「ところで、松田くん。柔とは交際しているのか?」
あまりにも脈絡のない突然の虎滋郎の問いに、耕作は凍り付いたように固まる。
「え? あの……ご挨拶が遅くなり申し訳ありません!」
頭を深々と下げる耕作に虎滋郎と玉緒は顔を見合わせて笑う。
「そんなことを気にすることない。そもそも俺には何もいう資格もないんだから」
「そんなこと言って……松田さんなら安心だとか、適任だとか言ってたじゃないですか。でも二人のことだからって黙ってたのよね」
虎滋郎はあさっての方向を向いて照れた様子で「うむ」と言う。娘が心配なのは愛情があるから。どこの馬の骨に持って行かれても何も言えない立場上、自分も認める耕作と交際している事実は正直嬉しい。
「公表はしないことにしてるんですよね?」
「ええ、今はまだマスコミがうるいですから。って、俺もマスコミなんですけど。だからこそわかることなんで。それに柔さんの希望でもありますし」
「東京とNYで離れているし、隠していても見つかることはないでしょうね」
「ええ。ただ今回の世界選手権ではあまり接触はしないつもりです。不自然なほど接触しないのも怪しまれますから今までと変わらないくらいに接しますが、二人きりにはならないようにするつもりです」
恋人同士になったとはいえ、あまり会えない二人は特別恋人らしい雰囲気を漂わせることもない。しかし二人のツーショットを撮ろうとしているマスコミはまだいる。柔は容姿もいいし、世界中で名前を知られる柔道界のヒロインだ。恋の行方は芸能人並に気になる話題のようだ。
「お義父さんには言ってないのよね? インタビューはされないのかしら?」
「滋悟郎さんには柔さんから時期を見て言うみたいですけど、今のところは言ってないですね。ついテレビで言ってしまう可能性がありますから。でも、試合後にちょっと時間を貰ってインタビューはするつもりです」
「そうですか。いい本が出来上がることを願っています」
「精一杯書かせていただきます」
耕作が本を出すことの意味を虎滋郎と玉緒は分かっていた。柔の隣に居続けるための自信を付けて、誰からも釣り合わないなどと言われないための耕作なりの手段なのだ。虎滋郎も玉緒も今までの耕作を見ていればそんなこと微塵も思わないが、これは周りが何を言っても耕作が納得しなければ意味がないこと。だから力になれることは力になり、耕作には全力を出して欲しい。そしてできれば世間がこの本を認めて欲しいと願っている。