元人間の神使の日常   作:片倉政実

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政実「どうも、一番好きな神話は日本神話の片倉政実です」
貴使「どうも、神山貴使です。日本神話か……他の神話に負けず劣らずたしかに色々な神様がいるし、そういう神様の説明を見てても楽しいよな」
政実「うん。まあ、だからそんな日本神話の神様達が出てくる話も書いてたりするんだけどね」
貴使「そうだったな。さてと……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・貴使「それでは、第7話をどうぞ」


第7話 神友と第二の依頼

 凛姉さんからの依頼を完遂した二日後、いつものように神薙神社(かんなぎじんじゃ)手水舎(てみずしゃ)の掃除をしていると、近くで掃き掃除をしていた祝玖(ときひさ)が「ん、そういえば……」と何かを思い出したように声を上げ、竹箒で掃除をしながら話し掛けてきた。

「なあ、貴使。俺達が集めないといけない信仰って、どうやったら確認できる物なんだ?」

「どうやったらって……あ、言われてみたらまだ天乃実豊尊様(あめのみとよのみことさま)に確認したこと無かったな」

「はあ……そんな事だと思ったよ。お前って、時々抜けてるからな……」

「はは、悪い悪い。でも、やっぱり確認はしないと──」

 その時、「それなら、今お教えしましょうか?」という声が後ろから聞こえ、俺達は揃って後ろを振り返った。するとそこには、ニコニコと笑いながら俺達を見ている天乃実豊尊様の姿があり、祝玖はとても驚いた様子で天乃実豊尊様に話し掛けた。

「天乃実豊尊様……いつからそこにいらっしゃったんですか?」

「ついさっき──正確には、祝玖君が貴使君に話し掛けようとした辺りでしたか。祝玖君が貴使君に何を言うのかが気になったので、こっそりと二人の後ろまで来てみたのです」

「そうだったんですね……それで、信仰についてなのですが、これはどうやって集め具合を確認したら良いんですか?」

「それはですね……私の部屋にある信玉壺(しんぎょくこ)を確認すれば分かりますよ」

「信玉壺……?」

「はい。生き物は神を信仰した際、知らず知らずの内にその生命エネルギーを使って、信玉(しんぎょく)と呼ばれる物を創り出します。そしてそれは、その神自身に宿るか私のようにそれ専用の入れ物へと入り、力の糧となるのです」

「つまり、信仰してくれるモノが増えれば増える程、神様にとっては良い事づくめなんですね?」

「そうなります。因みに、信玉が創り出される基準ですが、その神の存在を信じ、一度でも参拝をする事なので、とりあえず神頼みをしてみようという思いでは、信玉は創り出されません。なので、こうして貴使君達に信仰集めのお手伝いをお願いしているわけです」

「なるほど……あ、因みになんですけど……一つ質問しても良いですか?」

「はい、もちろんです」

「こんな事を神様に訊くのもアレなんですが、学業成就や宝くじの当選を神様にお願いした場合、どれだけの効果があるんですか?」

「そうですね……学業成就に関しては、結局のところ皆さん自身の頑張り次第です。私達に出来るのは、皆さんにとって解きやすい問題が来るように少しでも祈りをこめる事であって、全ては皆さんの意識次第ですから。そして宝くじの当選などですが……以前、金運向上を司る神から聞いたところによると、たとえ神頼みで宝くじに当選しても、それは皆さんの幸運の前払いをしているに過ぎないとの事でした」

「幸運の前払い……ですか?」

「はい、その通りです。実は生き物にはそれぞれ生まれつき幸運が訪れる回数というのが決まっているのですが、その神曰く、ただ幸運の前払いをしているだけだから、後で大なり小なりその分のツケを払う事にはなるとの事でした」

「そうだったんですね……」

「尚、笑う門には福来たるというように常に明るくニコニコしている方や自分の事を後にしてでも誰かのために精一杯になっている方には、ボーナスとして決まっている数以上の幸運が訪れる事はあるらしいですよ」

