元人間の神使の日常   作:片倉政実

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政実「どうも、お賽銭はいつも5円や10円を入れる片倉政実です」
貴使「どうも、神山貴使です。5円だけにご縁がありますようにみたいにお賽銭に意味を持たせる感じだな」
政実「そんなところだね。まあ、そうしたからといって願いが叶うわけじゃないけど、これからもそうしていくつもりだよ」
貴使「そっか。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・貴使「それでは、第5話をどうぞ」


第5話 再会と初依頼

 突然現れた凛姉さんの姿に俺が困惑していると、凛姉さんはそのサラサラとした黒いロングヘアを風でなびかせながらゆっくりと俺に近付いてきた。

「亡くなったはずのタカ君が、どうしてここにいるのかは分からないけど……とりあえずまた会えて良かったよ、タカ君」

「……え、えーと……誰かと間違っていませんか? 私の名前は冬狼(とうろう)といいますし、最近になってからこの辺りに住み始めま──」

「突然ですが、ここで問題です。神道とは、一般的にどのような物を指す?」

「……神道とは日本に古くから伝わる宗教の一つで、その原点は古来の民間信仰や儀礼の複合体であり、八百万(やおよろず)の神と言葉があるように動物や植物などの生命を持つモノから水や火などの自然的な物にまで神や神聖なモノを認める精霊信仰(アニミズム)的な宗教、ですが……?」

「うんうん……それじゃあ次の問題、この神薙神社にはどのような祭神がおり、どのような御利益があるでしょう?」

「神薙神社の祭神は、豊穣と武芸を司る神様である天乃実豊尊(あめのみとよのみこと)様で、その御利益は五穀豊穣や学業成就などで、恋愛も司っている事から縁結びの神様としても知られている……でどうでしょう?」

「うんうん、またまた大正解。それじゃあ最後の問題、私とタカ君が次に会った時にすると言った約束はなんでしょう?」

「え、それは凛姉さんの方から神道と神薙神社についての問題を──」

 その瞬間、俺はしまったと思いながら急いで口を噤んだが、凛姉さんは口許に手を当てながらクスクスと笑った。

「やっぱり、君はタカ君なんだね。その約束を知っていて、私の事をそう呼ぶのはタカ君だけだから」

「え、いや……」

「タカ君、安心して? 私は別に伯母さん達にこの事を言うつもりは無いから。まあ、お葬式の時に伯母さん達がスゴく悲しそうだったから、伝えてあげたらすぐにでも来てくれるとは思うけど、タカ君はそれを望んではいないでしょ?」

「……まあ、それは……」

「ふふ……そうだと思った。タカ君達、元々は仲が悪くはなかったのに、この神薙神社の事になると、スゴく仲が悪くなってたからね」

「……それは仕方ないよ、凛姉さん。俺や友二郎祖父ちゃんはこの神薙神社の事や手伝いをするのが好きだけど、母さんや父さんにとってはあくまでも他所の事だし、神様や妖怪についてはまったく興味が無いんだからさ」

「……そうだったね」

 その時の事を思い出したのか凛姉さんはクスリと笑いながら答えると、少し不思議そうにしながらその色白で端正な顔をゆっくりと俺に近付けてきた。

「それで、タカ君はどうしてここにいるの? 亡くなったのは間違いないんだよね?」

「……うん、賽銭泥棒をしようとした指名手配犯をどうにかしようとしたら、そこの木のところで雷に打たれてそのまま。けど、今は天乃実豊尊様の神使として新たな命を貰ったから、こうして生きている感じだよ。もっとも、すぐには信じられないと思うけど……」

「まあ、たしかに普通なら信じられないと思うけど、私は信じるよ。だって、タカ君はこの神社の事がとても好きだったし、風邪を引いたり修学旅行なんかで来られなかったりした日以外は毎日掃除や手伝いをしに来ていたって聞くから、それくらいの事が起きてもおかしくは無いから」

