「柔さん、どうかした? 元気がないようだけど」
耕作は気づいていた。声の様子から柔が普段と違うことを。
「そんなことありませんよ。だってこの前も久しぶりに高校の同級生と会ってとても楽しい時間を過ごしたんですから」
「同級生って、あの三人?」
「覚えてたんですか。かおりと清水と和美です。三人ともすっかり変わってて、かおりはダイエットして痩せてとても綺麗になってて今、ファッションデザイナーの勉強をしてるんですよ。それから清水は美容部員として化粧品会社に入社したけどメイクのプロになりたいって勉強しているみたいで。それから和美は英会話教室の事務員をしててアメリカ人の恋人がいるんですって」
「そっか。柔さんの中にあったわだかまりみたいなものは解消した?」
去年、柔が耕作に話したことを覚えていたのだ。
「ええ、素直に話しました。お互いに誤解もあったけど、帰る頃には昔と変わらない関係に戻っていました」
「それはよかった。元気がないのは俺の思い過ごしか」
「そうですよ。ところで、クリスマスは本当にNYに行ってもいいんですか?」
「もちろんさ。何でそんなこと聞くの?」
「いえ、お仕事が忙しそうなんでお邪魔じゃないかと思って」
「そんなことはないよ。急な仕事が入らなきゃ去年と変わらないんだし」
「それならよかった。あたし、とても楽しみにしてるんです」
「俺もだよ。あ、そうそう原稿は滋悟郎さんにも見せてね」
「あ、はい。でも、おじいちゃんに見せたら色々うるさいですよ」
「まあ、内容が違うって言うなら書き換えもするけど出番が少ないとかは却下だけどな」
「そうですね。あ、おじいちゃんが何かうるさいんで、そろそろ切りますね。それじゃあ、また」
「うん、また電話する」
柔は受話器を置くと、ふーっと息をはく。本当は聞きたいことがあった。でもそれを聞くと自分の中にある様々な感情があふれ出てきそうで怖かった。電話越しで喧嘩したら、直ぐに会いに行ける距離じゃない分すれ違って心が離れてしまうかもしれない。我慢することは良くないけど、まだ聞くタイミングじゃない。
柔は思い出す。かおり達と会ったホテルで帰りにフロントから受け取った手紙。相手はもちろん風祭で、文面は簡単なものだった。
『NYで見たものは真実ですよ。柔さんには関係のないことだと思いますが』
風祭がNYで見たものとは、耕作が赤髪の女と一緒に歩いていたと言うこと。柔はそれを聞いたときはさすがに頭に血が上りそうだったが、その人が耕作とどんな関係かもわからないし、その後の展開で風祭の嘘だと勝手に思っていた。でも、念を押すように言われると気になってしまう。本人に聞くのが一番早いのだが、柔はその勇気がいつもでない。こんな時に富士子がいてくれたら、きっと背中を押してくれたのに。
「おい、柔!」
「何よ」
「玉緒さんの様子が変じゃ」