「ヤワラー! 起きるだわさ!」
「んージョディ、おはよう」
窓の外は青い空。気持ちのいい朝だ。身支度を整えて、リビングに行くとソファの上に横になっている耕作の姿があった。柔は足音を立てずに近づいて、じっとその顔を見ていた。こんなに近くで顔を見るのは、去年のロックフェラーのクリスマスツリーを見に行ったあの時以来だ。そう、あの時はその後……。
「そんなに見ても何も出ないぞ」
突然そんなこと言うから柔は後ろにのけ反って尻餅をついた。
「起きて……」
耕作は起き上がると、あくびをして体を伸ばした。
「今起きた。柔さんがいるような気がした」
赤面している柔は耕作の顔がまともに見れなくて、洗面台の方へ逃げて行った。
「マツダ、テーブルの上、片づけるだわね」
「あーすぐやる」
テーブルの上にはノートやメモが広げられていて、食事を出来るような感じじゃない。昨日はジョディとルネに取材をして、その後文章をまとめていた。眠ろうと思っても書きたくて、眠れない。ならいっそ書き上げてしまえばと思っていたが、さすがに体は休息を望みソファに横になった途端、意識を失った。
目が覚めた時も、窓からの光が眩しそうで瞼を開けられなかった。扉が開く音がして歩く気配が近寄って来た。ふわりと香る甘い匂い。柔だということは直ぐに分かっていたが、目を開けられなかった。また眩しくて目を閉ざしてしまいそうだったから。
ユニオン駅はCNタワーからもほど近い歴史を感じる美しい駅舎だ。特に内部は映画に出てくるような装飾で見て歩くだけでも心が躍る。しかしそんな時間は二人にはなかった。
「松田さん、早く!」
「ちょっと、待ってくれよ」
時刻は午前8時を過ぎている。列車の発車まであと数分。柔は焦っていた。しかし無情にも列車は出発し二人はただ取り残された。
「間に合わなかっただわね」
ジョディの声がして顔を上げられない二人。幸いにもチケットを買う前に時間切れとなったので無駄にならずにはすんだが、ナイアガラの滝が見れないことは二人とも残念だった。
「飛行機でNYに戻ろう。それがいい」
「そうですね」
姿を消していたルネが戻って来て、二人に満面の笑みを見せる。そしてジョディとこそこそ話した後、ジョディもわかりやすく喜んだ。
「二人ともナイアガラの滝見にいくだわさ」
「いや、もう無理でしょ。列車も行っちゃったし」
「そんなことないだわさ。ナイアガラの滝までここから車で1時間半から2時間。一緒に行くだわさ」
「え! そんな悪いわ」
「そうだ、もう二日も世話になっててそこまでしてもらわなくても……」
「遠慮はいけないね。二人がカナダに来る滅多にないだわさ。私たちも嬉しい」
「でも、ジョディもルネも予定があるでしょ」
二人は顔を見合わせる。そして……
「予定はないだわさ。気にすることない」
「どうしますか?」
「俺は正直、ナイアガラの滝見たいけどな」
「あたしも!」
「決まりだわね!」
とんだアクシデントで4人でナイアガラの滝を見に行くこととなった。柔もどうせなら皆で行った方が楽しいだろうと思った。車はスムーズに進み予定通り、10時半ごろにはナイアガラの滝に到着した。車は駐車場に停めて、4人は徒歩でナイアガラの滝に向かう。
すると想像とは違う景色に柔も耕作も思わず声が出る。
「なんか遊園地みたいですね」
「ああ。なんか自然の中に滝があるだけって勝手に思ってたけど……」
「せっかく人が集まる滝があるのに、何も作らないのおかしいだわね」
「それもそうか」