二人は歩みを止める。その先には穴があいていて、ただ真っ白で何もわからない。耕作は聞き耳を立ててここが何だかわかった。
「滝の裏側だって」
「ここが? 何かさっきより迫力ないですね」
「そうだな」
二人は思わず笑い出す。拍子抜けもいいとこだ。
「実際来てみないと分からないことってあるよな」
「ええ、一番滝に近いのに一番迫力がないなんて」
「でも、来てよかったな」
「はい!」
二人は手を繋いで地上に戻った。するとジョディが待っていてくれて、水で濡れた二人にタオルを渡してくれた。
「楽しかっただわね?」
「ええ、とっても。ありがとうジョディ、ルネ」
「いい経験になったよ」
「喜んでくれたなら来たかいがあったってもんさ」
ルネが白い歯を見せて笑う。二人も笑顔を返す。
滝から少し離れてまた暑い日差しが照りつけ、濡れた髪もすぐに乾きそうで安心したのもつかの間、楽しかったカナダ旅行もそろそろ終わりを迎える頃だ。
一旦車に戻ってアメリカに繋がる橋、レインボーブリッジまで四人で向かった。駐車場に車を停めて四人でとる最後の食事をして別れの時が来た。
「三日間ありがとう。ジョディの引退だったのにあたしたちの観光のお世話してもらって本当に……」
「ありがとうは私が言うことね。三日間とても楽しかった。でもヤワラと会ったこの六年、私の柔道とても楽しかった。本当に、楽しかった」
ジョディの目には涙が溢れていた。
「あたしも本当に楽しかった。ジョディと試合出来たこと、一緒に稽古したことも全部全部。ジョディがいなかったらあたし……」
「ヤワラ! 負けちゃダメね」
「え?」
「柔道もだけど、心に負けちゃダメね。心は自分。自分に負けるのは楽すること。その先には何もないだわね」
「ジョディ……」
「マツダ!」
「はい!」
ジョディの大きな声に思わず背筋が伸びる。
「ヤワラを泣かせたら許さないね」
「もう泣かせたりしないよ。前にも約束したろう」
「覚えていたんだな!」
ルネが耕作に言った。
「もちろんだよ。でも俺はあの後も柔さんを泣かせてばかりだったけど」
「でも、今は幸せそうだ。それもマツダがしたことだ」
「そうかな」
「そうさ。だから支えてやるんだ」
「そのつもりさ」
二人はがっちり握手をした。
「二人で何話してるの?」
柔は男同士の話に割って入ってきたが、内容はわからないようだった。
「これは俺たちの約束だから」
「ふーん」
車から荷物を降ろして柔と耕作は、もう一度二人に別れを告げて橋の入口にある建物に入る。そして橋を渡るための支払いをして外に出ると、コンクリート製の橋が伸びていて滝を右側にして歩く。五分ほど歩くと国境がありブロンズのプレートが張り付けてある。
「ここが国境らしいぞ」
「ここが! 歩いて国を越えるなんて初めてです」
「俺もだ!」
ちょうど通りかかった老夫婦に写真をお願いした。柔はカナダ側、耕作はアメリカ側に立って手を繋いでいるところを撮って貰う。老夫婦は二人がとても若いカップルに見えたようで、孫を見るような目で見てくれた。特に柔は幼く見えたかもしれない。
その後、橋を進んでアメリカ側で入国手続きをして無事にアメリカに入ることが出来た。そしてアメリカ側からアメリカ滝を見学して、二人はバスに乗ってバッファロー空港へ向かう。