貴使「どうも、神山貴使です。ペンダントか……想像通りと言えば、想像通りだな」
政実「まあ、ブレスレットや指環なんかも好きではあるけど、一番を決めるならペンダントになるかな?」
貴使「そっか。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・貴使「それでは、第6話をどうぞ」
「……よし、これで掃除は完了だな」
掃除を始めてから一時間後、満足感を覚えながら賽銭箱の前から綺麗になった境内を見ていると、白衣と松葉色の袴に着替えた
「……話には聞いてたけど、結構大変だな。これ……」
「はは、慣れるまではそうかもな。けど、これからはこれが日常になるわけだし、早めに慣れといた方が良いぞ」
「……だな。ところで、例の探し物は何か分かったのか?」
その祝玖からの問い掛けに俺は静かに頭を振った。
「いや……サッパリだ。掃除しながら色々考えてみたけど、それらしい物は思いつかなかったな」
「そっか……」
「でも、依頼を受けた以上、絶対に見つけてみせるさ。凛姉さんも俺なら分かるって言ってたわけだし、分かりませんでしたで終わらせるわけにもいかないしな」
「そうだな。さっきも言ったように俺達もサポートするし、見つかるように頑張っていこうぜ!」
「ああ」
祝玖と笑い合いながらお互いの拳をコツンとぶつけ合っていると、「おや……何やら楽しそうですね」と背後から話し掛けられ、祝玖と一緒に振り向くと、そこには和やかな笑みを浮かべる
「あ、天乃実豊尊様」
「天乃実豊尊様って……え、もしかしてこの人が……!?」
「ああ、この神社の祭神である天乃実豊尊様だよ。」
「そ、そうなのか……。は、初めまして……貴使の親友の
「はい、初めまして。この神薙神社の祭神である天乃実豊尊と申します。これからよろしくお願い致しますね、祝玖君」
「こ、こちらこそよろしくお願いします……!」
とても落ち着いた様子の天乃実豊尊様に対して、とても緊張した様子の祝玖という対比に思わずクスリと笑ってしまった後、俺は天乃実豊尊様に話し掛けた。
「ところで、どうかなさいましたか?」
「いえ、貴使君が祝玖君と何やら楽しそうにお話をしている様子だったので、どんなお話をしているのか訊きに来てみたのです」
「そういう事でしたか。実は──」
そして、天乃実豊尊様に凛姉さんの事や件の探し物の事について話すと、天乃実豊尊様は「なるほど」と納得顔で頷き、ふいに俺が亡くなった辺りへ視線を向けた。
「貴使君のお話の通り、その凛さんという方はたしかに貴使君と一緒に友二郎に連れられて、幾度かこの
「え、そうなんですか?」
「はい。数ヶ月前、神主さんがいない時にふらっと境内に入ってきたと思ったら、何かを探すようにきょろきょろとしながら境内を歩いていたので、この神社の神職のフリをして話し掛けようとしたのです」
「そういえば、前に来た時に俺が神社の手伝いを終わって帰ってきた時に入れ替わりで散歩に行くって言って、カバンを持って出てった時があったけど、もしかしてその時だったのかな……」
「はい、恐らくは。ですが、私が姿を現す前に凛さんは何か良い物を見つけたような笑みを浮かべながら別の樹に近づくと、持っていたカバンから小さなスコップを取り出してその根元を掘り始めたのです。そして、浅めの穴を掘ると、そこに何か小さな箱のような物を置き、スコップでその穴を埋めて、そのまま帰っていきましたよ」
「何かを……埋めた?」
「天乃実豊尊様はそれが何かは見てらっしゃらないんですか?」
「はい、流石に黙って見るのは申し訳ないので見ていませんよ。ですが……恐らく、貴使君なら見ても問題は無いと思います」
「え……?」
「それってどういう事ですか?」
「実は私も貴使君のように相手の気持ちを読み取る事が出来るのですが、凛さんが何かを埋めていた時にふと気持ちを読み取ってみたところ、貴使君の姿が頭に思い浮かんだのです」
