YAWARA!~2020 LOVE/WISH   作:いろいと

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vol.4 ほどける心

「こんなのでたらめです。熱愛なんて、だって、会ったのは2回だし……1回目は昼食をご一緒しただけで……」

「じゃあ、こっちは?」

 

 2枚目の記事は昨日届いたものだ。写真付きの記事には「柔、お見合い。相手はあの社長」と出ていた。社長とはもちろんレオナルドのこと。でも、これは昨日の熱愛記事の元になったディナーの前日の出来事とされ、お見合いから翌日熱愛と言うのは辻褄が合わない。

 

「2枚目の方は日刊エヴリーが書いたものなんだ。柔さんが着物を着てる写真を手に入れて取材したらしい。前日のスポーツ東京の記事は間違いじゃないかと言う、指摘を交えたスクープみたいなものなんだけど」

 

 柔は困ったような顔をした。その表情を耕作は見逃さなかった。

 

「これを見て、俺は終わったと思ったよ」

「え!?」

「俺は見捨てられて柔さんは新しい道を進み始めたんだって。そんな矢先にNYに来ることを知って、しかもそれがこの写真の男と一緒だと知ったんだ。だからそう思っても無理はないだろう」

「この記事は間違いです。あたしは確かにレオナルド社長とお見合いしました。でもそれはうちの社長の命令で……そう言うと、松田さんまた怒るでしょう。でも、会社も大変な時期にあってあたしは出来る事はしたいと思ったから」

「それがお見合いか……そう思える心境にあることこそ、俺の存在が希薄になってるってことじゃないか」

「違うわ! お見合いって言うのは表面上で……レオナルド社長が日本の映画を見て一度やってみたかったと言うからそれに応えただけ。この時も、翌日の夕食会も別に何かあったわけじゃないし」

「でも、君は彼のファンだろう?」

「そうだけど……だからって何か期待するなんて考えられないわ。例え松田さんからの連絡が無い状態だとしても」

「少しも心が動かなかった?」

「当たり前です。それよりも、松田さんの方こそどうしてアリシアさんと知り合いなんですか?」

「それは柔道をやってる無名女子選手を発掘することが俺の使命と言うか」

「あたしとは終わったと思って、今度はアリシアさんですか?」

「そんな風には見てないよ。柔道家として、試合にも出ないでいることがもったいないと思ってたまに会って話をしてた程度さ」

「あたしのときもそうでした。しつこく付きまとって、試合に出させて……」

「アリシアは柔道が好きだけど、試合に出られない、出たくない理由があったんだ。だから俺はそれをクリアできればいいと思って……」

 

 邪な思いはこれっぽっちも無かった。ただ一つあったのは、柔道と言うものに触れている時間が欲しかった。

 

「随分、親身になってたんですね」

「だからそれは、選手として出てこれば柔さんのライバルになりえると思ったからさ。ジョディ―やテレシコワ、富士子さんの引退で女子柔道界は少し力が弱くなったように感じたから。それに、君と連絡が取れなくなってこのまま柔道から遠ざかったらいけないとも思ったんだ」

「あたしだって連絡しようと思ってました。でも怖くて出来なかった。また松田さんに背を向けられたらもうあたし、立っていられないと思ったから。だから柔道も身が入らなくて、おじいちゃんにも怒られて。そんな時に、松田さんにまた見て貰える人になりたいって思って頑張ったんです。あたしは自分の精神力が弱いことを自覚してましたから、心を鍛えることをはじめてそれで、昨日、勇気を出してここに来たんです」

「へ? 昨日?」

「そうです。アパートの場所だって知ってたし、NYで試合するなら見て貰いたかった。だから来たけど松田さん、いなくて……」

「昨日は仕事で……帰宅は深夜だったんだ」

 

 間が悪いとはこの事だ。柔は今日みたいにドアの前で膝を抱えて耕作の帰りを待っていた。でも帰ってくる気配はなく、柔は諦めてホテルに戻ったのだ。

 

「でも、今日はこうやって会えたからよかったです」

 

 柔が笑う。とても健気で世界で戦う女性とは思えないほど、優しく柔らかく微笑む。

 

「全部、誤解だったんだな。記事のことも、連絡が取れなかったことも」

「はい。あたしも誤解してました。松田さんとアリシアさんのこと、本当はさっきまで疑ってたんです。それでアリシアさんの顔を見るのが辛くて、松田さんとはっきりさせたくてホテルを出て来たんです」

「俺も同じさ。柔さんとレオナルドが一緒にいるところを見るのが耐えられなくて、挨拶もしないで帰ってしまったよ。あの時は本当に堪えたな。でも、諦めきれなくてホテルに行ったよ」

「そうだったんですか?」

「でも君はいなくて、あちこち探したよ」

「それで、あんなに濡れて……」

「ははっ。最初に来るべきはここだったって君の姿を見て思ったよ」

 

 二人の中にあった疑いや思い違いはここで全て晴れた。残ったのは以前よりも想いが深まった二人。確かめ合ったお互いの気持ちが照れくさくて、柔は顔を赤くする。

 その表情を見て耕作は胸が締め付けられる。

 

「あの、もう…………」

 

 唐突に柔は立ち上がる。そしてドアの方に向かって歩き出す。だけど耕作が柔の腕を掴んだ。

 

「あ……」

 

 

 

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