二次会は開かれなかったが、別の部屋にデザートが用意されていてそこで暫く談笑することが出来た。普段あまり接点のない人が集まるこの場で式だけして終わりというのも勿体ない。だからと言って、結婚式そのものが極秘で二次会の会場を見つける事出来ずにいたら式場から提案を受けてこの形をとった。柔と耕作は少しラフな服装に着替えて会場に入った。
テーブルにいた時は知ってる者同士ででしか話せなかったが、今はあちこちで数人のグループに分かれて柔たちの事や仕事や恋愛の事などを話していた。
特にイーサンは日本人女性を口説こうと声を掛けに行ったが、英語が堪能な人が和美とかおりしかおらず、和美に至ってはパトリックがいるのでかおりに声を掛けたがあまり相手にされてないようだった。
アリシアは少し日本語が出来るので、富士子や今日子たちと楽しく話しているし、邦子とジェシーは最初は敵対していたが今は二人で仲良くお酒を飲んでいた。
そんな中、耕作と編集長が二人で深刻そうな話をしていたかと思ったら、野波の元へ行き二人は会場を出て行ってしまった。
「仕事に戻ったんだよ」
耕作がそう言って柔は頷いた。明日には記事になる。承知の上だが、やはり世間に発表するのは気恥ずかしい。
とりあえず明日、耕作は午前中の便でアメリカに戻り、柔は世界選手権も近いので日本の極秘の練習場で滋悟郎と共に稽古に励む。玉緒と虎滋郎も明日、フランスへ戻るので猪熊家からはコメントが取れないだろう。しかし松田家にはマスコミが押し寄せる事が予想される。
「うちの事は気にしなくてええよ。民宿もしばらく休んだし、せっかく東京さ出て来たから観光してから帰ることにしたんだ。そのことは旅館組合にも話してある。詳しくは話してないが上手くやってくれって頼んできた」
「ホテルの手配は大丈夫ですか? まだお済でないならあたしがしますけど」
「ありがとう。でも、もうホテルもとってるし行く場所も決まってるんだ。ねえ、父ちゃん」
「ああ。鎌倉とか箱根とか行こうかと思っているよ」
「東京じゃねーじゃん」
「うるさい! 耕作!」
母にどやされて肩をすくめる耕作。すると近くにいた羽衣が声を掛けた。
「松田さん。もし、何かお困りごとがあったら私に連絡ください。旅行代理店なんで力になれると思います」
そう言って名刺を渡した。
「いろいろとありがとうございます」
柔は会場を見渡すと藤堂とデイビットことレオナルド社長が話しており、憧れのスターを目の前にして緊張しているのがわかるがとても楽しそうだった。パトリックはモーリスとNYのことについて話し故郷を懐かしんでいるようだ。ルネはイーサンと、ジョディは和美と話している。清水は富士子と今日子と家事や育児の話をしているし、岡崎はスポーツ医学を研究していて滋悟郎の特殊な塗り薬について質問をしているようだ。ジェシーと邦子、鴨田は恐らくカメラを話をしているのだろう。ジェシーは耕作と仕事をするようになってから少しずつ日本語を学んでいて、少しなら話せるようになっていた。
「ねえ? 編集長は?」
甘えた声で耕作に声をかけたマリリンは相変わらず、露出の多い服を着ている。思わず胸元に目が行く耕作だが、すぐに視線を戻す。
「仕事に戻ったよ。今日の事は記事になるんだし」
「記事になるの!? じゃあ、あたしのことも載せてくれるの?」
「それは俺にはわからないけど、きっと取材は行くと思う」
「えー、困っちゃうな~」
そういうマリリンは全く困った様子はなく、むしろ喜んでいた。
「ちょっと、あんた、式の事や柔ちゃんたちの事ペラペラしゃべるんじゃないよ」
「どーしてよ」
「ごめんね、マリリン」
柔が会話に入ってきた。
「誰が出席してたとか、どんな式だったとかってあんまり公表したくないの」
「えー」
「この式はね、お世話になった人たちの恩返しのつもりで開いたの。それでも沢山の協力があって出来たんだけど、今日ここにいる人たちだけで共有できる思い出にしたいから、外部の人にはあんまり知られたくないのよ」
「わかってあげなよ」
南田がそう言ってマリリンの肩を叩く。
「うん。取材がきても言わないわ。大丈夫。口は閉じておく」
「ありがとう」
「ねえ、小百合の食べる手が止まってない?」
怪奇現象でも見るように南田が遠くを見ている。そこには小百合と虎滋郎という異質な二人が話していた。
「あの二人って接点あったっけ?」
耕作も不思議がっている。するとそこに松平も加わった。ますますわからない会合に興味を持った四人は近づいてみた。
「そーなんですね。勉強になります」
小百合の声がした。虎滋郎の声はまだ聞こえない。
「へー、一度食べてみたいです」
また小百合。どうやら食べ物の話をしているらしい。
「なんの話をしてるの?」
「あ、すごいのよ柔ちゃんのお父さん。フランスのね、美味しいお店色々知ってて、それどころか世界中の美味しいお店知ってるみたいなの」
「美味しいお店? お父さんが?」
「コーチをしてあちこち食べ歩いたからな。特に、本阿弥のコーチをしているときはなかなか食べられないような豪華なものを食べていたぞ」
「今度、あたしねデパートの食品バイヤーになるのよ」
「何それ?」
「各地の美味しい物を買い付けてデパートで販売するのよ。それがね日本国内だけじゃなくて、海外も対象だから色んな人に話を聞いているところだったの。でも案外海外だとガイドブックに載ってるような店のことくらいしか教えてくれなくて、困ってたんだけど柔ちゃんのお父さんを見て思い出したの」
「放浪してたこと?」
「そう! 海外にも行ってたみたいだしもしかしたらって。そしたら松平さんも加わってくれて」
「LAの美味しいものならある程度は知ってるよ。日本人にとっては珍しいものもあると思うよ」
「世界の美味しいものを調べていつか日本で流行らせるわ!」
「ティラミスみたいに?」
「そうよ! 今まで食べる事だけに情熱を傾けてたけど、これからは美味しい物をみんなに届けることに情熱を注ぎたいの! そのために勉強してるところ」
小百合のやる気は満ちていて、メモ帳に店の名前をメモしては目を輝かせて話を聞いていた。
「じゃあ、NYのことは知りたくない?」
玉緒と話していたアリシアがその輪に入った。アリシアもさやか同様にお金持ちのお嬢様だ。美味しい店は沢山知っているはず。小百合は力のこもった目をして「もちろん」と握手をした。
ふと会場の隅を見ると、祐天寺と羽衣が外を眺めながら話しているようだった。西海大と鶴亀トラベルはかつて柔争奪戦をしたこともあったが、柔の気持ちは就職にありやはり祐天寺は見向きもされずにフラれた形だ。そんな二人が何を話しているのか疑問だが柔はそっとしておいた。
会場を見渡すと、柔と耕作の知り合いだけど今日まで会話もしたことがない人が集まったと言うのに、もうそれぞれで気が合う人見つけては会話を楽しんでいる。思い出を語ったり情報交換をしたり、今の現状を相談し合っている様子もうかがえた。
その光景が不思議で幸せだった。