「俺の姿が……」
「はい。そこから考えるに、埋めた物は恐らく貴使君に関する何かなのだと思いますが、貴使君は何か覚えはありませんか?」
「覚えは無いですが……ちょっと見てみます。天乃実豊尊様、その木というのは……」
「ちょうどあそこに植えられている桜の木ですよ」
天乃実豊尊様が件の木を指差した後、俺と祝玖は頷き合ってから天乃実豊尊様にお礼を言い、そのまま裏にある用具庫へと向かった。すると、そこには秋兎さんと話す巫女服姿の詩織と道雄さんの姿があり、道雄さんは俺達の姿に気付くと、軽く手を挙げながら声を掛けてきた。
「おお、貴使君達。境内や手水舎の掃除は終わったのかな?」
「はい、バッチリです」
「詩織達は何を話してたんだ?」
「えへへ、実は秋兎さんから神使の事や天乃実豊尊様の事について色々訊いてたの。ほら、貴使だって今ではこの神薙神社の神使なわけだし、人間側の私達も何か知ってた方が貴使のためになるでしょ?」
「たしかにな……」
「ところで、貴使君達はどうなさったんですか? もしかして天乃実豊尊様から何かご命令でもありましたか?」
「いえ、命令は何もありません。ただ、天乃実豊尊様から少し気になる話を聞いたので、用具庫のシャベルを取りに来たんです」
「天乃実豊尊様からって……ええ!?」
「天乃実豊尊様が……今、いらっしゃるのかい!?」
「あ、はい」
「まだ表にいると思いますから、今行けばお話しできると思いますよ」
その言葉を聞き、道雄さんはとても嬉しそうな表情になると、すぐさま表に向かって走り出し、その姿を見た詩織はやれやれといった様子で首を横に振った。
「お祖父ちゃん……いくら天乃実豊尊様に会えるからといってあんなに急がなくても……」
「はは、それは仕方ないって。道雄さんはこの神薙神社の神主さんなんだからさ」
「それもあると思うけど……お祖父ちゃん、貴使のお祖父さんが天乃実豊尊様の茶飲み友達だったっていうのをかなり羨ましがってたんだよね」
「なるほどな。そういえば、詩織は天乃実豊尊様にお目にかからなくても良いのか?」
「うーん……私は後で良いよ。それで、天乃実豊尊様からはどんなお話を聞いたの?」
「えっとな……」
俺は先程天乃実豊尊様から聞いた話を詩織達に話した。そして話し終わると、詩織は顎に軽く手を当てながら難しい顔をした。
「天乃実豊尊様の言う通り、たぶん凛さんが埋めていたのは貴使に関する物なんだと思うけど……どうしてそれを埋めたんだろうね?」
「たしかにそうですよね。もしそれが思い出の品だったらわざわざ埋める必要なんて無いのに……」
「そうだよな……あ、もしかしてタイムカプセルみたいな事をしようと思ったとか?」
「だとしても、わざわざ神社まで来る必要はあるか? たしかにここも俺と凛姉さんにとっては思い出の場所みたいな物だけど、そういう場所なんて幾らでもあるし、もしやるなら俺も一緒にやる事になりそうだし……」
「そっか……となると、やっぱりそれが何なのかを確かめるのが先かもな。物が何なのか分かれば、貴使も何か思い出すかもしれないしな」
「そうだな。よし……それじゃあ早速、シャベルを持っていこう」
それに対して全員が頷いた後、俺は用具庫からシャベルと土仕事用の軍手を取り出し、再び拝殿の方へと歩いていった。そして、和やかな笑みを浮かべる天乃実豊尊様とさっきの祝玖のように緊張した面持ちの道雄さんが賽銭箱の前で話しているのを見て再びクスリと笑った後、俺は件の木へ向かって歩き、その根元で足を止めた。
「さて……これがその木だけど、天乃実豊尊様の話から考えると、シャベルならすぐに掘り出せそうだな」
「だな。けど、俺達まで見ても良いのか?」
「ああ、良いと思う。凛姉さんが人に見られて困る物をこの神社に残してくとは思えないし、いざとなったら俺が謝るよ。さてと、それじゃあそろそろ掘っていくか」