「ちょっと違うかもしれませんが、情けは人の為ならず、みたいな感じですね」

「そういう事です。後、恋愛成就などの縁結びについてなのですが、これはその人その人が生まれついて持っている『(えにし)』を結び合わせて、出会いの機会を提供している形です。もっとも、海外にいらっしゃるキューピッドさんはまた別の方法で縁結びをなさっていますけどね」

「つまり……最終的にはその人自身が勇気を出すしかない、と……」

「そういう事です。なので、恋愛成就を司る身として凛さんの事もどうにかしてあげたかったのですが、個人の気持ちを変える事は出来ませんので……」

 そう言うと、天乃実豊尊様はとても申し訳なさそうな表情で静かに頭を下げた。

「貴使君と凛さんにとても辛い思いをさせてしまい、本当に申し訳ありませんでした」

「天乃実豊尊様……いえ、良いんです。あれは俺達には必要な事でしたし、昨日の内に凛姉さんとはこれからも今まで通りにしていこうと一緒に話して決めましたから」

「貴使君……」

「それに、あの事があったおかげで、凛姉さんとは前よりも仲良くなれた気がしますから、むしろ感謝をしてるんです。だから、天乃実豊尊様ももう気に病まないで下さい」

「……分かりました。ありがとうございます、貴使君」

「いえいえ」

 ニコリと笑いながらお礼を言う天乃実豊尊様に対して、同じように笑みを浮かべながら答えていると、天乃実豊尊様はどこか懐かしそうな表情で空を見上げた。

「それにしても……今の貴使君は、友二郎に本当に似ていましたよ。彼も私が迷惑をかける度に今の貴使君のような事を言っていましたから」

「あ、そうなんですね」

「はい。まあ、これまでに『神友(じんゆう)』になってもらった方々は、どなたも素晴らしい方ばかりでしたけどね」

「『神友』……?」

「ああ、そういえばまだ説明をしていませんでしたね。生前の友二郎や今の祝玖君達のように信仰集めのお手伝いをして頂いている人間の事を高天原では神に仕えると書いて『神仕(かみづかえ)』と呼んでいるんですが、私はその呼び方は好きではないので、最初に神仕になって頂いた方と一緒に神の友と書いて『神友(じんゆう)』という別の呼び方を考え、そう呼ぶようにしているんです」

「『神友』……はい、スゴく良いと思います。な、祝玖」

「ああ、俺も『神仕』よりは『神友』って呼ばれた方が気分は良いかも。なんて言っても、神様の友達だからな♪」

「ははっ、そうだな」

 とても嬉しそうな祝玖に対して笑いながら答えていたその時、石段をゆっくりと登ってくる足音が聞こえ、俺は体の奥にある神力を目覚めさせた。

「……どうやら参拝客みたいだ。祝玖、ちょっと姿を消すぞ」

「ああ、分かった。あ、そういえば……天乃実豊尊様はどうなさいますか?」

「そうですね……せっかくなので、祝玖君と一緒に参拝客の方をお出迎えします」

「分かりました。それじゃあまた後でな」

「ああ」

 返事をした後、俺は神力を使って姿を隠し、祝玖達と一緒に参拝客が来るのを待った。そしてそれから数十秒後、石段を登ってくる参拝客の顔がチラリと見えた瞬間、天乃実豊尊様は「……おや」と少し驚いた様子を見せた。

「天乃実豊尊様、知っている人なんですか?」

「ええ……少し前にフラリと立ち寄られた方で、その時はお願い事はされてなかったのですが、この神社には興味を持たれていたようでした」

「そうですか……」

 興味を持っていて、且つ今日来たって事は何かお願い事があるんだろうけど、一体どんな人なんだろう?

