「どうしたの? 空気重いけど」
「一番とんでもないこと打ち明けたあんたがどうして気楽な顔してるのよ」
清水が言うと、柔も和美も頷いた。
「未だに信じられないんだけど。かおり、変わり過ぎ」
「変えたかったんだもの。いいじゃない……で、柔どうしたの?」
「あたし、みんなに謝らないといけなくて」
「何を?」
「柔道のこと」
柔はどうして柔道のことを話さないでいたのか、卒業後積極的に連絡を取ってなかったのかを説明した。その間、3人は真剣に柔と向き合っていた。
「あたしにとって、高校生のあの時間は、普通の女の子としてすごせた掛け替えのない時間だった。今は柔道をやっていることを恥ずかしいとは思わないし、嫌でもないけど当時は本当に嫌で出来る事なら試合にも出たくなかった。でも、様々な要因が重なってあたしは柔道界に居続けてその中で大切なものも沢山得たわ」
耕作やさやか、風祭との出会いも、富士子と共に柔道した日々も。ジョディとの試合は本当に楽しかったし、かけがえのない友情を育んだ。
「でもね、やっぱり思い出すの。みんなと一緒にショッピングに行ったり、学校の帰りにアイスを食べたりしたあの日々を。アイドルの話や恋の話をして楽しかった。汗臭い柔道のことなんか微塵もなくて、理想通りの女子高生だった」
「柔……」
「今は柔道も好きだし楽しいって思ってる。だから何も後悔はしてないの。ただ、みんなのことは心に引っかかってたから、今回こんな形でも会えて話せたのは嬉しいわ」
「ないしょにされてたのは少し寂しかったけど、柔らしいって思ったわ。おしゃれ大好きでミーハーだったものね」
「そうそう錦森先輩にぞっこんだったわよね」
「あれは、そういう時期だったのよ」
その時、部屋にチャイムの音が鳴り和美が出ていくと、ホテルのスタッフがテーブルとイスがセッティングされその上に料理とお酒が並べられた。
「あの、頼んでないですけど……」
和美が遠慮がちにそう言うと、その場を仕切っていた男性から、
「風祭さまからの贈り物です。どうぞ、ごゆっくりおくつろぎください」
そう言われ四人は途端に笑顔になる。全ての料理が運ばれて来て、スタッフが出ていくとさっきの男性が柔の方を向いた。
「猪熊さま。お帰りの際はフロントまでお越しください。お手紙をお預かりしています」
差出人は風祭だろう。何か言い忘れたことでもあるのだろうか。でも、柔は目の前にいる友人と美味しそうな料理で胸がときめいてさほど気にもしていなかった。
「ねえ、今みんなは何をしてるの?」
柔のその声に高校生に戻ったように、女4人は話す口も食べる口も止まらず楽しい時間を過ごした。何もかもが上手くいっている。
そう、思っていた。