その言葉に祝玖達が緊張した面持ちで頷いた後、俺は桜の木の根元を静かに掘り始めた。そして、掘り始めてからすぐカツンと何か硬い物にぶつかり、今度は軍手をはめた手で土を掘り始めたその時、土の中からハンカチに包まれた漆塗りの小さな木箱が出てきた。
……え、これってもしかして……。
「これが凛さんが埋めた物……か。貴使、何か心当たりはあるか?」
「……あるよ。これは……小学生の時に俺が凛姉さんにプレゼントした物だからな」
「え、そうなの?」
「ああ。家の近所にこういう漆塗りの小物入れや組紐なんかを扱ってる店があって、ふらっと立ち寄った時にちょうどこれを見つけて、凛姉さんにあげようと思って買ったんだよ。その時、凛姉さんの誕生日も近かったし、小物を入れる物が欲しいって話してたから、ちょうど良いと思ってな。それで、その時に一緒に別のも買ってたんだけど、もしかして……」
そう言いながら漆塗りの小物入れの蓋を開けると、そこに入っていたのは俺が予想していた物とは別の物だった。
「……違うな」
「違うって、入っている物がですか?」
「ええ。俺がその時に買ったのは、ピンク色のペチュニアのブローチなんですが、これは……」
「赤い
「その頃、花言葉にスゴくハマっていた俺的にペチュニアの花言葉が凛姉さんへの思いを表すのにピッタリだったからだよ。だって、ペチュニアの花言葉は──」
その瞬間、俺の脳裏にある出来事が想起され、それと同時に薔薇の装飾のブレスレットが入っていた事や凛姉さんが漆塗りの小物入れを埋めた理由がハッキリと分かった。
……そうか、そういう事だったのか。となると、俺がやるべき事は一つだな。
そう思いながら小物入れの蓋を静かに閉めた後、俺は不思議そうに俺を見つめる祝玖達に幾つか頼み事をした。そして、祝玖達がそれを笑みを浮かべながら受けてくれた後、俺は自分のやるべき事をするために行動を始めた。
その日の夜、俺は
さて……凛姉さんはもう来てるかな?
そんな事を考えながら走る事数分、目的地である公園に着くと、俺はそのまま公園の中へと入った。そして、ブランコに座りながら楽しそうな笑みを浮かべる凛姉さんの姿が目に入ると、俺は凛姉さんへと近づき、冬狼の姿のままで凛姉さんに話し掛けた。
「……お待たせ、凛姉さん」
「……あっ、タカ君……なんだよね?」
「うん、そうだよ。ゴメン、こんな姿で……」
「ううん、別に良いよ。流石にちょっと驚いちゃったけど、詩織ちゃんから予めタカ君が狼の姿になれるのは聞いてたからね」
「そっか。それじゃあ早速……」
「うん、行こっか。どうやら例の探し物は見つかったみたいだしね」
「うん」
そして、凛姉さんと一緒に公園を出た後、神薙神社へ向けて話をしながら歩いていた時、ふと凛姉さんは俺の事をジッと見ながら少し不思議そうに首を傾げた。
「そういえば、どうしてタカ君の動物の姿は狼なんだろうね? 他の神使さん達は狼の姿じゃないんでしょ?」
「うん。でも、先輩神使の皆さんは全員神様に関連した動物に姿を変えられるみたいだよ」
「そっか。ところで、その姿で来たのによく騒がれなかったね」
「ああ、それなんだけど……実は『力』を持ったモノ達は、その『力』を体に纏うことで姿を隠せるみたいで、俺も公園に入るまではそれを使って走ってきたんだよ。もっとも、さっきも今みたいに人通りは殆ど無かったから、隠す必要は無かったかもしれないけどね」
「へー、そうなんだね。世の中ってまだまだ私が知らない事で溢れてるんだなぁ……」
「はは、そうだね。でも、だからこそ神使として生きていく中で、そういう事も含めてゆっくりと学んでいくつもりだよ。もちろん、皆と一緒にね」
「タカ君……うん、そうだね」
俺の言葉に凛姉さんはニコリと笑いながら頷いた後、楽しそうな様子で鼻唄を歌い始め、俺はそんな凛姉さんの姿に心の奥底がポカポカと暖かくなっていくのを感じつつ歩き続けた。そして歩く事数分、目的地である神薙神社に着き、境内へ続く石段を登ると、境内にはニコニコと笑う天乃実豊尊様の姿があり、俺は天乃実豊尊様に近づいてからペコリと頭を下げた。