 そんな事を思いながら参拝客の事を待つ事数分、参拝客がゆっくりとこちらに近づくにつれてその姿が露わになると、祝玖は「ん……?」と小さく声を上げた。

「あれ、祝玖も知ってる人なのか?」

「ああ、一応な。でも、お前だってこう言えば聞き覚えがあるはずだぜ? ()()()()()()ってな」

「スイーツ王子っていうと……たしか家庭科部に所属してるっていうあの?」

「ああ。名前は恋野凛斗(こいのりんと)、お前の言うように家庭科部に所属してる1年上の先輩で、他の料理を作らせたり裁縫なんかをやらせたりしても家庭科部の中では一流だけど、何よりスイーツを作らせたら右に出る者はいないとも言われてる程の腕前の人で、女子からの人気がとっても高いらしいんだよ」

「なるほどな……でも、どうしてそこまで知ってるんだ?」

「同じクラスの家庭科部の女子からそう聞いたんだよ。それにしても……恋野先輩は一体何をお願いしに来たんだろうな?」

「さてな……」

 姿を隠したままで祝玖と会話をしながら、俺は恋野先輩ヘと視線を向けた。サラサラとした短めの黒のストレートヘアに優しげな雰囲気を醸し出す二枚目顔、そして少し背丈の高いスラッとした体型に学校の制服をキチッと着こなしているところから感じ取れる真面目な性格、とその姿からも女子からの人気が高いのだろうと察せられた。

 それにしても……恋野先輩は神薙神社に何を願いに来たんだろう?

 そんな事を考えていたその時、恋野先輩は祝玖達がいる事に気付いた様子を見せると、和やかな笑みを浮かべながらゆっくりと近づいてきた。

「おはようございます。皆さんはこちらの職員の方ですか?」

「私はそうですが、こちらの祝玖君は毎朝神社の掃除などをお手伝いしてくれている地元の高校生です」

「あ、そうだったんですね。少し大人びて見えたので、てっきり年上なのかと思いましたよ」

「あはは、そう言ってもらえて嬉しいですよ。『スイーツ王子』こと恋野凛斗先輩」

「それを知っているという事は……もしかして君は同じ学校の生徒なのかな?」

「はい。あ、自己紹介がまだでしたね。俺は先輩と同じ学校に通う二年の神武祝玖っていいます。それでこちらが……」

「この神薙神社に勤めている天野尊(あまのたかし)と申します。どうぞよろしくお願いいたします」

「はい、こちらこそよろしくお願いいたします」

 恋野先輩がゆっくりと一礼をしていると、祝玖は少し不思議そうに小首を傾げながら恋野先輩に話し掛けた。

「ところで、恋野先輩は今日はどんな理由があって神薙神社にいらしたんですか? もしかして、何か神頼みしたいことでも?」

「あはは……実はそうなんだ。恥ずかしながら好きな人がいてね。クラスの友達からこの神社には縁結びに御利益があると聞いて、この前も来てみたんだけど、その時はちょっと怖じ気づいてそのまま帰っちゃったんだ。でも、やっぱりどうにかしたくて、今日は神様にお願いをするために来てみたんだ」

「そうだったんですね。それにしても、恋野先輩に好きな人がいたなんて……その人って同じ学校の生徒なんですか?」

「うん。でも、僕とは正反対な人だし、恐らく僕には興味が無いと思うんだ。それに、噂だと甘い物や可愛い物が好きじゃないらしいから、僕にはあまりアピールのしようも無いしね」

「そんな事──」

「そんな事、無いと思いますよ?」

 祝玖の言葉を遮るようにして言った天乃実豊尊様の言葉に、恋野先輩が「え……?」と不思議そうな表情を浮かべる中、天乃実豊尊様はニコリと笑った。

「噂なんて所詮は噂ですし、あまり気にしない方が良いと思います。それに、もしも噂が本当だったとしても、アピールの方法なんて他にも色々あるわけですから、恋野さん自身の気持ち次第でどうにでもなりますよ」

