックリンで赤毛の女性と話していただろう」
「赤毛の女?ジェシーじゃないのか?」
「違う違う。髪はショートでちょっとくせ毛だったな。にこやかに話しているようだったけど、彼女は何者だ?」
「まさか、彼女を狙っているのか?」
「友達の知り合いなら信用もある。直ぐに連絡が取れなくなるなんてことも無いだろう。なあ、紹介してくれよ」
耕作は口一杯に入れたチキンを強引に飲み込んだ。折角の料理が台無しになりそうなほど、イーサンは必死に耕作を見つめる。しかし、耕作はその人を紹介できない。
「悪いな、イーサン。彼女は既婚者だ。紹介は出来ない」
「な、なんだって!」
「それにな、年齢だって君の母親くらいだと思うぞ」
イーサンは言葉を失う。街でナンパしても結局フラれ、職場での出会いもなく、いっそのこと友人を頼るのもいいかと思ったのだがそれも叶わず。
「俺よりもデイビットの方が顔が広いし、いい女を知ってるんじゃないか?」
席の奥の暗がりでウイスキーを飲むデイビットは、くちゃくちゃな髪の毛から見える目がにやりと微笑むがイーサンは首を振った。
「いや、いい。デイビットの知り合いは僕には難しいよ。あーどこかにいい女いないかな。お!今、入ってきた二人組、いい感じだな。ちょっと声掛けてくる」
やれやれと言った様子で見送る3人。
「イーサンは彼女が欲しいのはわかるけど、誰でもいいのかしら?恋をしたいってわけじゃないのかしら?」
「両方じゃないか。恋をしたいから彼女が欲しい。でも、イーサンは寡黙そうな容姿のくせに話し好きだからそれに女性は辟易するのかもな」
「優しい奴なんだけどな。残念だな」
憐れみの表情で女性に声を掛けに行ったイーサンを見ていると、フラれたようで肩を落としながら戻ってくるところを3人は苦笑いで迎えた。また今晩も面倒な夜になりそうだ。
耕作は人の事よりも自分と柔の関係をどうにかしないといけないと思いながら、長年患ってきた意気地なしが全面に出てきて何度も電話する勇気がもてない。その状況で人を励ますことなんてとてもできそうにない。申し訳ないが、ここはジェシーとデイビットに任せるしかなさそうだ。