vol.1 三葉女子短大のお友達
ハミルトンから帰国して1週間後。柔は都内の怪しげな店に恐る恐る入っていた。室内は暗く、照明は所々色がついていて不気味だ。半個室のようなソファとテーブルには薄いカーテンがあり、人がいるのかさえわからない。店内の音量も大きく、近づかないと声も聞こえないような場所だ。
そんな店内を通り抜け、柔が向かったのは完全な個室。VIPルームと書かれたその場所の先はゆったりとしたソファと比較的明るい照明と観葉植物が安心感を与えてくれた。
「柔ちゃ~ん。こっちこっち」
いつ見ても零れ落ちそうなバストが目につく小田真理ことマリリンが手を振る。その横には南田陽子がいて向かいには相変わらず細く小さい日陰今日子とその三倍はありそうな四品川小百合がいる。ソファが早百合の方が埋もれてキョンキョンが浮き上がって見えるのは不思議だ。柔は開いている席に座った。
「遅れてごめんね。部屋に入るまでここで合ってるか不安だったわ」
「こんないかがわしい場所を選ぶなんて。あんた何考えてるのよ」
「煩いな~いいじゃない。ここだと人目気にせず話せるもの。あたしはこれでも女優だからいつ誰が聞き耳立ててるかわからないから怖いのよ」
「心配なのは猪熊さんです」
キョンキョンがそういうと早百合も南田も頷く。
「あたしも心配してよ~」
「で、ここは何なの?」
「ここはあたしの知り合いの知り合いの店なの。今日はあたしのために部屋を貸してくれたのよ。感謝しなさい」
そんなこと言われても明らかに怪しい店でくつろぐことは難しい。特に柔と言う有名人がいるので何かあってからじゃ、取り返しがつかない。
「そんなに怖がらなくても平気よ」
マリリンはウインクしてワインを一口飲んだ。こういう場所にいることが不自然でもなければ、違和感もないのだろう。だが他の四人は居心地悪そうにワイングラスを持ち上げ、小さく乾杯をして口に入れた。
「ところで、今日は何の用事なの?」
南田がそう言うと柔はグラスを置いた。そして耕作が本を出そうとしていることを説明し、そのためにみんなの協力がいることを話した。
「松田さんからはこの前、下書きが届いたの。みんなのところを抜粋してふせんしてあるから読んでほしいの。何か違ってるところとかあれば訂正して欲しいみたい」
一部しかない下書きだが、小百合から今日子、南田と順に読み最後にマリリンの手に渡る。
「え~これだけ~」
「突然大きな声ださないでよ」
相変わらずマリリンに鋭い南田。
「だって~あたしのことほんの数行しかないじゃない。もっと活躍したでしょ」
「あんた! 何をもって活躍したなんて言えるのよ」
「応援もしたし、練習相手にだってなったじゃない。それにカメラを沢山向けさせたわ」
「それはあんたのイヤらしい体にむいただけよ。そもそもこれは柔ちゃんの本なんだから、あたしたちの出番が少ないのなんて当たり前でしょ」
「それでも悔しい~」
「書いてもらえるだけありがたいと思わないといけませんよ」
小さな声で今日子が言う。
「あたしは何でもいいけど。何か食べ物頼んでいい?」
相変わらずの小百合に、場の雰囲気が変わる。小百合はメニュー表を貰って手当たり次第注文する。ここの支払いがマリリンのカードだと知ってもう規制するものはないようだ。
「ところで柔ちゃん。松田さんとはやっぱり付き合ってるの?」
南田の質問は柔も予想していたことなので、ここでは素直に頷く。
「えーやっぱりそうなんだ!」
マリリンがうるさいが、他三人は特に驚くことも無い。
「授与式であんな騒ぎ起こしたのに『知り合い』ですますんだもの。でもまあ、仕方ないわよね。あの時、恋人ですなんて言ったらそれこそ大騒ぎ。松田さんも仕事どころじゃなくなるわね」
「うん……ごめんね。みんなにも言い出せなくて。松田さんにも迷惑がかかるからまだ内緒なの。知ってるのは本当に限られた人だけ」
「猪熊さんは松田さんを守ってるんですね」
「そういんじゃないけど。どうせ離れてるんだし、言う必要もないと思って。日本にいたらすぐに記事にされるから、公表もしただろうけど」
「寂しくないですか?」
「寂しいけど、仕方ないもの。松田さんのお仕事を応援したいし、あたしは柔道を頑張りたいし」
「どっちから告白したの~?」
「え!? それは松田さんの方から……」
「やるわね! もう絶対言わないんだと思ってたわ」
「あたしも~」
「あたしもです」
小百合はピラフを口に流し込みながら無言で頷く。
「どうして?」