「天乃実豊尊様、お待たせしました」
「天乃実豊尊様って……ねえ、もしかしてこの人が神薙神社の祭神様なの?」
「うん、そうだよ」
「そうなんだ……あ、初めまして、神山凛と申します」
「ふふ、ご丁寧にありがとうございます。私は天乃実豊尊、神薙神社の祭神です。どうぞよろしくお願いします」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
凛姉さんと天乃実豊尊様が自己紹介をし合う中、俺が冬狼から神山貴使の姿へ戻ると、天乃実豊尊様は俺達を軽く見回してからニコリと笑った。
「さて……それではそろそろ中へと入りましょうか。皆さんも既に中にいらっしゃいますから」
「「はい」」
そして、そのまま拝殿へ向かって歩き、賽銭箱の横を通って扉を開けて、俺達の居住空間へと入ると、凛姉さんはとても物珍しそうに周囲を見回し始めた。
「ここがタカ君達の住んでいる場所……なんだか厳かな感じだけど、どこか落ち着くところだね」
「あははっ、たしかにね。あ、そういえば……天乃実豊尊様、凛姉さんもこれからはここに入る事が出来るんですよね?」
「はい、大丈夫ですよ。先程、自己紹介をさせて頂いた際にここに入るために必要な『許可』を体の中に精製する術をかけさせて頂いたので、これからはいつでもここに入る事が出来ますよ」
「分かりました。ありがとうございます」
「どういたしまして」
天乃実豊尊様がニコリと笑いながら答えた後、俺達はそのまま居間へと向かった。そして居間に入ると、天乃実豊尊様の言う通り、中には春蛇さん達先輩神使の皆さんと詩織達が揃っており、炬燵の上には蓋が開いて中のブレスレットが露わになったあの漆塗りの小物入れが置いてあった。
「あ、それ……本当に見つけてくれたんだ」
「うん……と言っても、俺が見つけたというよりは、天乃実豊尊様が見ていたんだよ。探しているはずのそれを埋めている凛姉さんの姿を」
「え……?」
その言葉を聞いて、凛姉さんが天乃実豊尊様に視線を向けると、天乃実豊尊様はそれに対して静かに頷き、凛姉さんは諦めたように小さく息をついた。
「そっかぁ……やっぱり、神社に埋めるのはリスクが高いと思っていたけど、まさか天乃実豊尊様に見られていたなんて……」
「神様はいつだって俺達の行いを見ているって事だよ。さてと……それはさておき、凛姉さんがどうしてそれを埋めたのか、そしてその中に入っていた物が違った理由を話したいんだけど、良いかな?」
「……つまり、全部分かってるんだね?」
「あくまでも憶測に過ぎないけどね」
「……うん、分かった。話して、タカ君」
「分かった。さて……それじゃあ何故、凛姉さんがこれを神社の桜の木の根元に埋めたかだけど、それは凛姉さんが
「ある約束……ですか?」
「ええ。小学生の頃、俺はこの小物入れとペチュニアのブローチを誕生日プレゼントとして、凛姉さんにプレゼントしたんですが、実はその数日後に凛姉さんからある事を言われたんです。
『タカ君、いつかこの小物入れに私の気持ちを入れて、どこかに隠しに行くから、その時は絶対に見つけてね』
と」
「え、それって……」
「そう。今回の凛姉さんの依頼は、実は約10年越しの依頼だったんだよ。スゴく申し訳ない事に約束をしたはずの俺はその事を忘れてしまっていたんだけどな。そして、その約束のために凛姉さんは中に入れていたペチュニアのブローチとある物を取り替え、神社の桜の木の根元に埋めたまでは良かったけど、ここである問題が発生してしまった。それは……」
「……お前が雷に打たれて死んでしまった事、か……」
「ああ。だからあの日、凛姉さんはもう約束は果たされないと感じ、自分で掘り返そうと思って神社まで来た。だけど、そこには神使として生まれ変わった俺の姿があり、凛姉さんは今度こそ約束が果たされるように俺に依頼をしたんだよ。俺の信仰集めを手伝う体でな」
