玉緒が倒れたと聞いた虎滋郎はクリスマスごろの帰国を繰り上げ、12月の半ばには家にいたが柔からすると世話をする人が増えただけだった。退院した玉緒は寝てばかりいたら余計に悪くなると、色々やろうとするが滋悟郎と虎滋郎に止められて、でも二人が出来る事など限られているので結局柔がすることになる。
虎滋郎が出来るのは風呂掃除。滋悟郎が出来るのは庭掃除くらいだ。皿洗いぐらいしてくれたら楽なのだが、それはしないようで玉緒も手伝いつつ柔がやっている。家事は好きだから特別苦ではないが、疲れているときはさすがに手伝って欲しいと思うこともある。
クリスマスごろになると玉緒も本調子に戻って来てたので、一緒にささやかなパーティの準備をした。
「ごめんね、柔。本当なら松田さんのところに行く予定だったのでしょう」
「いいのよ。この家に、お母さんだけにしていけないもの。おじいちゃんもお父さんも何もできないし、結局お母さんが全部やることになるじゃない」
「でも、数日位ならよかったのよ。柔だって休みたいでしょう」
「いいの、あたしは。それにこうやって家族でクリスマスを過ごすのだって何年振りかしら。結構、楽しみにしてるのよ」
「それならいいけど」
笑顔の柔に玉緒は申し訳なさそうに表情を曇らせた。ずっと多くのことを我慢させてた娘が、大好きな人が出来て想いが通じ合った途端、離れ離れになってしまった。なんて運命のいたずらだろう。それでも健気に耕作を思う姿を見ていると、切なくなる。
玉緒自身も結婚生活の多くは夫とは一緒じゃなかった。今も離れている。離れて暮らすことの寂しさは玉緒自身が一番わかってる。
でも、今、柔と耕作が離れているのは二人が納得の上だ。口出しは出来ないが、応援は出来る。何とか出来る事なら何とかしてやりたいと思う。
「あー! おじいちゃんもお父さんももうはじめちゃってる。しかも、クリスマスに日本酒なんて……」
「何を言うか。酒と言えば日本酒ぢゃ」
「もー台無しだわ」
折角、用意したチキンもローストビーフもワインに合うものをと思ってたのに、勝手に開けてはじめちゃう。
「じゃあ、こちらも召し上がってください」
玉緒が出したのはほうれん草の白和え。わさびの風味も加えた定番の逸品だ。
「相変わらずうまいのう。玉緒さんの白和えは」
「そう言ってくれると作り甲斐がありますよ」
「んまい!」
虎滋郎もそう言って箸を進めた。だが虎滋郎は柔の料理も同じように、うまいと言って食べていく。その様子を見て、柔も嬉しくなる。
台所に戻ってお盆に料理を乗せる柔と玉緒。
「白和えなんていつ作ったの?」
「お昼にね。ちょっとこういうのがあるといいかと思ったの。洋風のおつまみやおかずだとおじいちゃんは口に合わないかもしれないし」
「そんなことないわよ。なんでも食べるのがおじいちゃんよ」
「そうねぇ。でも好みはあるじゃない。二人とも和食が好きだから、ちょっとあると落ち着くのよ」
「そんなものかしら。クリスマスなんだから気分を味わえばいいのに」
「柔も和食の勉強はしておいて損はないわ。男の人はなんだかんだでご飯に合うおかずが好きなのよ」
思い起こせば耕作も、豪快に食べる人で柔が作った物を美味しいと言って食べてくれる。でも、好みを聞いたことはなかった。日本にいた時は耕作の好きなものを作ってあげようとか、考えたことも無かったのだ。
「あたしって本当に何も知らないんだわ」
またちょっと落ち込んだ柔だが、居間から滋悟郎が呼ぶ声で戻るとこたつにご馳走があって、家族がそろっているこの状況が愛おしくて笑顔に戻る。
家族で過ごすクリスマスは、子供の頃とは違うけど子供に返ったみたいに楽しくて最後に食べたケーキも甘く優しく感じられた。