「凛姉さん……ありがとう」

「どういたしまして」

 俺の言葉に対して凛姉さんがニコリと笑いながら答えていたその時、神社の階段を上ってくる複数の足音が聞こえ、俺達がそちらへ視線を向けると、そこには話をしながら境内を歩いてくる道雄さんや詩織の姿があった。

「ん……あれは道雄さん達か」

「そうみたいだね。そういえば、道雄さんや詩織ちゃんにはもうこの事は伝えてあるの?」

「うん、昨日の内に全て伝えたよ。」

「ふふ、そっか。タカ君が無くなった翌日、詩織ちゃんと電話で話した時にスゴく悲しそうな声だったから、かなり心配してたんだ。でも、もう心配はいらないみたいだね」

「うん」

 楽しそうに話をしながら歩いてくる詩織達を見ながら安心したように言う凛姉さんの言葉に返事をしていたその時、詩織はふと俺達に視線を向けると、とても驚いた様子を見せ、早足で俺達へと近づいてきた。

 あはは……まあ、詩織がそんな風になるのも仕方ないよな。

 そんな事を思った後、俺達の目の前で足を止めた詩織にニッと笑いながら話し掛けた。

「詩織、おはよう。今日も良い天気だな」

「うん、おはよう。おはようなのは良いんだけどさ……どうして凛さんがここにいるの?」

「……あ、そういえばまだ聞いてなかったな」

「聞いてなかったって……貴使、なんですぐにそれを疑問に思わなかったの?」

 ジトッとした視線を向けながら聞いてくる詩織に対して、俺は頭をポリポリと掻きながら答えた。

「いや……いきなり来たのに驚いたのもあったけど、どうにか誤魔化す事の方が大事だったからさ。ほら、俺って一応死んでるわけだし、神使として目覚めた事は基本的に隠した方が良いだろ? そうじゃないと、色々騒ぎにもなるし」

「……まあ、それはそうだね。それで、凛さんにはもうその事は伝えたんだよね?」

「伝えたし、何も疑わずに信じてくれたよ」

「……そっか。良かったね、貴使」

「……ああ」

 ニコリと笑いながら言う詩織の言葉にクスリと笑いながら答えていると、凛姉さんはニコニコと笑いながら詩織に話し掛けた。

「詩織ちゃん、久しぶり──と言っても、つい最近電話で話したから、あまり久しぶりって感じはしないかな」

「そうですね。あの……この前は、慰めてもらったり話を聞いてもらったりして本当にありがとうございました」

「ふふ、どういたしまして。また何かあったら、遠慮無く電話を掛けてきて良いからね」

「はい、ありがとうございます」

 詩織と凛姉さんがまるで姉妹のように仲睦まじい様子で話をしていると、ようやく道雄さんと一緒に追いついた祝玖がこそっと俺に話し掛けてきた。

「……なあ、貴使。この人って誰なんだ? なんだか詩織と仲が良いみたいだけど……」

「……ああ、そういえば祝玖は会った事無かったな。この人は俺の一歳年上の従姉妹の神山凛。家は関西の方にあるんだけど、昔からウチによく遊びに来てて、その時に俺と一緒に友二郎祖父ちゃんにこの神薙神社に連れてきてもらう事が何回かあって、道雄さんや詩織とも仲良くなった感じだな。ですよね、道雄さん」

「そうだね。最初はまた自分の趣味に親族を付き合わせてると思っていたけど、凛ちゃん自身もこの神薙神社を好きになってくれたみたいだったから、今では友二郎には感謝してるよ」

「なるほど……」

 俺と道雄さんの説明に納得顔で頷いた後、祝玖はスッと凛姉さんに近づき、凛姉さんと自己紹介をし合った。そしてそれが終わり、道雄さんと凛姉さんが挨拶し終わった後、詩織は「あ、そうだ」と何かを思い出したように声を上げると、ニコニコと笑いながら俺に話し掛けてきた。