「なるほどね……でも、どうして凛さんは中に薔薇の装飾のブレスレットを入れていたのかしら?」
夏狐さんがそう問い掛けてきた後、俺はニコニコと笑いながら俺を見ている凛姉さんがを見つめ返しながら静かに口を開いた。
「薔薇の花言葉、『あなたを愛しています』が凛姉さんの気持ちだから……そうだよね、凛姉さん?」
「……正解。流石はタカ君、だね」
頬を軽く染めながら凛姉さんが言うと、詩織はとても驚いた様子を見せた。
「え……? 凛さん、貴使の事が好きだったんですか!?」
「うん……小学校の頃からずっと想ってたんだ。だって、まるで自分の事のように色々な人のために頑張れるんだもん。そんな皆のヒーローみたいな姿を見てたら、好きにもなっちゃうよ。でも……やっぱり、世間の目っていうのはとっても気になったんだ」
「本来、それは別におかしな事では無いけど、従姉弟同士が好きな事を知って、それを変な目で見る人っていうのは、いないわけじゃないしね。それに、本人達だけじゃなく、その家族まで変な目で見られる可能性もあるし、そう思うのは仕方ないよ」
「うん……でも、いつになっても私はこの気持ちを諦める事は出来なかった。だから、私はこの小物入れとペチュニアのブローチを貰って、少し経った後にタカ君に約束を交わしてもらったの。この気持ちに嘘をつかなくても済む程、私自身が強くなった時にタカ君に告白をするため、そして自分自身が逃げないようにするために」
「凛さん……」
「それから約10年後、今なら大丈夫だと思って、私は小物入れを桜の木の根元に埋め、その時はその約束の事には触れずに帰った。そして、次に会った時にはタカ君にこの小物入れを探してもらい、私の気持ちを知ってもらった上で改めて告白をしようとしたけど、タカ君が亡くなったって聞いて、私は悲しみに暮れながらお葬式に出たよ。もうタカ君には会えないんだ、話す事も出来ないんだって思いながらね。そして、お葬式や火葬も済んで、心にぽっかりと穴が空いたままで学校生活を過ごしていた一昨日の夜、お父さん達がタカ君達の家にちょっと用事があるから、よければ私も一緒に来ないかって誘ってくれたの。それを聞いた瞬間、私はすぐに行くって答えた。タカ君が亡くなった翌日に電話越しに聞いた詩織ちゃんの暗い声が心配だったのもあるけど、やっぱりそれを回収しないといけないと思っていたから。そして、その日の内に準備を終わらせて、次の日の学校帰りにすぐ新幹線に乗ってここまで来て、今朝こっそりと回収にし来たら、神使になったタカ君と再会したんだ」
「なるほど……」
「後はタカ君の言う通りだよ。神使になったタカ君の手助けがしたかったから、信仰集めの話の時に私からの依頼として、小物入れをタカ君に探してもらい、言えずじまいになっていた言葉をブレスレットと一緒に贈る予定だったんだけど、まさかこんなにも早く見つけちゃうなんてね。本当にビックリしちゃった」
凛姉さんはクスリと笑いながら言った後、真剣な表情で俺を見ながら静かに口を開いた。
「タカ君──ううん、神山貴使君。ずっと前から貴方の事が好きでした。どうか……私と付き合って下さい……!」
「凛姉さん──いや、神山凛さん。ゴメン……その告白は受けられないよ」
「……やっぱり、従姉弟同士なのはダメ……かな?」
「ううん、そうじゃないよ。凛姉さんの気持ちは嬉しいし、凛姉さんみたいに綺麗な人に好きになってもらえたのはスゴく光栄な事だと思うよ。けど……俺にとって凛姉さんはペチュニアの花言葉通り、一緒にいて心が安らぐ相手であってそういう相手じゃないから……」
「……そっか」
「だから、ゴメン。その想いとブレスレットは受け取れないよ」
「……分かった。しっかりと答えてくれてありがとうね、タカ君」
「……うん」
「……でも──」
その瞬間、凛姉さんは俺の胸に飛び込んでくると、胸に顔を深く埋めた。
「凛……姉さん?」
