「どうして?」
「だって、松田さんはずっと柔ちゃんしか見てなかったのよ。多分、短大に入る前から。あたしたちを見る目と柔ちゃんを見る目は全然違うもの」
「取材対象の域を超えてるように見えることもありましたね。でもどこかで自制しているようにも見えました。取材対象以上にしないようにわざとふるまってるようなこともありましたし」
「そうそう、わざわざ柔ちゃんが怒るようなこと言わなきゃいいのにさ、松田さんって不器用で真っ直ぐだから言っちゃうんだよね」
「優しさが伝わりにくいんですよ。鶴亀トラベルの社長さんに厳しいことを言った時も、松田さんは猪熊さんの金メダルの記事を書きたいと素直なことを言っただけで、それが猪熊さんのことを考えての発言だったのに伝わりませんでしたね」
「風祭さんのせいよ~」
「横やりいれたものね。あたしだってあの時、柔ちゃんの就職を応援してたから嬉しかったけど、今社会に出て思うのはやっぱり鶴亀の社長さんもビジネスだったんだなってこと。あんな場所で会見開けば、柔ちゃんの宣伝効果で会社の評判は上がるのは目に見てるものね。その上、広告塔にでもして柔道を疎かにさせたら松田さんからしたら許せないことよね」
「そうですよ。猪熊さんを見つけたのは松田さんですから」
「でも、あの時本当にあたし傷ついたの。あたしの傍にいてくれるのも、応援してくれるのも自分の記事の為かと思うとあたしって何なんだろうって。松田さんのために柔道やってるわけじゃないし、あたしには柔道しかないのかっなって」
「松田さんはそう言う人よ。記者なのに言葉足らず。だから告白なんてしないと思ってた。松田さんが誰よりも柔ちゃんを神聖視してたから」
「でも猪熊さんは素直すぎて意地っ張りだけど、そういうところを見せるのって滋悟郎おじいちゃんと松田さんくらいじゃないですか? そういう素の部分に触れて松田さんはだんだん猪熊さんを女性として好きになったんだと思いますよ」
「だから離れるきっかけで告白できたのね。松田さんがずっと日本にいたら、きっと二人とも何も言わないままだったかもね」
「そんなことないわ。あたしだって色々行動してたもの」
「例えば?」
「会社に電話したり、アパートに行ったり……」
「アパートに行ったことあるの~?」
マリリンの声が大きくなる。興味津々と言った様子だ。
「へぇ、やっぱり部屋はぐちゃぐちゃ?」
「ええ。よくわかるわね。過去、松田さんの部屋に行くといつも片づけしてから、食事の準備」
「ごはんは何作ったの?」
「えっと、ビーフストロガノフとかラビオリとか、みそ汁とごはんかな」
「食器はどうだったの?」
「普通の白い食器よ」
「そうじゃなくて枚数よ」
「二組ずつあったわ」
マリリンと南田は目を合せる。
「どうしたの?」
「いつも部屋は汚かったの?」
「ええ、足の踏み場もないほど」
「じゃあ、柔ちゃんと出会う前か」
「え? 何が?」
「彼女がいたのがよ。じゃなきゃ、一人暮らしの男の部屋に食器が二つずつあるわけないじゃない」
そんなこと想像もしてなかった。食器がいくつもあることなんて当たり前だと思ってた。
「だって~私たちよりも5歳くらいは年上じゃない。過去に色々あっても不思議じゃないじゃない」
「でも、その様子からすると柔ちゃんと出会ってからは特定の彼女はいないってことね」
「特定のって……?」
「遊びの女ぐらいいたでしょ。じゃなきゃ、どうするのよ」
「松田さんに限ってそんな……」
「男なんてみんなそんなものよ。風祭さんがいい例」
「邦子さんも前にそんなこといってたけど……みんなは何かあったの?」
「あたしのことはイヤらしい目で見たわよ」
「それは男なら全員そうよ。でも、そうか何もないからいけないのか……」
柔は首をかしげる。