vol.1 トロントでパンケーキ
「随分長いこと漂っていただわさ。寝てたのか?」
「そんなわけないじゃない。湖の上って本当に静かで心が落ち着くわ」
「楽しんだならいいだわさ」
ランチは軽くとジョディは言ったが、実際はとても量の多いランチとなった。お腹いっぱいで洗い物も出来ないでいると、ジョディが元気よく言った。
「二人とも荷物をまとめるね。トロントに戻るだわさ」
「え? 今から?」
今日もここで一泊するとばかり思っていた二人は、ジョディの急な話に困惑しつつも荷物をまとめた。そしてルネが運転する車に再び乗りこみトロントに向けて走りだした。
「デザートはトロントで食べるね。美味しいもの沢山ある」
「まだ食べるの?」
「まだまだね。ちょっと観光もするといいね」
再びトロントまで戻ってまずはジョディの自宅に荷物を降ろした。そして柔は帽子をかぶって軽く変装してトロントの街に繰り出した。
「マツダ、元気ないね。楽しくないか?」
「そんなことないさ。考え事してただけ」
「そんなの後にするね。ヤワラがいる時はヤワラのこと考えるね」
ジョディの言葉にハッとする。そうだ、貴重な時間を無駄にするわけにはいかない。
「ありがとう、ジョディ」
「がんばるね! マツダ」
親指を立てて応援するジョディ。耕作もこたえる。
「うわー大きいー」
柔は思い切り体を反らして見上げた。あまりに見上げたためにちょっと足元がぐらついた。
「おっと、気をつけろよ」
耕作が後ろから柔を支えた。
「あ、すみません……」
「前にもそうやって見上げてたな」
「自由の女神ですね。もっと高いです。東京タワーよりも高いですね。これ……」
「CNタワーだよ。世界一高いらしいよ」
「あの、松田さん……」
「どうした?」
「手、大丈夫ですか?」
「怪我してないぞ」
「違います。つないだままでいいんですか? ここにはまだ記者の人がいるかもしれないですよ」
「大丈夫さ。カナダの記者はジョディたちには気づいても俺たちには気づかないよ」
「それならいいんですけど……」
「嫌なら、離すけど」
「嫌じゃないです!」
柔は手を離さなかった。大きな耕作の手に柔の小さな手はすっぽり収まってしまう。力を入れたら壊れてしまいそうなほど、柔らかくて小さい。
「タワーには後でのぼるだわね。甘いもの食べにいくだわさ」
さすがにジョディもトロントでは帽子をかぶっている。真夏なので多くの人が帽子をかぶっているので違和感はない。ただ体の大きな夫婦が歩いているのは目立つのではと思ったが、ここはカナダ。そういうカップルは案外いる。
ジョディが案内したのはパンケーキのお店。メープルシロップの産地なだけあってパンケーキも大人気のようだった。ジョディはおすすめがあるからとメニューも見せずに注文した。ワクワクとドキドキの中運ばれてきたのは、とんでもなく大きなものと薄くて小さいのが何層にも重なったもの、そしてクリームとフルーツがどっさり乗ったパンケーキだった。
「どれも美味しいね。好きなの食べるといいね。それともシェアするね?」
「そうね、どれも試してみたいわ」
一人で食べきる自信は全くない。まだランチがお腹に残っている。層になったパンケーキにはバターとたっぷりのメープルシロップがかけてあり、バターの塩気と合ってとても美味しい。他のパンケーキもそれぞれ特徴があり、美味しいのだが甘さが限界値を越えすぎてて進んで行かない。
「二人とも小食ね」
「ジョディ、日本人はこんなに食べないわ」
「そうだぞ。それに日本のデザートはこんなに甘くない」
まだ半分近く残っている。頑張って食べてはいるが、とにかく減らないのだ。
「私、食べてもいいだわさ?」
柔と耕作はどうぞどうぞという仕草を取り、ジョディはエンジンがかかったかのように食べ始める。その様子は日本にいる滋悟郎を思い出させる。ルネも若干引き気味で見ているがそれは甘いものが苦手なのだからだろう。
パンケーキの店を出てからは買い物タイムに入り。柔は一生懸命お土産を選んでいるようだった。耕作もカナダへは初めて来るし、モーリスたちにも何か買って行こうかと思い物色し始める。その間にも柔はカメラで記念写真を撮り、思い出を残して行った。もちろんCNタワーを入れて耕作とのツーショットも撮っていた。