「今だけ……今だけは、泣かせてもらっても……良い、よね……?」
「……うん、良いよ」
「……あり、がとう……」
そして、居間に凛姉さんの泣き声が響き渡る中、俺は自分の胸の中で泣き続ける凛姉さんをただ見ているだけしか出来なかった。自分の出した結論に後悔は無い。けれど、もっと別の解決方法もあったのでは無いかとは思っていた。
……やっぱり、俺は年齢的にも精神的にもまだまだ未熟な子供だ。でも、いつかはこういう形で誰かを悲しませないような解答を出せるようにならないといけないな。
悲しみの涙を流す凛姉さんを見ながら、俺は心の中で静かにそう誓った。
「……さて、今日も元気に境内の掃き掃除から始めるか」
翌日の朝、朝食を食べ終えた俺はそう独り言ちた後、いつものように神薙神社の掃除をするために表へ出て、竹箒などがある用具庫へと向かった。そして、用具庫から必要な用具を取り出す中、俺はふと昨夜の出来事を想起し、小さく溜息をついた。
「……やっぱり、本心を言ったとは言え、凛姉さんを悲しませてしまったのは、少し失敗だったな……。あの後、しっかりと送っていったけど、その道中は一切会話が無かったし、これから凛姉さんとどうやって接していけば良いかな……?」
そんな事を思いながら再び溜息をつき、それらを抱えながら表へと戻ると、そこには──。
「……あ、おはよう。タカ君♪」
「り、凛姉さん!?」
昨日と同じように突然現れた凛姉さんの姿に俺が目を丸くしていると、凛姉さんはクスクスと笑いながらゆっくりと俺に近付き、右手の人差し指で俺の額をちょんと突いた。
「そんなに驚かれると、流石にちょっとショックかな?」
「ご、ゴメン……」
「ふふ、冗談だよ。今から境内のお掃除?」
「うん。凛姉さんは散歩?」
「ううん、タカ君に会いに来たの。昨日の事、改めてお礼を言おうと思ってね」
「昨日の事って……送っていった事は別にお礼を言われる程の事じゃ……」
「それだけじゃなく、しっかりと私からの気持ちに対して、タカ君自身の気持ちで答えてくれた事、そして泣き始めちゃった私に胸を貸してくれた事だよ」
「凛姉さん……」
「ふふ……タカ君、本当にありがとうね。タカ君がああ言ってくれたから、私もこれからの指針をしっかりと立てられたよ」
「これからの指針?」
「うん。タカ君にとって、ただ心が安らぐ相手じゃなく、一生一緒にいたいって思えるだけの相手になる。それがこれからの私の目標かな」
「え……り、凛姉さん……!?」
「……なーんて、半分冗談だよ」
「な、なんだ……じょうだ──ん?」
「さあ、早く掃除をしないと詩織ちゃん達が来ちゃうよ、タカ君♪」
「いや、ちょっと待ってよ、凛姉さん! 今、半分冗談って言わなかった!?」
凛姉さんの言葉に俺が焦りを感じる中、凛姉さんはそんな俺の様子にクスリと笑ってから、右腕にはめたあのブレスレットを陽の光で煌めかせながら静かに微笑んだ。
「タカ君、改めてこれからもよろしくね」
「凛姉さん……うん、こちらこそこれからもよろしく」
……凛姉さん、本当にありがとう。
心の中で凛姉さんにお礼を言った後、桜の花弁を乗せた爽やかな春風が吹き抜ける中で、俺は凛姉さんに対して微笑み返した。
政実「第6話、いかがでしたでしょうか」
貴使「そういえば、今回は俺の『能力』の出番は無かったけど、次回以降から使っていく感じなのか?」
政実「そうだね。必ずしも使うわけではないけど、使えそうなタイミングがあったら、積極的に使っていく形にはする予定だよ。それと、何となく気付いてると思うけど、凛さんにはこれからも度々登場してもらうつもりだよ」
貴使「分かった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けるととても嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
貴使「ああ」
政実・貴使「それでは、また次回」