「貴使、実はね……私、またここの巫女さんになるための勉強と神社の掃除を始める事にしたの」

「ん、そうなのか?」

「うん、それに……祝玖もここの職員になるための勉強を始めてくれる事にしたんだよね?」

「ああ。昨日の夜、これからは俺と詩織、そして神使であるお前が一緒になってこの神薙神社を盛り上げていけば良いなって思ってさ。そのためには、ここの職員になるのが一番だと思って、そうする事に決めたんだ」

「そっか……」

「だから、その第一歩として俺も神社の掃除を手伝う事にしたよ。何回も神薙神社には来てるし、貴使や詩織から話は聞いてるけど、ここの事を更に知りたいし、そういう所から始めていくのが大切だと感じたしな」

「そうかそうか……それなら、これからはビシバシと鍛えてやるからな、祝玖」

「お、おう……」

 少し怯んだ表情を浮かべる祝玖を見ながらクスリと笑った後、俺は皆にも伝えないといけないある事を思い出し、それを話すために真剣な表情を浮かべた。

「それで、皆。ちょっと話さないといけない事があるんだけど、良いかな?」

「あ、うん」

「もちろん、良いぜ」

「私も問題ないよ、貴使君」

「えっと……私も聞いていて良い話なのかな、貴使君?」

「うん、別に構わないよ。それで、その話っていうのが……」

 そして俺は、昨晩天乃実豊尊様から聞いた話を皆に話した。すると、皆はとても驚いた様子を見せた。

「まさか……天乃実豊尊様にそんな危機が訪れていたとは……」

「つまり、その信仰集めっていうのを頑張らないと、天乃実豊尊様が神薙神社の祭神じゃなくなっちゃうんだよね……?」

「そういう事。だから、友二郎祖父ちゃんも色々頑張っていたみたいだけど、その危機が去っていないところをみるにやっぱり難しい問題ではあるみたいだ」

「そっか……けど、要するに誰かの願いを叶えて、参拝客を増やしていけば、信仰は集まるって事だよな?」

「恐らくな。だから、日常生活の中でそういう人がいたら、無理に連れて来なくても良いから、ここに来るようにさりげなく誘導してくれると助かる。そうすれば、俺や先輩神使の皆さんでその願い事を叶えられるかもしれないからさ。まあ、凛姉さんに関しては本当に難しいかもしれないけど……」

「ふふ、大丈夫だよ、タカ君。こっちにも友達は何人もいるし、たまに連絡を取ったり一緒に遊んだりもしてるから、私も協力はできるよ」

「……そっか。それなら、その時はお願いするよ」

「うん。あ……そうだ」

「ん……凛姉さん、どうかした?」

「ふふ、それなら私が初めての依頼人になろうかなと思ってね」

「え、何か悩みでもあるの?」

「うーん……悩みというかは、ちょっとした探し物かな?」

「探し物……?」

「うん、そう。だから、それを探して欲しいんだけど……出来るなら明日──日曜日の夜までに探して欲しいんだ」

「明日まで……結構急だね」

「ふふ、まあね。とりあえず、明日まではタカ君のお家にお母さん達と一緒にお世話になってるし、明日の夜になったらまたここに来るから、見つけられたらその時に渡してね」

「あ、うん……それで、その探し物ってどんな物なのさ?」

「それはね……内緒。でも、タカ君なら分かると思うよ」

「俺なら分かると思うって……」

 凛姉さんの言葉に俺が困惑していると、凛姉さんはクスリと笑ってから神社の階段の方へクルリと体を向けた。

「それじゃあ、私はそろそろ行くよ。貴使君、探し物の件はお願いね」

「う、うん……」

 そして凛姉さんは、そのまま静かに去っていき、その場には俺達だけが残された。

「凛さんの探し物……一体何なんだろうね?」

「さあな。貴使、何か覚えはないのか?」

「そうだな……」

 祝玖から問い掛けられ、俺は凛姉さんが大切にしていて、且つ俺に関係有りそうな物を次々と思い浮かべたが、それらしい物がまったく思いつかず、俺はただ頭を振った。

「……ダメだ、まったく思いつかないよ」

「そうか……でも、凛さんはお前なら分かると思うって言ってたわけだし、まずは考えてみて、それでもわからなかったら、凛さんにヒントを貰ってみれば良いんじゃないのか?」

