ナイアガラ・フォールズはテーマパークのような活気に満ち、お店やアトラクションが立ち並んでいる。街を歩く観光客は飲み物や食べ物を片手に楽しげな表情を見せる。
「それにしても暑いな」
「滝の近くなのに涼しくないですね」
「柔さん、大丈夫? 具合悪くなってない?」
「大丈夫ですよ。体力だけはありますから」
「そうだったな……」
4人は楽しく話ながら街を進むと突然、轟音と共に開けた場所に出てナイアガラの滝が目の前に広がる。2つある滝からは煙のように水しぶきが上がり、その規模の大きさが目で見て伺える。
「いつ見ても大きいだわね。左のがアメリカ滝、右のがカナダ滝。ここ国境」
ジョディの冷静な言葉に反応できないほど二人は言葉も出ない。
「テーブルロックに行くだわね」
ルネとジョディは慣れた様子で歩き出す。二人もそれに付いていくが次第に大きくなる滝の音に柔は思わず耕作のシャツの裾を握る。
「どうした?」
「なんだか怖くて……」
俯き加減でそう言う柔に耕作は裾にあった手を握る。
「俺もだよ」
そう言いながらも笑顔を見せる耕作に柔の恐怖心は薄くなる。力強い手が安心感を与えるのだ。
「二人とも何してるだわね。さっさと行くね」
すたすたと歩くジョディを二人は手を繋いで追う。すると霧のような水しぶきで辺りが白くなり、目の前には見たこともない量の水が流れ落ちている。その迫力と轟音たるやまたしても二人の度肝を抜く。
「今日はいい天気。見るだわさ」
ジョディの指差す向こうには綺麗な半円の虹が浮かんでいる。まるで雲の隙間にあるように見えるその虹に一羽の鳥が潜り抜ける。
「すごいわ! なんて景色なの! ねえ、松田さん」
「ああ、さすがというか規模が日本とは違う」
「二人とも記念撮影するだわね」
柵が思いの外低く背を向けるのが怖いくらいだが、二人は寄り添って笑顔をカメラに向けた。ジョディは渾身の出来栄えと言うが、見れるのは日本に帰ってからだ。しばらく滝を無心で見続けていた柔と耕作だが、ルネが声を掛けて来て現実に戻ってきた。
「さあ、探検の始まりだ」
ルネに案内されてテーブルロックにある建物に入ると、そこには受付があって少しだが人が並んでいた。
「今なら空いてるから行くだわね。私たち前に行った。二人で行くね」
よくわからないまま受付を済ませてチケットを受け取ると、奥に進んで黄色いビニールを貰う。説明ではこれはレインコートだという。とにかく周りに従って二人もレインコートを着てエレベーターで下に降りる。扉の先には薄暗いトンネルがあり進んでいくと、バルコニーがあったが物凄い水しぶきで前が見えないほどだ。
「ここまさか、滝の横ですか?」
大きな声で柔が言うと、耕作もそれに大声で答える。
「そうらしい。しかし、雨みたいに降ってくるな」
カッパはすぐにびしょびしょで意味があるのかないのかわからない。風も強くて音も大きい。長くいられるような場所ではなさそうだ。案内板もあったが顔にあたる水しぶきが痛くて見ていられないと、耕作は早々にギブアップした。
柔は何かに吸い寄せられるように滝を見上げている。ただ水が落ちてくるその光景を見続けている。顔はもう水で濡れているが気にならないのか呆然と見上げている。その姿を耕作は思わず写真に撮った。背景には青い空と虹、そして霧と滝。不思議な一枚となった。
観光客の団体が入って来て柔は我に返ったのか振り返ると、耕作の元に戻ってきた。
「そろそろ行きますか?」
「随分見ていたけど、何か思うことでも?」
二人はバルコニーから別の道に進んでいた。水で濡れて滑りやすい道はここも薄暗い。
「自然ってこんなにも大きいんだって思ったんです。日本にいるとあまり感じないじゃないですか」
「それは、柔さんが東京生まれで東京育ちだからかもな。俺は山形だろう。毎年降る雪は本当に厄介で雪の壁が出来るほどだったよ。それに蔵王山の樹氷はまるで雪男のようで気味悪いと子供の頃に思ったな」
「樹氷ってなんですか?」
「木に水蒸気がくっついて凍ったものだよ。冬の間にどんどん大きくなるんだ。大きな不格好な雪だるまみたいなものだよ」
「そんなものがあるんですね。あたし、本当に何も知らなくて……」
「別にそれが普通じゃないのか。俺の知らないことを柔さんが知ってることもある。二人が知らないことは一緒に知ればいいじゃないか。ナイアガラの凄さは二人で体験できただろう」
「はい!」