「僕自身の気持ち……」

「はい。神頼みも時には自分を安心させるために必要ですが、やはり一番重要なのはその人の事をどう想い、どうなっていきたいかを明確にしていく事です。せっかく両想いになれても、その後の事を考えていなければ、徐々に関係に綻びが生じ、最終的には悲しい結末を迎えてしまうなんて事もあり得ます」

「…………」

「ですから、恋野さんもご自身にもっと自信を持って良いと思います。先程、祝玖君からお話を聞きましたが、恋野さんには誰にも誇れる特技があるようでしたから」

「特技……」

 恋野先輩は天乃実豊尊様の言葉を繰り返しながら自分の手を見つめた後、祝玖達に視線を戻してからクスリと笑った。

「そうですね。嬉しい事に僕の料理や裁縫の腕前は家庭科部の中で一番だと言われていますし、それを武器にもう少し頑張ってみようと思います」

「はい、私達も恋野さんの恋が実るよう応援しています。そうですよね、祝玖君?」

「はい、もちろんです! なので、もし何か手伝える事があったら、遠慮無く言って下さいね!」

「うん、ありがとう。さてと……せっかく来た事だし、神様のお力も借りる事にしようかな」

 そう言って恋野先輩は拝殿へ向かうと、真剣な様子で参拝を始めた。そして参拝を終えると、祝玖達に向かって静かに一礼をした。

「それじゃあ僕はこれで失礼します」

「はい。あ、そうだ……恋野先輩、一つ質問しても良いですか?」

「うん、何かな?」

「実はあまり公にはされてないんですが、この神社には参拝者の願いを叶える手伝いをしてくれる存在がいると言われているんです」

「願いを叶える手伝いをしてくれる存在……」

「はい。それでなんですが、恋野先輩はその存在にその恋の成就という願いが叶う手伝いをしてもらいたいと思いますか?」

「……うん、出来るならしてもらいたいかな」

「分かりました」

「それでは、私達の方でその存在にお願いをしておきますね。あ、もちろんお代などは大丈夫なので心配はなさらないで下さいね」

「分かりました。それでは、また」

「「はい」」

 そして、少し晴れ晴れとした表情で恋野先輩が帰っていった後、俺は姿を現しながら静かに息をついた。

「ふぅ……」

「お疲れ、貴使。やっぱり、姿を隠すのって疲れるみたいだな」

「まあな。それにしても……天乃実豊尊様がいきなり人間らしい名前を名乗った時は、本当にビックリしましたよ」

「それに、貴使と同じ読みだったし……天乃実豊尊様、どうしてその名前にしたんですか?」

「ふふ、『天野』の部分は名前に入っているからですが、『尊』の部分は貴使君が姿を隠している時に祝玖君達が間違って名前を呼んでしまっても私の事を呼んだと言って誤魔化せるようにするためです」

「あ、なるほど……」

「ふふ……さて、貴使君。これで間接的に恋野さんから依頼を受けたわけですが、どのように叶えていくかなどの考えはありますか?」

「いえ、まだです。でも、あそこまで真剣に悩んでいる人がいるわけですし、出来るだけ早めに叶えてあげられたらなと思っています」

「分かりました。もし、何か手伝える事がありましたら、遠慮無く言って下さいね」

「もちろん俺も手伝うから、その時は遠慮無く声を掛けてくれよな、貴使!」

「ああ、分かった」

 祝玖達の言葉にニッと笑いながら答えた後、俺は恋野先輩の願いを成就させる方法を考えながら再び手水舎の掃除を始めた。




政実「第7話、いかがでしたでしょうか」
貴使「今回の話でまた信仰集めについての情報なんかが出てきたな」
政実「そうだね。まあ、これからもちょくちょく出していくつもりだよ」
貴使「分かった。そして最後に、今作についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
貴使「ああ」
政実・貴使「それでは、また次回」

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