vol.1 武蔵山高校のお友達
柔は今とても好調だった。仕事も柔道も、英会話も友人関係も上手くいっている。唯一不満を上げるなら恋人の耕作と会えないことで、それが精神面に最大に影響を及ぼす。しかし11月に入った今、去年と同様にクリスマスに会いに行くつもりでいることを耕作に伝えると、とても喜んでくれたことでもう少しだけ精神的安定を延長出来た。
「柔、電話よ」
日曜日の午後。部屋でファッション雑誌を読んできた柔は、階下から聞こえる玉緒の声に「はーい」と返事をして階段を下りた。
「誰から?」
「多分、高校のお友達の清水さんじゃないかしら?」
「清水? 何だろう? ありがとうお母さん」
受話器を受け取る柔。清水とは高校の同級生で細身で長い黒髪が印象的な柔の友達だ。高校を卒業してからも何度か会ってはいたが、短大で富士子と出会い柔道部を始めてからは何かと忙しく、会うことはなくなった。年賀状だけは毎年送っていたが、特別連絡を取ることはなかった。喧嘩したとかそう言うことではないが、会う努力をしないと人ってなかなか会えないものなのだ。
「もしもし、清水? 久しぶり。どうしたの?」
「あ、柔。久しぶり。突然、ごめんね。あのね、ちょっと相談があって」
「何?」
柔はこの時、ジョディの言葉が頭をよぎった。
『利用しようとする人、大勢やってくる。利用されてお金を取られることもある。信用してた人も裏切る』
でも柔はそんなことはないと振り払い、清水の話に耳を傾ける。
「あのね、かおりのこと覚えてるわよね?」
かおりとは柔とよく一緒にいた、大柄な体格の友達だ。ひったくり犯を巴投げした記事が出て、学校で大騒ぎになった時もかおりは体を張って柔をかばってくれた。優しくて姉御肌で柔にとっては頼もしい友達だった。
「もちろんよ。ここ数年は会ってないけど、年賀状のやり取りはしてるわよ」
「そのかおりの様子が最近おかしいらしいの」
「様子がおかしい? どういうこと?」
「あたしもね最近は会ってなくてね、状況はよくわからないの。和美から聞いた話だし。それでね、柔も交えてかおりの今を話したいって思ってるの。柔は忙しいだろうから無理かもしれないけど、かおりと一番仲良かったのは柔だからかおりのこと一緒に考えて欲しいんだけどどうかしら?」
「今はそんなに忙しくないから構わないけど……そんなにかおりに変化があったの? 心配するような何かが?」
「和美が言うにはそうらしいわ。でも電話で話すような内容じゃなくて、会って話したいっていうの」
和美は大きな眼鏡をかけたショートヘアーの友達だ。彼女とも年賀状のやり取りをしている程度で、ここ数年は会うことはない。
「わかったわ。いつ、どこに行ったらいいの?」
「うん、それがね……」