「……ああ、そうだな」

 祝玖の言葉にニコリと笑いながら答えたが、その判断に俺は少しだけモヤモヤした物を感じていた。たしかにヒントを貰ってはいけないとは言っていなかったが、凛姉さんは本当に俺なら分かると思って、今回の依頼をしたんじゃないかと心の底で思っていた。

 ……だとしたら、ヒントを貰うのは凛姉さんの期待を裏切る事になるわけだし、やっぱりノーヒントでこの依頼をこなすのが一番だよな。でも、どうやってその物を当てれば──。

 凛姉さんの言う物を当てる方法について考えていたその時、突然たったったと走ってくる足音が聞こえ、俺達はそちらに視線を向けた。すると、賽銭箱の前に先輩神使の秋兎(あきうさ)さんが立っており、その姿に詩織達は不思議そうな表情を浮かべた。

「ねえ、貴使。もしかしてこの人が貴使の先輩神使さん?」

「ああ、そうだけど……秋兎さん、どうかしたんですか?」

「あ、あの……! 私にもその依頼を手伝わせて頂けませんか!?」

「えっと、それは助かりますけど……もしかして『聴力強化』で聞いていたんですか?」

「は、はい……貴使君があまり見ない人と仲良くお話をしていたのを見掛けて、どんなお話をしているのか気になったので……。本当にすみませんでした……」

「いえ、それは構いませんよ。別に聞かれて困る事は話してなかったので」

 申し訳なさそうな様子の秋兎さんに対してニコリと笑いながら言うと、秋兎さんはホッとした様子で小さく息をついた。

「……ありがとうございます、貴使君。私、貴使君が依頼を完遂出来るように精いっぱい頑張りますね!」

「はい、よろしくお願いします、秋兎さん」

「はい!」

 とても嬉しそうに秋兎さんが返事をし、早速凛姉さんの探し物について再び考え始めようとしたその時、俺の肩がポンと叩かれ、俺がそちらに視線を向けると、祝玖が笑みを浮かべているのが目に入ってきた。

「祝玖?」

「貴使、俺も手伝うぜ。昨日だって、お前の事をサポートするって約束したしな」

「もちろん、私も手伝うよ、貴使!」

「私に出来る事があるかは分からないが、何か手伝えそうな事があったら、遠慮無く言ってくれよ、貴使君」

「皆……うん、ありがとう。でも、まずは……」

「まずは?」

「神薙神社の掃除をしないとな」

 そう言った瞬間、詩織達はポカーンと口を開け、道雄さんはとても愉快そうに笑い始めた。

「あはははっ! たしかにそうだな、元々神薙神社の掃除をしに来たわけだし、まずは天乃実豊尊様に本日も気持ち良く過ごして頂くために掃除をしないとな」

「ですね。という事で、まずは掃除から始めよう!」

「お、おー……?」

「う、うん……?」

「は、はい……!」

「うむ!」

 まだ状況を飲み込みきれていない様子の詩織達や少し緊張した面持ちの秋兎さんを引き連れて道雄さんが用具庫へ向けて歩き始めた後、俺はそんな皆の姿を見てクスリと笑ってから皆の後に続いて歩き始めた。




政実「第5話、いかがでしたでしょうか」
貴使「今回の話も次で終わりな感じか?」
政実「そうだね。正直、まだ次回をどんな内容にするかは決まってないけど、近い内に更新するつもりだよ」
貴使「分かった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
貴使「ああ」
政実・貴使「それでは、また次回」

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