柔は大きくため息をつく。こんな危ないことを計画して、3人もいて誰も事前に止めないなんて恐ろしい。思い込みは確認を怠るのだ。
「僕だってバカじゃない。誰かが仕組んだかもしれないこの状況の中、相手の思うつぼになると思いますか? 誰が見てるかもわからないのに。あなた方のように、乗り込んでくるかもわからないのに。いくら目の前に柔さんがいても、僕は理性ある大人ですよ」
「そう思ったわ。でも、このホテルなら警戒も緩むと思ったの」
「なおさら警戒しますよ。ここを知ってる人は限られた人だ。僕を調べて突き止めたか、一緒に来たことがあるか。そのどちらも警戒すべき人物となります」
「でも、柔に投げられたのはどうして? 変なことしようとしたんでしょ」
「ええ。それで柔さんが逃げ帰ってくれればいいと思ったんです。しかし、3人とも。僕が類まれなる紳士だったこと、柔さんが柔道の達人だということで危険な事態は免れましたが、一歩間違えばとんでもないことになりかねないですよ」
「はい……」
3人は風祭の言葉にしゅんとしている。本当に浅はかで危険な行為だ。
「で、でも、みんなあたしのことを心配してくれたんでしょ。それは、うれしいわ。やり方には賛成できないけど」
「ごめん、柔」
「ごめんね」
「ごめんなさい」
かおり、清水、和美の順であらためてかぶりを下げる。すると、風祭は立ち上がりジャケットを羽織って鞄を持った。
「そろそろ僕は帰るよ。ここにいても邪魔になりそうだし」
「あの、風祭さん。お気持ちは嬉しかったです。それから、バルセロナでのことは本当にすみませんでした。お返事もしないままは、失礼でした」
「こちらこそ、お気を悪くなさらないでください。バルセロナの件にしても、僕の方があまりに急で自分勝手でしたから、気になさらないでください」
柔はそう言われて、肩の荷が下りた。気にしてなかったわけじゃないのだ。ただ、話を蒸し返すのも気まずいし、電話で話す内容でもない。会わないでいたのをいいことに何も言わないでいたのが、心に引っかかってた。
部屋からドアまでの短い廊下で、風祭とかおりは対峙していた。
「信じられないよ。君があのかおりだなんて」
「別にどうでもいいじゃない。あたしは進ちゃんと少しの間でも付き合えて幸せだった。女癖悪いけど優しいもの。でも、あたしが一番じゃないことくらい直ぐ分ったわ。だから気を付けなさいよ」
「何を?」
「奥さんにもばれてるかもしれないわよ」
「な、何を言ってるんだい。そんなことあるわけ……」
「女の勘は思ってる以上に鋭いわよ。それから、あたしに呼び出されてノコノコここに来て、未練でもあるのかしら?」
「そりゃ、君ほどの女はそうはいない。番号は変わってないかい?」
「どうかしら?」
「そう。また電話するよ」
かおりは出ていく風祭を手で払うような仕草で見送ると、ドアを閉めた。部屋に戻ると3人とも無言で座っていた。