マリリンが部屋を出ていくと、南田が口を開く。
「マリリンってさ、あのビデオの出演も天職だって思ってるみたい。あたしたちとは感覚が違うけど、それも仕方ないわ。でもね柔道を大切に思ってるのは本当で、どんなことがあってもマリリンはあのビデオに柔道を利用しないのよ」
「どういうこと?」
アダルトなビデオのことは知っているが実際にどういうことがされているのか柔はよく知らない。柔道を利用するとかしないとかってあるのだろうか。
「柔ちゃんの友達だし、柔道経験者だから絶対に企画の中で柔道がでるはずよね。例えば道場で道着を着たままはじめちゃうみたいな。でも、そう言う内容のビデオってないのよ」
「チェックしてるんですか?」
「違うわよ。マリリンが言ってたの。多分、ちょっと酔ってたのよね。送り届けてるタクシーの中で『ビデオに柔道は使わない』って言ってたの。なんでか聞いたら『あの場所は神聖だから』だって。あの子にとってもいい思い出なのよ」
「そうなんだ……」
みんなの中で短大時代の柔道の思い出が、輝いていることを柔はとても誇りに思う。自分は柔道をやっていたことを高校も短大でも隠そうとするほど嫌っていたのに。
「あー柔ちゃんが泣いてる! 誰が泣かしたの?」
戻ってきたマリリンが大きな声で言うと、一斉に柔の方を向いた。
「ごめんね、なんか嬉しくて。みんなが柔道を好きでいてくれてよかったなって思ったの。あたし柔道を通じた友達ってみんなが初めてで、何年か経ってやらなきゃよかったなんて思ってたら悪いなって思ったから」
「もう、バカね。そんなこと思うわけないじゃない」
「そうですよ。感謝してるくらいです」
「あたしも。あの時が人生で一番痩せてた」
「柔ちゃんは真面目に考え過ぎよ~。もっと楽しく生きなきゃ損よ」
「あんたはもっと真面目に考えなさい」
こういうやり取りさえも愛おしい。都内に住んでいながら会えるのは年に一度くらい。今回は富士子もいなくて寂しいが、やっぱり集まれば楽しい。またみんなでおしゃべりできたらいいなと柔は笑う。
「あ、柔ちゃん笑ってるわ」
「あたしのお陰よ~」
柔たち5人は時間も時間なので、店を出ることにした。怪しげな店内を歩いて外に出ると、夜風が少しだけ冷たい。もう秋は目の前だ。
「お会計は本当にマリリンに頼んでもいいの?」
柔は心配そうに聞く。怪しげな店で個室の貸切は結構高くなりそうなのだが、それが申し訳ない。
「いいのよ~あたしのお金じゃないもの。気にしないで~」
屈託なく笑うマリリン。甘えても大丈夫な様子なので御馳走になる。とりあえず駅に向かうかタクシーに乗るかを話しながら歩き出すと、正面から長身の男性が歩いてきた。道路を塞ぐように歩いていた5人を今日子が避けて歩くようにいい、すれ違いざまに声が聞こえた。
「猪熊さん?」