vol.1 嬉しい訪問者
一年が経つのは本当に早い。去年も慌ただしく過ぎ去り、変化の多い一年だったと膨らむ餅を見ながら思っていた。
12月から手伝いに行っている「真田屋」もさすがにお正月の三が日はお休みと言うことで、柔は家にいるが正月は正月でやることがある。特に年初めの柔道の稽古は滋悟郎の肝いりで特に厳しいものになる。それの上、柔道に関しては虎滋郎の方が厳しいくらいで柔は朝からへとへとだった。
おせちとお雑煮を食べてしばらくすると、郵便配達の音がしてポストに年賀状が投函された。柔が取りに行ってあまりの量の多さに他の家のが混ざってるのではと思うが、ほぼ滋悟郎宛てなので柔は素知らぬ顔ですべてを一旦滋悟郎に預ける。
「ほれ、おまえのぢゃ」
差し出された年賀状は毎年少しずつ増えている。知り合いが増えているからなのだが、住所を教えるほどの知り合いが増えたかどうかは疑問だが、誰から聞いたのか年賀状は届く。
高校の三人組、三葉女子短大のみんな、富士子、藤堂、羽衣などと混じって風祭からも来ていた。もちろん名字は本阿弥となっていた。後は、柔道、仕事関係の人だったが一枚不可解な年賀状が混じっていた。
住所は途中までしかないが、近所に「猪熊」は柔の家だけなので届いたのだろう。表面には送り主の住所や名前はなく、裏面を見るとごく普通の年賀のあいさつがあり端の方に「N」と書かれていた。柔に直ぐに思った。これは「西野」の「N」ではないか。でも、なぜ住所を知っているのか。なぜ年賀状を送って来たのか。
誰かが単純に名前を書き忘れたという可能性も否定できない。不安を覚えたが内容はごく普通の年賀状だ。大騒ぎするほどのことではないと、束の中に混ぜた。
午前中に家族で初詣に行き、昼には家でゆっくりしていると嬉しい訪問者があった。
「あけましておめでとうございます」
富士子の通る声がして柔は二階から早足で降りてくる。
「富士子さん!」
玄関にいたのは富士子と夫の薫、娘の富薫子だ。去年の7月に静岡に引っ越して以来の再会となる。富薫子は2歳となりさすが背の高い富士子、体の大きな花園の子であるとでも言うように大きな女の子になっている。歩く足もしっかりとして2歳児には見えない。
居間へ行くと滋悟郎と虎滋郎が将棋を指していた。富士子らは挨拶をしたが、勝負に真剣になり過ぎて耳に入ってないようだった。するとそこに富薫子が割って入り、将棋の駒をぐちゃぐちゃにかき回した。
「おーフクちゃんぢゃないか。また大きくなって」
「だー」
負けていた滋悟郎は勝負がつかなくなったことに喜んだが、虎滋郎は唖然としている。子供のしたことだから仕方ないが、負けていたはずの滋悟郎の勝ち誇った顔が釈然としない。
「おじいちゃん、お父さん。富士子さんたちがあいさつに来て来れたんだからしっかりしてよ」
「おーすまんの」
「すまない」
「気にしないでください。勝手に押しかけたんですもの。ところでそちらにいるのは……」
「あ、富士子さんたちは初めて会うよね。お父さんです」
柔は気恥ずかしそうに虎滋郎を紹介した。無表情で威圧感のある虎滋郎に圧倒される花園だが、富士子はそんなこともなかった。
「その節はありがとうございました」
「どういうことぢゃ?」
「昔、短大時代に一人で稽古をしていた時に指導してもらったんです」
「そういえば、言ってたわね。柿の種のおじさんって」
「覚えていたのか……」
「もちろんですよ。あれからあたし、上手になったんですもの」
「調子に乗りおって!」
「君にはセンスがあった。それだけのことだ。さあ、俺はちょっと道場に行ってくる」
虎滋郎が部屋を出ていくと玉緒がお茶を運んできた。
「富士子さんのお茶には遠く及びませんが、どうぞ」
「そんなことありませんよ。ところでお体の調子は?」
「心配かけてごめんなさいね。もうすっかり元通りよ」
その言葉に柔はあきれる。
「そんなこと言って。まだ休んでていいのに」
「何もしないほうが、体に悪いのよ」
柔は富士子とこの数か月のことを話した。滋悟郎たちがいるので耕作のことを深く聞けないことにもどかしさを感じていたが、久し振りにみる柔は楽しそうに見えた。
高校の同級生の話になると、花園が話しに入ってきた。
「あの3人か。仲良かったよな」
「うん、でも短大にいって会わなくなったからどうしてるかなってずっと思ってたんだ」
「あ! そう言えば去年の初詣で見かけたのって清水だったのか」
「そうみたいね。あたしは全然気づかなかったけど」
「俺もなんか見たことある人がいるなとは思ってたが、誰かまでは分からなかったな」
「女の子は変わるからね。その点、花園くんはあまり変わらないね」
「そうかー?」
「あ、そうだ。見て欲しい物があるの」